上 下
97 / 339
冬休みの騒動で章

88話

しおりを挟む
 決闘当日、その日は晴れやかな冬の晴天となった。

 吐く息が白く、この間までの暖冬気味だった気候がようやく元の寒い状態へと戻ったようで、もう間もなく雪が降ってきそうな予感を感じさせた。




 決闘場所は、都市外に仮設された決闘場。

 その周囲には仮設の観客席が作られ、この寒さを見越してなのか、あちらこちらでは温かい飲み物や食べ物を売る店が出回っていた。

 商売上手というか、人が集まることを目ざとくかぎつけた商人たちであろう。



 とにもかくにも、決闘を行うには少々気温が低いかもしれないが、それでもなかなかの盛況である。

 観客席は満員となっており、噂話とかが広まったのかもしれない。


「しかし、本当に賭け事も開催されるとはな・・・・・」

 架設された観客席の横にある垂れ幕を見て、思わずルースはそうつぶやいた。

――――――
「どっちが勝つでしょうかー?現在の倍率」
ルース=ラルフ・・・1.05倍
ソークジ=バルモ=バズカネェノ・・・2.08倍
―――――


「・・・・・これってさ、どっちが有利と不利だと思われているんだ?俺って賭け事やらないし、よくわからないんだよな」
―――――数字ガ大キイ方ガ不利ダヨ。

 ルースのつぶやきに対して、ポケットに入っていたバトがそう答えた。

 なんでも以前、ルースがバルション学園長による地獄の特訓を受けていた際に、その合間で人間の常識とかいうものをいろいろと教えてもらっていたそうで、その中に賭け事に関しての知識もあるらしい。

 つまり、この倍率では、ルースの方が勝つかもしれない人の方が多いのだとか。

 圧倒的な差になっていないのは、こちらが平民であり、ソークジがあれでも一応貴族なので、金に任せて何かやらかすかもしれないというものがあるそうだ。

 まぁ、基本的に先日の喫茶店でのソークジ側の醜態が知られているので、ルースに勝ってほしいという人が多いらしいが・・・・・・








 とにもかくにも、決闘の時刻となった。
 
 観客席側にエルゼやレリアたちがおり、バトもそちら側に持っていったもらったところで、決闘用の舞台にルースは立った。


 そしてソークジ側の方なのだが、今回なんとか相手は代理人を見つけたようであり、その代理人が立ったのだが・・・・・


「ふしゅー、ふしゅー、ふしゅー」
「・・・・・でかいな」

 だいたい3メートルぐらいの全身鎧に包まれ、なにやら息が荒いでかい人が代理人のようである。

 なんというか、身長差がすごいというか、ここまで大きい人を見たことがない。というか人間か?



 でかい代理人に対して、観客席側の予想外だったようで、ざわざわしていた。

「お、おいあの屑貴族側の代理人でかいな」
「ああ、かなり大きいというか、ありえない身長だな」
「案外、中に肩車している人が入っているんじゃないか?」
「というか、舞台に立った後、微動だにしていないのが怖いな」


 まさかの代理人が注目を浴びている。

「おい!!高い金を払ったから負けるなよ大男!!」

 と、罵声が飛んだのでその方向を見れば、決闘を挑んできたソークジとその愉快な仲間たちが観客席の真ん中にどっしりと構えていた。

 その横にはなにやら趣味の悪い宝石をゴロゴロ付けたおばちゃんのような人がいるのだ・・・・・まさか。

「え?あれって誰だ?」
「ああ、マリアーンヌとかいうやつだったはずだよな。男爵令嬢の」
「これでまだ10代らしいぞ。なんというか、あのソークジの好みの容姿は老け顔だったのか・・・・」

 ・・・・・ぶっちゃけ言って、この代理人よりもソークジの性癖が分かったほうがかなり衝撃が大きかった。

 ああ、そりゃ貴族令嬢の雰囲気をしっかり持ったリディアさんとかを気に入らないよな。

 納得はできたけど、なんだろう、このすっごい微妙な感じ。



 とにもかくにも、それぞれ互に準備は整った。




『では、レディースアーンドジェントルマーン!!これより、決闘が開催されることをここに宣言するぜベイベー!!』

 舞台にもう一人が立ち、なにやらマイクのようなマジックアイテムを持った男性が現れる。

『おれーさまは今回の決闘の司会者兼審判を兼ねているエルダンベーラだい!!どうぞお見知りおきをだぜベイベー!!』


 どうやら、この決闘のためにわざわざやって来た人のようで、貴族が行う決闘に対して派遣される特別な訓練を受けた司会者兼審判だそうだ。

『さーて!!今回の決闘は単純明快に貴族が平民に対して売った喧嘩のようなものだぜベイベー!!気に入らなかったとか、そんな屑を極めたような、雑魚のような理由で行われるようだぜー!!』

 容赦ないというか、単純明快にし過ぎたその解説にソークジは激怒しているようだが、他の観客たちは爆笑していた。

 まぁ、分かりやすいと言えばわかりやすい。というか、そんなことを言っていいのかこの審判。


『とにもかくにも、決闘を開始するのだがその前に選手紹介だぜベイベー!!今回決闘をさせられることになった平民出身、でもグリモワール学園の学生だったぞ、ルース=ラルフ!!』

 審判がこちらに手を向けて説明し、簡単な紹介を行う。

『そして対峙するのは、本当に人間か?屑貴族の代理人タイタニアンだー!!』


 もう堂々と屑貴族と言いまくっており、ソークジの頭の血管が切れそうである。

 ここまでやっていいのかいと言いたいが、審判だし文句を言おうとたら色々と言われそうなのが分かっているので無理なんだろう。


『では、紹介も終わったし、互いに武器を構えてくれぇ!』

 びしっ!!っと音が聞こえそうな無駄なポーズをとり、審判はそう言った。


「ふしゅーっつ!!ふしゅーっつ!!」

 息荒く、大きな斧を構えるタイタニアン。

 対するルースは、落ち着いていつものように構えた。

「『魔導書グリモワール顕現』」

 言葉とともに現れるのは、金色の光を放つ、ルースのもつ黄金の魔導書グリモワール


 その姿に驚いたのか、観客席からは驚きの声が上がり、見ればソークジもあんぐりと口を開けて固まっていた。


「な、な、なんだそりゃぁぁぁぁ!!魔導書グリモワールに金色なんて聞いたことがないぞ!!それに、このわたしが持っていない魔導書グリモワールを平民の貴様がもっているなんてあり得ないぞ!!」

 いや、さっき説明でグリモワール学園の生徒って言われましたが。

 グリモワール学園って、魔導書グリモワールがないと入れないし、そこで納得しろよ。



 とにもかくにも、周囲が驚きに包まれる中、どこからか審判が取り出したのは、大きなシンバルである。

『でーは!!それでは決闘始めぇぇぇぇぇぇ!!』


ジャァァァァン!!っと大きな音がして、決闘が始まるのであった。
しおりを挟む

処理中です...