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学園1年目
21話
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【‥‥‥確か、この辺じゃったかな?】
グリモワール学園からはるか東に離れたある島国の森の中で、タキはある人物の下へ向かっていた。
いや、その目的の者は人ではない。彼女と同じモンスター…‥‥でもなく、魔族とよばれる種族であり、彼女の知り合いの中では、最も知識に長けた者であるのだ。
あの都市を襲った謎の液体と、その元凶が持っていたマジックアイテム。
それに彼女は何処かで聞いたような話だと思ったため、その確認のためにわざわざその者の元へ来訪したのであった。
【おーい、いるのかエルモアー?】
「‥‥‥おや、久し振りに誰かが来たと思ったらお前かいな」
その者の住みかである洞窟の前でタキが声をかけると、中から目的の者が出てきた。
つややかな黒い翼を背中に持ち、ルースが見れば昔の山伏とかそう言った類に似ていそうな服装をした女性。
彼女の名前はエルモア。背中に翼を持つ魔族の中でも、本来彼女の種族は群れを成して過ごすのだが、エルモアは群れることを嫌い、こうして山奥の洞窟で一人のんびりと過ごしているのである。
カラス天狗とか、黒鳥人などと呼ばれているらしいが、そんなことは知ったことではない。
モンスターであるタキにとっては、種族が何であろうと、知り合いは知り合いであると思うだけであり、人間や魔族が決める様な種族訳は気にしていないのであった。
「最近、こことは離れたどこぞやの誰かに召喚されるようになったと聞いたが…‥‥その召喚先でのお土産でも持ってきたのかいな?」
【いや、お土産は無いのじゃが…‥‥ちょっと気になるというか、嫌な話しがあっての、召喚主のためにもお主に聞きたいことがあるのじゃよ】
「ふむ…‥‥お前さんがそう言う事を言うのは大抵とんでもない面倒事であると決まっているな。まぁいいだろう、せっかく来たのだから中に入って話でも聞こうかいな。あ、小さくなっておけよ?」
タキの訪問に対して、エルモアはしばし考え、断ることもなく彼女を住みかに招き入れ、そこで話を聞いてくれるようであった。
ただ、今の住みかを壊されないように、タキには人の姿に近い状態になってもらった。
中に入り、客間のような場所でタキはエルモアに、召喚先であった事件を話した。
【‥‥‥というわけでじゃ、その不気味なマジックアイテムなどに嫌なものを感じ、こちらでも調べてみようかと思って、お主に聞きに来たわけじゃよ】
「人を切り裂く液体に、どの色でもない魔導書のまがい物のようなマジックアイテムか…‥‥」
話を聞き終え、エルモアは考え、その答えを導き出した。
「大体わかった。現物を見ていないから断定はできないが、おそらくはあの組織の処分されていなかったものか、それとも生き残りの輩が創り出したマジックアイテムで間違いないな」
【あの組織?】
「まぁ、お前さんは人の世に少々疎い…‥‥そのうえ、人間や魔族以上の寿命を持つがゆえにあまり時間に関してよく考えておらんだろう?20年前のとある組織が引き起こした事件と言っても、知らないのは不思議ではないな」
【20年前‥‥‥うむ、確かにお主の言う通り全く知らん!】
「‥‥‥そこは堂々と言っていいのかいな?」
あまりにも堂々としたタキの態度に、エルモアはずるっとずっこけた。
「まぁ、良いかな。お前さんが知らないのは予想できていたが、ならば話しておこう。その組織とはな…‥‥」
「‥‥‥反魔導書組織『フェイカー』ですか?」
「そうそーう。そういう組織が20年ほど前に猛威を振るったんだよねー」
グリモワール学園の学園長室にて、あの惨殺謎液体事件から数日たった今日、ルースとエルゼは学園長に呼び出され、その話を聞かされていた。
「今回のこの事件、犯人が使用していたマジックアイテムがどうもその組織が使っていた、いや作っていたマジックアイテムと類似しているんだよねー」
都市内を襲った事件に対して、犯人の逮捕に一役買ったルースたちであったが、その情報は一部厳しい緘口令が敷かれており、何か隠されているのだとルースたちは思った。
そんな矢先に、バルション学園長に呼び出されてのその組織の話であった。
「そーもそもその組織の話をすーる前に言う話として、ルース君たちって、魔導書を持った者たちが将来どのような職業に就くのか知っているかーい?」
「へ?授業とかでやっていましたけど…‥‥」
「確か、色々ありましたわよね」
魔導書は「叡智の儀式」によって得ることが可能なものである。
様々な力を人に与え、その能力は7色…‥‥ルースの持つ金色を除いては、それだけのものが確認されている。
炎だったり、水だったり、大地だったり…‥‥便利と言えば便利なものが多い。
例えば、赤色の魔導書を持ったものは炎に関するような力を手に入れ、料理人とかになった時に火力の調節が容易くなったり、鍛冶や溶接業でも自らの魔法で作業が可能である。
水色の魔導書であれば、水や氷に関するような力を手に入れるので、干ばつになりそうな畑に水をまいたりして水不足を解消したり、凍らせることで川の上に橋をかけることが可能だったりする。
様々な使い道があり、その分職業もさまざまなものに就くことが可能である。
とはいえ、魔導書を手に入れられなかった者たちもいるのだが、差別をせずに平等に接して、仕事を分担したりして、衝突を避けているのである。
だがしかし、それでも魔導書持ちに対して、持つことが叶わなかった者たちにはどこか思うところが出来たりするだろう。
それに、鍛錬によって能力の向上もできるのだが、才能によっての差もあるがゆえに、そこに卑屈さを感じる様な者たちが生まれてもおかしくはないのだ。
「‥‥‥そして、持っていないから何もできない、持っているから自分達より偉いなどと考える様な者たちが出来たりして、過去には大きな争いもあったんだよね」
伸ばす口調ではなく、真面目な口調になったバルション学園長。
魔導書の所持の有無で格差をつけようとする者や、恨みを持つ者などそう言った人が出来たり消されたりして、過去にはさまざまな問題が多くあったようである。
とはいえ、今ではマジックアイテムという魔導書ではない生活用品にもなっている物が出来たりして、問題は解決されている。
だがしかし、それで納得が出来なかったり、兵器転用するような輩が出てしまったのだ。
「便利な道具でも、使う人によっては生活に役立ちもして、そして兵器としても扱われる‥‥‥。例として挙げるならば、火薬があるかな?」
花火のような、人々を楽しませるような面もあり、そして傷つけるような大砲の発射用の者としての面もあるものである。
その火薬のように、人はある物を生活に役に立てる一方で、人を害するような物を作ることもできてしまう。
そして、マジックアイテムもまたその物の例として出されてしまい・・・・・・・
「魔導書の代わりとして生みだされ、そしてそれを利用して国に戦争を仕掛けようとしたのが、反魔導書組織『フェイカー』だよ」
魔導書の代用品となるマジックアイテムを生み出し、そしてその力を最大限引き出して、国家転覆や世界征服まで狙ったという大きな組織が、その当時に誕生したのである。
その誕生から年月が経ち、20年前…‥‥ある事件をその組織はやらかした。
「それが、先ほど言った20年前に起きた事件、『混沌の魔導書暴走事件』だ‥‥‥」
‥‥‥20年前、魔導書の代わりになるマジックアイテムをとして、その組織は『混沌の魔導書』というものを創り出した。
従来の魔導書とは違い、そのマジックアイテムにある色はどの色にも当てはまらない不気味な色となり、確かに大きな力を人に与えることはできたのである。
だがしかし、そのマジックアイテムには重大な欠陥があった。
なんと、使用するたびに力を増すそうだが、その分、持ち主となっていた人々の生命力や精神を蝕むのである。
とはいえ、そのマジックアイテムで受けられる力に目がくらんだ組織の上層部はその情報を伏せて、危険性を隠していたのだ。
そして、ある時偶然にもその書式に所属していた者がそのマジックアイテムを扱おうとして‥‥‥‥暴走を引き起こしたのである。
しかも、一人だけが起こしたのではなく、連鎖的に。
当時、そのマジックアイテムを利用した者は組織内に多くいて、それぞれ違う場所に点在して離れていた。
けれども、その暴走は一旦始まるとどれだけ離れていても、同じマジックアイテムの持ち主に暴走をさせて、あちこちで甚大な被害が出たのである。
「‥‥‥結局、その暴走は持ち主の命が犠牲になったことで収まったんだけど、それでも世界中でその組織でそのマジックアイテムを持っていた者たちによって、各地で甚大な被害が出たんだよね」
それ故に、その組織の危険性をようやく知った者たちが調べ上げ、潰したのであった。
「魔導書を持たない人でも、同等の、いやそれ以上に力を持つことが出来るかもしれないと、思った人たちがいたのでそう踏み込むことが出来なかった。けれども、一度その事件が起きてふたを開けてみれば‥‥‥‥」
代償もなしに、魔導書と近いマジックアイテムを生み出せるか?
その答えは否と決定づけるかのように、様々な事が調査によって出てきたのであった。
人体実験や、マジックアイテムを作る際に人そのものが材料として利用されていたりなどと、物凄くブラックすぎるようなことがもう、叩けば叩くほど出たのである。
「あまりの倫理観を外れたことや、危険性からそれらの関係も消し去って、後世に残さないようにされていたはずで、そのマジックアイテムも全部廃棄されたはずだったんだよね‥‥‥‥けれども、今回の事件でそのマジックアイテムと思われるものを犯人は使用していた。それがどういう事かわかるね?」
「処分されなかった物を偶然手に入れたか…‥‥」
「‥‥‥それとも、その組織の生き残りが再び動き出して、あの犯人で実験していたかもしれないという事ね」
「そういうこと」
…‥‥どう考えてもやばそうな組織が絡んで居そうなのには間違いない。
「今、その組織の可能性を公表したら、よく考えずに組織に入るようなものが出る可能性がある。良くも悪くも、ルース君たちぐらいの年頃だと活発で、感化されやすいからね」
要は、深く考えない者たちがいる可能性もあるので、迂闊に組織の話もできないのが現状だそうだ。
「で、何でそれで俺達にわざわざそのような話しを?」
「そんな危なさそうな話しならば、聞きたくもなかったんだけど」
「…‥‥それはね、ぶっちゃけ言って君たちの安全のためなんだよ」
「というと?」
「‥‥‥今回の事件、その組織が絡んでいるのだとすれば、妨害した君たちの情報がすぐにでも伝わった可能性がある。妨害可能な実力を持つ者を、邪魔されたくないその組織が放っておくと思うかい?」
バルション学園長の問いかけに、ルースとエルゼは気が付かされる。
もし、自分たちがその組織の立場であったなら‥‥‥将来的に邪魔になりそうなものは、はやいうちに消し去っておきたいからだ。
「組織の話をあえーてすることで、君たちに普段から警戒をして欲しーのがあるんだよ。まぁ、こちらからもできるだーけ手を尽くすからね」
‥‥‥話が終わり、ルースとエルゼは周囲の警戒を始めた。
どうやらこの先、前途多難な人生というか、その組織とやらに目をつけられて、心をそうやすやすと休めそうにないのであった。
ちょうどその頃、タキはエルモアから組織の事を聞き終えていた。
【‥‥‥なるほどのぅ、となれば召喚主殿たちが普段の生活でも危うくなる可能性があるという事か】
「そうとも言えるかもな。何しろその組織フェイカーとやらは人間以外にも魔族とかも狙ったりしていたし、ターゲットに種族は問わずだったから、お前さんの主も狙われてもおかしくはないな」
そう告げるエルモアの言葉に、タキは考え込む。
タキとしては‥‥‥‥召喚主たちが狙われて、命を落とされるのは嫌だった。
あの恐怖の女は除くとして、親しき相手が亡くなってしまうのは避けたいのである。
【とはいえ、今の我はこの地に住んでおるわけで、召喚された時にしか向かえぬしなぁ…‥‥】
「だったらいっその事、その召喚主に召喚される前に、自分からその場所へ住処を変えればいい話じゃないか?」
【‥‥‥それじゃ!!】
エルモアのその言葉に、全く気が付かなかった自分が恥ずかしくも思えたが、タキは目からうろこが落ちたような気がした。
【召喚前に、召喚主の近くへ行って直接守ればいいのじゃ!!ありがとうエルモアよ!!】
思いつき、実行が可能であるならば善は急げ。
タキはエルモアに礼を言い、急いで荷物をまとめるために己の住みかへと全速力で駆け抜けるのであった。
タキが駆け抜けて去っていくその後ろ姿を、エルモアは見ていた。
そして彼女は思った。
「あのモンスターがこうも人のために動くとはね‥‥‥」
大昔、かつては国を滅ぼし、人間の醜さを見たことがあるタキ。
けれども、それでも今のように召喚される立場となっても人間を毛嫌いし切らず、召喚主に対してああやって気遣いが出来ているのは、一体どのようなメンタルをしているのだろうか。
そのメンタルも疑問にエルモアは思ったが、もう一つ気になる話としては…‥‥黄金の魔導書。
タキの召喚主が所有している者だそうだが、それなりに博識なエルモアでも聞いたことが無い話である。
「‥‥‥一度、出向いてみるか?」
知識欲が豊富なエルモアは興味を持ち、しばし考えこむのであった‥‥‥
「‥‥‥ん?今何か嫌な予感がしたような?」
「どうしたエルゼ?」
「いや、なんかこう一気に面倒事というか、バリカンか鳥ガラからだしをとるために大きな鍋を用意しなければいけないような予感がしたのよね‥‥‥」
「なんだその具体的な様な、今一つわからないような予感は‥‥‥」
グリモワール学園からはるか東に離れたある島国の森の中で、タキはある人物の下へ向かっていた。
いや、その目的の者は人ではない。彼女と同じモンスター…‥‥でもなく、魔族とよばれる種族であり、彼女の知り合いの中では、最も知識に長けた者であるのだ。
あの都市を襲った謎の液体と、その元凶が持っていたマジックアイテム。
それに彼女は何処かで聞いたような話だと思ったため、その確認のためにわざわざその者の元へ来訪したのであった。
【おーい、いるのかエルモアー?】
「‥‥‥おや、久し振りに誰かが来たと思ったらお前かいな」
その者の住みかである洞窟の前でタキが声をかけると、中から目的の者が出てきた。
つややかな黒い翼を背中に持ち、ルースが見れば昔の山伏とかそう言った類に似ていそうな服装をした女性。
彼女の名前はエルモア。背中に翼を持つ魔族の中でも、本来彼女の種族は群れを成して過ごすのだが、エルモアは群れることを嫌い、こうして山奥の洞窟で一人のんびりと過ごしているのである。
カラス天狗とか、黒鳥人などと呼ばれているらしいが、そんなことは知ったことではない。
モンスターであるタキにとっては、種族が何であろうと、知り合いは知り合いであると思うだけであり、人間や魔族が決める様な種族訳は気にしていないのであった。
「最近、こことは離れたどこぞやの誰かに召喚されるようになったと聞いたが…‥‥その召喚先でのお土産でも持ってきたのかいな?」
【いや、お土産は無いのじゃが…‥‥ちょっと気になるというか、嫌な話しがあっての、召喚主のためにもお主に聞きたいことがあるのじゃよ】
「ふむ…‥‥お前さんがそう言う事を言うのは大抵とんでもない面倒事であると決まっているな。まぁいいだろう、せっかく来たのだから中に入って話でも聞こうかいな。あ、小さくなっておけよ?」
タキの訪問に対して、エルモアはしばし考え、断ることもなく彼女を住みかに招き入れ、そこで話を聞いてくれるようであった。
ただ、今の住みかを壊されないように、タキには人の姿に近い状態になってもらった。
中に入り、客間のような場所でタキはエルモアに、召喚先であった事件を話した。
【‥‥‥というわけでじゃ、その不気味なマジックアイテムなどに嫌なものを感じ、こちらでも調べてみようかと思って、お主に聞きに来たわけじゃよ】
「人を切り裂く液体に、どの色でもない魔導書のまがい物のようなマジックアイテムか…‥‥」
話を聞き終え、エルモアは考え、その答えを導き出した。
「大体わかった。現物を見ていないから断定はできないが、おそらくはあの組織の処分されていなかったものか、それとも生き残りの輩が創り出したマジックアイテムで間違いないな」
【あの組織?】
「まぁ、お前さんは人の世に少々疎い…‥‥そのうえ、人間や魔族以上の寿命を持つがゆえにあまり時間に関してよく考えておらんだろう?20年前のとある組織が引き起こした事件と言っても、知らないのは不思議ではないな」
【20年前‥‥‥うむ、確かにお主の言う通り全く知らん!】
「‥‥‥そこは堂々と言っていいのかいな?」
あまりにも堂々としたタキの態度に、エルモアはずるっとずっこけた。
「まぁ、良いかな。お前さんが知らないのは予想できていたが、ならば話しておこう。その組織とはな…‥‥」
「‥‥‥反魔導書組織『フェイカー』ですか?」
「そうそーう。そういう組織が20年ほど前に猛威を振るったんだよねー」
グリモワール学園の学園長室にて、あの惨殺謎液体事件から数日たった今日、ルースとエルゼは学園長に呼び出され、その話を聞かされていた。
「今回のこの事件、犯人が使用していたマジックアイテムがどうもその組織が使っていた、いや作っていたマジックアイテムと類似しているんだよねー」
都市内を襲った事件に対して、犯人の逮捕に一役買ったルースたちであったが、その情報は一部厳しい緘口令が敷かれており、何か隠されているのだとルースたちは思った。
そんな矢先に、バルション学園長に呼び出されてのその組織の話であった。
「そーもそもその組織の話をすーる前に言う話として、ルース君たちって、魔導書を持った者たちが将来どのような職業に就くのか知っているかーい?」
「へ?授業とかでやっていましたけど…‥‥」
「確か、色々ありましたわよね」
魔導書は「叡智の儀式」によって得ることが可能なものである。
様々な力を人に与え、その能力は7色…‥‥ルースの持つ金色を除いては、それだけのものが確認されている。
炎だったり、水だったり、大地だったり…‥‥便利と言えば便利なものが多い。
例えば、赤色の魔導書を持ったものは炎に関するような力を手に入れ、料理人とかになった時に火力の調節が容易くなったり、鍛冶や溶接業でも自らの魔法で作業が可能である。
水色の魔導書であれば、水や氷に関するような力を手に入れるので、干ばつになりそうな畑に水をまいたりして水不足を解消したり、凍らせることで川の上に橋をかけることが可能だったりする。
様々な使い道があり、その分職業もさまざまなものに就くことが可能である。
とはいえ、魔導書を手に入れられなかった者たちもいるのだが、差別をせずに平等に接して、仕事を分担したりして、衝突を避けているのである。
だがしかし、それでも魔導書持ちに対して、持つことが叶わなかった者たちにはどこか思うところが出来たりするだろう。
それに、鍛錬によって能力の向上もできるのだが、才能によっての差もあるがゆえに、そこに卑屈さを感じる様な者たちが生まれてもおかしくはないのだ。
「‥‥‥そして、持っていないから何もできない、持っているから自分達より偉いなどと考える様な者たちが出来たりして、過去には大きな争いもあったんだよね」
伸ばす口調ではなく、真面目な口調になったバルション学園長。
魔導書の所持の有無で格差をつけようとする者や、恨みを持つ者などそう言った人が出来たり消されたりして、過去にはさまざまな問題が多くあったようである。
とはいえ、今ではマジックアイテムという魔導書ではない生活用品にもなっている物が出来たりして、問題は解決されている。
だがしかし、それで納得が出来なかったり、兵器転用するような輩が出てしまったのだ。
「便利な道具でも、使う人によっては生活に役立ちもして、そして兵器としても扱われる‥‥‥。例として挙げるならば、火薬があるかな?」
花火のような、人々を楽しませるような面もあり、そして傷つけるような大砲の発射用の者としての面もあるものである。
その火薬のように、人はある物を生活に役に立てる一方で、人を害するような物を作ることもできてしまう。
そして、マジックアイテムもまたその物の例として出されてしまい・・・・・・・
「魔導書の代わりとして生みだされ、そしてそれを利用して国に戦争を仕掛けようとしたのが、反魔導書組織『フェイカー』だよ」
魔導書の代用品となるマジックアイテムを生み出し、そしてその力を最大限引き出して、国家転覆や世界征服まで狙ったという大きな組織が、その当時に誕生したのである。
その誕生から年月が経ち、20年前…‥‥ある事件をその組織はやらかした。
「それが、先ほど言った20年前に起きた事件、『混沌の魔導書暴走事件』だ‥‥‥」
‥‥‥20年前、魔導書の代わりになるマジックアイテムをとして、その組織は『混沌の魔導書』というものを創り出した。
従来の魔導書とは違い、そのマジックアイテムにある色はどの色にも当てはまらない不気味な色となり、確かに大きな力を人に与えることはできたのである。
だがしかし、そのマジックアイテムには重大な欠陥があった。
なんと、使用するたびに力を増すそうだが、その分、持ち主となっていた人々の生命力や精神を蝕むのである。
とはいえ、そのマジックアイテムで受けられる力に目がくらんだ組織の上層部はその情報を伏せて、危険性を隠していたのだ。
そして、ある時偶然にもその書式に所属していた者がそのマジックアイテムを扱おうとして‥‥‥‥暴走を引き起こしたのである。
しかも、一人だけが起こしたのではなく、連鎖的に。
当時、そのマジックアイテムを利用した者は組織内に多くいて、それぞれ違う場所に点在して離れていた。
けれども、その暴走は一旦始まるとどれだけ離れていても、同じマジックアイテムの持ち主に暴走をさせて、あちこちで甚大な被害が出たのである。
「‥‥‥結局、その暴走は持ち主の命が犠牲になったことで収まったんだけど、それでも世界中でその組織でそのマジックアイテムを持っていた者たちによって、各地で甚大な被害が出たんだよね」
それ故に、その組織の危険性をようやく知った者たちが調べ上げ、潰したのであった。
「魔導書を持たない人でも、同等の、いやそれ以上に力を持つことが出来るかもしれないと、思った人たちがいたのでそう踏み込むことが出来なかった。けれども、一度その事件が起きてふたを開けてみれば‥‥‥‥」
代償もなしに、魔導書と近いマジックアイテムを生み出せるか?
その答えは否と決定づけるかのように、様々な事が調査によって出てきたのであった。
人体実験や、マジックアイテムを作る際に人そのものが材料として利用されていたりなどと、物凄くブラックすぎるようなことがもう、叩けば叩くほど出たのである。
「あまりの倫理観を外れたことや、危険性からそれらの関係も消し去って、後世に残さないようにされていたはずで、そのマジックアイテムも全部廃棄されたはずだったんだよね‥‥‥‥けれども、今回の事件でそのマジックアイテムと思われるものを犯人は使用していた。それがどういう事かわかるね?」
「処分されなかった物を偶然手に入れたか…‥‥」
「‥‥‥それとも、その組織の生き残りが再び動き出して、あの犯人で実験していたかもしれないという事ね」
「そういうこと」
…‥‥どう考えてもやばそうな組織が絡んで居そうなのには間違いない。
「今、その組織の可能性を公表したら、よく考えずに組織に入るようなものが出る可能性がある。良くも悪くも、ルース君たちぐらいの年頃だと活発で、感化されやすいからね」
要は、深く考えない者たちがいる可能性もあるので、迂闊に組織の話もできないのが現状だそうだ。
「で、何でそれで俺達にわざわざそのような話しを?」
「そんな危なさそうな話しならば、聞きたくもなかったんだけど」
「…‥‥それはね、ぶっちゃけ言って君たちの安全のためなんだよ」
「というと?」
「‥‥‥今回の事件、その組織が絡んでいるのだとすれば、妨害した君たちの情報がすぐにでも伝わった可能性がある。妨害可能な実力を持つ者を、邪魔されたくないその組織が放っておくと思うかい?」
バルション学園長の問いかけに、ルースとエルゼは気が付かされる。
もし、自分たちがその組織の立場であったなら‥‥‥将来的に邪魔になりそうなものは、はやいうちに消し去っておきたいからだ。
「組織の話をあえーてすることで、君たちに普段から警戒をして欲しーのがあるんだよ。まぁ、こちらからもできるだーけ手を尽くすからね」
‥‥‥話が終わり、ルースとエルゼは周囲の警戒を始めた。
どうやらこの先、前途多難な人生というか、その組織とやらに目をつけられて、心をそうやすやすと休めそうにないのであった。
ちょうどその頃、タキはエルモアから組織の事を聞き終えていた。
【‥‥‥なるほどのぅ、となれば召喚主殿たちが普段の生活でも危うくなる可能性があるという事か】
「そうとも言えるかもな。何しろその組織フェイカーとやらは人間以外にも魔族とかも狙ったりしていたし、ターゲットに種族は問わずだったから、お前さんの主も狙われてもおかしくはないな」
そう告げるエルモアの言葉に、タキは考え込む。
タキとしては‥‥‥‥召喚主たちが狙われて、命を落とされるのは嫌だった。
あの恐怖の女は除くとして、親しき相手が亡くなってしまうのは避けたいのである。
【とはいえ、今の我はこの地に住んでおるわけで、召喚された時にしか向かえぬしなぁ…‥‥】
「だったらいっその事、その召喚主に召喚される前に、自分からその場所へ住処を変えればいい話じゃないか?」
【‥‥‥それじゃ!!】
エルモアのその言葉に、全く気が付かなかった自分が恥ずかしくも思えたが、タキは目からうろこが落ちたような気がした。
【召喚前に、召喚主の近くへ行って直接守ればいいのじゃ!!ありがとうエルモアよ!!】
思いつき、実行が可能であるならば善は急げ。
タキはエルモアに礼を言い、急いで荷物をまとめるために己の住みかへと全速力で駆け抜けるのであった。
タキが駆け抜けて去っていくその後ろ姿を、エルモアは見ていた。
そして彼女は思った。
「あのモンスターがこうも人のために動くとはね‥‥‥」
大昔、かつては国を滅ぼし、人間の醜さを見たことがあるタキ。
けれども、それでも今のように召喚される立場となっても人間を毛嫌いし切らず、召喚主に対してああやって気遣いが出来ているのは、一体どのようなメンタルをしているのだろうか。
そのメンタルも疑問にエルモアは思ったが、もう一つ気になる話としては…‥‥黄金の魔導書。
タキの召喚主が所有している者だそうだが、それなりに博識なエルモアでも聞いたことが無い話である。
「‥‥‥一度、出向いてみるか?」
知識欲が豊富なエルモアは興味を持ち、しばし考えこむのであった‥‥‥
「‥‥‥ん?今何か嫌な予感がしたような?」
「どうしたエルゼ?」
「いや、なんかこう一気に面倒事というか、バリカンか鳥ガラからだしをとるために大きな鍋を用意しなければいけないような予感がしたのよね‥‥‥」
「なんだその具体的な様な、今一つわからないような予感は‥‥‥」
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