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始まりの章
6話
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‥‥‥グレイモ王国の王都グレイモ、その中心にある王城の一室にて、この国の国王である、ハイドラ=バルモ=グレイモはある手紙を読んでいた。
「なるほどな、珍しく手紙を公爵家がよこしたと思ったらこういうことか」
手紙を読み終え、椅子に深く腰掛けてハイドラ国王はつぶやいた。
王家の血筋でもあるミストラル公爵家、その公爵家の現当主である、カイゼル=バルモ=ミストラルからの手紙が届き、普段あまり連絡してくることがない人物なので、何か重要な情報があるのかともって開封し、読んでみたところその予想通りであった。
「黄金の魔導書‥‥‥今までにないもので、しかも複合魔法に、現時点ではまだ発現していないけど、更に異なる属性も持ち合わせるというのか」
公爵が治めている領内のとある村にて行われた叡智の儀式。
その儀式で、金色に輝く魔導書を手にした者がおり、調査官の立会いのもとで調べたところ、他の魔導書にはない特徴がみられたようなのである。
今のところ、その複合できる魔法は2種類だけだが、鍛え方次第ではもっと増やせるのかもしれない。
魔導書を扱える人が一人で数人分、いや、場合によっては数十人、数百人分になるかもしれない人材。
国のために働いてくれるのであれば、物凄い利益があるだろう。
だがしかし、悪人やその手の組織などに利用されることがあれば、逆にものすごい被害も出るかもしれない。
力のある者の出現は、この国にとって吉と出るか凶とでるか・・・・・・それは誰にもわからない。
「できれば吉と出るように、裏から手をまわしておくかな…‥」
そう考え、ハイドラ国王は動き出す。
王家が表立って動き出すと、逆に悪影響をその黄金の魔導書を手に入れた者に与えかねない。
なので、背後からバレぬように動かなければいけないこの立場を、彼は煩わしいとも、それでも手助けできるので喜ばしいとも、複雑な心境を抱くのであった。
‥‥‥魔導書に関しての調査官が去った後、育成機関へ向かう馬車が来る前に、バルスト村では魔導書を手に入れた者たちが思い思いの方法で訓練していた。
己が扱う魔導書に、今のうちに出来るだけ慣れておきたいからである。
使い方は儀式の際に、魔導書に触れることによって、ある程度理解しているのだ。
いまだに理解できない領域があるのは、その本人の資質次第であり、そこに達するには努力なども必要で、研鑽が欠かせないのだ。
「で、何で森に来ているのよ?」
「ん?現時点で使える魔法の中にさ、希望のありそうな魔法があったからね」
エルゼの質問に対して、ルースはそう答えた。
彼らは今、村の近くにある森の中に訪れている。
極稀に凶悪なモンスターも出るそうだが、普段は全くそんなものが出ない平和な森。
前世との違いで言えば‥‥‥動物の分類がモンスターというだけであろう。
だがしかし、動物だろうとモンスターだろうと、変わらない部分はある。
「この辺りでいいかな?開けている場所で、日当たりもそこそこいい感じ、万が一のための逃げ道も確保できているしね」
森の中にある、日光がはいり込みやすい開けた部分にたどり着き、辺りを見渡しながらルースは言った。
魔導書の中にある、現時点で理解できている魔法。
昨夜、少々その内容を思い返したり、見返したりしていたところ、その中には、なんと求めていたような魔法があったのである。
そう、モフモフした生物を召喚するという魔法があったのだ!!
「召喚魔法…‥それって他の魔導書にもありますけど、確か対応した属性のモンスターしか出ないのよね?」
赤色、青色など、他の色の魔導書にもそのような魔法はあるらしい。
ただ、その色に対応したモンスターしか来ないようで、選べる範囲がやや狭いうえに、人の資質によってはその強さにも個人差が大きく出るのだという。
「でも、この俺の持つ魔導書の色は金色。複合魔法が扱えるんだし、範囲は広いはず。そして何よりも、まだまだ未熟な俺が召喚するなら、弱いやつしか出ないだろう」
だがしかし、そこに重要な点があるのだ!!
「弱いモンスターというと、基本的に役に立たないと普通は思う。けれどもねエルゼ…‥‥そういう弱いモンスターに限って、モフモフが多いんだよ!!」
小型犬のようなモンスターや、小さな羊や小鳥のようなモンスターがその弱い類に入るとされる。
ならば!!それを利用してモフモフパラダイスを呼びだすことが可能ではないだろうか!!
そうルースは思いつき、召喚魔法をちょっと使用しようと考えたのであった。
‥‥‥ただ、個人的に解せないのは、一応何か気持ち悪いのがでたらやばそうだったので、皆の迷惑にならないように森の中で召喚魔法の使用を考えていたはずなのに、なぜかルースの行動を観察していたかのように、エルゼが付いてきていたことであった。ん?憑いてきているの方があっているかな?水魔法で監視されて…‥ないよね?
「せっかくだし、あたしもやってみたいけど…‥まだまだそのあたりの理解が出来ていないのが悲しいわね。‥‥‥あれ?でも召喚魔法って結構難しい類の魔法らしいけど、魔導書を手にしてたった数日しか経過していないのに、そこまで理解できている時点で弱いモンスターが出るのかしら?」
「人の資質によって左右されるらしいからね。間違いなく、俺は余りない方だと思いたいよ」
だってまだ、この魔導書のほんの少ししか理解できていないからである。
‥‥‥できれば召喚されるモンスターは羊とか、ケセランパセランとかいうモフモフしたような、そんなものが来て欲しい。
普通であれば、ドラゴンとか、何かしらの強いモンスターを望む者がいるだろうけど、俺はモフモフを望む!!
「まずは『魔導書顕現』!!」
黄金の魔導書を取り出し、召喚魔法の準備に取り掛かる。
この魔法はやや特殊なもので、初めて呼びだすのであれば、最初に地面にその理解できた魔法陣を描き、その上に血を一滴たらしてから召喚用の詠唱と言う物を唱えて、やっと発動するそうだ。
魔法陣を描く手間が結構かかるようで、ほとんど人気のない魔法らしいけど‥‥‥うまいこと召喚したモンスターと仲良くなれれば、次回からは魔法陣がなくても「召喚」の一言で出せるそうな。
「しかし、これ結構複雑だなぁ‥‥‥」
魔法陣を描くこと30分。
結構細かくて、地道に書かなければ確かに扱いにくい魔法であろう。
だがしかし、これもモフモフのためである。モフモフ天国を目指すのであれば、このぐらいの苦労は安い者だ!!
「‥‥‥そういえばさ、ルース君のその魔導書って、複合魔法とまだ使えない異なる属性があるのよね?」
「そうだけど…‥どうかしたのか」
じっと何故か木の陰に入りつつ、ルースを見ていたエルゼがそう尋ねてきて、ルースは返答した。
「いや、それだと本当にモフモフした弱いモンスターが出るのかな~って、ちょっと疑問を抱いたのよ」
「ああ、その事か。可能性はないわけじゃないけど‥‥‥まぁ、大丈夫だろう」
大丈夫なはず‥‥‥だよね?
エルゼの言葉に一抹の不安を抱えながらも、ルースは1時間後にようやく魔法陣を描き終えた。
「ふぅ、あとは血を垂らすんだっけ」
少しだけ指を噛み、血を少しにじませて魔法陣の中心に垂らす。
「ねぇルース君。その血をこのハンカチで拭いていいかしら?」
「いや、手持ちにあるから別にいいよ」
‥‥‥エルゼに血が付いたハンカチなんて渡したら、何に利用されるかわからないしね。水魔法に確か血を利用する物があったような‥‥‥
あらかじめ用意していたハンカチで、エルゼを防ぎつつ、血を拭いた後、いよいよ召喚である。
「あとは召喚用の詠唱を唱えるけど…‥‥長いなこれ!?」
召喚用の詠唱があるのだが、その内容がひどく長い。
例えるのであれば、落語にじゅげむとか言うのがあったけど、あれを100倍長くしたような量である。いや、それ以上かもしれない。
確かに、これじゃ召喚魔法なんて人気が出ないわと、よく理解できたのであった。
これだけの準備をして、長い長い詠唱を唱えて、弱いモンスターしか出なかったら骨折り損のくたびれ儲け。でも、今回はそれが目当てなので問題はない。
「えっと、詠唱開始っと。『ショーサカモンキタエリザンアー…‥‥‥
30分後。
「『‥‥‥ニュメタロアーンエールモンサーモンカンカーョシ』‥‥‥」
「‥‥‥スヤァ」
ようやく言い終えたときには、ルースの喉はカラカラで、エルゼは寝ていた。
その時、召喚魔法用に書いた魔法陣が輝き始め、発動したことが分かった。
長い長い苦労をしたが、ようやく報われるときである。
ここまでするのにひどく疲れたし、相当俺には資質がないはず。
ならば、出てくるのも当然弱いモンスターのはずで、モフモフ感たっぷりなのは間違いないだろう。
「さぁ、出てこいモフモフしたモンスターよ!!」
そのわくわく感に気分が高揚し、出現を待ちわびて叫ぶルース。
魔法陣が輝きまくり、黄金の輝きを放ち…‥‥
ドッカァァァァァァァァン!!
‥‥‥大爆発を起こし、周囲に土煙が立ち込める。
爆風がなかったとはいえ、この大きな爆発音と土煙が立ち込めるのも、またこの召喚魔法に人気がない理由なのかもしれない。
流石にこれに驚いてエルゼが目覚め、どさくさに紛れて抱き付いてきたとはいえ、召喚は成功したはずである。
まだかまだかと、ルースは土煙がはれるのを待ち、そしてその召喚された物が姿を現した。
【‥‥‥誰だ、我を召喚した者は】
「ん?」
あれおっかしいなぁ‥‥‥なんかものすごい人の言葉に聞こえる様な。
そして滅茶苦茶でかいような‥‥‥
姿を現したのは、金色に輝く毛並みに、物凄くモフモフしていそうな先が少し白い9本の尻尾を持ち、こちらを見つめる瞳を持った生物。
牙は鋭そうで、さながら肉食獣のような感じもわかる。
【お主か、我を召喚したのは?】
そう言いながら、こちらを見ているのは‥‥‥大きな狐さんでした。
しかも9本の尻尾という事は、人気のありそうな九尾の狐とかいう妖狐なのでは…‥‥大物来ちゃったよ。
でも、そこはどうでもいい。
大物だろうと、小物だろうと今ならわかることが一つ。
「モフモフが召喚できたぁぁぁぁぁぁ!!」
【うおっ!?】
ルースの心からの叫びに、びっくりしたかのような反応を九尾の狐は示したのであった。
巨大な体だけど、十分にモフモフしていそうだし、文句はない!!
「というわけで、モフモフさせてください!!」
【え、ちょ、まっ、ちと落ち着けお主!!】
ルースの興奮ぶりに、状況が呑み込めない九尾の狐。
「モフモフだぁぁぁぁぁ!!」
【いや、我の話を、ってふわぁぁぁぁぁぁあっつ!?】
この世界に転生し、長い間モフモフに触れていなかったルースの箍ははずれ、狐をモフモフしまくった。
そして、モフモフされる召喚された九尾側にとってはすぐさま対応できず、モフモフされることに快感を覚えて抵抗が出来なかった。
その陰で、九尾の狐を思いっきり睨むエルゼの姿があった。
「‥‥‥ルース君をたぶらかすモンスターなら、毛皮をはぎ取ってもいいよね?」
【ひっつ!?なんじゃこの娘は!?命の危機を感じるから離れよ召喚者よって、ふわぁぁぁぁ!?】
「よし、刈ろう。徹底的に毛皮を剃ろう」
【や、やめるのじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!】
九尾の狐は命の危機を覚えながらも、モフモフされる快楽に逃れられなかった。
そして、ようやく3時間後には何とか辛うじて興奮が収まり、ルースは満足し、エルゼは狐をぎろりと睨み、九尾の狐はモフモフの快感にやられて足腰が抜け、エルゼからの威圧に怯えるカオスな状況になったのであった‥‥‥
「なるほどな、珍しく手紙を公爵家がよこしたと思ったらこういうことか」
手紙を読み終え、椅子に深く腰掛けてハイドラ国王はつぶやいた。
王家の血筋でもあるミストラル公爵家、その公爵家の現当主である、カイゼル=バルモ=ミストラルからの手紙が届き、普段あまり連絡してくることがない人物なので、何か重要な情報があるのかともって開封し、読んでみたところその予想通りであった。
「黄金の魔導書‥‥‥今までにないもので、しかも複合魔法に、現時点ではまだ発現していないけど、更に異なる属性も持ち合わせるというのか」
公爵が治めている領内のとある村にて行われた叡智の儀式。
その儀式で、金色に輝く魔導書を手にした者がおり、調査官の立会いのもとで調べたところ、他の魔導書にはない特徴がみられたようなのである。
今のところ、その複合できる魔法は2種類だけだが、鍛え方次第ではもっと増やせるのかもしれない。
魔導書を扱える人が一人で数人分、いや、場合によっては数十人、数百人分になるかもしれない人材。
国のために働いてくれるのであれば、物凄い利益があるだろう。
だがしかし、悪人やその手の組織などに利用されることがあれば、逆にものすごい被害も出るかもしれない。
力のある者の出現は、この国にとって吉と出るか凶とでるか・・・・・・それは誰にもわからない。
「できれば吉と出るように、裏から手をまわしておくかな…‥」
そう考え、ハイドラ国王は動き出す。
王家が表立って動き出すと、逆に悪影響をその黄金の魔導書を手に入れた者に与えかねない。
なので、背後からバレぬように動かなければいけないこの立場を、彼は煩わしいとも、それでも手助けできるので喜ばしいとも、複雑な心境を抱くのであった。
‥‥‥魔導書に関しての調査官が去った後、育成機関へ向かう馬車が来る前に、バルスト村では魔導書を手に入れた者たちが思い思いの方法で訓練していた。
己が扱う魔導書に、今のうちに出来るだけ慣れておきたいからである。
使い方は儀式の際に、魔導書に触れることによって、ある程度理解しているのだ。
いまだに理解できない領域があるのは、その本人の資質次第であり、そこに達するには努力なども必要で、研鑽が欠かせないのだ。
「で、何で森に来ているのよ?」
「ん?現時点で使える魔法の中にさ、希望のありそうな魔法があったからね」
エルゼの質問に対して、ルースはそう答えた。
彼らは今、村の近くにある森の中に訪れている。
極稀に凶悪なモンスターも出るそうだが、普段は全くそんなものが出ない平和な森。
前世との違いで言えば‥‥‥動物の分類がモンスターというだけであろう。
だがしかし、動物だろうとモンスターだろうと、変わらない部分はある。
「この辺りでいいかな?開けている場所で、日当たりもそこそこいい感じ、万が一のための逃げ道も確保できているしね」
森の中にある、日光がはいり込みやすい開けた部分にたどり着き、辺りを見渡しながらルースは言った。
魔導書の中にある、現時点で理解できている魔法。
昨夜、少々その内容を思い返したり、見返したりしていたところ、その中には、なんと求めていたような魔法があったのである。
そう、モフモフした生物を召喚するという魔法があったのだ!!
「召喚魔法…‥それって他の魔導書にもありますけど、確か対応した属性のモンスターしか出ないのよね?」
赤色、青色など、他の色の魔導書にもそのような魔法はあるらしい。
ただ、その色に対応したモンスターしか来ないようで、選べる範囲がやや狭いうえに、人の資質によってはその強さにも個人差が大きく出るのだという。
「でも、この俺の持つ魔導書の色は金色。複合魔法が扱えるんだし、範囲は広いはず。そして何よりも、まだまだ未熟な俺が召喚するなら、弱いやつしか出ないだろう」
だがしかし、そこに重要な点があるのだ!!
「弱いモンスターというと、基本的に役に立たないと普通は思う。けれどもねエルゼ…‥‥そういう弱いモンスターに限って、モフモフが多いんだよ!!」
小型犬のようなモンスターや、小さな羊や小鳥のようなモンスターがその弱い類に入るとされる。
ならば!!それを利用してモフモフパラダイスを呼びだすことが可能ではないだろうか!!
そうルースは思いつき、召喚魔法をちょっと使用しようと考えたのであった。
‥‥‥ただ、個人的に解せないのは、一応何か気持ち悪いのがでたらやばそうだったので、皆の迷惑にならないように森の中で召喚魔法の使用を考えていたはずなのに、なぜかルースの行動を観察していたかのように、エルゼが付いてきていたことであった。ん?憑いてきているの方があっているかな?水魔法で監視されて…‥ないよね?
「せっかくだし、あたしもやってみたいけど…‥まだまだそのあたりの理解が出来ていないのが悲しいわね。‥‥‥あれ?でも召喚魔法って結構難しい類の魔法らしいけど、魔導書を手にしてたった数日しか経過していないのに、そこまで理解できている時点で弱いモンスターが出るのかしら?」
「人の資質によって左右されるらしいからね。間違いなく、俺は余りない方だと思いたいよ」
だってまだ、この魔導書のほんの少ししか理解できていないからである。
‥‥‥できれば召喚されるモンスターは羊とか、ケセランパセランとかいうモフモフしたような、そんなものが来て欲しい。
普通であれば、ドラゴンとか、何かしらの強いモンスターを望む者がいるだろうけど、俺はモフモフを望む!!
「まずは『魔導書顕現』!!」
黄金の魔導書を取り出し、召喚魔法の準備に取り掛かる。
この魔法はやや特殊なもので、初めて呼びだすのであれば、最初に地面にその理解できた魔法陣を描き、その上に血を一滴たらしてから召喚用の詠唱と言う物を唱えて、やっと発動するそうだ。
魔法陣を描く手間が結構かかるようで、ほとんど人気のない魔法らしいけど‥‥‥うまいこと召喚したモンスターと仲良くなれれば、次回からは魔法陣がなくても「召喚」の一言で出せるそうな。
「しかし、これ結構複雑だなぁ‥‥‥」
魔法陣を描くこと30分。
結構細かくて、地道に書かなければ確かに扱いにくい魔法であろう。
だがしかし、これもモフモフのためである。モフモフ天国を目指すのであれば、このぐらいの苦労は安い者だ!!
「‥‥‥そういえばさ、ルース君のその魔導書って、複合魔法とまだ使えない異なる属性があるのよね?」
「そうだけど…‥どうかしたのか」
じっと何故か木の陰に入りつつ、ルースを見ていたエルゼがそう尋ねてきて、ルースは返答した。
「いや、それだと本当にモフモフした弱いモンスターが出るのかな~って、ちょっと疑問を抱いたのよ」
「ああ、その事か。可能性はないわけじゃないけど‥‥‥まぁ、大丈夫だろう」
大丈夫なはず‥‥‥だよね?
エルゼの言葉に一抹の不安を抱えながらも、ルースは1時間後にようやく魔法陣を描き終えた。
「ふぅ、あとは血を垂らすんだっけ」
少しだけ指を噛み、血を少しにじませて魔法陣の中心に垂らす。
「ねぇルース君。その血をこのハンカチで拭いていいかしら?」
「いや、手持ちにあるから別にいいよ」
‥‥‥エルゼに血が付いたハンカチなんて渡したら、何に利用されるかわからないしね。水魔法に確か血を利用する物があったような‥‥‥
あらかじめ用意していたハンカチで、エルゼを防ぎつつ、血を拭いた後、いよいよ召喚である。
「あとは召喚用の詠唱を唱えるけど…‥‥長いなこれ!?」
召喚用の詠唱があるのだが、その内容がひどく長い。
例えるのであれば、落語にじゅげむとか言うのがあったけど、あれを100倍長くしたような量である。いや、それ以上かもしれない。
確かに、これじゃ召喚魔法なんて人気が出ないわと、よく理解できたのであった。
これだけの準備をして、長い長い詠唱を唱えて、弱いモンスターしか出なかったら骨折り損のくたびれ儲け。でも、今回はそれが目当てなので問題はない。
「えっと、詠唱開始っと。『ショーサカモンキタエリザンアー…‥‥‥
30分後。
「『‥‥‥ニュメタロアーンエールモンサーモンカンカーョシ』‥‥‥」
「‥‥‥スヤァ」
ようやく言い終えたときには、ルースの喉はカラカラで、エルゼは寝ていた。
その時、召喚魔法用に書いた魔法陣が輝き始め、発動したことが分かった。
長い長い苦労をしたが、ようやく報われるときである。
ここまでするのにひどく疲れたし、相当俺には資質がないはず。
ならば、出てくるのも当然弱いモンスターのはずで、モフモフ感たっぷりなのは間違いないだろう。
「さぁ、出てこいモフモフしたモンスターよ!!」
そのわくわく感に気分が高揚し、出現を待ちわびて叫ぶルース。
魔法陣が輝きまくり、黄金の輝きを放ち…‥‥
ドッカァァァァァァァァン!!
‥‥‥大爆発を起こし、周囲に土煙が立ち込める。
爆風がなかったとはいえ、この大きな爆発音と土煙が立ち込めるのも、またこの召喚魔法に人気がない理由なのかもしれない。
流石にこれに驚いてエルゼが目覚め、どさくさに紛れて抱き付いてきたとはいえ、召喚は成功したはずである。
まだかまだかと、ルースは土煙がはれるのを待ち、そしてその召喚された物が姿を現した。
【‥‥‥誰だ、我を召喚した者は】
「ん?」
あれおっかしいなぁ‥‥‥なんかものすごい人の言葉に聞こえる様な。
そして滅茶苦茶でかいような‥‥‥
姿を現したのは、金色に輝く毛並みに、物凄くモフモフしていそうな先が少し白い9本の尻尾を持ち、こちらを見つめる瞳を持った生物。
牙は鋭そうで、さながら肉食獣のような感じもわかる。
【お主か、我を召喚したのは?】
そう言いながら、こちらを見ているのは‥‥‥大きな狐さんでした。
しかも9本の尻尾という事は、人気のありそうな九尾の狐とかいう妖狐なのでは…‥‥大物来ちゃったよ。
でも、そこはどうでもいい。
大物だろうと、小物だろうと今ならわかることが一つ。
「モフモフが召喚できたぁぁぁぁぁぁ!!」
【うおっ!?】
ルースの心からの叫びに、びっくりしたかのような反応を九尾の狐は示したのであった。
巨大な体だけど、十分にモフモフしていそうだし、文句はない!!
「というわけで、モフモフさせてください!!」
【え、ちょ、まっ、ちと落ち着けお主!!】
ルースの興奮ぶりに、状況が呑み込めない九尾の狐。
「モフモフだぁぁぁぁぁ!!」
【いや、我の話を、ってふわぁぁぁぁぁぁあっつ!?】
この世界に転生し、長い間モフモフに触れていなかったルースの箍ははずれ、狐をモフモフしまくった。
そして、モフモフされる召喚された九尾側にとってはすぐさま対応できず、モフモフされることに快感を覚えて抵抗が出来なかった。
その陰で、九尾の狐を思いっきり睨むエルゼの姿があった。
「‥‥‥ルース君をたぶらかすモンスターなら、毛皮をはぎ取ってもいいよね?」
【ひっつ!?なんじゃこの娘は!?命の危機を感じるから離れよ召喚者よって、ふわぁぁぁぁ!?】
「よし、刈ろう。徹底的に毛皮を剃ろう」
【や、やめるのじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!】
九尾の狐は命の危機を覚えながらも、モフモフされる快楽に逃れられなかった。
そして、ようやく3時間後には何とか辛うじて興奮が収まり、ルースは満足し、エルゼは狐をぎろりと睨み、九尾の狐はモフモフの快感にやられて足腰が抜け、エルゼからの威圧に怯えるカオスな状況になったのであった‥‥‥
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