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学園1年目

閑話 事後処理の話し合い

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‥‥‥ディゾルブゴーレムの襲撃後、国際問題となりかねない事態という事もあり、レリアはその状況説明などを行うために、バルション学園長同伴の下、グレイモ王国の王城へ訪れていた。

 国王ハイドラとの対談でもあるのだが…‥‥




「…‥ああ、疲れた。やはりこういう政治的な面は私は向いていないな」
「ぐったーりしているようだけど、精神的に大丈夫かーい?」

 対談終了後、帰りの馬車の中で脱力しているレリアに、バルション学園長は飲み物を渡しながらそう尋ねた。

「あまり大丈夫ではないな。まぁ、私はどうせ第2王女だし、軍事に関われど、政治には介入しない方針だし問題はないか」


 ぐびぐびと渡された飲み物を飲み、レリアはそう答える。

 帝国内での彼女の立場は第2王女。

 帝位継承権はあるのだが、政治的には興味がなく、帝国を守り、そして己が強くなるためにという事ぐらいしか、彼女は興味がなかった。

 その為、今回のような他国の王との対談は精神的に疲れるのである。


「とはいえ、今回の件は我が帝国の潰し損ねた問題児どもが起こし、そこにフェイカーとかいう組織が介入したものであり、むしろしっかりとこのグレイモ王国と連携をとっていかなければなるのと痛感させられたな」
「問題児は良いとしーて、そーのフェイカーが一番の大問題だもんねー」


 この会談にて、反魔導書グリモワール組織『フェイカー』は帝国側の方でも完全に危険な組織として認識及び、王国と協力して排除に取り組むことを合意。

 念のため、帝国側にその旨を伝えつつ、後日改めて使者が来て細かい取り組みを決めることになったのだ。

「私も力は求めるとはいえ、あのような化け物に変身する薬などを開発するような組織には何も求めたくはない。いや、むしろ勝手に自滅するように求めはするかな」


 レリアの脳裏に浮かんだのは、怪しげな薬品で異形の怪物と化したあの二人組。

 帝国に恨みを持っているやつらだったが、怪しげな組織にそそのかされて、そのまま人体実験に利用されたように見えるのは嫌なものであった。

「けれーども、この件で王国側もより一層気を付けなけーれないけなくなったね。帝国に恨みーを持つ組織同様、王国に恨みを持つような組織もあるからねー」


 大抵どこの国でも、自分たちの方が明らかに悪いのに逆恨みをしたり、もしくはその領土や資源を狙うような輩はいる者である。

 そのような者たちを今後フェイカーがターゲットとして狙いを定めたら…‥‥相当厄介なことになるのは間違いないであろう。

 その為、フェイカーの危険性を国の方から徐々に発信していくことも、今回の会談で決まったのである。


‥‥‥一気にやらないのは、それなりの理由もあるそうだが。

「興味本位、好奇心、すぐに辞められるだろうなどの考えをもった人たちがやーらかす可能性はあるかーらね」
「そういう輩もどうにかしないといけないのに、なぜか出るからな‥‥‥」

 はぁっと溜息を吐くレリア。

 帝国の方でもいたりして、それでいて面倒事しか引き起こさないので、その始末に困るのである。


「それに比べて、まともに思考できているルースとかは、いや比べるのも失礼なくらい欲しい人材でもあるよな」

 そこでふとレリアが思い出したのは、今回の功績者でもあるルースの事である。


 拘束されていたところを助けてくれたり、魔法を組み合わせて脱出方法を考えたり、召喚魔法で呼びだしたモンスターの背に乗って攻撃を回避したり…‥‥

「挙句の果てには、あの巨大化した相手を消し去ったりもしたが…‥‥どれだけ彼は規格外なんだろうか?」

 あの巨大化した異形の怪物‥‥‥ディゾルブゴーレムに対して、攻撃がきた瞬間もうだめだとレリアは思っていた。

 だがしかし、その状況を覆し、なにやら魔法を唱えて消し去ったルースの力には、目を見張るものがあったのだ。

 あと少々、その時のルースがカッコイイと・・・・・・

「‥‥って、私は何を考えているんだ!?」

 何か関係ない事を考えたような気がして、レリアは頭を振った。


「いやまぁ、確かに金色の魔導書グリモワールとかいうものを所持し、知識もあったし、容姿もなかなか、強さも剣に関しては素人だろうけど魔法に関しては可能性があるし、優しかったりもするし‥‥‥なんか関係ないものが混じるのだが!?」

 心落ち着かせて、ゆっくりと考えようとしたらなぜかいろいろ混じってしまう。

 考えれば考えるだけ、何かこう、体が熱くなるというか、今まで感じた事のない気持ちというか‥‥‥



 ふと気が付けば、レリアの前でバルション学園長が何か面白いモノを見たかのようにニヤリと口角を上げていた。

「‥‥‥あーらあら?レリアさん、あーなたまるで恋する乙女のよーになっているわーよ」
「なっ!?こ、恋など私には必要ない!!戦姫と飛ばれるだけに、そんな甘ったるいものなど必要ないのだ!!」
「ふーん、そーれならいいけど‥‥‥よーくあるのは、助けーられてそれでコロッといくーのがあるかーらね。今回その状況だと思ったけーど、違うのかしらねー?」

 顔を真っ赤にして否定するレリアに対してニヤニヤと笑みを浮かべるバルション学園長。

 何やら面白そうな予感に、バルション学園長は密かによりスパイスを加えてやろうかと思い、レリアは何とかその心を鎮めようと馬車の中で瞑想し始めるのであった…‥‥‥





ちょうどその頃、病室では。

「はっ!?今何かものすごく嫌な予感が!?」
【‥‥‥そろそろ解放してくれないかのぅ。簀巻きって結構きついのじゃよ】
「その状態で元のあの大きな狐の姿になればいいんじゃないの?そしたらはじけ飛ばして逃げ出せるかもよ?」

 簀巻きになって押さえつけられているタキの上でエルゼが何かを感知したかのように叫び、その様子を見ながらルースはタキに脱出のアドバイスをしているのであった。

【とはいえ、この簀巻き厳重に内側にノリがべっとりついておって、迂闊にやろうものなら毛がまとめて抜かれる可能性もあるのじゃヨ‥‥‥】
「ふふふ、全身脱毛もしくは斑点脱毛女狐になれば面白いわよ」
「それを見越して ノリをあらかじめ仕掛けていたのか!?」

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