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学園1年目

24話

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 エルモア先生に薬草学の担当が変わったとはいえ、授業はそのまま行われるようである。

 普通は新たな教師という事で、自己紹介や質問などのオリエンテーションの授業のようなものになるはずだと、ルースは思ったのだが‥‥‥‥



「授業は予定通り行うのが良いと、学んでいますので、今日は皆さんがこの日までに学習した部分の続きからやっていきましょう。私自身に質問等があるのであれば、学園長を通してほしいかな」


 エルモア先生のその言葉で、ちょっと気になって質問などをしようとしていた生徒たちは全員速攻で授業に集中することにした。


 バルション学園長を出して、質問を回避して授業を進めようとするとは…‥‥この先生、既にこの学園での学園長の影響力を把握しているようである。

 



 とはいえ、魔族の教師だからと言って物凄く変わった授業を行う事もなかった。

 前任の腰が逝った教師から、どの範囲までやっているのかをあらかじめ聞いていたらしく、きちんとその続きから行ってくれたからである。

 しかも、黒板の字は綺麗で見やすいようにく付されており、内容を分かりやすく、それでいて詳しく解説してくれる。理解が進みやすく、中々いい先生だ。

…‥‥でも、少々めんどくさい部分があるのか、黒板に書かれるイラストだけは、難解であった。


「エルゼ、あれって葉っぱの部分かな?」
「うーん、なんか茎にも見えるわね」
「いやいやいや、根っこじゃないかな?」

「ああ、これはポムミという薬草のイラストかな。この部分に小さなトゲがたくさん生えていて、採取する際には素手だと危険だという事かな」


(((((トゲ?))))))

 見た目のイラスト的には、物凄いうねうねした触手のような物が生えているようにしか見えず、トゲトゲしい感じは全くしない。

 というか、教科書の方をよく見ればイラストがあったのだが、それとは天と地ほどの差がついている。
 
 本物は例えで言うなればイガグリのようなものなのだが…‥‥どこをどうしたらクラゲみたいになるんだろうか。


 木を書けばちくわと化し、抽出のための煮込む部分の炎は四角いし、その上に魔導書グリモワールを使うイラストでは魔導書グリモワールが湿布のようにペラペラに描かれていた。


‥‥‥あ、これめんどくさがって手抜きで書いているんじゃないや。本当に画力が残念過ぎるだけだ。



 授業のやり方や、説明の丁寧さなどは素晴らしいのに、その残念過ぎる画力が哀れで、授業終了時には皆涙を流していたのであった。

 うん、本当に良い先生なんだろうけど、画力が悲惨すぎる。三角を書いて、充血した目玉が描かれるってもうわざとじゃないかって言う位ひどすぎる。

「先生!!そのいかにもまがまがしい声を出しそうな呪われた顔のような絵は!?」
「ああ、これはマンドラゴラだ」

 資料だと、目に見える穴二つと、口に見える穴一つだけのシンプルな感じらしいのだが・・・・・

「先生!!そのいかにも人を飲み込みそうなほど大きな口は?」
「いや、採取する際に雨が降ったら傘を使ってその薬草が濡れないようにと言う事で、傘を描いたのだが・・・・・」

 本当に残念過ぎる画力である。泣けてくる。

 説明などはいい先生なのに、そのイラストで半減される悲しみが‥‥‥






 そんなエルモア先生の哀れな画力に関して皆が涙を流した後、召喚魔法の授業となった。

 今日はエルゼも一緒であり、彼女もようやく召喚魔法を扱えるようになったので、この教科を履修し始めたそうだ。

 ただし、スアーンはまだまだできないようであり、やるなら剣術の授業だろとそっちに集中するようであった。


「さーって!!今日は召喚魔法で何を学ぶでーしょうか!!」

 なぜかこの授業の担当しているバルション学園長のテンションを見ると、どことなく先ほどの悲しさが吹き飛ぶのはなぜだろうか。

 足が震え、知らず知らずのうちに後去りをして、逃げ腰になってしまうのはなぜだろうか。

「ルース君、それって条件反射なんじゃ‥‥‥」
「ああ、そう言う事か」

 学園長の訓練をビシバシ受けていたから、知らず知らずのうちになんとなく逃げようと体が反応しているようである。

トラウマとでもいうべきなのだろうけど‥‥‥これで訴えようとしたら、新たなトラウマが作られそうなのでッ我慢するしかなかった。



「今日はねー、皆に召喚魔法でどれだけ素早く召喚でーきるか、競ってもらうよー!」

 一度召喚したモンスターであれば、魔法陣を描かずに召喚可能なのだが、その召喚して姿を現すまでの速さを競うようである。

 ちなみに、召喚される側のモンスターにも都合と言う物があるので、召喚を拒否されることがあるのだが…‥‥

「召喚拒否の場合は、しかたがなーい・・・・・・というとでも思う?問答無用、理由は何であれ強制的に放課後に訓練を施すよー!」
「「「「「理不尽過ぎないか!?」」」」」

 受講している生徒、総ツッコミであった。




 流石に訓練を学園長から受けるのは嫌だと、全員鬼気迫る表情で次々に召喚魔法をやっていく。

 しかし、運命というのは残酷なもので、召喚拒否でモンスターが来ない生徒も出たりした。

「よっしゃぁあぁl!!よく来てくれたぞピヨ丸ーーー!!」
「ぎゃぁぁっ!!なんで来ないんだエテ太郎ーーーー!!」
「ふぅ、来てくれてありがとうモルニア」
「サーモンサモン男!!お前はなんで来ないんだぁぁぁぁ!!」

 歓喜と絶望が入り混じる声で、その場は一種のカオスな雰囲気になっていた。

 召喚で出てくれば喜び、出てこなければ絶望顔になってしまう。

 落差が激しくて、なんとも言えない気持ちにルースはなった。


「そもそも、俺の場合はほぼ確実にあるからなぁ‥‥‥」

 召喚できようができまいが、どちらにしてもバルション学園長による訓練は受けさせられるので、大した違いはない。


 とにもかくにも、先日召喚拒否されてはいたが…‥‥できれば召喚したい。

 モフモフ成分を補充して、ちょっとは癒されたいのである。


「『召喚タキ』!」

 召喚魔法を発動させると…‥‥今日は無事に成功した。

【‥‥‥げっ、またあの小娘がおる状況かのぅ】

 ルースのそばにいたエルゼを見て、タキの出てきて早々の一言がそれであった。

 同時に、エルゼがものすっごい睨みを聞かせていたけど…‥‥エルゼも一応公爵令嬢だよな?令嬢のイメージを見事に粉砕しているよ。

「ん?あれ、タキその背中に何かのせてないか?」

 ふと気が付くと、タキの背中に何やら大きな風呂敷包が乗っていたことにルースは気が付いた。

【ああ、そういえば召喚ついでに持ってきたのじゃが‥‥‥召喚主殿、本日より我は引っ越しを完了したゆえに、引っ越しそばなる物を作って来たのじゃよ】

 大きな九尾の狐の姿で、器用にタキは背中に乗せていた風呂敷包みを地面に卸して、その封を解いた。

‥‥‥というか、その獣の手でどうやってほどいたりしているんだろうか。

 あれか、某猫ロボが丸い手でいろいろできているのと同じようなものか。



 包みが開かれると、そこには山盛りのそばが合った。

 どうやらこの世界にも、引っ越しそばの分かはあるようだけど‥‥‥

「量が多すぎるだろ!!」

 どう見ても、30人前はありそうな量である。どうもついうっかりで、タキのその大きな狐の姿基準で作ってしまったようなのであった。

 仕方がないので、その場にいた全員におすそ分けをしたのであった‥‥‥‥もったいないし、それにみんなで食べたほうがおいしいに決まっているからね。


 ん?でも引っ越しをしたって言ったけど…‥‥どこにだ?


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