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学園最後の夏休みで章

252話

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……湖で遊んだ翌日、ほとりで一泊をルースたちは過ごしたのだが、朝になって日光が降り注ぐと、ある物体が反射して輝いているのが見えた。

 なんであろう、それはマロが昨夜黄金化ブレスを放ってできた、黄金像であった。




「‥‥‥マロ、お前何をした?」
【ピ~ギャ~ス~~~スコケ♪】

 ルースの問いかけに対して、マロは目をそらし、下手なくちぶえでごまかすように答える。

 いや、そもそもの話、マロの言葉が分かるわけではないのだが‥‥‥その態度があからさまに怪しかった。

 マロは嘘が下手すぎたのであった。

「よし、マロちょっと来い・・・・・って待てぇ!!逃げるなぁ!!」
【ピギャココココ!!】

 ちょっとルースが手招きすると、叱られることが分かったのか、全速力で逃亡を図ったマロ。

 だがしかし、ルースの召喚魔法によって逃亡は阻止されたのであった。





 ひとまずマロは逃げないように魔法で固定しておくとして、とりあえず、黄金化している物体を見てみれば‥‥‥

「なんだこれ?ウナギ?」

 鰻と言うかアナゴと言うか、何かこうにょろっと長い生物のようであった。

 東洋の龍とか蛇に似ているようだが、鱗がなく、細長い体はつやつやになっている。


「んー、見たこーとない生物ねー」
「魔族でもなさそうアルし、たぶんモンスターでアル」

 何にせよ、事情を聴いてみたい。

 
 危険なモンスターの可能性もないことはないのだが、マロのブレスで対処可能だし、なんとかなるはずだろう。

 一応、マロの誤射によって黄金化された場合を想定して、解除薬をルースは持ってきていたので、それをその像に振りかけた。


【‥‥‥グググググ、ようやく動けるヌッメェラァァァァァ!!】

 解除され、元の姿に戻った途端に、そのモンスターは心からの叫びをするのであった。








【ううっ、ひどい目にあったヌッメェラァ】
「あー、うちのマロがやらかしてごめん」

 どうやら会話が可能な様なので、ルースたちはそのモンスターに問いかけて見ると、色々な事情があったことを知った。

 このモンスターの種族名は「ヌメラニア」という、鰻とアナゴとナマズとウミヘビを足して平均化したような物らしく、本来であれば海辺に生息する大人しいモンスターだったそうだ。

 ある程度の年月を経たものは会話も可能になり、海辺では漁師たちに人気があり、魚の群れを教える代わりに数割ほどを貰うなどの共生関係を持っていたらしい。

 だがしかし、ある時その関係に無理やり入り込んだのは、このディグラート湖周辺を治めていたポワッショ侯爵らしい



【ああ、あいつは悪人だヌッメェラァ!!一族の皆を乱獲し、強制的にここへ押し込めたんだヌッメェラァ!!】
「逃げることはできなかったのか?」
【それは無理だったヌッメェラァ。あっしたちは乾燥に非常に弱いので、水辺から離れる事が出来ず、雨の降った日を狙っても他の水源がどこにあるのかわからなくて、逃げられなかったんだヌッメェラァ】

 悔しそうに尻尾の方をびたんびたんと動かし、ヌメラニア・・・・・種族名らしいが、もう名前をそれにすることにして、彼は涙を流した。


 それはそうとして、何故ポワッショ侯爵は彼らを狙ったのか?

 それは、彼らが分泌する独特な液体と、肉が狙いだったそうである。

【いやまぁ、あっしらは焼けば非常に香ばしい香りがして、おいしく食べられることは分かっていたヌッメェラァ。でも、本来であれば天敵から逃げるための「ウルトラヌメヌメ液」を搾り取っていたのだヌッメェラァ!!しかも、それを取るために嫌な負担を全員にかけられ、ストレスで一匹、また一匹と心労で倒れたのでヌッメェラァ!!】

 その液体を取るために彼らを脅し、乾燥させるなどの負担をかけ、そして使い物にならなくなったら焼かれて食べられてしまっていたらしい。

 
「でも、そのウルトラヌメヌメ液って、何に使うんだ?」
【そこまでは分からんのだヌッメェラァ。我々は天敵からヌルゥンと逃げるために分泌するだけの液体にしか利用していなかったのだヌッメェラァ】

 どうやら非常にぬめっとした液体らしいのだが、何を思って侯爵が搾り取っていたのかは分からないらしい。

 ただ、そのポワッショ侯爵自体は色々悪行に手を出していたので、ろくでもないことに使っていたという予想は立てやすいものであった。


 そんなわけで毎日のように搾り取られ、一体、また一体と搾り取られ、最後の一体に彼がなったある時を境に、ピタッと来なくなったらしい。

 最初は何かの病気かと思っていたが‥‥‥おそらくは、その時に侯爵が国によって捕縛されたのであろう。


 このヌメラニアがいなくったらどこからか補充してくる可能性もあったので、とりあえず被害はこれ以上無くなったらしい。

 侯爵が捕まったという話をすると、ヌメラニアはぽかんとし、現実を受け入れた途端に、喜んだ。

【よっしゃいなくなったぜヌッメェラァァァァァァ!!もう遅いかもしれないが、あの元凶が去ったのは非常にうれしいぞヌッメェラァァァァァァ!!】

 喜びまくり、踊り始めるヌメラニア。


「‥‥‥とは言え、状況としては一人だけなのは変わりないよね?」
【大丈夫ヌッメェラァ。あっしたちは特殊な生態として、雌雄同体!!一匹だけでもある程度までは増やせて、そこから繁殖できるのだヌッメェラァ!!】

……カタツムリのような生態だな。いや、でもあれはあれで違うのが必要となったと思うし、どうなんだろうか?

 何にせよ、侯爵が失せたことにヌメラニアは喜びまくる。

「ところで、マロが黄金化させちゃったけれども、結局陸地に上がって来たのは何だったんだ?」
【人の気配がしたし、あの野郎の手先かもしれないと警戒して、偵察していたのだヌッメェラァ。だけど、まさか動けなくされるとは思わず、まともに喰らったんだヌッメェラァ】

 まぁ、何しても彼は敵対する気もないようだし、放置で良いのかもしれない。

 と、ここでふとルースはあることを思いついた。

「なぁ、一つ良いか?」
【なんだヌッメェラァ?】
「その侯爵はもう表舞台に立てず、この地は今は国の管理だが、来年には俺の管轄下に入るんだ。まぁ、俺はお前に無理強いをしないことを約束するけれども、その代わりにこの湖の管理をしてくれないか?」
【‥‥‥どういう事ヌッメェラァ?】

 このヌメラニアが湖で管理してくれた方が、自然環境的に一番良いのかもしれない。

 繁殖して数が増え過ぎたら流石にダメだが、今の状態ならば人に頼むよりも湖の事を知り尽くしている彼の方が適任のように思えたのだ。

「勿論、それが嫌であれば何もしなくていい。ただ、ポワッショ侯爵のように狙う輩がいないとも限らないし、俺の権限でここの管理を任せられていると言えば、こちらの庇護に入れられるだろう。流石にそちらがもともと住んでいた場所は分からないから返せないが‥‥‥それでも、ここに住んでいる限り安全になるように保証したい」
【‥‥‥悪くない話しヌッメェラァ!!】

 ぐっと、了承するように動くヌメラニア。

 とりあえずこの交渉は成功のようで有り、湖の管理人を手に入れる事が出来たのであった。

「いや、でも人じゃないから管理人ではないな」
「国滅ぼしのような力はないのかしら?」
【もともと非力だから、大丈夫ヌッメェラァ!・・・・・あ、でも一つ条件を欲しいヌッメェラァ】
「なんだ?」
【その鳥……もう近づけないでくれヌッメェラ。ちょっとトラウマになったんだよヌッメェラァ‥‥】
「‥‥‥なんか本当に、マロがやらかしてごめん」

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