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学園最後の夏休みで章

266話

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‥‥‥‥ルンブル王国、王城内。

 数年前の戦争によって国内が色々と酷い状況となり、やや属国に近い状態になったのだが、グレイモ王国からの援助もあり、なんとか復興を遂げていた。

 相変わらず冬には非常に厳しい状況となるが、火や日光などの魔法が扱える魔導書グリモワール所持者たちも派遣されることになり、この夏が終わった後での早い冬への対策を練り始めていた……そんな時期に、王城内では現在、断罪が行われていた。

 何しろ、早いうちから冬に向けて備えようとしている中で、国を下手したら滅亡させかねない大馬鹿野郎共がいたからである。


「‥‥‥元第2王子ゲンドール、何か申し開きがあるか?」
「あるわけがないだろうが!!ここまで完璧な証拠を出されまくって、しらばっくれるほど頭はできていねぇんだよ!!」

 問いかけに対して、もはやいさぎよいほど認める元第2王子。

 その側近やその他仲間たちは不服そうだが、もはや何も反論のしようがないほど証拠がそろい過ぎていた。



…‥‥グレイモ王国内で、馬鹿共のクーデターの手助けを行っていたことが発覚し、その見返りに色々とやってもらう予定だったらしい。

 だがしかし、どこからかその情報が洩れ、あっという間にルンブル王国内に伝わってしまった。

 言い逃れようとする者たちもいたが、あれよあれよというまに証拠が出そろい、隠滅しようとした者もいたが、全て丸裸にされ、隠しようが無かった。

 まぁ、物理的に裸磔されて大衆の面前に見られ、その怪しさから調べられて罪が発覚した者や、どう狂ったのか人の衣服を何としても脱がせようとして、止められる者たちもいたのだが‥‥‥なんにしても、罪人となる者たちはみな集められ、捕まったのである。

 国内の立て直しの中で、このような行為は言語道断。

 下手すればグレイモ王国側から援助などを切られ、こちら側の方で国民たちが不満を起こし、革命を起こされかねない状態になっていたであろう。


‥‥‥まだ温情あって助かっていた第2王子とその愉快な仲間たち。

 けれども、この件でもはや言い逃れもできず、情状酌量の余地もない。

 

 ルンブル王国の重鎮たち、政務を担う一同は溜息を吐きつつ、甘い処分などをせず、今後やらかさないように…‥‥いや、もう二度とできないように、処分を下すのであった。





――――――――――――――――――――

‥‥‥一方、ちょうどその頃。

 ルースは今、精霊王と共にある場所へ訪れていた。


『…‥‥精霊状態でなければ、入れない場所って…‥‥』
『当り前じゃ孫よ。ここは精霊しか入る事が出来ぬ場所じゃし、その状態を解除すれば瞬時に弾き飛ばされるぞ』

 ルースの言葉に対して、精霊王は答える。

 今、彼らがいるのは常人が入る事ができない…‥‥精霊のみが入る事が出来る一種の特殊な空間。

 各地に点在しており、外界とは分離した世界とも言えるだろう。


 世界の裏側の世界とも異なる、この空間の正式名称は『精霊の隠れ里』。

 自然そのものといえる精霊たちが、何か大怪我を負ったり、不調になった時に体調を整えるための空間でもあるそうだ。



 何故、ここへルースが精霊王に案内されてはいったのかと言えば…‥‥原因は、今のルースの状態であった。

 元々ルースは、人間と精霊のハーフで有り、それぞれの力がありつつ、さらに前世の死因でもある力そのものが混ざった状態。

 今はどうやら精霊部分の力が強くなっている程度に収まっているようだが、これを放置すると非常に不味いらしい。


…‥‥わかりやすく説明するのであれば、いくつものタンクがあって、その中にそれぞれの力が液体のように保管されており、必要な時にその力が流れ出し、使用できていた。

 だが、本来で有れば均等に使用してバランスを保たれるはずであったが…‥‥どうしても使う力はバラバラになり、均等に使用できていなかった。

 ゆえに、どれかが一時的に減少した際に、他の力が強くなっていたのだが、今までは何とか耐えきれていたのである。


 だがしかし、人間の身体という者は脆い物。

 次第に耐久性が落ち、何とそれぞれのタンクにひびが入り、中身が漏れだした…‥‥と言うのが、ルースの現在の身体の状態だそうだ。

 精霊部分が現在強く出ているのは、現状のバランスで補充される速度が一番早いようで、その漏れ出る力よりも補充される方が強くなり、いちばん漏れているようなものなのだとか。


『一応、半分精霊ということでまだ大丈夫なのじゃが…‥‥この状態が続けば、そのうちすべて一気に爆発するじゃろうな』
『そうなったら、どうなる?』
『うむ、孫よ。お前の力の詳細は色々と複雑で、力の大きさが完全に分かっていないのじゃが‥‥‥まぁ、その爆発が起きた場合、半径3000キロが一瞬でえぐれるほどの衝撃波が出るじゃろうな』
『…‥‥』

 思った以上に、シャレにならない状態のようだ。

 つまり、今のルースはまさに生ける爆弾という事なのであろう。

『じゃが、そう焦る事もない。そのタンクにひびがあるのならば補修…‥‥いや、むしろ交換した方が良いかのぅ』
『交換‥‥‥って、どうやって?』
『ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。物理的にできるわけもないし、タンクはあくまでも例え。じゃが、やる方法としては単純なものがあるのじゃ。…‥‥それが、ここでの滞在かのぅ』

 そう言うと、精霊王はあたりをぐるっと見渡した。

『この空間は、精霊たちが集う隠れ里。精霊自身へ力を供給してくれる場所なのじゃ。とは言え、その力はタンクとはまたことなり、簡単に言えば新たな構成材料の提供場とも言えるのぅ』
『構成材料の提供……って、まさか』
『そうじゃ。その構成材料こそ…‥‥先ほどの例えで出したタンクの事じゃ。ここで力を受け、体内で自ら作り出し、新しいものに変えるのじゃよ』


 要は、外から材料を受けとり、体の中で新しいものを作るという事である。

『とは言え、孫よ。お前の場合はタンクがすべてひびが入っているような状態、ようは全部の交換が必要な訳じゃから……吸収、構成、交換と考えるのであれば、10日間は必要じゃ』

 夏休みの残りも少なくなってきているのだが、ここで消化してしまえと言うようなものだ。

 だが、なんとかなるのであれば、断る選択肢もない。

『ちなみに、一つ聞きたいけれども……ここで過ごして、人間を辞めてしまうような事はあるのかな?』
『何を今さら言うのかのぅ?半分精霊の時点で、人間半分辞めているようなものじゃぞ?』
『え”!?』
『さらに加えて言うのであれば、今の状態……タンクにひびが入って漏れ出しているのもあるが、補充されている量の増加もあるのじゃし、既に身体に思いっきり影響でまくりじゃ。具体的には寿命増加、身体能力向上、せいよ‥‥‥まぁ、色々とのぅ、人外になってきておるから、心配するだけ無駄じゃ』
『なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 実の祖父からの、それも精霊王からのお墨付き。

 ルースは思わずそう叫ぶのであった‥‥‥‥‥
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