上 下
111 / 339
学園2年目

100話

しおりを挟む
記念すべき100話!!

――――――――――――――――
‥‥‥冬も過ぎ、季節は春となり、ルースたちは進級することになった。

 つまり、この春にある学園の入学式で後輩ができるのである。

 だがしかし、「入学式」ということは…‥‥




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「助けてくれぇぇぇぇぇ!!」
「みっひゃぁぁぁぁぁあ!!」


「‥‥‥学園長による洗礼か。あれからもう1年経っているんだなぁ」
「ルース君、遠い目になっているわよ。まぁ気持ちはわからなくもないけどね‥‥‥」
「途中から留学してきたから、この光景は初めて見るが、あれはあれでなかなか良いな。力を真っ先に示してこそ、馬鹿を出さないようにできるのだろう」
―――――無茶苦茶ダヨ。


 入学式会場となった校庭から聞こえる新入生たちの悲鳴を聞き、初めて学園に来た当初のことを思い出し、ルースとエルゼは遠い目をして、入学当初はいなかったレリアとバトは首を傾げた。

「って、あれ?そういえばスアーンはどこへ行った?」

 最近影が薄くてほとんど見なくなった友人だが、彼も確か入学当初の学園長の洗礼を受けたはずである。


 いまだに校庭から聞こえてくる新入生たちの悲鳴は良いとして、気が付けばスアーンがいないのである。

「ああ、そういえば彼ならば他の男子たちと一緒にある場所へ行ったぞ」
「ある場所?」

 思い出したかのように言ったレリアに、ルースは尋ねた。

「ばかばかしいというか、女子から見れば最低とも言える行いでな‥‥‥他の女性生徒たちが企んでいた男子生徒たちをもろとも連れ去ったんだ」
「‥‥‥深く聞かないほうが良いか」
「ああ、そういうことだ」


・・・・・どこの世界も、一致団結した人は強いらしい。

 特に、共通の敵を持った場合の団結力はかなりのようで、よくよく見れば男子生徒たちの数が少なく、女性生徒たちが何かをしているのであろう。

 自業自得というか、犠牲となった者たちに対してルースは思わず同情するのであった。







 入学式も終わったようで、会場からの悲鳴は無くなり、保健室に長蛇の列ができていた。

 この保健室では普段、白い魔導書グリモワールで行える治療用の魔法を使える人たちが常駐しているのだが、学園長のせいで手が足りずあたふたとしている。


「…‥‥で、その為に俺もかりだされたのか」

 金色の魔導書グリモワールを扱えるルースは当然のことながら、癒しの魔法も複合して扱える。

 その為、治療する手助けをさせられるのであった。

「とはいえ、一気にやったほうが楽だから‥‥‥これでいくか。『ヒールミスト』!!」

 水魔法と癒しの魔法の複合魔法。

 一気に細かな霧が発生し、ズタボロになっていた生徒たちを覆っていき、自然治癒能力を高めさせて傷を治していく。


「すっげぇぇぇ!!あれが先輩か!!」
「傷が見る見るうちに・・・・・これだけの範囲をたった一人で!!」
「よし!!あの先輩を目指してやっていこう!!」

 ルースが魔法を行使し、その実力を見て新入生たちは目を輝かせる。

 既に国王には報告したので、この力がばれても良いのだが・・・・・こうも感謝というか、称賛のまなざしで見られることにルースは慣れていなかった。

「じ、じゃあこれで治療できるからね」

 そそくさと魔法をその場に放置し、ルースは離れた。


 慣れない賞賛というのは、純粋なものほど照れるものである。

 おごり高ぶる気持ちはないが、それでも気持ちはいい方だ。




「‥‥‥ん?」

 その時、ふとルースは誰かの視線を感じた。

 その視線の方を向くと、誰かが立っていた。



 チャイナドレスのような衣服をまとい、鬼の角のようなものが生えている少女を。

 だがしかし、その姿は一瞬で消えた。

「え?」

 
 あの時、晩餐会の会場のテラスで、少し声を交わした魔族のようであったが、なぜこの場にいたのだろうか?


 その姿があった場所を少し探ってみたが特に何もない。

「?」

 疑問に思いつつも、真昼の幻か見間違えかと考え、ルースは気にしないことにするのであった‥‥‥











「‥‥‥ほう、やはり実力は高めで、広範囲の治療魔法を扱えるのでアルか」

 ルースが気にしないようにして、その場を去ってから再びその少女は姿を現した。

 その手には、カバーで黒色に見えるが、その中身はまがまがしい色をした魔導書グリモワールのようなものが握られていた。

「ふふふふふ、今はまだ様子見でアル。敵の情報を知らねば動けぬし、今は学園生活とやらに混ざってみるのでアル。忌々しいかもしれぬが、まぁたまにはこういうのも悪くはないでアルな」

 にやりと不敵にその魔族の少女は笑い、その魔導書グリモワールのようなものに手をかざすと、その姿は変化した。

 角は失せ、身長も小さめになって年相応の背丈。

 一部さすがに戻したくはないとアンバランスなところは兼ね備えていたが、少女は不敵な笑みをたたえながら新入生たちの中へ戻っていく。

 
‥‥‥この春、学園長の洗礼によって怪我をした新入生は大勢出たそうだが、その中で、この少女はわざと怪我を偽装し、全くの無傷であったことに気が付く者は誰もいないのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...