上 下
247 / 339
組織との決着で章

222話

しおりを挟む
 光線の道を走り抜け、歪みのある方角へ向かうルースたち。

 それなりに持続する魔法なので、切れる心配はなかったのだが…‥‥一つ、ルースはある事を考慮していなかった。


「そげぶぅっ!?」
「陛下ぁぁぁぁぁぁ!?って、しまっ、ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


「…‥‥何か今、声が聞こえたような気がするけど気のせいかな?」
【いや、気のせいじゃないじゃろうな…‥‥巻き込まれたやつおるじゃろ】
【ピギャァ】

 光線の向かう方角に、なにやら声が聞こえてきたが…‥‥犠牲者が出たようである。

 この光線の道、考えてみれば攻撃性能がないようにしていないことに、ルースは気が付いたが…‥‥すでに遅かったようであった。



 慌てて駆けつけて見れば、光線の道の横にぐったりと倒れ込む二人の男性の姿があった。

「…‥‥陛下とか聞こえたけど、もしかしてこの国の重要人物?」
【可能性はあるのぅ】
【ピギャァァ……ピギャス】

 まだ若そうな人と、それなりに苦労人臭が漂う感じがあり、そしてこの場所は…‥‥


【かなり立派な建物じゃのぅ。ここはもしや、バハーム王国の王城なのではなかろうか?】
「確定じゃないかな?なんか散らばっている書類に書かれれているしね」

 となると、ここに倒れているのは…‥‥ほぼ確定で、この国の国王とその側近だろう。


 他国の権力者、ついうっかりで巻き添えにしたかも‥‥‥‥。









 とりあえず、放置するわけにもいかないので、適当に魔法を発動してベッドを創り出し、そこに寝かせる。

 何事もなかったかのように昼寝しているように細工し、ルースたちは何も見なかったことにして光線の道の先へ進むことにした。

「良いかタキ、ここで会ったことは何もなかった」
【そうじゃな、王族らしき人物をふっ飛ばしたこともなければ、見たことがないのじゃ】
【ピギャス】

 念を押してルースがそう言うと、タキとマロは頷いた。

 証拠隠滅のために道も消しておいて‥‥‥‥ここからは、地力で歪みの場所とやらへ向かうべきであろう。



【ぬぅ、何やら嫌な気配が下からしてきたのぅ‥‥‥‥ここの地下で間違いなさそうじゃな】

 バハーム王国の王城の中に侵入したところで、嫌そうな顔をしてタキはそうつぶやく。


「地下か‥‥‥‥流石にここで掘り進むわけにもいかないし、何処かに入り口とかないだろうか?」
【王城に地下となれば、王族の脱出用経路か、もしくは罪人を入れる牢があるじゃろうな。そこにつながる道ならば確実にあるじゃろうし、そう分かりにくい所にはなさそうじゃ】


 きょろきょろと探し回って数分後、マロが高らかに叫び、地下室への道をルースたちは見つけた。


【ピギャァァ!!ピギャァァ!】
「お!見つけたのか、マロ!】
【ピギャッス!】

 ルースの問いかけに、マロは自信満々にうなずき、羽をパタパタさせてその出入り口を指し示す。

 王城の中でも、はじっこの方に地下への階段が続く入り口があったのだ。





 中に入り、地下へ向けてルースたちは階段を下る。

 こういう場だからこそ、ある程度舗装されたきちんとした階段のはずだが…‥‥螺旋階段のようで、先が見えない。


「また繰り返しているとかはないよな?」
【それは無さそうじゃな。しかし、こうも下りばかりでは膝に少々来るのぅ】
【ピギャァァ】

 階段は上るのも大変だが、下るのもある程度地下にあり過ぎるとそれはそれで大変である。

 それでも懸命に突き進んだところで、ようやく終わりが見え‥‥‥‥

「…‥‥見えてきたけどさ、歪みってあれで良いのかな?」
【いいはずじゃろうけれども‥‥‥‥なんじゃろう、この嫌な予感が的中した思いは】
「まぁ、同じ思いなんだが…‥‥なーんでこんなところでもあるのだろうかね」

 タキのつぶやきに対して、ルースは同意しつつその先を見る。

 

 そこは大きな部屋となっており、おそらくは王族たちが地下に籠る時のために作られた隠し部屋のような場所でもあったのかもしれない。

 シェルターのような役割も果たすはずだったのだろうけれども‥‥‥‥現在、その部屋の中央には大きなものが鎮座していた。

 どくん、どくんと脈動するように不気味な音を立て、ごぼごぼっと液体を垂れ流す、大きな新造のような物体。

 そして、その色合いは…‥‥これまでさんざん、嫌になるほど見てきた、あの反魔導書グリモワール組織のものと同じであり、何かしらの関連がある事を確定させたのであった。

「…‥‥何かしら関わっている可能性があるとは聞いていたけれども、直球で来たのかよ」
【なんというか、どこの場所でも迷惑をかける奴らの仕業かのぅ。ぬ?でも…‥‥】

 ふと、タキが呆れたような口調から、何かいぶかしむような表情に変わった。


「どうした?」
【いや、ちょっとあれは古くないかのぅ?】

 言われてよく見れば、不気味な心音を立てるその物体は、全体的にどこかさび付いているというか、年代物のような雰囲気を纏わせていた。

 これまでのフェイカーのものであれば、どれもこれも同じぐらいの新しさはあったと思うのだが…‥‥それにしては、やけに古く見えるのである。

「そう言えば、二十数年前に一度滅びたとか言われていたな…‥‥ってことは、もしかしてあれは当時の残ったやつなのか?」

 ずっと昔の方のフェイカーの遺留品であり、それが今になって起動したのであるとすれば、とんでもなく迷惑極まりない話である。

 なんというか、今更掘り起こしたタイムカプセルに黒歴史たっぷりの者が詰まっていて、それをじっくり味遭わされているような感じであろうか‥‥‥いや、もっといい言い方があるかもしれないだろう。


 とにもかくにも、このままにしておくことはできないし、これがどう考えても歪みとやらの元凶にしか思えないのであれば、さっさと処分するのが手っ取り早い。


 と、処分方法を考えていたその時である。



―――――ドクン!!
「っ!」
【なんじゃ!?】
【ピギャッ!?】

 突然、空間全体が震えたかのような感覚を覚え、ルースたちは身構える。

―――――ドクン、ドクンドクンドクンドクンドクン!!

 徐々にその古道のような音は大きくなり、見れば新造のような物体がどんどん大きく膨れ上がり…‥‥次の瞬間、はじけ飛んだ。


バァァァァン!!
「うわっ!?}
【不味いのじゃ!!】

 飛び散る体液だがなんだかわからないものに、嫌なものを感じたのであろう。

 だてに国滅ぼしのモンスターをやってはいないタキはルースとマロをつかみ、素早くその場から飛びのき、階段を一気に駆け上がってその部屋から離れる。


 そして外に出た瞬間、地鳴りが聞こえ始め…‥‥

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…‥‥ドッゴォォォン!!


 大地が割れ、地下から何かが飛び出してきた。

【モンギョォォォォォォォォォォォゥ!!】

 それは大きな雄叫びを上げ、その存在を示すと同時に空の色が不気味な色合いへ変わった。


 その姿は、何処か人に似てはいるが、顔も髪もなく、棒人間のように見えるかもしれないが…‥‥無数に蠢く腕が生えており、背中には大きな不気味な色合いをした翼が生えていた。


 その醜悪な姿をさらし、怪物は雄たけびを上げ、何かを空へ打ち出す。

 それはすぐに見えなくなったかと思うと…‥‥無数の火の球となって、落ちてきた。


「げっ!?」

 世紀末というか、世界の終末と言うべき光景を見て、ルースたちは慌てて防御の体勢を取る。

 そして次の瞬間、その怪物を中心に、流星群のような攻撃が降り注ぐのであった…‥‥‥
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

処理中です...