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夏も過ぎ去り、最後の学園生活で章

276話

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…‥‥広大な場所と聞いて、人は何を思い浮かべるだろうか。

 無限に広がる大海原?どこまでも続く砂漠?果ての無い大森林?


 いや、それらはどれも地にあり、何処かで何かにぶつかるのが目に見えているであろう。

 だがしかし、そうでない場所として挙げられる場所もあり‥‥‥‥


「場所というのもおかしいが…‥‥というか、こんなものがあったのか」

 ルースが貰う予定の公爵領予定地、その上空にてルースはそうつぶやいた。




 本日は休日であり、タキを召喚してこの地まで乗せてもらった後、精霊状態になって飛行していたのだが、今目の間にあるモノに対して、驚いていた。

 
 元々の予定としては、冬を越えた来年度に予定している結婚式のため、その会場をどうしようかと考え、いっその事空に作れるのであれば作ってみようかという事で、技術などはまだ未定な部分もあったが、その下見に来たのである。

 だがしかし、その予定地の上空に飛行していた際、何か違和感を覚え、思いきって魔導書グリモワールで暴風を拭き起こしてその個所を刺激して見たところ‥‥‥


「これが本当の天空の城ってやつか…‥‥いやいやいや、何を言っているんだよ俺は」

 目の前のその物体を見て、そうつぶやきつつツッコミを入れ、否定したくもなった。




 暴風を吹かせたあと、その違和感のあった場所に現れたのは…‥‥宙に浮かぶ大きな浮島だったのだ。

 魔法やマジックアイテム、精霊などがいるこの世界において、ある意味あり得たかもしれない存在であったが‥‥‥まさかこうも都合よく、こんな代物がでるとは予想外だったのである。

【うわぁ‥‥‥なんじゃこれ、流石に我も始めて見るのじゃ】

 着陸し、再召喚して呼び出したタキも、この光景を見て思わずそうつぶやいた。

「タキもこんな浮島の存在を知らなかったのか?」
「当り前じゃ。地上や海上ならばまだしも、流石に空までは見ぬからのぅ。それに召喚主殿が魔法で刺激しない限り現れなかったものじゃし、皆目見当つかんのじゃ】

 ルースの問いかけに対して、呆れたように答えるタキ。


 国滅ぼしのモンスターとして長年生きてきた彼女でも、流石にこのような空に浮かぶ島は初めてだったのだろう。

【いや、待てよ‥‥‥?確か、前に組合で出た話題にあったのぅ】

 と、ふと何かを思い出したようにタキがつぶやいた。


「話題って、何かあったのか?」
【ああ、そうじゃ。つい最近じゃが、大往生した国滅ぼしの者がおってな、そいつの所有物でちょっと厄介な事になったんじゃ】

 その国滅ぼしのモンスターとやらは、種族はファフニールで、名前がジョベリアンという者だったらしい。


―――――――――――――
『ファフニール』
ドラゴンの中でも、宝を集める代表格のモンスター。
空を飛べるものは翼が大きくなり、大地を行くものは足腰が発達し、空と陸のものでは大きく見た目が異なるとされる。
各自によって宝に色々な定義をもち、それぞれの定義に沿って本能的に宝を集めて、蓄えていく。
黄金の山、宝石の城、不老不死の湖など、様々な伝承があるが‥‥‥‥

――――――――――――

【その中でも、空に関する物を宝と定義していたのが、その亡くなったやつなのじゃ】
「空に関する宝?」
【ああ、しかも国滅ぼしのモンスターとしてもすぐれていた奴でな、空から落ちてきたものの情報を聞けばすぐに飛んでいき、自身の財にするためには国すらも焼き尽くし、滅ぼした無茶苦茶な奴じゃった】

 なんというか、正しく国滅ぼしのモンスターらしい暴れっぷりが想像できた。

 タキも国滅ぼしに入るのだが、普段の彼女を見ると想像しにくいからね‥‥‥‥


【晩年は流石に力もほとんどなくし、何処かでひっそりと大往生を迎えたという話があったが…‥‥その場所が、そ奴の持っていた宝の中でも最大の、空飛ぶ島だったそうじゃ】
「という事は、この島はそのファフニールが亡くなった場所の可能性が」
【あるというわけじゃな】


…‥‥なんにしても、この島の隅々まで探索して見ないことには分からない。

 まだ確定したわけでもないし、あくまでも「大往生したらしい」と噂を聞くだけならば、まだ生存している可能性が高いのだ。

 万が一の戦闘に備えつつ、ルースとタキは島の探索に乗りだした。


【で、こッちも呼んデ来たと】
【ピッギャ!】

 ついでに、更に安心感を高めるためにヴィーラとマロも召喚し、共に探索をし始める。

 全体的には大きな浮島に古城が一つあるだけのようだが…‥‥その古城のサイズがどう見てもおかしい。

「ファフニール用サイズってやつか‥‥‥」
【人間用には造られておらぬからのぅ】

 なんというか、前世の絵本にあるジャックと豆の木のような、巨人の城である。

 某天空の城というよりも、巨人がいるような城といったほうがしっくりくるのであった。


――――――――――――――――――
SIDE古城の奥深く

‥‥‥何かが入って来た。

 そう、思考するのは古城の奥深くにある部屋、そこに横たわっているモノ。

 いや、既に横たわっているのかも怪しい状態であり、生きているのかすらも分からないほどであったが、意識だけはまだそこに残っていた。

 その者は、かつてのこの島の主であった存在。

 されども生を終え、天へ帰るまでまだ時間が残っているらしく、未だに成仏していない。



 そんな最中、その存在はこの島に侵入者が来たことに驚きつつ、警戒していた。

 されども、動くことすらもできない体ゆえに、どうすることもできない。

 どうしたものかと考える中、ふとあるモノが目に留まった。

 
 そして、そのモノを利用して、その存在は侵入者たちに接触してみようと、試み始めるのであった…‥‥


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