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学園1年目
34話
しおりを挟む…‥‥夏休みも間近となり、グリモワール学園内では夏休みの予定として帰郷する生徒たちの話が出てきて、休みが待ち遠しいのは全員同じのようであった。
いかに宿題が大量に出るとはいえ、ずっと学園の寮生活をする生徒たちにとっては、故郷に帰りやすいこの時期は楽しみなのであろう。
そんな中、学園長室ではバルション学園長が難しい顔をしながら書類を見ていた。
「…‥‥またーか」
ふぅっと溜息を吐き、見なかったことにするバルション学園長。
内容はフェイカーや、何かしらの事件に関することではなく、知らない人からすればいい話である。
だがしかし、バルション学園長にとってはあまりいい話ではなく、見たくない話なのであった。
ズゥン!
「ん?」
ふと、なにか地面が揺れたような気がしてバルション学園長は身構えたが‥‥‥すぐに原因が判明した。
窓の外を見てみれば、召喚魔法の授業の時に使用するスペースの一角に大きな金色の毛並みが見えた。
「‥‥‥なーるほど、彼がまーたあのモンスターを召喚しーたのか」
タキ、とルースが名付けていたモンスターだとバルション学園長は理解する。
遠めだが、どうやら召喚した本人であるルースと、一応公爵令嬢であるエルゼに、あとはオマケがいるぐらいだとバルション学園長は見て取れた。
‥‥‥生徒全員を顔も含めて彼女は記憶しているのだが、やはり印象が今一つだとすぐに名前が出ないのである。
なにやら話し合い、交渉しているようだが、その様子を見てバルション学園長はルースの才能について考え始めた。
あのタキ、と彼が名付けたモンスターだが、記録によるとどうやらはるか東方の地にて国を亡ぼすほどの力を持ったモンスターのようである。
国を滅ぼせるだけの力を持ちながらも、ルースに召喚されたという事は、彼の潜在的な才能が大きいのだろうか。
それとも、そういった類のものを、ルースが惹きよせるのだろうか。
考えてみれば、前例のない金色の魔導書をルースは顕現させ、その能力は複合魔法と、あるとわかっているが未だに扱えない力を持つようで、未だに謎が多い。
「そーんなのがここーの生徒になーったのは、運命のい-たずらかしらね」
グレイモ王国内にいて、そこで叡智の儀式を受けたからこそ、彼はこのグリモワール学園にやって来た。
他国にも似たような教育機関があるのだが、もし仮に彼が他国で魔導書を顕現させ、そこの教育機関に通えば、直接出会う機会もなかったのかもしれない。
それに、この学園のある都市内で起きた液体襲撃事件‥‥‥それも、彼がいなかったら被害はもっと増えていた可能性があり、ここにいたからこそ被害を最小限に防げたのである。
でも、そんなルースにはこの先多くの厄介事が舞い込むであろうことを、バルション学園長は感じていた。
大きな力を持つ者ほど、なぜか多くの厄介ごとに巻き込まれる傾向にある。
いまだに未熟で、バルション学園長に勝利できてはいないが、将来的に大きく化けると、彼女は確信する。
けれども、今はまだ確実に弱く、もし反魔導書組織フェイカーの襲撃があった時には、彼一人では対応しきれない可能性がある。
そうならないように、改めてバルション学園長は生徒たちは守るべき存在だと認識し直し、どうすべきか、今度この国の国王辺りにでも相談しようかと決めるのであった。
…‥‥実は国王と旧知の仲であり、腹黒さで話が合うのは誰にも話せない秘密だったりもするが。
だからこそ、この国はいくら大きな騒動が起ころうとも、なんとか持ちこたえられてもいたりするのである。
…‥‥有言実行というか、考えたら即実行すべきかと考え、ルースはタキを召喚していた。
出てきたのは大きな九尾の狐の姿でだが、おそらく勘でエルゼが近くにいると感じたからその姿で来たのであろう。
【‥‥‥のぅ、召喚主殿。その娘をもうちょっと離れさせてくれぬか?すっごい睨んできて怖いのじゃが】
「いや、エルゼがどうしても無理と言ってな…‥」
「ふふふふふ、ルース君とあまり近くなると絶対にたぶらかしそうですもの」
「たぶらかすって‥‥‥」
タキの言葉に、ルースはあきらめの言葉を出し、エルゼはタキを冷たいまなざしで睨みながらルースに笑顔を向け、なんとなく事情を察しており、この空気に潰されそうなスアーンはそうつぶやいたのであった。
「ま、とにもかくにもだ。タキ、今度俺たちは夏休みになってな、村に帰省しようとしているんだ。でも、馬車とかが満員になるのが目に見えているし、早く帰りたいから、お前に乗って帰りたいのだが…‥良いか?」
【ん?そんなことなら容易い御用じゃよ。我の速さでならあっという間に到着するじゃろうしな】
ルースのお願いに、タキはすぐに快く了承してくれた。
【というか召喚主殿、別に良いのじゃが一ついいか?】
「なにかあるのか?」
【いや、帰省の時に召喚され、召喚主殿を我の背に乗せて走るのはまだわかるのじゃが‥‥‥そこの娘も一緒に乗せてほしくはないのじゃが】
「だめよ!!絶対二人っきりになったらルース君を女狐はたぶらかすもの!!」
【たぶらかさんぞ。というか、お主が我の背中に乗せたら絶対にどさくさに紛れて背中の毛をむしり取るのが目に見えているから嫌なんじゃよ!!】
「いやね、そんなことはしないわよ」
「じゃあエルゼ、何をするつもりだ?」
「水魔法で毛根部分まで完全に綺麗に抜いて、永遠の不毛地帯を作り上げるだけよ」
「【‥‥‥想像以上にエグイ事じゃん!!】」
「というか、使いようによっては相当な破壊力じゃないかそれ?」
ルースとタキは叫び、スアーンはその魔法の危険性に恐怖した。
‥‥‥おそらくだが、精神的に最強の魔法なのかもしれない。というか、そんな水魔法ってあるのか‥‥‥今度、水色の魔導書持ちを見かけたら警戒すべきだろうか?
とにもかくにも、何とか交渉し、ルースたちはこの夏、タキに乗って帰省することが決まったのであった。
「あ、そうだタキ。ついでにせっかく召喚したし、一つ実験させてくれないか?」
【何の実験じゃ?】
そこでふと、ルースはあることを思いつき、タキに協力を求めた。
後にその実験は成功し、ルースたちはある部分で楽をする方法を手に入れたのであったが、その方法は魔導書持ちで、なおかつ召喚魔法を扱うものたちに知れ渡り、流通系に大きな貢献をすることになる‥‥‥
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