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秋の訪れで章
142話
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バトが『妖精姫』になって数日後、日常的には今のところ問題はない。
いや、しいて言うなれば…‥‥
―――――ムーッ、ポケットニ潜リ込メナイヨ。
「そりゃ体が大きくなったし、もうできないよな」
ルースのポケットにバトが手を入れるが、全く入り込めないことに悲しそうな表情を見せた。
妖精としての小さい体であったときは楽々と潜り込んできたが、人間サイズになった今ではもう潜り込めない領域になってしまったのだ。
「これも成長した証だし、ポケットからの卒業ってことで良いんじゃないか?」
―――――ウン、残念ダケドソウダヨネ。
溜息を吐きつつ。バトはぐでっと力を抜いて机にもたれかかった。
現在時刻は昼時であり、皆食堂で昼食をとっているのである。
ルースたちはいつものメンバーで食堂を利用しているのだが、バトが大きくなって咳が一つ取られて、少々狭くなったような印象を受けた。
「にしても、あの小さかったバトがこんなに大きくなるとは…‥‥世の中ってわからないもんだな」
この成長を見届けた親のような気分というか、なんか寂しい気持ちがありながらルースはそうつぶやく。
「確かに、あの手のひらサイズからここまで大きくなるなんて、一体何をどうしたらそうなるのかわからないわよねぇ……まぁ、その部分もほどほどなのは良いけど、あたしより大きいのはちょっとね」
エルゼもルースの言葉に同意しながら言いつつ、バトのある部分を見てちょっと睨む。
「ん?あ、なるほどこいつに胸の大きさで抜かされ」
「下僕、黙れ」
エルゼの言葉で何か気が付いたらしい、久々に出た気がするスアーンが言葉を言い終わらないうちに、エルゼが手に持って居たフォークを振りかぶり‥‥‥
ぶすっつ
「#&&%&#%UU!?ぎゃぁぁぁぁっ!!」
……思いっきり、スアーンの急所に突き刺した。
「エルゼ……そこは流石に、男としては同情したくなる部位だからやめてね」
「あらら、ルース君がそう言うのならばやめるわね」
エルゼの所業に若干ルースが引くと、エルゼはさっと赤くなったフォークを片付けた。
まぁ、スアーンの自業自得と言えばそうだけどさ…‥‥久しぶりに共に食事をしたのに、早々に搬送されていくとは哀れな奴だ。傷害事件に問われそうだが、生憎あいつの自業自得な事ははっきりしているし、当分治療に専念する以外ないだろうな‥‥‥
魔法とかでパパッと治せそうだけど、そう万能でもないからね。次に戻ってきて遭う時には男を辞めていそうな心配をしておくべきだろう。
まぁスアーンは放っておくとして、バトの変化以外はここ最近特に何もなく、平穏な事をルースはうれしく思っていた。
「そういえば、そろそろこの都市での収穫祭の時期じゃなかったか?」
「いわれてみればそうだったな」
ふとここでルースたちは思い出した。
去年のこの時期、ちょうど収穫祭と呼ばれる行事が行われているのである。
今年は少々、例年に比べると若干遅めの日付で開催されるようだが、それでも楽しみな行事なのは間違いない。
「そう言えば去年の今頃は、レリアが来たり、バトを見つけたりしたよなぁ」
たった1年前の事なのに、かなり懐かしく思えるのは、ここまでかなり濃い時間を過ごしてきたせいなのだろうか。
というか、そう思えるほど苦労をしてきたと考えると少々悲しいような気もするが…‥‥とにもかくにも、今は収穫祭に関する話題に乗ったほうが良いだろう。
「今年は一体どんな露店などがあるのか楽しみだな」
「ええ、ルース君も一緒に回りましょうよ」
「皆で回れば楽しいからな」
―――――私モ行クヨ。
ルースの言葉に、エルゼ達が一緒に回ることを提案し、楽しくなってくる。
今年は流石に去年のような、レリアを狙った誘拐に巻き込まれるとか、その誘拐犯がフェイカ―につながっていたらしくて怪物の相手をせざるを得なくなるとかはないだろう。
(…‥‥ん?そういえば)
ふと、そこでルースはあることに気が付いた。
反魔導書組織フェイカーに関してだが、ここ最近その活動を聞かない。
前までは怪物だの秘密兵器だの取り込み&殺害だのといろいろあったが、めっきりその話を聞かなくなったのだ。
こういうことに関しては、元フェイカー幹部であったミュルに聞いてみたのだが、彼女も分からないらしい。
「何しろ、自分が離職して以降は連絡も取れないでアル。まぁ、出会ったら確実に敵対するのは目に見ているし、心構えはいつでもしておいたほうが良いでアル」
そう言われつつ、なんとなくルースはフェイカ―の不気味な静けさに、不安を覚えるのであった。
ちょうど同時刻、歳の時計塔のてっぺんでその人物は都市内を一望していた。
「…‥‥予定がかなり遅れたが、そろそろ良いだろう。しっかりこの辺りの地形も何もかも把握できたし、もはや準備に支障はない」
そう言いながら、手元に持っていた大きなカバンを開く。
「あとはコイツに水を加えてやれば‥‥‥」
懐から水が入った瓶を取り出し、その鞄の中へ注ぎ込む。
「よし、では避難しておくか」
そう言いながら、その人物はその鞄をその場に残し、すばやく離れていく。
後に残された鞄では、中から何かがうごめいていた。
それは何色とも言い難いような不気味な色をしており、徐々に大きくなっていき、その鞄は許容量を超えて爆散する。
だがしかし、ソレの変化は止まらず、次第に周囲に広がっていくのであった‥‥‥‥
いや、しいて言うなれば…‥‥
―――――ムーッ、ポケットニ潜リ込メナイヨ。
「そりゃ体が大きくなったし、もうできないよな」
ルースのポケットにバトが手を入れるが、全く入り込めないことに悲しそうな表情を見せた。
妖精としての小さい体であったときは楽々と潜り込んできたが、人間サイズになった今ではもう潜り込めない領域になってしまったのだ。
「これも成長した証だし、ポケットからの卒業ってことで良いんじゃないか?」
―――――ウン、残念ダケドソウダヨネ。
溜息を吐きつつ。バトはぐでっと力を抜いて机にもたれかかった。
現在時刻は昼時であり、皆食堂で昼食をとっているのである。
ルースたちはいつものメンバーで食堂を利用しているのだが、バトが大きくなって咳が一つ取られて、少々狭くなったような印象を受けた。
「にしても、あの小さかったバトがこんなに大きくなるとは…‥‥世の中ってわからないもんだな」
この成長を見届けた親のような気分というか、なんか寂しい気持ちがありながらルースはそうつぶやく。
「確かに、あの手のひらサイズからここまで大きくなるなんて、一体何をどうしたらそうなるのかわからないわよねぇ……まぁ、その部分もほどほどなのは良いけど、あたしより大きいのはちょっとね」
エルゼもルースの言葉に同意しながら言いつつ、バトのある部分を見てちょっと睨む。
「ん?あ、なるほどこいつに胸の大きさで抜かされ」
「下僕、黙れ」
エルゼの言葉で何か気が付いたらしい、久々に出た気がするスアーンが言葉を言い終わらないうちに、エルゼが手に持って居たフォークを振りかぶり‥‥‥
ぶすっつ
「#&&%&#%UU!?ぎゃぁぁぁぁっ!!」
……思いっきり、スアーンの急所に突き刺した。
「エルゼ……そこは流石に、男としては同情したくなる部位だからやめてね」
「あらら、ルース君がそう言うのならばやめるわね」
エルゼの所業に若干ルースが引くと、エルゼはさっと赤くなったフォークを片付けた。
まぁ、スアーンの自業自得と言えばそうだけどさ…‥‥久しぶりに共に食事をしたのに、早々に搬送されていくとは哀れな奴だ。傷害事件に問われそうだが、生憎あいつの自業自得な事ははっきりしているし、当分治療に専念する以外ないだろうな‥‥‥
魔法とかでパパッと治せそうだけど、そう万能でもないからね。次に戻ってきて遭う時には男を辞めていそうな心配をしておくべきだろう。
まぁスアーンは放っておくとして、バトの変化以外はここ最近特に何もなく、平穏な事をルースはうれしく思っていた。
「そういえば、そろそろこの都市での収穫祭の時期じゃなかったか?」
「いわれてみればそうだったな」
ふとここでルースたちは思い出した。
去年のこの時期、ちょうど収穫祭と呼ばれる行事が行われているのである。
今年は少々、例年に比べると若干遅めの日付で開催されるようだが、それでも楽しみな行事なのは間違いない。
「そう言えば去年の今頃は、レリアが来たり、バトを見つけたりしたよなぁ」
たった1年前の事なのに、かなり懐かしく思えるのは、ここまでかなり濃い時間を過ごしてきたせいなのだろうか。
というか、そう思えるほど苦労をしてきたと考えると少々悲しいような気もするが…‥‥とにもかくにも、今は収穫祭に関する話題に乗ったほうが良いだろう。
「今年は一体どんな露店などがあるのか楽しみだな」
「ええ、ルース君も一緒に回りましょうよ」
「皆で回れば楽しいからな」
―――――私モ行クヨ。
ルースの言葉に、エルゼ達が一緒に回ることを提案し、楽しくなってくる。
今年は流石に去年のような、レリアを狙った誘拐に巻き込まれるとか、その誘拐犯がフェイカ―につながっていたらしくて怪物の相手をせざるを得なくなるとかはないだろう。
(…‥‥ん?そういえば)
ふと、そこでルースはあることに気が付いた。
反魔導書組織フェイカーに関してだが、ここ最近その活動を聞かない。
前までは怪物だの秘密兵器だの取り込み&殺害だのといろいろあったが、めっきりその話を聞かなくなったのだ。
こういうことに関しては、元フェイカー幹部であったミュルに聞いてみたのだが、彼女も分からないらしい。
「何しろ、自分が離職して以降は連絡も取れないでアル。まぁ、出会ったら確実に敵対するのは目に見ているし、心構えはいつでもしておいたほうが良いでアル」
そう言われつつ、なんとなくルースはフェイカ―の不気味な静けさに、不安を覚えるのであった。
ちょうど同時刻、歳の時計塔のてっぺんでその人物は都市内を一望していた。
「…‥‥予定がかなり遅れたが、そろそろ良いだろう。しっかりこの辺りの地形も何もかも把握できたし、もはや準備に支障はない」
そう言いながら、手元に持っていた大きなカバンを開く。
「あとはコイツに水を加えてやれば‥‥‥」
懐から水が入った瓶を取り出し、その鞄の中へ注ぎ込む。
「よし、では避難しておくか」
そう言いながら、その人物はその鞄をその場に残し、すばやく離れていく。
後に残された鞄では、中から何かがうごめいていた。
それは何色とも言い難いような不気味な色をしており、徐々に大きくなっていき、その鞄は許容量を超えて爆散する。
だがしかし、ソレの変化は止まらず、次第に周囲に広がっていくのであった‥‥‥‥
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