上 下
64 / 339
学園1年目

58話

しおりを挟む
 秋の収穫祭も、そろそろ終盤の時期に入った。

 都市内での秋の収穫祭が終了した後は、別の都市にてまた秋の収穫祭が開催される。

 あちこちで終わっては始まり、始まっては終わりと繰り返すことによって、全ての都市を巡ってもらい、物資の流通をさせるというのも目的にあるらしい。


 そのせいか、終盤のこの時期になると、この都市での収穫祭で遊び納めだというかのように、通常時以上の大勢の人々であふれかえっていた。

 

 その分、警備もより強化されていき、スリとかも多発するのでより一層検挙率が上がるのであった。



「あーーーーーースリが出たぁぁぁぁぁ!!」
「げひゃはははは!!大量大量だぜぇぇぇぇぇげひゃはははh、

ゴッツ!!
「ぐぼぶべも!?」


 …‥‥明らかにものすごい雑魚臭を漂わせるスリの男が、今、逃亡のために走って目の前を通過しようとしたところで、レリアがタイミングよく魔導書魔導書グリモワールを顕現させ、その硬い背の部分を振り下ろして、男の急所へ重い一撃を入れた。


 うん、それ魔導書魔導書グリモワールの使い方と違うからね?それ普通の辞書でも代用できる方法だろうけど、‥‥‥すっごい痛そう。

 以前も確か投げられたことがあったけど、魔法攻撃じゃなくて物理攻撃に昇華させているよこれ。


 そして、急所に直撃されたスリの方は、悶絶し、痙攣していた。

 犯罪をした人とはいえ、男としては同情を禁じえない‥‥‥

「ぐふっつ、ぐひゅ・・・・・こんなナイスバディなねーちゃんにやられるのは本望だ・・・・」
「気持ち悪い!」

ドシュッツ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!?」


 前言撤回。レリアの言う通りただの気持ち悪い人で、まったく同情の余地はなかった。

 しかし、トドメに思いっきり踏みつけるのはどうなのだろうか?

「ここは普通、顔面に蹴りを入れない?」
「いや、こういう輩は面が厚いと聞くからな。効果的なのは急所かと思ったんだが」
「うーん、護身術とかでは有効な方法だけど、全部が男性とでもいうわけでも無いし、こういう時は右足のすねを狙うのが良いらしいわよ?」

「思いっきり手加減なしの物騒な会話をしているな!?」

 
 本日、ようやく親戚の屋台から解放され、終盤という事でルースたちと回ることにし、この中で唯一の常識人かもしれないスアーンのツッコミが入るのであった。


 最近、ツッコミからボケにシフトしてきたようだとルースは自覚してはいるが、こっちの方が楽である。





「にしても、衛兵たちに連行されていったが‥‥‥あのスリはたぶん、軽く説教されて終わるだろうな」
「次に犯罪を起こしたら『何をとは言わないが、尊厳を無くさせ、あるべきものとしてのそれを消し飛ばす』って、レリアが言って顔を青白くさせていたし、二度目はないわね」
「あのぐらいで改心するのならばいいのだが、そう言っても全くしないような貴族とかが帝国にいたりしたからな‥‥‥‥こういう時には、お父様、つまり皇帝陛下がにっこりと笑みを浮かべてその相手の持つ弱みや不正の証拠を手に持って、最終通告を手渡すぐらいの迫力が欲しいものだな」
「今ので十分男としては恐怖を感じると思うが…‥‥いや本当に、あれは死しか感じさせないものだった」

 適当に出店を巡りながら、ルースたちは会話を楽しむ。



―――――ス


「ん?」

 ふと、ルースは何かの声が聞肥えたような気がして、立ち止まった。

 何かこう、小さくて頭に響くかのような、そんな声である。

「どうしたのよルース君?」

 そのルースの様子に、エルゼがすぐに気が付いた。

「いや、今何か声が聞こえたような気がしてさ‥‥‥こっちか?」
「あ、ちょっと待ってよ!」


 別に何かが聞こえたからって、どうすることもない。

 だがしかし、どこか放っては置けないような気がしたので、ルースはその声が聞こえた方向へ向けて歩き出した。

 その後をエルゼたちが追い、ルースたちは祭りので店がある大通りから、小さな路地へと入っていく。


――――――タ


――――――ダレカ


 その声が聞こえた場所へ向かうにつれ、徐々にその内容がはっきりと頭に響いてくる。



 そして、その声の先にあったのは、なにやら古びた小さな店であった。


「ここか?」
「すごいボロボロというか…‥‥ああ、壊れていますわね」


 見てみれば、どうやらすでに廃業となっていたようだが、店の倉庫と思われる扉が乱暴に破壊されていて、その様子からおそらくこの収穫祭の中に混じって、誰かが盗みに入ったようであった。


「ここから聞こえるけど‥‥‥入ったらだめかな?」
「だめかもしれませんけど‥‥‥盗品にあっているようですし、たいしたものがないでしょうからいいかもしれませんわね」


 これが前世の世界であれば、不法侵入であろう。


 まぁ、特に誰も来ることが無いような場所のようだし、こっそり入っても大丈夫そうなのでルースたちはその中に入った。



「うわっぷ、すごいほこりまみれだな」
「あまり掃除されていませんけど‥‥‥まぁ、誰も来なくなった場所なら当たり前ね」
「お?賞味期限切れの缶詰が山のように詰め込まれているな。しかも、全部まずいと評判の‥‥‥」
「そりゃ、そんな人気のないものを大量に購入していたなら潰れるよな」

 どうやらこの倉庫を利用していた店の人は、商才が悲しいほど無かったようである。

 人気のない商品や、保存食などがあり、どうやら完全に不良在庫の山と化しているようであった。



――――――ココカラ、ダレカダシテ!!

「っ!?」

 はっきりと聞こえたその言葉に、ルースはその声の方向を見る。

 見れば、ひっくり返った箱があり、そこに声の主がいるようである。




 恐る恐るその箱を取り除くと、そこには蓋があいたようで中身がぶちまけられた缶詰がひっくり返っていた。

 さらにその缶詰をどかすと‥‥‥



「これは…‥?」

 そこには、なにやら小さな綿毛のような生物がいた。

 全身がほこりなどの汚れによって黒ずんではいるが、小さな黒い目と、なにやら触角のようなものを2本ほど生やしている。

 缶詰が無くなったのかが分かると、嬉しそうにピコピコと動かし、どこか可愛げがあった。

―――――ヤッター!助ケガキ…‥‥人間!?


 なにやら嬉しそうにルースの方を見て、少し固まったのちにそう叫び声が響いた。

 気絶したようで、ころっと転がり、そのまま本当の綿毛のようにしか見えなくなった。


‥‥‥なんだこの生物?
しおりを挟む

処理中です...