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卒業近いのになぜこうなるので章

292話

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‥‥‥200人のルーレア皇妃の複製品。

 いや、正確に言えば、全身完全コピーでもないし、強さ自体も半減しているので、完全なコピーともいえないのだが‥‥‥それでもやはり、連携力などが加わる分、驚異的と言えば驚異的である。


「『アイスフレイム』!!」

 火と氷の魔法を混ぜ合わせ、爆発と共に氷の破片が飛び交う複合魔法。

 普通の相手であれば、この一撃で沈むが…‥‥


【ジャゲェェェ!!】
【ゲゲゲゲ!!】

 口もない、真っ黒な人型が叫び、素早く攻撃から逃れる。

 そして互に組体操のごとく連結し、お互いを武器のように扱って殴りかかってくる。

【ジャブブブ!!】

ガッギィィィィィン!!
「っと、めちゃ痛いな!?」

 氷と土での盾を形成し、ギリギリのところで受け止めるも、衝撃が凄まじい。

 どうも人が振りかざす武器そのものの威力というよりも、遠心力や殴る際の力のかけ方などで普段のルーレア皇妃以上に計算している部分があり、無駄がない。

【シャシャジャ!!】
【ブッゲゲェ!!】

 攻撃を受け止めている隙に、直ぐに背後から皇妃コピーたちが迫って来るが、半減しているせいもあって気配が隠しきれておらず、すぐにその位置を把握する。

「精霊化!」

 ギリギリのところで、精霊状態と化して宙へ逃げ、再度解除して魔導書グリモワールの魔法で攻撃を仕掛けたり、その他諸々色々扱える力などを駆使するが、一向に減る様子もない。


【のうわぁぁぁあぁ!!】

 悲鳴が聞こえたので見れば、タキがぶん投げられていた。


【おうっとっとっと!?なんじゃよこの怪力軍団は!!】
「凄いというか、何と言うか‥‥‥」

 大勢の力というべきか、そこそこの大きさがある九尾狐状態のタキを投げ飛ばすとは…‥‥集団の力、侮りがたし。

【しかも攻撃も避け、尻尾で叩きつければカウンター、爪を振るえばその隙間狙っての攻撃とか、最悪過ぎるのじゃぁぁぁぁあ!!】
「一気に殲滅しようにも、数の暴力が厄介すぎるな」

 一人を狙えば大勢がカバーしあい、死角がない。

 ならば、広範囲の攻撃をと思えば、それはそれでこちらに隙が生じやすく、外した際に攻めてくる。

 一人いるだけでも厄介なのに、こうも大勢いるのはもはや災害相手と考えて良いだろう。


 国滅ぼしのモンスターがいるのであれば、この皇妃の群れは自然災害そのもの‥‥‥コチラが蟻ならばあちらは像の群れともいえるか。


 何にしても、このままではらちが明かない。

 体力もこちらの方が限度が近いし、気を抜けばあの皇妃オリジナルのようにフルボッコに会う未来が目に見えている。

 それをどうにか避けつつ、確実に倒せる方法を考えるのであれば…‥‥‥

「‥‥‥死角なくて、準備も許さないなら‥‥‥むしろ、できるようにすれば良いか?」

 そもそも、何を馬鹿正直に正面から戦ってしまっているのだろうか?

 相手は増殖というズルを使っている。

 ならば、こちらもそれ相応にズルすればいい話しではないか?


【ぬぅ?召喚主殿、何か名案が?】
「ああ、一つあるかな。ただ問題は…‥‥こっちが持たない可能性が大きいからな‥‥‥」

 何も物理的面で戦う事ばかりではなく、もっと別の側面から‥‥‥この戦場そのものに手を加えてやればいい。

 だが、その方法は相手に通じるのかわからないが‥‥‥息をしている・・・・・・ように見える事を考えると、通じるかもしれない。

「タキ、息を止めて激しく動いて、どのぐらい持つ?」
【それなら30分は可能かのぅ。‥‥‥あ、もしや】

 ルースの問いかけに答えつつ、彼が何を考えているのかタキは悟った。

 確かにその方法であれば、ある程度はどうにかなりそうだが‥‥‥それなりの賭けとなる諸刃の剣になりかねない。

 だが、それでもその方法を取らなければいい案もないし、どうしようもないのだ。

【‥‥‥よかろう。召喚主殿、その方法をやってしまうのじゃ!!】
「ああ、ならば遠慮なくいくぞ!!」

 魔導書グリモワールを構え、複合魔法である魔法をルースは発動させた。

 それは、一種の結界とも言えるかもしれない魔法。

 風の魔法によって周囲との空気を完全に切外し、今いるこの空間だけに集中させる。

 そして、この空間にある空気に含まれる‥‥‥‥

「ちょっと賭けだが、それでもやってみる価値はある!!『エア・ゼロ』!!」

 そう魔法名を叫ぶと同時に、周囲から音が掻き消えた。

 いや違う、消えたのではなく、伝わらなくなった・・・・・・・・だけだ。


【…‥‥‥!?】
【!!・・・・・!?】

 何が起きたのか、皇妃のコピー達は瞬時に理解し、次の瞬間喉元を抑えて苦しみ始める。

‥‥‥何とか想定通りというか、やはりというか、コピーであっても呼吸をしているのは同じだったようだ。

 そして今、ルースの魔法によって空気中の呼吸のための酸素は全て‥‥‥失われていた。

 火の魔法の要領で燃やすように消費し、それを瞬時に大量に行うことで、一時的にこの空間は真空状態と化したのだ。

 いや、正確に言えば酸素のみを消費し、空気が流れ込まないように空間の外部には風の魔法で空気を根性で妨げつつ、逃げられないように大きな土壁も出現させているので、ちょっと違うかもしれない。




 普通の生物であれば、それこそ5分も持たないかもしれないが…‥‥それでもある程度予測して息を吸った分、皇妃コピー達よりも余裕はあった。


【…‥‥!!】
【‥‥!!】

 ‥‥‥だが、こうも状況を簡単に作り出してしまえば、その様子から誰がやったのか見ぬきやすい。

 だからこそ、ルースをどうにかすれば、解放されると相手は考えるだろう。

 でも、それは既に予想済みであり…‥‥


バクゥン!!

‥‥‥次の瞬間には、彼女達の目の前で、ルースの姿が消えうせた。

 いや、違う。目の前でタキに食べられたというべきか。

【【【!?】】】

 そう、これこそがルースの狙い。

 相手の息が持たずとも、タキの方が息はより持ち、長く逃げ回れる。

 あとは、この空間から逃げ出せぬように調整しつつ、すべてが終わるまで只管逃げ回るのみ。


‥‥‥それから30分後、タキの息が持つギリギリまで粘られたのは流石に予想外であったが、なんとか皇妃のコピー達は窒息死し、全滅した。

 すべてが倒れ伏せ、消滅していく様子はそれなりに綺麗であったことは綺麗であった。

 そして、タキの口から出て、魔法を解除した後、空気のありがたみを思いっきり味わう事が出来たのであった‥‥‥‥

「というか‥すごいべちゃべちゃする…‥‥」
【あー‥‥‥すまんのぅ。逃げるのに必死で、流石に口内にまで気が回しきれなかったのじゃ‥‥‥】

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