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秋の訪れで章

145話

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 ジュルウウルルルブブブブブブブ!!

 不気味な音を立てながら、その液体はまるで意志を持つかのように、姿を変え始める。


 大きな腕の形状から分裂し、胴体、足、手の順に形が整い、一体の大きな不気味な人形が出来上がった。

……頭がないが、その部分にはタコの口のような物があるため、おそらく顔を作るの事を省いたと推測できた。


「うわぁ、気持ち悪いな」
【どう見てもキモさ100%じゃよなぁ】

 ルースとタキの素直な感想に、言葉が分かるのか、その液体人形……フェイカー製の不気味100%気持ち悪すぎ人形は全身をぼこぼこと沸騰させる。


ジュゴボバァァァァァ!!

 その沸騰した腕を伸ばしたかと思うと、次の瞬間勢いよくその腕が伸びた。

 伸びている時にだんだん細くなってきていることから、自身の体積以上に増えないので引き伸ばして利用しているのだと予測が付いたが、触ればどうなるかわからないものには、出来る限り近付きたくはない。


「でも結構素早いな」
【うーむ、液体ゆえに、全身で感じ取って、行動を早くしておるのかもな】

 ぶんぶんと振り回して迫りくる液体の腕に、ルースたちはそれぞれ右へ左へ上へとかわす。




「とはいえ、ちょっとよけづらいし『精霊化』!」

 自身の体の移動速度の向上のために、精霊状態へルースは移行した。

 魔法で身体を強化して動くこともできるが、相手は氷魔法を吸収した能力を持つから、迂闊に魔法を使えばどのように出るのかが分からない。

 ゆえに、魔法とは別の、自然そのものの力を扱える精霊状態になったのである。

『よし、これなら空も飛べるし、攻撃もしやすいかもな』

 そうつぶやきつつ、ルースは目の前の液体人形に狙いを定める。


 精霊状態時、どういうわけか魔法が扱えない。

 いや、魔導書グリモワールを顕現させられなくなり、精霊としての力のみの制限がかかるのだ。

 まぁ、その制限は今回は特に意味もなく、相手が魔法を吸収するのであれば魔法を使わない状態になったほうが正しい選択肢であろう。


『液体だから拘束は厳しいかもしれないが‥‥‥これでどうだ!』


 さっとルースが手をかざすと、地面から急に何かが生えてきた。


ゴボボウブブブッベボイボボゥ!?

 生えてきたのは、多くのつる植物であり、巻き付いてきたことに液体人形が沸騰しながらも驚きの声らしきものを上げる。

 精霊としての力、それは自然そのものに干渉できるので、今回は地中にある植物たちを強制的に成長させたのである。

 偶然にも蔓系植物の種があったようなので、それが見事に成長し、一気に液体人形に巻き付いて言ったが‥‥‥


 ジュワァァァァ!!

 
 あっという間に巻き付いた植物が腐っていき、溶かされて吸収されてしまった。

……植物による拘束はいま一つのようである。というか、溶けた時点でまともに接触するのも危険なのを認識させられる。

 シャレにならないというか、また溶かされるのは嫌というか‥‥‥‥前に腕が溶かされることがあったけど、あの治療もきつかったのだ。

 精霊状態ならば実体がないような感じでもあるが…‥‥それでも警戒しないに越したことはない。


【うわぁ、物理攻撃を避けたほうが良さそうじゃな】

 巻き付こうとした植物の末路を見て、タキが嫌そうな声を上げる。


『しかし、こうなると遠距離からの攻撃しかないが‥‥‥あ、そうだ』

 植物がダメならばどうすればいいかと考え、ルースはあることに気が付き、閃いた。




 あの液体は、魔法を吸収したり、植物などの生きているものでさえも溶かしたりしている。

 だがしかし、あの液体が発生した時計塔そのものは、溶けていなかった。

 それはつまり…‥‥

『タキ!!適当にそのへんの地面をバンバン掘りまくって岩石などを適当に砕いて地上に出せ!』
【ん?なぜそんな……ああ、なるほどそういうことかのぅ!】


 ルースの指示に一瞬タキは疑問を抱いたが、直ぐに何をしたいのか理解したようである。

 

 すぐさま狐の姿の状態で、地面を掘り上げて土砂を捲き上げる。

 
『出てきたこれらを、ぶつけてやるよ!!』

 土砂の中に混じっている岩石などをルースは素早く飛びつき、それらを液体人間へ向けて投げつけた。


ズガン!! ドガン!! ゴゴン!!

 直撃し、液体人間の殻を岩石は通過するが‥‥‥‥様子から見て、全くのノーダメージではない。


ブボゴゴビギアァァァッァア!!

『思った通りだ』

 その様子を見て、ルースはそうつぶやいた。



……時計塔をあの液体が降りている時、時計塔そのものを溶かしている様子はなかった。

 それは、石やレンガで出来た物の上を通ることができるのを示してはいるが、溶かすことができない可能性があったのだ。

 考えてみれば、植物とかは簡単に溶け腐っていったが、ここまでくる道のりではその他に影響を与えていなかった。

 つまり、この液体は生物攻撃にのみ特化してはいるのだが、岩や岩石と言った生物ではないものには抵抗が出来ないのである。

 いや、厳密にいえばこの世界だとロックゴーレムとかいう岩のモンスターとかがいるから生きていないというのは正しくないが…‥‥とにもかくにも、この攻撃でならば効果はある。


 ただし、ここで勘違いしてはいけないのはあくまで自然にできたもののみということだ。

 魔法で作り上げたものだと、おそらくあの冷気のように吸収される可能性があるのだ。

 単純にいえば、魔法及び生物の攻撃には対策が出ていても、こういう原始的な攻撃には対策が出来ていなかったとも言えるのだろう。


 なんというか、まさかこんな攻撃が通るとはあの液体の開発者も思っていなかっただろう。




 とにもかくにも、タキに岩石などを掘り当ててもらい、ぶつけてはいるが…‥‥効果はあっても、これは時間がかかりそうだ。

 そのうち液体人形に耐性がつきそうで困るのだが‥‥‥かと言って、これ以上の攻撃速度を上昇させることはできないだろう。

【ああもぅ!だいぶ疲れてきたのじゃよ!!】

 穴を掘りつつ、その土砂を捲き上げているタキはそう声に出す。

『まぁ、元々タキは穴を掘る専門じゃないからな…‥‥ほんとはもっと、誰に手伝ってもらえれば楽なんだろうけど‥‥』


【…‥‥ほぅ、ならば手伝おうカ?】
『手伝ってくれるなら歓迎…‥‥ん?』

 ちょっと待て、今の声はどこから聞こえた?


 自然にかけられた言葉につい反応してしまったルースが振り向くと、そこにはタキとは違ったモンスターがいた。


 なんというか…‥‥小さい。

 いや、巨大狐の姿のタキと比較してであり、人間と比べれば大きめの、大体3メートルほどの全長であろうか。

 けれども、恐ろしい容姿とかではなく…‥‥むしろ、癒し系というか。

『う、兎?』


 そこにいたのは、長い耳をピコピコと動かし、背中に宝石のように装飾されたシャベルを背負った、巨大な兎が存在していたのである。


【お、お主は!?】

 と、なにやらその姿を見てタキが驚きの声を上げた。

 知り合いなのだろうか?


【まぁ細かい話は後にしヨウ。先ほどから攻撃しテイるらしいその怪物、どう見テも良くナイものだと分かるカラね】

 ちょっとぎこちない言葉だが、ある程度の事情は博してくれている様子。

 何者かは後にして、あの液体人間を葬り去るのを手伝ってくれるなら助かる。

『そ、それならぜひ頼む』
【分かッテいる】

 そう言いながら、その兎は背負ったシャベルを構え、地面に向けた。

【はあァァぁぁぁァぁぁぁァ!!どりゃかかかかかかかかかか!】

 そのまま勢いよく声を上げ、すごい勢いで兎がシャベルを振るった。


 見る見るうちに周囲に大穴が開き、宙に土砂が巻き上げられていく。

【見ヨ!我が奥義『土砂流星群』!!】

 そういうやいなや、兎が飛び跳ねる。

 そして、先ほど空中に巻き上げた土砂にそのシャベルを向けて、高速で突きを繰り出した。



ズドドドドドドドドドド!!

 ブゴボゴボビャァァァァァァァァァァ!!

 断末魔のような声を上げ、液体人形がどんどん小さくなっていく。


 そしてトドメに、ひときわ大きな岩石が直撃し、液体人形は潰された。



……兎ではありえないような、物凄くアグレッシブな攻撃に、ルースはポカーンとあっけに取られた。

【ふゥ、これデいいかナ?】

 汗をぬぐうように前足で拭う巨大兎。

 兎が兎らしからぬ行動をしているのだが…‥‥なんにせよ、説明が付かないので考えるだけ無駄になりそう。

 ゆえに、ルースはそのあたりのツッコミを放棄したのであった。



―――――――――
「次回予告」
液体人形との戦闘中、現れたのは巨大な兎であった。
いや、モンスターなのだがその容姿は癒しであり、ふわふわもこもこで物凄く触りたい。
だがしかし、敵に容赦なく攻撃をする姿は、草食獣に見えないのであった。
次回に続く!!

……この次回予告、気まぐれにやるか、それとも毎回やるべきか考え中。
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