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冬休みの騒動で章
84話
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ゼバスジャン、ここに殉職す。
「まだ死んでいないからな!?」
スアーンのツッコミが入り、ルースはなんとなくツッコミからボケへ己が移行していることを実感した。
それはともかく、今目の前では少々シャレにならないことが起きていた。
ひったくりを捕まえ、そのひったくりが持っていたカバンを押収し、その元の持ち主の執事であるゼバスジャンの手に渡ったまでは良かった。
だがしかし、どうやら彼がおいていったお嬢さまとやらのもとへ向かおうとしたとたん、ゼバスジャンは寄る年波のせいか、腰を痛めてその場に倒れてしまったのである。
ここであったのも何かの縁とも言うし、ルースたちはゼバスジャンを放っては置けなかった。
「そうだ、魔法で車椅子を作れないかな?」
ここでふと、ルースは閃いた。
「『魔導書顕現』からの・・・・えっと、木と土と光の3属性の複合でちょうど良いか?『ホイールチェアクラフト』っと」
魔導書を顕現させ、魔法をルースが組み合わせて車いすを作る。
まずは木の骨組みが出来上がり、硬すぎるのは腰に悪いので、蔦を生やしてちょっとハンモックのようにゆったりと座れるようにした後、その部分に光の魔法でじわじわ癒し効果が出るように仕掛け、動かしやすいように木のタイヤが組み合わさる。
それだけでは強度が不足するので、土を隙間部分に固めて埋めて、しっかりと補強をして立派な車椅子が一つ出来上がった。
座っているだけで、腰部分に添えられた光の癒しの魔法でじわじわ治療され、ついでに全身にも微弱にいきわたるようにして体力を回復させやすい、まさに癒しの車椅子である。
そこにスアーンと協力してゼバスジャンをルースは座らせた。
「よっこいせっと」
「意外に重いなこの爺さん・・・」
「す、すまんな・・・・」
コロコロと車椅子を押していき、ゼバスジャンの指示でそのお嬢さまとやらが待っているという喫茶店にルースたちはたどり着いた。
「お、いましたぞ。お嬢さまぁぁ!!カバンを取り返してまいりましたぁぁぁ!!」
見つけたようで、ゼバスジャンはそう叫んだ。
「あら?結構かかって・・・・って、ゼバスジャンどうしたの!?なんであなたが車椅子生活に!?やっぱり腰が逝ったの!?」
お嬢さま、ゼバスジャンの容態に気が付き驚愕したようで、駆け寄って来た。
見る限りというか、まさにお嬢さまといった風貌である。
金髪のドリルのような髪形に、意志の強そうな瞳。
綺麗と言えば綺麗かもしれないが、ちょっと気が強そうだなと思えるような・・・・。
「すいません、お嬢さま。不肖なこのわたしめはお嬢さまのために何とかしようとしましたがあのひったくりは捕まえられず、けれどもこの方たちに助けてもらったのでございます」
椅子に座ったままゼバスジャンは深々とそのお嬢様に頭を深く下げ・・・・
ぐぎっつ!
「ぐぶえばぁ!?」
・・・・・まだ治っていないのに、腰をつい曲げてしまったせいで、再び嫌な音が響き渡ったのであった。
「そうなのですか・・・・・どうも、あの下賤なひったくりを捕まえてわたくしのカバンを取り返し、このゼバスジャンを送ってくださりありがとうございますわ」
ゼバスジャンはどうやらこのお嬢さまの他の護衛に運ばれたようで、別の人が執事の服装で横にたちつつ、深々とこのお嬢さまは礼を。
「いえ、別に言われるほどたいしたことではないです」
「体が勝手に動いたというか、世のため人のためです」
なんというか、コレが本当のお嬢さまオーラなのかと言う感じに押され、思わずルースたちは圭吾になった。
・・・・・いや、エルゼやレリアもお嬢さまなんだけど、なんだろうこの格差。
「そういえば、ゼバスジャンを助けてくださった貴方たちには名乗っていませんでしたわね。わたくし、エーズデバランド侯爵家の一人娘であるリディア=バルモ=エーズデバランドですわ」
そう名前を名乗り、お嬢さまもといリディアさんはスカートのすそをつかみ、優雅にお辞儀した。
また思ったけど、このエルゼたちと比べてお嬢さまとしての格差がすごいな。
「えっと、名乗り返させていただきますと、俺っちは、こほん、わたしはスアーン=ラングです」
スアーン、わざわざ言い直したけどちょっと格好つけていないか?
「私はルース=ラルフというものです。私達は共にグリモワール学園の生徒であります」
とはいえ、自分も人のことは言えない。
なんとなくため口が使えないので、ルースも敬意を払ってそう名乗った。
「グリモワール学園・・・・まぁっ、ではあなた方は魔導書を所持していらっしゃるのね!!うらやましい事ですわ!」
グリモワール学園の言葉を聞き、急にリディアさんは目を輝かせた。
少々話をしてみると、どうやら彼女も叡智の儀式を受けたようだが、生憎魔導書を手に入れられなかった人のようで、学園にはいけず、貴族用の教育機関へ通うことになったらしい。
できれば魔導書を手に入れ、魔法を使いたかったが、世の中は平等ではないので早々に諦め、貴族の令嬢としての嗜みを学んでいるのだとか。
「そして、ついでに婚約者もつけられましたけど・・・・・その婚約者は少々好みではないというか、馬鹿をやらかしているのですわ・・・・」
話していると、ふと顔を彼女は曇らせた。
「え?いったいどういうことでしょうか?」
「実はね、私の婚約者ってあのバズカネェノ侯爵家の一人息子・・・・いえ、今は当主がどこかへ向かい行方不明となって、当主となった人なのよ」
「バズカネェノ侯爵・・・・って、確か屑で悪名高い家ですか」
どうやらその婚約は彼女が望んだ物ではなく、貴族でお決まりの政略結婚に近いものらしい。
エルゼのような政略結婚目当てな輩を潰せるような力があるのならいいのだが、彼女の家は侯爵家いえどもそこまで力があるわけでもないらしい。
バズカネェノ侯爵家も同じ侯爵家なのだが、力としては悔しいけどそちらの方が上だという。
「とはいえ、あの屑で有名な当主が頭をわざわざ下げて頼み込んだそうでして、お父様も断り切れなかったのだと聞きますわ」
力としては負けているのに、何故当主みずからが頭を下げて頼み込んできたのか。
それはリディアの才能を見込んでの事らしい。
なんでもその当主の息子・・・・ややこしいけどまだ行方不明になる前の人の息子も才能はあるのだが、その支えとなるような人をその屑当主は何とかして見つけたくて、当時見たリディアに将来的な才能を見出し、土下座して頼み込んだのだとか。
さすがに屑と名高いその当主でも、息子のためなら力を使わずにきちんと正面から頼み込むだけの矜持はあったようである。
その為、今もなお婚約は継続されているそうだが・・・・・
「でも、その当主が行方不明となり、その婚約者である・・・・・ソークジ=バルモ=バズカネェノ様はどうもわたくしを差し置いて、今別の女に入れ込んでしまっているのですわ」
・・・・・なんというか、物凄い重い話になってきたようである。
なんでもそのソークジとかいう新たな当主となったその人物だが・・・・・・父親には見事に騙していたが、周囲から見ると本当に愚かな人らしい。
成績を偽り、自分に都合のいいことを言う取りまきを侍らせ、婚約者がいる身なのに娼館通いをし、自らの権力をひけらかして無理やり威張り散らし、まさにやりたい放題。
同級生に王族がいるのだが、そんな人たちにもお構いなしということで、近々制裁があるのではないだろうかと言う話もあるようだ。
「とはいえ、不本意ながらわたくしは未だに婚約者の身。こちからから婚約破棄をしようにも相手側がもうしつこくて・・・・なんど力で押さえつけられそうになったことかしら」
思い出したのか、ぞっと体を震わせるリディアさん。
「なんというか・・・・・馬鹿じゃなくて屑ですね」
「ええ、まさにそうなのよ!!」
ルースの感想に、リディアはそう声を出す。
「なので、その日頃のストレスを解消するために、今日はこの街で買い物をしに来たのだけれども・・・・・そこでひったくりにあってしまうという不幸があったのですわ」
そして、今に至ったようだった。
こういう貴族がらみの話は、ルースたちにはどうしようもない話しである。
エルゼやレリアといった面々ならどうにかできそうだが、何とかしたいと思っても平民であるルースたちには何もできない。
なんとなく、場の雰囲気が重くなったその時であった。
「ここにリディアはいるか!!」
突然聞こえた怒声。
その声の方向を見てみれば、なにやら何人かの取りまきを周りにつかせている・・・・・うん、なんというか、趣味の悪い装飾品で身を飾る男性がそこに立っていた。
顔はそこそこなのだが、腹が出ているというか、日頃の不摂生が目に見て取れる体形である。
・・・・・どうやら、件のバズカネェノ侯爵家の息子もとい当主となったソークジ=バルモ=バズカネェノ本人が来たようであった。
「なぁルース、コレってまさか・・・」
言うなスアーン。分かっている。分かっているからどうしようもないんだ。
どうも俺たちは、今から起こる何かに巻き込まれようとしているようなんだよな・・・・・・・・
「まだ死んでいないからな!?」
スアーンのツッコミが入り、ルースはなんとなくツッコミからボケへ己が移行していることを実感した。
それはともかく、今目の前では少々シャレにならないことが起きていた。
ひったくりを捕まえ、そのひったくりが持っていたカバンを押収し、その元の持ち主の執事であるゼバスジャンの手に渡ったまでは良かった。
だがしかし、どうやら彼がおいていったお嬢さまとやらのもとへ向かおうとしたとたん、ゼバスジャンは寄る年波のせいか、腰を痛めてその場に倒れてしまったのである。
ここであったのも何かの縁とも言うし、ルースたちはゼバスジャンを放っては置けなかった。
「そうだ、魔法で車椅子を作れないかな?」
ここでふと、ルースは閃いた。
「『魔導書顕現』からの・・・・えっと、木と土と光の3属性の複合でちょうど良いか?『ホイールチェアクラフト』っと」
魔導書を顕現させ、魔法をルースが組み合わせて車いすを作る。
まずは木の骨組みが出来上がり、硬すぎるのは腰に悪いので、蔦を生やしてちょっとハンモックのようにゆったりと座れるようにした後、その部分に光の魔法でじわじわ癒し効果が出るように仕掛け、動かしやすいように木のタイヤが組み合わさる。
それだけでは強度が不足するので、土を隙間部分に固めて埋めて、しっかりと補強をして立派な車椅子が一つ出来上がった。
座っているだけで、腰部分に添えられた光の癒しの魔法でじわじわ治療され、ついでに全身にも微弱にいきわたるようにして体力を回復させやすい、まさに癒しの車椅子である。
そこにスアーンと協力してゼバスジャンをルースは座らせた。
「よっこいせっと」
「意外に重いなこの爺さん・・・」
「す、すまんな・・・・」
コロコロと車椅子を押していき、ゼバスジャンの指示でそのお嬢さまとやらが待っているという喫茶店にルースたちはたどり着いた。
「お、いましたぞ。お嬢さまぁぁ!!カバンを取り返してまいりましたぁぁぁ!!」
見つけたようで、ゼバスジャンはそう叫んだ。
「あら?結構かかって・・・・って、ゼバスジャンどうしたの!?なんであなたが車椅子生活に!?やっぱり腰が逝ったの!?」
お嬢さま、ゼバスジャンの容態に気が付き驚愕したようで、駆け寄って来た。
見る限りというか、まさにお嬢さまといった風貌である。
金髪のドリルのような髪形に、意志の強そうな瞳。
綺麗と言えば綺麗かもしれないが、ちょっと気が強そうだなと思えるような・・・・。
「すいません、お嬢さま。不肖なこのわたしめはお嬢さまのために何とかしようとしましたがあのひったくりは捕まえられず、けれどもこの方たちに助けてもらったのでございます」
椅子に座ったままゼバスジャンは深々とそのお嬢様に頭を深く下げ・・・・
ぐぎっつ!
「ぐぶえばぁ!?」
・・・・・まだ治っていないのに、腰をつい曲げてしまったせいで、再び嫌な音が響き渡ったのであった。
「そうなのですか・・・・・どうも、あの下賤なひったくりを捕まえてわたくしのカバンを取り返し、このゼバスジャンを送ってくださりありがとうございますわ」
ゼバスジャンはどうやらこのお嬢さまの他の護衛に運ばれたようで、別の人が執事の服装で横にたちつつ、深々とこのお嬢さまは礼を。
「いえ、別に言われるほどたいしたことではないです」
「体が勝手に動いたというか、世のため人のためです」
なんというか、コレが本当のお嬢さまオーラなのかと言う感じに押され、思わずルースたちは圭吾になった。
・・・・・いや、エルゼやレリアもお嬢さまなんだけど、なんだろうこの格差。
「そういえば、ゼバスジャンを助けてくださった貴方たちには名乗っていませんでしたわね。わたくし、エーズデバランド侯爵家の一人娘であるリディア=バルモ=エーズデバランドですわ」
そう名前を名乗り、お嬢さまもといリディアさんはスカートのすそをつかみ、優雅にお辞儀した。
また思ったけど、このエルゼたちと比べてお嬢さまとしての格差がすごいな。
「えっと、名乗り返させていただきますと、俺っちは、こほん、わたしはスアーン=ラングです」
スアーン、わざわざ言い直したけどちょっと格好つけていないか?
「私はルース=ラルフというものです。私達は共にグリモワール学園の生徒であります」
とはいえ、自分も人のことは言えない。
なんとなくため口が使えないので、ルースも敬意を払ってそう名乗った。
「グリモワール学園・・・・まぁっ、ではあなた方は魔導書を所持していらっしゃるのね!!うらやましい事ですわ!」
グリモワール学園の言葉を聞き、急にリディアさんは目を輝かせた。
少々話をしてみると、どうやら彼女も叡智の儀式を受けたようだが、生憎魔導書を手に入れられなかった人のようで、学園にはいけず、貴族用の教育機関へ通うことになったらしい。
できれば魔導書を手に入れ、魔法を使いたかったが、世の中は平等ではないので早々に諦め、貴族の令嬢としての嗜みを学んでいるのだとか。
「そして、ついでに婚約者もつけられましたけど・・・・・その婚約者は少々好みではないというか、馬鹿をやらかしているのですわ・・・・」
話していると、ふと顔を彼女は曇らせた。
「え?いったいどういうことでしょうか?」
「実はね、私の婚約者ってあのバズカネェノ侯爵家の一人息子・・・・いえ、今は当主がどこかへ向かい行方不明となって、当主となった人なのよ」
「バズカネェノ侯爵・・・・って、確か屑で悪名高い家ですか」
どうやらその婚約は彼女が望んだ物ではなく、貴族でお決まりの政略結婚に近いものらしい。
エルゼのような政略結婚目当てな輩を潰せるような力があるのならいいのだが、彼女の家は侯爵家いえどもそこまで力があるわけでもないらしい。
バズカネェノ侯爵家も同じ侯爵家なのだが、力としては悔しいけどそちらの方が上だという。
「とはいえ、あの屑で有名な当主が頭をわざわざ下げて頼み込んだそうでして、お父様も断り切れなかったのだと聞きますわ」
力としては負けているのに、何故当主みずからが頭を下げて頼み込んできたのか。
それはリディアの才能を見込んでの事らしい。
なんでもその当主の息子・・・・ややこしいけどまだ行方不明になる前の人の息子も才能はあるのだが、その支えとなるような人をその屑当主は何とかして見つけたくて、当時見たリディアに将来的な才能を見出し、土下座して頼み込んだのだとか。
さすがに屑と名高いその当主でも、息子のためなら力を使わずにきちんと正面から頼み込むだけの矜持はあったようである。
その為、今もなお婚約は継続されているそうだが・・・・・
「でも、その当主が行方不明となり、その婚約者である・・・・・ソークジ=バルモ=バズカネェノ様はどうもわたくしを差し置いて、今別の女に入れ込んでしまっているのですわ」
・・・・・なんというか、物凄い重い話になってきたようである。
なんでもそのソークジとかいう新たな当主となったその人物だが・・・・・・父親には見事に騙していたが、周囲から見ると本当に愚かな人らしい。
成績を偽り、自分に都合のいいことを言う取りまきを侍らせ、婚約者がいる身なのに娼館通いをし、自らの権力をひけらかして無理やり威張り散らし、まさにやりたい放題。
同級生に王族がいるのだが、そんな人たちにもお構いなしということで、近々制裁があるのではないだろうかと言う話もあるようだ。
「とはいえ、不本意ながらわたくしは未だに婚約者の身。こちからから婚約破棄をしようにも相手側がもうしつこくて・・・・なんど力で押さえつけられそうになったことかしら」
思い出したのか、ぞっと体を震わせるリディアさん。
「なんというか・・・・・馬鹿じゃなくて屑ですね」
「ええ、まさにそうなのよ!!」
ルースの感想に、リディアはそう声を出す。
「なので、その日頃のストレスを解消するために、今日はこの街で買い物をしに来たのだけれども・・・・・そこでひったくりにあってしまうという不幸があったのですわ」
そして、今に至ったようだった。
こういう貴族がらみの話は、ルースたちにはどうしようもない話しである。
エルゼやレリアといった面々ならどうにかできそうだが、何とかしたいと思っても平民であるルースたちには何もできない。
なんとなく、場の雰囲気が重くなったその時であった。
「ここにリディアはいるか!!」
突然聞こえた怒声。
その声の方向を見てみれば、なにやら何人かの取りまきを周りにつかせている・・・・・うん、なんというか、趣味の悪い装飾品で身を飾る男性がそこに立っていた。
顔はそこそこなのだが、腹が出ているというか、日頃の不摂生が目に見て取れる体形である。
・・・・・どうやら、件のバズカネェノ侯爵家の息子もとい当主となったソークジ=バルモ=バズカネェノ本人が来たようであった。
「なぁルース、コレってまさか・・・」
言うなスアーン。分かっている。分かっているからどうしようもないんだ。
どうも俺たちは、今から起こる何かに巻き込まれようとしているようなんだよな・・・・・・・・
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