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学園1年目

59話

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‥‥‥声にひかれ、ルースが見つけたのは触角のようなものが生えた小さな綿毛のような生物。

 ルースの姿を見て、人間と判断してすぐにその生物は気絶した。

「…‥なんだこれ?」

 ぐるぐると、気絶しているのが目に見て分かるように目が回っており、触角はぐったりと垂れ下がっていた。


「こんな生き物見たことが無いわね‥‥‥毛虫かしら?」
「帝国でも見たことが無いし、何だこいつは?」

 エルゼとレリアが背後から覗き込み、気絶したその生物を見て感想を漏らす。

「誰かのカツラが意志を持った生命体の一部とか?」
「スアーン、それは流石にないだろう」
「こんな手に乗る綿毛サイズのがカツラの一部とはありえないわね」
「そもそも、そんな生き物はいないだろう?」
「なんか全員に思いっきり否定されたんだが!?」


 とにもかくにも、このまま放っておくわけにはいかないだろう。

「とりあえず、一旦何かに入れて保護して、分かる人に聞きに行くか。人間に対しておびえていたようだし、魔族の誰かのところへもっていったほうが良いのかもしれないな」
「そうしたほうが良いのだろうけども‥‥‥宛はあるの?」
「あるだろ。ほら、あの…‥‥」









「‥‥‥というわけで、エルモア先生の家にお邪魔させていただきました」
【なるほど、そんなわけでここに来たんじゃのぅ】
「興味があるし、見せてほしいな」

 そんなわけで現在、ルースたちは都市内のエルモア先生の家に訪れていた。

 タキも同居している家でもあり、この家の住人であるエルモアは魔族。

 そう怯えられることもないだろうし、こういう不明なことに関しての知識がありそうだ思って、尋ねに来たのだ。

「これがその綿毛のような生物です」

 ちょうどあの倉庫内にあった瓶を拝借させてもらい、その中に未だに気絶している綿毛の生物を言えr田状態で、ルースはエルモアに見せた。


「これがその生物か‥‥‥ふむ…‥‥んん?」

 興味深そうにエルモアは見ていたが、急に眉を寄せた。

「‥‥‥なぁ、君たち。これをどこで見つけたといった?」
「どこでって…‥」
「路地裏の奥の方にあった廃店よね」
「そこの倉庫の中にあったな」
「誰かが泥棒に入ったようで、入り口が壊れていたけどな」

 エルモアの質問に対して、ルースたちは答える。

「それならこの都市内にいたのか‥‥‥いやしかし、こいつがこんなところに生息しているはずはないのだが…‥」


 ぶつぶつと考えこむかのようにつぶやくエルモア。

 その表情は真剣そのものであり、なにやらものすごく厄介な予感しかルースたちはしなかった。

「えっと、エルモア先生にはそれが何なのか分かるのでしょうか?」
「ん?ああ、わかったぞ。こいつは『妖精の繭』と呼ばれる生き物だ」
「妖精の繭?」

―――――――
『妖精の繭』
ちょうどモンスターと魔族の中間に位置する生物。
妖精の繭となる前の「妖精の卵」、「妖精の幼虫」時代はモンスターの特徴である魔石が体内にあるのだが、繭の時期を終えて羽化し、「妖精」となると魔石が消失しており、魔族に分類される。
その魔石が繭の状態のどのタイミングで消失するのかは不明であり、未だに謎が多い。
全身の保護のために衝撃吸収の機能を備えた綿毛が生え、移動やコミュニケーション能力として利用する触角を生やしている。
なお、この繭の時期の色によって、将来どのような妖精になるのか見当が付けられる。

『妖精』
魔族でもあり、小人族とよばれる魔族よりもさらに小さな体躯である一族。
自然を愛し、精霊と呼ばれる存在とも仲が良く、頭から触覚と背中に美しい翅があるのが特徴的。
翅の色は個体差があり、美しいものほど全体的な能力が高い。
また、魔族にしてはモンスターとなっていた幼虫時代の特徴故か、成長に伴って進化も確認されており、小さな手乗りサイズの身体から、人間サイズになるものも記録されている。
ただし…‥‥

―――――――

「…‥妖精は本来、この都市内には存在しないはずだな」
「どういうことですか?」
「その成長した姿にある美しい翅。それを求めて、過去に人間たちによって乱獲が起きたことがあるな」


‥‥‥妖精は成長し、小さな人型となる。

 その時の背中には美しい翅が生えており、昔その翅を装飾品目的で利用しようとして乱獲が起きたことがあったらしい。

 ちなみに、魔族ではなく人間の方であったことなのだとか。


【なるほどのぅ‥‥‥そういえば、そんな話は200年ほど前に聞いたことがあるのじゃ。なんでも、妖精たちから翅をむしり取り、加工して装飾する品にする一方で、残された身体は変態的な好事家たちに買い取られ、本来であれば数百年は軽く生きるはずの者たちなのに、短い生涯を終えさせたと言う話じゃったな…‥】


 幸いにしてその後、乱獲のひどさに魔族からだけではなく、人間からも保護を求める声が出て、妖精の翅目的の乱獲や虐待は禁じられ、何とか絶滅は免れたらしい。


 けれども、その時を機に人間は恐怖の存在であると妖精たちは心に刻んでしまい、人間の前に現れることはなくなったのだとか。

「とはいえ、流石に人間全部がそういうわけではないと彼らは知っているがゆえに、時たま心優しき者たちに出会えば、それ相応のおもてなしをしたりして、何とか人間との関係を修復しようとしているそうだな。だがしかし、今でも人間をどこかで恐れ、関わらないようにしている者たちもいるのだとか‥‥‥」
「それが、この繭の子という事ですか…‥」

 いまだに気絶から目が覚めないその繭をみて、ルースたちの空気は重くなった。



「それでだ、先ほど事情も聞いたが‥‥‥この妖精の繭はその路地裏の方にある倉庫内で見つけたといったな?」

 その空気を無視して続けるかのように、エルモアはルースたちに質問してきた。

「そうですが…‥何か問題があるのでしょうか?」
「大ありだな。本来、妖精は群れで行動し、単独で訪れに来るなんてことはほとんどない。しかも、この子は繭‥‥‥この状態の者は群れの者たちで管理し、無事に羽化できるように補助する。つまり、今単独行動をするような真似はさせないんだよ」


 それなのに、倉庫の中に一人でいたという事はどういうことなのだろうか?いや一匹?

 群れの仲間が他にいれば分かるのだが、その時目にしたのはこの繭だけである。

「そういえばこいつの声しか聞こえなかったし、仲間がいるとも思わなかったな…‥」
「ん?声って…‥この妖精の繭の子の声が聞こえたのたのかな?」

 ルースのつぶやきを聞き、ふとエルモアは尋ねた。

「あ、はい。頭の中に響くような声で、どうも俺にしか聞こえていなかったようですが…‥」
「‥‥‥なるほど、これはまた厄介な」

 そのルースの返答を聞き、エルモアはなにやら難しい顔をした。

【厄介って…‥何があるのじゃ?】

 その顔を見て、タキが質問する。

「妖精の繭はあの触角を使って他者とコミュニケーションをする。その時、どうやら一種の感応波…‥いわばテレパシーと呼ばれる類のを発して、周囲の生物の頭に響かせるかな。だがしかし、それはあくまで繭時代での他の妖精たちにしか聞こえないようにしかなっておらず、本当は人間には、いや、魔族にすらも聞こえないようなものなのだな」
「でも、俺に聞こえたという事は…‥」
「テレパシーの受信する相手がずれた、もしくはその部分にこの繭は障害を持ってしまったのかもしれないな」
「障害って‥‥‥まさか」
「ああ、おそらくこの子は繭になってから、仲間とのコミュニケーションが取れなくなってしまった可能性がある。その結果、仲間からはじき出されてさまよい、ここにたどり着いてしまったのだろうな」

 神妙な顔で答えるエルモア。

「ん?でもそれで何か問題があるのだろうか?」

 そこに空気を読まない疑問をスアーンがいれてきた。

「問題大ありだな。‥‥‥スアーンの今学期の成績から5点ほど引いておくとしてだ、妖精は先ほど言った通り、羽化後のその翅は美しい。今は禁止されてはいるが、何処の種族にもよからぬことを企む輩はいるな。つまり、この繭はこのままだと人知れずに‥‥‥」

 エルモアのその言葉に、その場にいた全員は察した。

 そして、まだ長く気絶している繭を見て、このまま放っておいたらどうなるのか、未来が容易に想像ができ、放置できない問題になってしまったのだと、心から理解したのであった…‥‥
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