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学園最後の夏休みで章

260話

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‥‥‥すべてが終わった時、気が付けば少女は、今の液体人間の体になっていた。

 いや、何をどうしてそうなったのかは分からない。

 ただ、一つだけ言えるのはもはや人ですらなくなってしまったことであろう。


「ああ、失敗か!!」
「液状化するとは、これはこれで使い道がありそうなのだが‥‥‥」
「いや、無理でしょうな」

 周囲には数名の人影が見えたが、液体人間となったばかりなせいで、うまく体が動かせない。

 そのまま色々と調べられた挙句、失敗作とされ、瓶に詰められたようだ。


 そのまま放置されていて、彼女は何もすることが無く、そのまま眠りについて…‥‥


――――――――――――――――――

‥‥‥それから年月が経ち、今、こうしてルースたちの前にいるのであった。


『これが、覚えていること全て。けれども、人間だった時の名前が思い出せない…‥‥』

 そう話し終えると、疲れたのかぐてんと楽にするように、少し液状の身体を液体人間は広げた。


 話を聞き終え、ルースたちの周囲は重い雰囲気が漂う。

 ある程度の調査もできていたとはいえ、当時の体験者の言葉ほど、重いものはないのだ。


「なんというか…‥‥ひどいな」
「フェイカ―は潰れたけれども、まだ被害者はいるのね‥‥‥」

 とは言え、一つの疑問がここで浮かぶ。

 話では失敗作とされていたようだが、その割には何故保存されていたのであろうか?


「そういうのは大抵殺処分だと思うのだが‥‥‥」
「案外、失敗作の例をサンプルとして保管していたんじゃないか?」
「ああ、それか」

 その可能性があり、ゆえに彼女は助かったのだろう。

‥‥‥けれどもそれが、彼女にとって幸せであるかどうかと問われれば違うだろう。


 もう、人ですらない、かと言ってモンスターでもない液体人間とは‥‥‥


「どーうにもできなさそうだよね」
「そのような方法はないアル」
「どっちなのかややこしいわね‥‥‥」

 何にしても、このまま放置することもできない。

 瓶詰めされ、眠りについていた彼女を起こした責任もあるし……何よりも、フェイカ―の犠牲者でもあるのならば、何とかしてあげたい。


 こういう時に聞けそうなのはエルモア先生であろうが、タキたちと一緒に東方へ行ったので知恵を拝借することもできない。

 とはいえ、このままにはしておけないし……連れて行った方が良いのか?


「とりあえず、瓶詰になっておく?また寝かせるような事になるけれども、どうにかなるあてが付いたら出してあげるからさ」
『‥‥‥うん、それでいいよ』

 そう言って、液体人間は承知したのであった。



 最初の方の瓶は壊したので、新たに用意したのはちょっと装飾が入った瓶。

 複合魔法で作り上げた簡素なものなのだが‥‥‥

「というか、一部光っているわよね?」
「いやまぁ、たぶん良い感じに混ざっていないだけだろうなぁ‥‥‥」

 複合魔法の扱いはもう慣れたモノだが、いかんせん最近どうも精霊の部分の力が緩いのか、本来はでないようなところに混ざったようで、少しばかり発光していた。

 精霊状態の時には魔法が使えていなかったが、どうも何故か最近は通常状態でも精霊の力が漏れていたりするんだよね…‥‥今度、精霊王に訪ねる機会があれば、原因とか対処法を聞いたほうが良さそうである。

『‥‥‥眩しい。眠れない』
「あ、やっぱり?」

 何にしても、もう一度作り直し、闇属性を複合させたことによって…‥‥


「なんか禍々しいアル!?」
「あれぇ?」

‥‥‥今度は魔王でも封じ込められていそうな、物凄く禍々しいものが出来上がってしまうのであった。

 今までは攻撃とかでうまくいっていたが、どうも最近調節が甘いな…‥‥一旦、基礎を鍛え直した方が良いのかもしれない。

 ただ、この禍々しさによる暗闇は眠りやすかったようで、液体人間はすやぁっと眠り始めるのであった。

 良いのだろうかこれで?

「そのうち、熟成されそうなの」
「ああ、なーんかその可能性があーるわーね」
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