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秋の訪れで章

152話

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「‥‥‥っ」

 ルースが目を覚ますと、そこは何処かの洞窟の中のような薄暗い土の壁があるだけの場所であった。


 前にもミュルの時に洞窟内に連れ込まれたことがあったが、ここは洞窟とは違うようだ。

 周囲の状況から言って、おそらく土の中を掘り進んだ、ようはモグラの巣穴の中のような状態だろう。



「そうか、あの時後ろから‥‥‥」

 頭がはっきりとしてきて、ルースはここに至る前の後継を思い出す。

 ヴィーラと共に時計塔の下にして、暇つぶしに話をしていたことを。

 そして、彼女から精霊王の話題が出たので、自分がその孫でもあるということを話した途端…‥‥瞬時に目の前から消え失せ、背後から衝撃を喰らって気絶したのだ。

 
 あの時の感覚的に、彼女が持っていたシャベルと、そのフワフワもこもこば前足の打撃を喰らったのであろう。

 よく手刀とか、打撃によって気絶させる話は聞くが…‥‥実際に喰らえばかなり痛いものである。




 それはともかくとして、なぜこの場に自分が置かれたのかはわからない。

 ヴィーラが連れ込んだということは分かるが、その目的は不明だ。



 国を滅ぼせるモンスターでもあるらしいから、別に精霊の力を求めているわけでもなさそうだし、精霊王に関しての質問をしていたから、ルース個人に限るような事ではなさそうだ。


 何にせよ、今はどうもこの場にいないようだし、逃げ出すのであれば今がチャンスであろう。

「『魔導書グリモワール顕現』」

 金色に光り輝く黄金の魔導書グリモワールを顕現させる。


 魔法で明かりを灯すこともできるが‥‥‥この魔導書グリモワールの輝きだけでも十分な光源だ。

 
「とはいえ、ここからの脱出ルートを探らないといけないし……『ソナーパルス』」
 
 風魔法によって空気を振動させ、土魔法で細かい位置情報を把握する、マッピングに適した複合魔法を発動させた。


……おおよその深さは3キロほど。

 どれだけ深く掘っているのかツッコミたいが、とりあえず人力だけで脱出は不可能と判断。

 内部もかなり入り組んでおり、さながら迷宮といったところであろうか。


 何にせよ、地図を作り上げ、脱出経路を確定させる。


 流石にここまでの深さだと気圧とか空気の関係上、通気口などを作る必要があるのか、あちこちに外へ通じる抜け道はあるらしい。

 そして、出入り口もきちんと作られているようだが…‥‥正規のルートはおそらくヴィーラも通っているだろうから、迂闊に通ることができない。

「そう言えば、兎のモンスターってことは耳も良いんだよな‥‥‥」

 ふと、音を出したのは失敗だったかとルースは思ったが、まずは動いてこの場から逃れるのが先だ。


 何を目的にして、こんな場所に捕らえたのかはともかく、今は脱出を優先することにしたのであった。















……薄暗い土の迷宮とも言える場所を、ヴィーラに見つからないように極力音を立てず、通れそうなところは無理をしてでも通過し、出口を目指して、時間がそれなりに経過した。

 朝日とかもないので時間がわからないが、おおよそ半日は経過したのではないだろうか?


「しかし、深いなぁ‥‥‥」

 たかが3キロほどの深さ、されど3キロの深さ。

 横に行くのならばまだ楽な道のりなのだが、上下左右斜めと、あちこちへ道が繋がり、恐ろしく動き辛い。


 それに、ここまでにふと召喚魔法を使ってタキを呼びだし、連絡を取るという手段も考えたのだが‥‥‥どういうわけか、召喚魔法が使用不可能なのだ。

 呼びだしたいのに、あの召喚の際に現れる陣が出てこない。

 他の魔法は扱えるが、召喚魔法だけはまるで妨害されているかのように使えないのだ。


 精霊状態になって、半実体でもあるから通り抜けてとも考えたが‥‥‥こちらも無理。

 というか、土の中を通過していくこと自体出来ない。あれって一応実体がわずかにあるので、条件によっては貫通できないようだ。


 何にせよ、今は自らの足で出口へ向けて進むしかない。


「ふぅ、中々出口にたどり着けないな‥‥‥」

 額の汗を拭いながらも、何とか出口へ向けて進むルース。

 ヴィーラが何を企んでいるのかはわからないけれども、早く逃げだしたい。

 そう思いつつ進んでいたところで…‥‥


ズボゥッツ
「へ?」

……地面に大穴が開きました。

 どうやら下の地盤の強度までは分かっていなかったので、見事に落とし穴になっていた場所を踏み抜いたようである。


「嘘だろぉぉぉぉぉ!!」

 突然の出来事ゆえに、精霊状態になって宙へ浮くことをとっさにできず、そのままルースは真下に落下したのであった。








ドサァァッツ!!
「ぐふっつ!!」


 落下し、何とか受け身を取ったものの、それなりの衝撃がルースにきた。


 どうやらすぐ下の通路に落ちたようだが、そこでふとルースは気が付いた。

「あれ?」


 先ほどまで、確かに薄暗い土の中であったはずだ。

 だが、この落ちた通路は明るくなっていた。

 見てみれば、通路のところどころに何かがむき出しになっており、それらが輝いているのだ。


「なんだこれ?」

 どうもこの場所は魔法で探知できていない・・・・・先ほどまでの道とはつながっていない、隠された土の中の通路のようである。

 その上のむき出しになっている輝く物体を手に持ち、ルースは首を傾げた。


 白金の色のような、それとは違った金属光沢をもつ様な、何かの鉱石らしいということだけは分かる。

 ただ、一体何なのかは不明だ。

 明るいから光源にはもってこいなのだろうけど…‥‥なぜこの通路にだけ点在してるのか?



 不思議に思い、ルースはその通路を進んでいく。

 出口とは違うルートのようだが、先ほどのルートとつながっていなかったことから、ヴィーラには知られていない場所のはずであろう。

 念のために、土と水の複合魔法でしっかりと穴をふさいだので、バレないはずである。


……というか、何となくルースはこの先にある物に惹かれているような気がした。

 こんな土の中の通路何て知るはずもないのに、何故だが勝手に体が動き出すような、そんな感覚。


 自然と精霊状態へ移行し、漂うようにして沿っていくと、一つの大きな部屋の仲へルースはたどり着いた。


「‥‥ここは」

 通路内に点在してた輝く鉱石がこの部屋にもあったが、小さかったものとは違い、桁違いのサイズの鉱石が、部屋の真ん中に存在感を放つサイズで置かれていた。

 自然にできたとは思えない、明らかに人為的な手が加えられたような、四角く加工された状態で。


 何かの石碑と言っても過言ではないだろうが、文字も何も刻まれていない。

 ただ一つだけ言えるのは、何となくそれに触れようと思ったことだけだ。




 精霊状態のまま、ルースはその大きな石碑と言える鉱石に手を触れる。

 その瞬間‥‥‥



バジュンッツ!!
「熱っ!?」

 火傷したかのような熱さを感じ、慌ててルースは手を引っ込めた。


……ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「お?お?お?」

 と、鉱石が輝き、横へずれだす。

 そのまま動いていったかと思うと、その真下には階段が現れていた。

 下へ続く道のようだが…‥‥このような仕掛けがあったのか。

 
「‥‥‥行ってみるか」

 その下に何が隠されているのかわからない。

 精霊状態で触れることによって、動き出し、そして出現したこの階段に疑問を想わないわけではない。

 それでも、何かいかなければいけないような気がして、ルースは下へ下へと降りていく。

 鬼が出るか蛇が出るか、それとももっとやばいものがこの先に待ち構えているのか。


 謎はあれども、なぜか惹かれるゆえに、ルースはその階段を降りていくのであった…‥‥
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