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学園最後の夏休みで章

265話

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‥‥‥クーデターというものには、何かと準備が必要である。

 資金、仲間、警備網の確認、やった後のすること‥‥‥等々、様々な事が必要となるのだ。

 そして、準備に時間をかけた分、より精巧なものとなる。



 だがしかし、精巧なものとは逆にひどく脆くもなる。

 設計され、これで完璧だというものほど、その欠けた場合の損失が大きくなることが多いのだ。

 対処法も準備をしていればいいのだが…‥‥成功を確信していた場合、その準備を怠りがちになる事もある。

 ゆえに…‥‥‥







「がっはぁっ……ぐっ、な、なぜここに、王女様方が‥‥‥」
「王家に仇成す悪しき者たちの気配を感じ取ったのですわ」
「というか、全部バレバレだったの!」

 王城の隠し通路内の奥で、密かにクーデターの用意をしていたその者たちは今、この国の王女たちであるルルリアとアルミアの襲撃を受け、壊滅していた。

 王女とは言え、帝国のルーレア皇妃の手ほどきを受けており、その実力はお墨付き。

 かつては路地裏の悪党たちを叩き伏せたこともあり、既に対人戦での経験は摘んでいたので、この程度の烏合の衆のような者たちであれば、特に問題なかった。

 捕らえられて人質にされる危険性もあったが、念には念を押して…‥‥


「よーいしょっと、これで全部だーね」

 ぐるぐる巻きにした者たちを引きずって、バルション学園長が姿を現す。

 魔導書グリモワール所持者の中でもトップクラスの彼女がいれば、万が一に備えて魔法で応戦もできるし、そもそも彼女に正面から勝てるような相手がそういるわけもない。

 ルーレア皇妃ですらライバル視しているのだから、最初から勝ち目がこの者たちには無かったのだ。



 何にしても、これでこの部分の鎮圧は完了であり、少しづつ追い詰めていく。

 既に支援国であったルンブル王国の方も、きちんと対処するためにじわじわと包囲網を作製しており、返り咲こうとしていた輩たちは今度こそ首を斬られるであろう。

「そーれにしても、フェイカーの件も終わったのに、それでーもこういう馬鹿な企みをやーる者たちはでーるのよね」

 呆れたように溜息を吐きつつも、きちんと証拠となる書類の山を確保するバルション学園長。

「仕方がないですわ。すべてが完璧な人がいないように、この世には善人ばかりとはいかないですもの」
「王族たるもの、そのあたりはきちんと理解するものなの。何事も綺麗ごとだけでは済まないし、清濁併せ持って飲み、そしてその汚れた部分すらも利用するのもありなの。‥‥‥まぁ、汚物まみれというのもいただけないの」

 その言葉に対して、返答するルルリアとアルミア。

 ルースと婚約し、彼に嫁げば王籍から抜かれるのだが、それでもやはり王族としての教育は受けている。

 そして、そう言った類が出るのも理解しており、利用することもあれば、害になれば切除する心得もあるのだ。



 とにもかくにも、この作業で既に言い逃れのできないほどの証拠の山が出来上がり、馬鹿共が吊るされるのも時間の問題である。

 もう二度とこのようなことを起こさせないためにも、心の底から追っておく必要性もあるので、もう徹底的に叩くためにさらなる手段を取っていく。

「そう言えば、国王陛下のほーうにも話はしたのかーしら?」
「ええ、もう大体誰が敵、味方なのか把握済みですので、きちんと報告いたしましたわ」
「お兄様たちにも話したらノリノリになって手伝ってくれるの!でも、正直言ってちょっと役に立たないので、静かにして欲しいの」

 さらっと王子たちに対しての毒舌が出されたような気もするが、それでも既に国王に話は入った。

 手配し、敵の身を殲滅するために動かし、鎮圧されていく。

 ただの圧政にならないように罪状をしっかりとさらけ出させ、きちんと正当性も示していく。


 何にしても、彼女達を敵に回した時点で、既に敵は詰みまくっているのであった‥‥‥‥


―――――――――――

‥‥‥一方その頃、ルースは空を漂っていた。

 精霊状態になって飛翔し、大空の散歩を楽しんでいるのである。


(まぁ、それ以外にもそろそろかな……?)

 実はただ精霊状態になって飛行しているわけでもない。

 今日はある用事があって、空の上での待ち合わせをしていたのだが…‥‥どうやら、来たようだ。


『……待たせたな、孫よ』

 そう、ルースの祖父にして、この世界の自然そのものともいえる、精霊たちの頂点‥‥‥‥


『ああ、そんなに待っていないよ、精霊王様』
『いや、ここは普通にお爺ちゃんとでも呼んで欲しいのぅ…‥‥』


‥‥‥精霊王、そのものであった。

 威厳があり、人目に付くと騒ぎにもなりかねないので、上空で会うことにしたのだ。

 ただし、本日は孫好きお爺ちゃんモードなので、威厳が微妙に失われている状態であった。




 とにもかくにも、今日来てもらったのには訳がある。

 以前から少しづつ感じていたが、こういう時に一気に聞いてみた方が良いと連絡を取っていたのだ。

『ふむ……それでじゃ孫よ、このお爺ちゃんに訪ねたいこととは何じゃ?もしやもう、ひ孫が出来たのかのぅ?』
『いや、流石にそれは早すぎるんだけど…‥‥っと、それじゃない、連絡していたよね、精霊王コホン、お爺ちゃん。俺の精霊の力がちょっと……まぁ、見てもらった方が早いか』

 少々ずっこけかけたが、ひとまず気を取り直し、ルースは精霊としての力を少々開放し、精霊王に見せる。

『……っと、こんなものかな?お爺ちゃん、これでわかる事はないかな?』
『ふむ……なるほどのぅ』

 ルースの精霊の力を見て、精霊王は顎に手を当て考えこみ、結論を出した。

『やはりというか、連絡通りじゃ。成長したのか、精霊部分が強まっておるのぅ』
『やっぱりそうか…‥‥』

 ルースは精霊王の言葉を聞き、ある程度確信を持っていたが、これで確定した。


‥‥‥ルースは人間と精霊のハーフでもあり、力的には半々。

 そこに少々、前世の死因でもある異界の力も入っているのだが、それでも全体的に力のバランスはとれていた。

 だがしかし、ここ最近どういう訳か、精霊分の強さが向上していたのである。

『今の状態であれば、まだ問題はないかもしれん。しかし、半分精霊とはいえ…‥‥うむ、人間を辞める一歩手前の状態というか、ちょっと不味いのぅ』

 どうも、少々面倒な状態になっていたようであった‥‥‥‥



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