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学園1年目

閑話 村での・・・・

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…‥‥夏休みのある日、バルスト村の中央広場にて集まっている者たちがいた。

 彼らは皆、手に小さな紙を握しめ、司会役の者がその前に出てきた。


「皆、自身の賭けに勝ちたいかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「「「勝ちたぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」」」」」

「憐れむよりも、見て楽むべきかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「「「楽しむべきだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」

「よし!!ならば第何回はもはや忘れたが、ここに宣言しよう!!『ルースとエルゼがいつ結ばれるのか、その予測をするでShow!』の開催をな!!」
「「「「「いえぇぇぇぇっぇぇえい!!」」」」」


 司会の人物の掛け声に合わせて、集まっていた参加者たちは声を張り上げ、その開催を心から喜ぶのであった。







‥‥‥辺境の地と言っていいほどの田舎にあるバルスト村。

 別に貧しくもなく、そこそこ暮らしぶりとしては楽な方であり、領主である公爵家も善政をしいているので誰も文句はない。

 だがしかし、しいて言うなれば…‥‥娯楽と言う物が少ないのが残念なところであろう。

 そんな田舎の村で、今最も熱くなっていたのは、村人のカップリング予想をする賭け事であった。

 なお、毎年どのカップルを予想するかはランダムであり、開催する際にはその当人たちが村にいない時を狙うのである。

 今は夏休みであり、ルースもエルゼも村にいそうものなのだが、本日は二人とも森の奥の方へ向かったと聞き、急きょこの賭け事を開催することに決定したのであった。


「さてと、今回の話題に上がったルースとエルゼのペアだが、これは昔から議論されていたことだ」
「ああ、公爵様の娘にストーカーされているというのはもう有名な話だからな」
「愛情はあることはあるんだろうけど、どこか怖いところがあるんだよなぁ」
「一応、美少女だしうらやましいが‥‥‥その分、どこか言いようのない恐怖があるし、ルースの野郎をねたみ切れないんだよ」
「そうだよなぁ」

 うんうんと、その場にいた皆はうなずく。


 公爵家の娘に見初められているというのは、逆玉の輿のようなものであり、通常は喜ぶべきことであろうし、エルゼ自身の容姿も悪くはないので、通常はルースに対して嫉妬や怨嗟の目線を彼らは向けたかった。

 だがしかし、そう踏み切れなかったのは‥‥‥エルゼの本性を村の皆が本能的に感じたり、または偶然垣間見たりして、ルースを憐れんでしまったからであろう。



 何しろ幼少期からストーカーしており、近づく女性たちを陰から威嚇して、誰にもルースを近づけないようにと言う密かな執念はものすごい。

 この村人たちの中にも、ルースたち同様魔導書グリモワールを得た者たちがグリモワール学園に通ったりもしているが、その学園内での彼女の様子も村よりは抑えているとはいえ、その雰囲気は感じ取れるのである。

 そのせいで、ルースに近寄ろうとしてもエルゼの鉄壁の守護があるため、中々近寄りがたいのであった。


 というか、ルース自身の容姿は悪くないので、実は密かにモテる要素があったのだが…‥‥


「あの場で俺たちは見たんだよなぁ…‥」
「何を?」
「偶然にも、朝早く学園に向かおうとした時にな、本当は学園って男子寮と女子寮があって、互いに異性が入寮するには厳しい検査があったりするんだが‥‥‥‥」
「どうやってかいくぐったのかは知らないが、男子寮の廊下を彼女が歩き、こっそりまだ眠っているはずのルースの部屋に侵入していたりするのを見たんだよな」
「ああ、当の本人はぐっすり寝ているようで気が付いていないそうだが、たまに何かを持ってきたと思っていたら、こっそり部屋の中の物を、全く同じものと交換していたりしたんだよ」
「「「「「…‥‥こわっ!?」」」」」



「私たちなんて、とんでもない光景というかねぇ」
「ええ、あれは怖かったわね。この間、ルースさんが先生に頼まれて荷物を運んでいたのですが、重そうだったので手伝おうかと声をかけようとしたら、何かが肩を叩き、後ろを振り向いたら‥‥‥」

『ねぇ、ルース君に何をしようとしているのかなぁ?』

「そう、見る人が見れば綺麗な笑顔だったけど…‥‥瞳の奥は笑っていなかったわね」
「思わず硬直し、気が付けば彼の荷物を運ぶ彼女の姿があったのだけれども…‥‥一体いつ、50メートルほどの距離を一瞬で移動したのかしら?」
「「「「「怪談話並の怖さがあるなぁ!?」」」」」

 女子達のその話に、その場にいた者たちは震えあがった。


 カップリングを賭けるこの密かな集まりだが、本当は最初の方はのろけ話のようなもので始まるはずなのである。

 だがしかし、このルースとエルゼのカップリング話だと、どうしてもホラーから始まるのであった。


「‥‥‥気を取り直して、余興を終えて本番に入ろうか!」

 空気が重くなったので、司会の人物は話を切り替えさせた。

「さてと、まずは規定について振り返っておきましょうか。当カップル賭け事行事では、成立するまでに上限3ヶ月となっていることを覚えていますね?これは、成立までに2~3年かかった者たちがいたりして、正確にできないので、短期的に考えての上限設定でした。3カ月を超えたら、また別の機会に開催し、再びやるのですが‥‥‥‥今回のルース&エルゼのカップリングは連続で予想が外れていますよね」

「その通りだよなぁ」
「ルースの野郎も、なんやかんやで好かれているのは分かっているんだろうけど‥‥‥」
「相手に対して本能的な危機感を抱いていそうだしなぁ」
「じれったいけど、それは正解の道だからとやかく言えないのが歯がゆしい!」
「「「「「全くその通り!!」」」」」

「では、今度こそという期待を込めて、この二人のカップル成立を予想いたしまShow!上限3ヶ月だ!」
「1ヶ月に!!」
「いや俺は3週間ほどだと思う!!」
「3ヶ月ギリギリだ!!」


 賭け事をし、盛り上がる村人たち。

 この間のモンスター作物事件が収束した後でも、いつも通りの平常運転を送るのであった‥‥‥




「ぶぇっくしょい!!‥‥‥なんだろう、噂でもされているのかな?」

 一方その頃、森の奥地ではルースはタキを召喚し、その背中に乗ってモフモフしていた。

 流石に大きな九尾の狐のモンスターである彼女を、村の中で召喚するのは悪目立ちしそうだからという理由で避けたのである。


 そして、森の中で召喚することによってそのモフモフを堪能しているのであった。

「うーん、ルース君のくしゃみって噂じゃなくて、この女狐の毛によるものじゃない?今すぐ剃ってあげましょうか?」
【流石にそれはないと言いたいのじゃけど!?というか娘、お主その巨大なハサミをどこから出した!?】
「氷魔法よ。じゃ、理由が分かったならばまずは頸動脈から逝ってみる?」
【それ剃るのと違う!!完全に殺しに来ているじゃろうがぁぁぁぁぁ!!】

 タキのその心からの叫びは、森中に響き渡るのであった‥‥‥


――――――
作者です。
今回はちょっとふざけました。
次回から、新展開にいくかな?
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