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秋の訪れで章

134話

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「どういうことなのよ学園長!!」
「なんであの女が教師として来ているんだ!?」
【こっそり始業式の場に紛れていたのじゃが、何であやつがいるのじゃよ!!】
―――――主様ヲ殺戮シヨウトシタ鬼人、何デイルノ!?


「おー、一気に詰め寄ーる光景はすごいねー」
「というか、タキ、お前こっそり来ていたのかよ」

 始業式終了後、学園長室にルースたちは来ていた。

 本来はすぐ後に授業が開始されるのだが、本日はただ単に式をやるだけにされており、その為にこうしてすぐさま学園長室に詰めかけることができたのである。


……というか、人って団結するとかなり迫力があるな。

 自分も色々と言いたいことはあるが、女性陣の迫力に押し負け、ルースはそう思うのであった。



 と、気が付けばこの場にほかにいる人物に目が合った。

 ミュル=ウォーラン……元はこの学園に潜入し、一時は生徒として過ごしていたミルである。


 姿が似ているだけで、本人なのか確定していなかったのだが…‥‥この件でどうしてもその可能性が捨てられないルースたちが入った時に、彼女が自白したのだ。

 ミル本人であると。




 ゆえに、現在の修羅場が出来上がった。

 やや距離を取っているが、困ったようにしている顔は少々青ざめている。

 無理もない、一度はエルゼ達によって精神的に廃人状態にまで持っていかれたらしいからね‥‥‥‥何をやったのかは不明だが、その時のことがいまだにトラウマなのであろう。


「まーまー、とーりあえーず落ち着いーて」

 手を前に出し、皆の興奮を収めるように学園長が動いた。


「なーぜ名を変え、姿を変ーえ‥‥‥いや、元はそーの姿だから戻しーたという方が正しいかな?とーにもかくにも、彼女が教師としーて来たーのかーについて、説明するわーね」









 事の起こりは夏休み前。

 学園長の元に、一通の手紙が来たのが原因である。

 差出人は、ミル=ウィン。学園の生徒と偽り、フェイカーの幹部でルースの勧誘もしくは殺害を企んだ悪女であった。

 最初は学園長も警戒したが、手紙の内容を呼んで興味を持ったそうである。


 廃人と化し、重度のトラウマを持たされた彼女だが‥‥‥‥フェイカーの幹部を辞め、今は療養のために別の都市の病院に収監されていた。

 そこで彼女が書いた手紙の内容は、この学園に戻って日常生活を取り戻したいというものだった。


 
 もはや反魔導書グリモワール組織フェイカーに戻る気もなく、自身を貶めようとした人物がいる様な場所はむしろ遠ざけたい、一泡吹かせたいという想いがあったのだろう。

 だがしかし、その想いとは別に、その手紙にあった想いは…‥‥学園で過ごせた楽しかった日常。


 復讐のため、組織のために生きてきた彼女にとって、学園でただの少女として生活したことが本当に印象に残ったらしい。

 灰色だった世界は色づき、日々を楽しく感じていた。

 そのせいで本来の目的であったルースの勧誘などを忘れそうになったが…‥‥これではいけないと思い、自ら捨ててしまった。


 けれども、今こうして何もない状態で過ごし、見つめ返して思うのはこの時の生活。

 楽しかった日常を再び取り戻し、生徒とまではいかなくとも、また皆で笑いあえる関係になりたいのだと、彼女は手紙で訴えた。

 信用は一度無くせば取り戻すのは大変であり、割れた皿は戻らず、覆水盆に返らずという言葉もある。


 それでも、出来る限りの事を尽くしたいとミルが訴え、学園長はその想いをかなえてあげることにしたのだとか。




「とはいーえ、フェイカーの幹部であった彼女をここにいーれるには苦労があったーのよ」

 まず、犯罪歴がある時点でいろいろアウトなのだが…‥‥幸いというべきか、ミルは既にフェイカ―と縁を切ったに等しい状態であり、再犯の可能性は低いと考えられた。

 ついでに彼女は正式に組織を抜ける手紙を出したそうであり、受諾した証の紙をしっかりもらっていたらしい。


……それって、その手紙の宛先にフェイカーがあるのではないかと思うが、そのあたりは不明だ。

 出したら届き、必ず帰ってくる…‥郵便関係に紛れ込んでいる可能性があるが、彼女でもわからないそうである。


 とにもかくにも、内容から見ても真剣そのもの。

 ついでに社会復帰のためにトラウマ克服の特訓もしているようで、その心は本物だと学園長は感じた。


 ゆえに、現在こうして彼女を教師として招き入れ、名も改めて新たな人生を歩ませようとしているらしい。




「…‥‥と、いーうわけで、今に至るのだよ」
「なるほど、そういうことですか」
「トラウマ克服って‥‥‥あたしたちってそこまでやったかしら?」
「せいぜい生まれたことを後悔させる程度だったと思うが?」
【R18規制も真っ青になって逃げだすレベル程度じゃったはずじゃ】
―――――ソレデモコウシテ戻ルトハ予想外ダヨ。

 話を聞き、納得するルースと何やら物騒な事を言う女性陣。


……魔導書グリモワールの忠告の件もそうだけど、最近女性が少し怖いような気がするのは気のせいだろうか?



 まぁ、なんにせよこうしてミルは名をミュルに改めて来ているのである。

 もはや幹部ですらなく、ただの女性教師としての人生を新たに歩むのであれば‥‥‥悪いことは特にないだろう。


「一応、俺をもう殺す気はないんだよな?」
「当然ないアル」


 あるの?ないの?その口癖は治らなかったの?


 色々とツッコミは入れたいが、もう彼女にフェイカ―につながるような者もなく、組織が出てきても完全に敵対するそうだ。

「組織を抜けた者は、二度は戻れないのでアル。だが、我を貶め、それにもはや欲望によって腐敗し始めたところには未来はないのでアル。ゆえに、ここに誓う。今後、ルースたちには危害を加えることは絶対にしないのでアル!」

 ぐっとこぶしを握り締め、宣言するミル。


 一度は殺されかけたルースだったが、ミルの、いやミュルの言葉に偽りがないことを感じとれた。




 信用はそう簡単に戻らないし、ミルという生徒として過ごしていた時はもう帰らない。

 けれども、今から新たに正しい道を進めるのではないかという期待を考えると、特に文句を言うこともないのであった…‥‥



(……しかし、教師だとちょっと色々と近づきにくいのもあるアルね)
(ん?…‥‥ああなるほど、そういうことですか)
(ふむ、どうもこいつもルースの事を‥‥‥‥)
(そう簡単に我が気を許すとは思ってはいけないのじゃ。というか、態度的にこやつ召喚主殿に対して恋慕しているのではないかのぅ?許さんのじゃ)
(-----主様、敵ダッタ相手落トシタ。デモ、私ハ主様ノ貞操ヲ守ル!)

「‥‥‥あれ?なんだろう、今何か感じたような」
「…‥‥女の戦いといーうもーのを感じ取りにーくいのはどーうしよーうもなーいーらしいわね。…‥‥ま、育てがーいもあるーかしら」

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