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冬休みの騒動で章

閑話 真夜中の乙女の戦い part2

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‥‥‥真夜中、病室ではルースが熟睡していた。

 その左腕は、先日の騒動で危うく失われかけたが、何とか治療ができたことにより失わずに済んだ。

 その代償として、神経などが損傷し、修復はできてもその伝達能力が損失しているので、リハビリのために冬休み中入院生活となってしまったが…‥‥まぁ、結果としては良かった方であろう。



 そんな中で、真っ暗な病室内にこっそり忍び込む者がいた。

「ふふふふ‥‥寮よりは忍び込みやすいわね」

 足音が立たぬように、水魔法で作り出したスライムのような液体に乗りつつ、侵入しているのはエルゼ。

 
 彼女は密かにあることを危惧し、わざわざ真夜中に忍び込んできたのである。

 その危惧とは‥‥‥ルースの周囲の状態である。


 ただでさえ、ルースの人柄というか、性質のせいか彼の周りにはエルゼ以外の女の影が出ているのだ。

 主な影としては、タキ、バト、レリアであろう。バルション学園長は‥‥まぁ、あの人は良くわからないので放置だ。

 タキはモンスターだが、今のエルゼたちにはまだない大人の魅力というものを持っており、経験としてははるかに上であろう。恋愛感情とまで行かなくとも、好意を持っているのは分かるので、注意するに値する人物、いやモンスターである。

 次にバトだが、彼女は妖精。

 体の大きさとしては差があるのだが、念には念をと思いエルモアにその生態などを学ばせてもらったところ、妖精の中には人の大きさになる大妖精などになるタイプがあるそうで、バトがそのタイプの可能性があるのだ。

 いつもルースの胸ポケットに入っていたり、頭の上に乗ったりしているのだが、その様子を見る限り、明らかにかなりの好意を持っているのが目に見て取れる。幼さが目立つとはいえ、エルゼにとっては見逃せない強敵である。


 そして、今のところエルゼが最も警戒するのはレリアである。

 彼女は人間だが、その血筋はモーガス帝国の第2王女。

 つまり、王家の血筋の公爵家であるエルゼと比べると、位的には上の方なのだ。

 そのうえ、明らかに好意があり、本人は恋とは自覚していないとは言え、最も警戒すべき相手だとエルゼの乙女の勘が告げているのである。

 できる限り二人きりなどの状況にならないようにするために、常に一緒に行動していたりするのだが‥‥‥それでも強敵なのは間違いない。

 特に、胸部の部分で。エルゼとてないわけではないが、レリアは圧倒的過ぎなのだ。

 タキもかなりあるのだが‥‥‥それを差し引いてもレリアは年不相応のサイズであろう。

 エルゼ、タキ、レリアの胸部を例えるのならば、ミカン、リンゴ、スイカである。壁ではない。きちんとそれなりにはある(本人談)。

 バト?彼女の場合は今後の成長次第だが、それでも強敵だ。

 


 それに、今回の決闘騒ぎの件で、エルゼは乙女の勘がこれまで以上の警鐘を鳴らしたことに気が付いた。


・・・・・考えてもみれば、ルースの持つ力は非常に大きい。

 国を滅ぼすモンスターを召喚・使役し、ルースの知識などによって複合魔法の威力もかなり高く、その上怪物を一瞬で消し去る道の魔法など、上げればとんでもないものばかりだ。

 そんな人物を、貴族が、国が、他国が黙って見るだろうか?いや、ないだろう。



 なんとしてでも己の力にしようと企んだり、自国に止めて他国に渡そうとしなかったり、奪おうとしたりする輩が出るに違いない。

 そうなれば、当然ルース本人にそのような話しのための接触を行う輩が出るだろう。



 生憎、ルースは村でそれなりにまともな感覚があるし、馬鹿でもないので金や地位と言ったものには興味を示さないのは目に見えている。

 ならばどうするか?


‥‥‥ルースは年頃の男子。となれば、当然興味が出る分野もある。

 そう、女を使ってのハニートラップが出てくる可能性があるのだ。

 いくらエルゼが24時間体制で見守っていたとしても、限界があるのですべて見ることはできない。

 それに、ルース自身無自覚だが、それなりに彼はモテる容姿をしており、魅力にあふれ惹かれる者たちが出てしまうのだ。

 このままではいづれ、ルースはどこぞの誰と知らない女に籠絡する未来があるかもしれない。





 ならば今こそ、その未来を防ぐために行動すべきではないだろうか?

 そう思い立ち、エルゼは既成事実を作るために真夜中の病室へ侵入したのである。

 やり方は、それなりに知っている。ストーカー暦が長いと、その手の知識も蓄えられ、ついでに知りたくなかった他人の性癖まで知ってしまう事があったりもした。・・・・・まさかエルゼの父の公爵にあんな性癖もあるとは‥‥。


 とにもかくにも、そっと侵入し、あとは寝ているルースのベッドの中に潜り込もうとしたその時であった。


(そっとそっと・・・・・起こさないように)
カチッツ
(ん?)


 ふと、何かを押したような感触がした。

 次の瞬間、何かがエルゼをつかみ・・・・・窓から放り投げた。


(えーーーーーーー!?)

 起こさないように心の中で叫び、何とか魔法を発動させて、クッションにして怪我を防ぐ。

 
「一体、誰があんなものを?」

 着地し、ルースの病室の窓を見上げてエルゼはそうつぶやいた。

「ふっふっふっふ・・・・それはな」
【我等じゃ!!】
「なっ!?」

 ふと、背後に気が付けば、レリアとタキがその場に立っていた。

「ま、まさか・・・」
「そう、エルゼの動きは予想できていたからね」
【召喚主殿の清き安眠のために、わざわざバルション学園長殿に請うてトラップを真夜中限定で発動するように仕掛けまくったのじゃよ!!】

 エルゼの予想が正しいことの証明をするように、レリアとタキはそう告げた。

 そう、このエルゼの予想が簡単だったために、レリアたちは手を組んで罠を仕掛けまくったのだ。


 その巧妙さに気が付かず、罠にはまってしまったことにエルゼはがっくりと頭をうなだれた。

「くっ・・・・まさかこうなるとはね」
「というわけでエルゼ」
【真夜中わざわざご苦労さんじゃったが、どうも学園では不純異性交遊は許されぬから・・・・・学園長の下へ連行するのじゃ】

 がっくりとうなだれるエルゼの手を取り、連行するレリアとタキ。

 
 なお、これはほぼ入院中にずっと繰り返され、あの手この手での彼女達の攻防戦が毎日深夜続けられていることを、ルースは知らずに熟睡しぱなっしなのであった。



――――――スヤァ。

 ちなみに、この時バトはさりげなくルースの布団の中に潜り込んで寝ており、この後トラップの再設置のために戻ってきたレリアたちに発見されて地獄を見ることになるのだが、それはまた別のお話である。

 
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