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秋の訪れで章

155話

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【グギャギギャリリリリキィィィィ!!】

 耳が痛くなるような高い音での方向を上げ、グッグゴゴーチはそのドリルのような手をルースたちへ向けて突き出してきた。

「『マッドウォール』!!」
【シャベルガード】!!


 ルースは魔導書グリモワールを顕現させて水と土の複合魔法で作り上げた泥の壁で、ヴィーラは自身が持つシャベルでそれぞれガードする。


グシャァッツ!!
がぎぃぃん!!

 泥に突っこむ音と、金属がぶつかり合う音。

 それぞれ同時に受け止めたようだが、どちらもダメージはない。



 ガリガリガリリリっと、強気で攻めているようだが…‥‥泥の壁には次から次へ修復されて意味はないし、シャベルの方ではこちらはうまいこと受け流して極力磨耗をさけているようである。


【ギギッギュリィィィィアァァァ!!】

 攻撃が一向に効き目がないことにムカついたのか、グッグゴゴーチは一旦後方へ下がると、素早く地面を掘って中に潜った。


「正面突破ができないから、地中から攻める気か!」
【でモ、甘い!!】

 ここは地下であり、限られた空間なので普段よりは行動範囲が狭まる。

 だがしかし、この程度学園長からの訓練よりは楽な状況である。


「こういう時にはロマンを優先したくなるから『ドリルアターック』!!」

 木と土の複合によって負けじとドリルのような形状の者を出現させ、横にあけた穴から火の魔法で噴射し、一気に回転させてドリルを再現し、ルースは地中へ潜る。

 ヴィーラはシャベルを器用に高速で掘り進め、同じく地中へ潜る。



 今までは地上戦が多かったが、今回は地中戦。

 形状から言ってグッグゴゴーチの専門分野でもあるのだろうが‥‥‥地中を進む魔法と技を持って居た二人には関係ない。

 

……とはいえ、潜ったのは良いのだがどこから来るのかは、音で判断するしかない。


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
「ここだ!!『ロケットドリル』!!」

 鉄拳とまではいかないが、ドリルを発射して音にめがけて向かうようにさせる。


【ギゃぁァぁぁァぁ!!なンかこッちに飛んデきたぁぁぁ!!】
「あ!?ごめん!!」


……ヴィーラの位置に命中したようである。そういえば、あっちも掘っていました。

 このまま何も対策もせずに攻めたら同士討ちになってしまう。


「待てよ?何も相手と同じ土俵に立って戦闘する必要ないじゃん」

 ふと、ある案がルースの頭に思い浮かんだ。

「ヴィーラ!一旦ここからさっきの部屋に戻れ!」
【ん?何か名案がアるのか?】


 疑問の声を上げつつ、ルースの言葉の通り先ほどの部屋に二人は戻った。


「グッグゴゴーチの潜った最初の穴はこれだったよな…‥‥」
【あ、もシや‥‥‥】


 ルースがグッグゴゴーチの掘った穴の上に立ったのを見て、ヴィーラは彼が何をしようとしているのか理解した。

「掘った穴は繋がっているから……ここを辿って行けば自然とたどり着く。ならば、やることは一つだけだ」

 にやりと笑みを浮かべ、ルースは照準をそのグッグゴゴーチが入った穴に向ける。


「『バブルアブソリュートゼロ』!!」

 魔法が発動すると、たちまちその穴に大量の泡が侵入し始めた。


……泡の中身は空気ではない。絶対零度並みの空気をたっぷり含んだ、超・氷結剤を魔法で作り出したのだ。

 例えで言うなれば、-196℃の液体窒素を流し込んでいるようなものである。絶対零度だと-273.15℃だからはるかに低いけれどね。


 液体のまま流入させるのは流石に難しかったので、水と氷魔法の複合に加えて、少々火の魔法で熱を持たせてギリギリ凍る手前の状態で泡として、何かにぶつかればそこではじけ、一気に急速冷凍を行うのである。



バチン!!カキン!!バチン!!

 流し込んでいると、次第に泡が割れた音が聞こえ、ものすごく冷たい冷気が穴の中に充満していく。

 そう、凍ってしまうほどの強力な冷気を包み込んで届けて、内部でグッグゴゴーチが氷漬けになるようにしたのだ。

 穴を掘っているやつからしてみれば、後方から押し寄せてくる冷気の泡を防ぎにくいだろうし、穴を閉じたとしても、その絶対零度の冷気は土の中をしみこんで、まとめて氷漬けにしてしまう。


 我ながらかなり問答無用の恐ろしい方法だなとルースは思いつつ、グッグゴゴーチが氷漬けになるまで警戒しながら魔法を発動させ続け、流し込んでいく。


ピキピキピキピキ……

「おおっと、やっぱり地面も凍っていくか」
【冷タい!!】

 地中の中でガッチガチに固まっていくのと同時に、地表側の方にも影響が出てきて、少しずつグッグゴゴーチの掘った穴の周囲から凍り始めてきた。

 流石にこれ以上やると、こちら側も凍ってしまう可能性が出てきたので、いったんルースは魔法の発動を止めた。
 

 まだブクブクと氷漬けになる冷気が入った泡であふれかえる穴のところに耳を澄ませてみると‥‥‥

【-----ギャァァァァ、凍ッテ、凍ッテ…‥‥】


 断末魔らしき声が聞こえた後、だんだんその声は小さくなっていき‥‥‥そして、消え失せた。

「良し、内部で完全に冷凍保存されたな」
【なかなかエグイなぁ‥‥‥】

 ルースの行った行為を理解し、ヴィーラは苦笑いを浮かべる。兎だから微妙に分かりにくいけれどね。



 とにもかくにも、これで相手は完全に地中の中で生き埋め、いや、氷漬けとなった。

 例えで言うなれば、冷凍マンモス状態。二度と解けぬ氷の牢獄に入ったも同然。


「とはいえ、放置していたら地熱とかで溶ける可能性もあるし…‥‥今のうちにトドメを撃っておくか」
【オーバーキルッテやつにナるような】

 ヴィーラがぽつりとつぶやいたが気にしない。

 こちら側を害しようとしてきたし、明らかに敵対している組織の手の者だから容赦しないほうが良い。

「凍って脆くなるし、あとは地盤沈下でもさせて、地中の中で砕いてしまうか。土と水を合わせて‥‥‥ついでに闇も混ぜて、『マグニチュード10』!!」

 水によって土が少々柔らかくなり、闇に少々呑ませて一部を削って隙間を作り、内部崩壊を起こす人為的な地震を起こす魔法。

 通常の土魔法だけの地震に比べると、規模が大きく、範囲も限定できるのが利点である。


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、ボッゴォォォォン!!

 揺れ動いたかと思うと、一気に地面がへこんだ。

 おそらく穴が開いていた分が埋まり、中でバキッとか何かが砕ける音がしたので、出来たすきまでに流れ込んだのであろう。

 あとは何もなかったかのように土がつぎ足されていったのであった。




「グッグゴゴーチの死因って、この場合生き埋めか凍死か、どっちになるのかな?」
【完全なやり過ぎ死なノでは…‥‥と言ウか、あたい何モやっテいナいんダけど】


 ルースのつぶやきに、思わずツッコミを入れるヴィーラ。

 何はともあれ、これで万事解決。

 精霊薬とやらもヴィーラに渡して和解したし、乱入してきたフェイカー製の怪物も完膚なきまでにやっつけたしね。

「あとは地上に戻るだけなんだけど……あれ?」
【ん?どうしタ?】
「いや、なーんか忘れているような気がしてさ」

 ふと、何かを思いっきり忘れているような気がした。


 ルースが首を傾げ、ヴィーラも訳が分からないという顔になる。

「‥‥‥ああ、そういえばヴィーラって俺を攫って、今に至るんだよね」
【そうダが?】
「ってことは、エルゼ達はそのまま都市にいるってことだよね?」
【あア…‥‥ンッツ!?なんダこのスごい悪寒は!?】

 ルースが状況を整理しながら言って、ヴィーラが答えていると‥‥‥何やら彼女はものすごい悪寒を覚えたらしい。


【こ、こノかツてない命の危機と言ウか、明らカに逝ってしマうやばさハなんだ!?】
「そこまでのもの?‥‥あ、そういえば前例がいたか」

 ヴィーラのうろたえようを見て、ルースはあることを思い出した。



 前に、今はミュルと言う名の鬼人に攫われ、死にかけたことがあった時を。

 それはもういろいろとあって解決したのだが…‥‥その後に、起きたエルゼ達の手による惨劇を。


 その状況と、今の状況…‥‥かなり酷似しているのだ。


「‥‥‥ヴィーラ、冥福を祈っておくよ」
【何ヲ急に!?】


 と、ヴィーラが叫んだその時であった。




ズッガァァァァァァン!!

「【!?】」

 グッグゴゴーチが最初に出てきた穴とはずれた位置から、突然土ぼこりが舞い上がり、何かが飛び出してきた。


 それは、見覚えがあり過ぎるというか‥‥‥


【召喚主殿無事かぁぁぁぁぁぁぁ!!】
「ルース君!!」
「ルース!!」

 巨大な狐の姿になったタキであり、その背中にいるのはエルゼとレリア。

 あと、タキの前足の方にぐったりと倒れているのは‥‥‥

「スアーン、何でお前まで‥‥」
「つ、土魔法で無理やり掘りやすいようにされて、そのサポートを限界まで…‥‥がくっ」

 力尽き、スアーンはその場に崩れ落ちる。

 相当酷使されたのか、魂が口から出るほどまで疲弊しているようだ。



 そうこうしているうちに、タキたちがずずいっとヴィーラの元へ向かう。


【ヴィーラ!!我が召喚主殿を攫って、覚悟はできているかのぅ?】
【い、いヤちょッと待ッテ、覚悟でキていなイし、あト和解してイるンだけど】
「問答無用よ!!」
「裁きを受けろ!!」

【た、助け‥‥】


 精霊薬も手許にあるのだから、それを飲めばなんとかなりそうなのだが…‥‥彼女達の気迫に押されて、そのことを考えつかないようで、じりじりと壁際に追い詰められていくヴィーラ。

「皆、俺は無事だし、いろいろとあったけど解決したんだが…‥‥」

 ルースがストップをかけようとしたが…‥‥時すでに遅し。

【「「覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」」】
【ぎ、ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!】


 もはや、修羅を纏った彼女を止めるすべはなかった。

 いつぞやかのミュルの時同様、凄まじいことが目の前で起き、ヴィーラは責められていく。

 

 あまりにも凄すぎる気迫と悲惨さに、思わずルースはそっと目をそらすしかできなかった。

 なにやら色々とものすごい音が聞こえるが‥‥‥‥今はただ、ヴィーラの命が何とかあるように祈るしかないのであった‥‥‥‥

 ごめん、本当に助けられない。地獄を超えた地獄の場所へ行く勇気はないのだ。


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