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学園1年目

64話

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…‥‥都市メルドランから馬車で進むこと30分ほど。

 目的地は、森の中であり、そこには大きな湖が広がっていた。


 この森の名は『エルゾーン』、そしてこの湖は『レーン湖』というそうである。

 夏場であるならば、そこそこまだ近場の観光スポットとして人気があるのだが、冬場は人気がほとんどなく、寒中水泳の場としてはぴったりだそうである。

 なお、今回はバルション学園長による訓練でルースたちは泳がされるのだが、水質が極めて高品質な事から、夏場は青色の魔導書グリモワールを持つ人たちが一部を氷にして(きちんと煮沸消毒を行ってから)、かき氷の材料としてすることでも有名であるため、別名『材料湖』としても言われているのであった。




ひゅぅぅぅぅぅるるぅぅ~~~~~

 冷たい風が吹き、馬車から降りて来たルースたちに容赦なく吹き付ける。


「寒っ!?」
「これ確実にあとで風邪をひきそうよ!!…‥あ、でもルース君が引いたら看病してあげられるわね」
「こ、このぐらいで風邪をひくなどな、はくちょい!!」

 寒さに震えるルース、何か企んだエルゼ、意外にも可愛らしいくしゃみをしたレリア。


 それぞれの声を混ぜつつ、学園長は目の前で‥‥‥


「ふぅ、極楽だーよ」

 光魔法で太陽光を集め、シミやそばかすの下になるようなUVなどカットしつつ、ただ暖かい部分だけを浴びて、しっかりと防寒具を着こなしていた。

 鬼畜の所業とは、まさにこのことであろうか。


 そしてふとルースたちはエルゼの方を見た。

 ルース自身が来ているのは、いたって普通のトランクスタイプの水着。ブーメランを出されそうになったが、流石に嫌だったので丁寧に断った。

 一方、流石に訓練であり、遊ぶわけではないのでエルゼたちが来ている水着も華やかさがるような物ではない。

 というか、明らかに絶対前世が地球出身で、マニアックな人がいたに違ないという代物‥‥‥前の方にわざわざ名前が書かれたゼッケンのついた、絶滅危惧種ともされるスクール水着をエルゼたちは着用していたのである。

 下手に露出が高いビキニタイプにされていたらそれはそれで目の毒であったため、まだほっとルースは落ち着いたのだが…‥‥エルゼを見ただけでは、まだ甘かった。


 レリアを見た瞬間、本当にまだ自分は考えが浅かったのだとルースは思った。

 でかい。そう、もはや兵器としか言いようがない。

 というか、明らかにサイズが合っていないというか、学園長がわざと改造していたのか、横からはみ出るようにもなっていたそれは‥‥‥本当に兵器としか言いようがなく、ルースは直視できなかった。

 彼もまた、健全な男の子である。

 まあ、この状況を後日男子たちに知られたら、想像を絶するような恨みを買うのは間違いないだろうけどね‥‥‥見るよりも寒さの方が辛い。


「でーは!!早速この湖の端かーら、端まーで、泳いでもらいまーす!!魔導書グリモワールを使用すーるのは禁止!!」
「結構きついんですが!?」
「そこそこ距離があるのよ!?」
「夏場ならまだしも、冬場だと鬼畜の所業だ!!」

 学園長の言葉に、ルースたちは抗議する。

「んー?それじゃ、往復回数を増やーすか、一旦水をかーぶってもらい、徒歩で寮にもーどるかい?」
「「「文句を言わずにやらせていただきます」」」


 学園長の脅しに、ルースたちは速攻で屈するのであった。

 なお、この時バトは停車させた馬車の中で寝ていたのであった。





 いきなりは流石に心臓に悪いので、ゆっくりとルースたちは湖の中に体を付けた。

 水中は気温の変化程急に変わるわけではないらしいが…‥‥


「‥‥‥あれ?案外冷たくない」
「本当ね。なんでかしら?」
「意外というか、何というか…‥‥まだ大丈夫か?」

 何か湖がやけに温かい。

 少なくとも、外の気温ほど冷たくもなく、なかなか快適なのである。


「これならいけるかな‥‥‥っ!?」
「あれ?どうしたのよ、ルース君?急に向きを変えて何かあったの?」
「ん?どうかしたのか?」
「いや、何でもないというか‥‥‥」

…‥‥うん、あれって脂肪の塊とか言うが、浮くって本当だったんだ。

 そう思ったが、迂闊に口に出せばこの二人から相当きついことをさせられる危機を感じ取り、ルースは黙った。


 そして3人は泳ぎ始めるのであった…‥‥‥。








「うんうん、中々いい泳ぎをしーているな」

 湖の端の方まで泳いでいくルースたちを見ながら、バルション学園長はついでに仕事をするために持ってきた書類に目を通していた。

「…‥しかし、また面倒事というか、厄介な物があるね」

 いつもの延ばす口調が消え、真面目な仕事モードになる学園長。

 彼女が見たのは、都市内に入って来た間諜などについての者で、何処からかの割合を見て顔をしかめた。


「北の方にある国…‥そこからが多いわね。フェイカーの目撃情報は相変わらず少ないけど、そこから購入したらしき兵器情報も入ってきているし、油断禁物ね」


 そしてふと、彼女は湖で泳ぐルースたちを、特にルースを見る。

「…‥金色に輝く黄金の魔導書グリモワールを持つ者についての情報を探る輩もいるようね。学園の生徒たちは守るべきものだし、きちんと徹底的な策を練らないとね」


 生徒を守るのは学園であり、その長たる自分も生徒たちを守らなければいけないと、バルション学園長は思う。

 実は、今日わざわざ都市外の湖に来たのは、ルースを狙うような間諜たちをあぶりだすためであり、続けて付いてきた者たちから順番に捕縛していたのである。

 これでしばらくはまだ大丈夫だとはいえ、また繰り返し来るのは分かっている。

「徹底的にというか、国内にも通じている者たちがいるかもしれないし、そのあたりの調査も国王陛下に進言しておきましょうかね」

 報告書をしまい、そうつぶやくバルション学園長。

 そして再びルースたちを見て、彼らだけでもでもきちんと守れるように鍛えてあげようと、しっかり計画を立てていくのであった。

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