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卒業近いのになぜこうなるので章

290話

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‥‥‥あの全身鎧最強もとい最凶鉄人、モーガス帝国のルーレア皇妃の重傷という連絡。

 容態やその他情報を得るために、ルースたちは帝国に訪れた。

【…‥なんか信じられぬのぅ。召喚主殿もしのぐようなものが重傷を負うとはなにがあったのやら?】
【不思議と言エば、不思議な事でアる】

 移動速度を考え、タキとヴィーラの背に乗せてもらったが、彼女達でも皇妃の重賞ということは新z煮がたい事らしい。

 というのも、彼女達の所属している国滅ぼしのモンスターたちがいるところでもまれにその話題が出ることがあり、人だけど国滅ぼし出来そうじゃないかという事で、議論したこともあったらしい。

‥‥‥軽く人外認定されているなぁ。いやまぁ、今さら感はあるが。






 何にしても、久しぶりに帝国へ訪れたが、その様子は以前とは違っていた。

「‥‥なんかやけにボロボロだな」
「内戦‥‥‥かな?でも、そんな話もなかったし」

 モーガス帝国は現在、生活水準の向上などに力を入れており、当然街の整備もしっかりされているはずである。

 だが、所々にボロボロになった個所もあり、何かが襲撃したような状態になっていた。

 妙なその光景に疑問と嫌な予感を抱きつつ、帝国の王城へ辿り着き、城の者に案内してもらい、皇妃の治療室へルースたちは入る。

 そして、そこで見たのは…‥‥

「「「「「‥‥‥‥」」」」」
「‥あら、全員おそろいで」

 ベッドに横たわっているのは、ルーレア皇妃‥‥‥なはずなんだけど‥

「‥‥‥は、母上‥…いや、まずどうやって‥‥声を‥‥‥」

 その声は確かに、ルーレア皇妃。

 だがしかし、ベッドにあるのは‥‥‥全身くまなく包帯を巻かれ過ぎており、もはやただの一つの巨大な包帯玉というべき姿になっていた皇妃であった。

 どう見ても包帯で包まれ過ぎており、声をまともに出せないはずである。

 だがしかし、はっきりとルーレア皇妃は発音していた。

「ええ?ああ、これね。振動を使っているだけよ。手を拍手したりすると、音が出るでしょ?それを利用して、細かい振動を出して変わりなく出しているのよね」
「いや、まずできないですって」

 確かに音は振動で聞こえるとかそういう話ならば聞いたことがあるが、そんな会話方法流石にできるわけもない。

 というか、普通にしゃべっているように聞こえさせるとか、もはや何このびっくり人間包帯玉は、とツッコミを入れたくなった。






「えっと、母上、その色々と痛ましい姿になっておられるようで、重症という話を聞きましたが‥‥大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっとばかり、骨折しただけなのにね」
「骨折?全身に包帯の意味が分からないのですが‥‥‥」
「全身骨折よ。複雑粉砕骨折ね」

‥‥‥それ、「ちょっと」とは言わない。相変わらず変なところでズレているというか、無茶苦茶な人である。

「いやいやいや、100もとい1億歩は譲っても、一体何をどうしてそんなことになったのですか!!」

 譲り過ぎだが無理もないレベルで、レリアが問いかける。

 ルースたちにとっても、目の前の最凶生物が、どうしてそんなことになったのか、気になった。

「あー‥‥‥ちょっとね、やらかしたのよ」
「やらかした?」
「それはね‥‥‥」




…話はさかのぼる事、3日ほど前。

 ルーレア皇妃はいつものように、帝国の兵士たちと訓練を行っていた。

 そんな中で、ある情報が彼女達の元へ届く。

 その情報とは、帝国内での内乱を企てている者がいるというもの。



 現在のモーガスと帝国は政治に力を入れているが、以前は戦争に力を入れており、属国になった国々もある。

 扱いとしては公平にしつつ、文句も出ないように調整してはいたが‥‥‥それでもというか、独立しようとする国などはあるのだ。

 ただ、その独立するのは良い物の、その後の見通しが甘かったりして自滅する国などもあり、そのせいで周辺国に迷惑被ることがあるので、ある程度の粛清はするのである。

 まぁ、大抵の場合は本当に独立よりも、自身の方に何かしらの事で利益を得ようとする過激派などがいたりするのだが…‥‥とにもかくにも、今回の内乱とやらは、そのうちの一つが企てていたようなのであった。

 平和的にとかそういうのならまだしも、流石に国内を乱すわけにはいかない。

‥‥‥というのは建前で、そういうやつらに限って何かしらの秘策などがあり、それらが結構手ごわく、戦うと楽しそうだという名目で、皇妃は動いた。

 そしてすべて制圧し終え、いまいち消化不良であった…‥‥その最後の時に、その内乱を起こそうとした奴らは、あるものを持ちだしてきたのである。

 


「あるもの?」
「んー‥‥‥多分だけど、あれって残っていたフェイカー製の道具なのよね」

 フェイカー‥‥‥それはかつて存在していた反魔導書グリモワール組織であり、ルースが潰したもの。

 残党処理などもしていたのだが、どうも狩り切れなかった中に、フェイカーで作られていた道具が流出したらしい。

 で、今回はその中の一つが使用されたそうだが‥‥‥

「その道具がね、厄介というか‥‥‥多分、フェイカーでも持て余して廃棄された品の可能性もあるのよねぇ。そうじゃなければ、貴方が組織を潰す際に、使用されていた可能性があるもの」
「‥‥‥どういう道具?」
「さぁ?正式名称は不明ね。仮につけるのであれば…‥‥『複製鏡』かしら」
「なんかその名称だけで、どの様なものか想像できたような‥‥‥まさかとは思いますが、鏡のような道具で、それに映った相手を複製して出してくるとか?」
「ええ、その通りね」

 要は、その複製鏡とやらが発動し、ルーレア皇妃の複製が産まれたらしい。
 
 そう言うヘンテコというか、ありえない技術をあの組織は持っていたからな‥‥‥そんな代物を作っていてもおかしくはないだろう。ただ…‥

「持て余して‥ってことは、欠点が?」
「ええ、どうも完全に複製できないようで、戦った感じ、多分2分の1程度の力しかないわね。しかも全身そっくりじゃなくて、真っ黒な影の塊だったわ」

 複製したとしても、どうも複製した相手の形程度で容姿と力は異なるらしい。

 精々2分の1程度であれば、苦戦することはないはずであったが‥‥‥現在の皇妃の具合から見て、それだけじゃないことがうかがえた。

「‥‥‥もしかして、増えた?」
「ええ、その通りよ。ざっと数えて200人ぐらいかしら」

 200人のルーレア皇妃の複製‥‥‥2分の1程度だから単純に計算して、100人ぐらいの皇妃‥‥‥どんな悪夢だ。

 しかも、コントロールなどもされておらず、ただ単に辺りを破壊して回るだけの兵器と化し、大暴れをしたそうなのだ。

 その余波が原因で道中がボロボロだったのかと謎が解ける。

「それでも必死になって戦って、複製鏡そのものは粉砕して、もう使えなくなったわ。でも、壊してもどうも複製は残るようで‥‥‥頑張って戦って見たけど、流石に自分の倍以上の数は、やられてしまったわね‥‥‥」

 普段の強気な、戦闘狂のような皇妃にしては珍しく悔しそうな声でそう語る。

 戦闘によって善戦したそうだが、それでも2分の一程度の力の自分でも数の暴力で押す自分には勝てず、ボッコボコにされて今に至るらしい。

「あれ?そうなるとその複製とかは今はどうなっているんだ?」

 ふと、その疑問をレリアは口にした。

「…‥‥今は何とか、帝国中の総力を挙げて、一か所‥‥‥その件の内乱首謀者の集まっていた場所に押しとどめているわ。でも、既に負傷者も多く‥‥‥そう長くは持たないわね」

 言われてみれば、帝国内の人というか、兵士とかの数も少ないようで、ほぼ動員されているのだろう。

 国の守りなどを考えると全てを割けないのかもしれないが、このままでは押し負けてしまうのも時間の問題らしい。

「しかも厄介なことに、この受けた怪我って自然治癒でしか直せないわね。魔法が一時的に効かなくなるようなのよ」

 白い魔導書グリモワールであれば回復魔法などもあり、そう言ったものが使える医療班などが帝国に存在している。

 だがしかし、その皇妃の複製達の攻撃はその魔法を阻害する効果があって、自然治癒でしかできないようだ。


「回復も満足にできず、2分の1程度とは言え大勢の皇妃の軍団‥‥‥どう考えても、悪夢だろうな」
「流石私というべきか、こういう時は厄介よね‥相手の回復を阻害するような攻撃はできないのに、複製品ができているのはちょっと悔しいわね」
「母上‥‥‥それ、悔しがるところじゃありませんよ」

 何にしても、このままだと押し切られて帝国中を蹂躙されるのは時間の問題。

 しかも、連携力もかなり高いようで、ただの力だけの軍団でもない皇妃たち…‥‥最悪としか言いようがない。


「‥‥まぁ、これはこれで都合がいいわね」
「いや、どこに都合がいい要素が…‥‥って、まさか」

 包帯玉になっているとはいえ、向けてきた目線にルースは嫌な予感を覚える。

 こういう時程予感は的中するうえに、その内容が酷いものが多い。

「ええ、まさかといったからには大体予想できているわよね?あの複製された私たちを、潰してきてくれないかしら?」
「…‥‥ルーレア皇妃が重傷な時点で、こちらとしても負ける可能性が大きいんですが‥‥‥」
「じゃないと、治療完了して復活した暁に、100時間耐久連続戦闘を仕掛けるわよ」
「喜んでやらせていただきます!!」

 ‥‥‥2分の1の力の大勢のルーレア皇妃との戦闘と、復活した皇妃との連続戦闘。

 どっちの方がやばいのか天秤にかけ、ルースは速攻で承諾するしかないのであった…‥‥‥
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