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貴族問題で章

208話

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――――――その身に纏う黄金の鎧。

 だが、全身金色一色というわけではなく、輝く光は分かれていた。

 白き光も放ち、黒き光も放つ。

 白い金色、黒い金色の輝きを、何と言えばいいのだろうか?




 そんな疑問が周囲の人々の頭に浮かぶ中、その鎧を纏いながら、ルースは動いた。

 この力は、以前、フェイカー製の怪物を消去した時と同じ力。


 とはいえ、精霊としての力や魔法に関しての腕前が向上したために使用機会はほとんどなくなっていた。

 だが、今回このふざけたような気持ち悪いしゃちほうこうには絶対に敗北したくないという思いがゆえに、この力を解放したのである。

 魔導書グリモワールによって解放できた力であったが、成長した今では自分の意志で解放できるようになっていたようなのだ。


 ただ、問題があるとすれば、この力は長時間使用することができない。

 強すぎる力ゆえに身体への負担も大きく、最後に使った時よりも成長しているとはいえ、慢心はできない。下手をすればその場で気絶する可能性もあるのだが…‥‥なんにしても、あの頭しゃちほこムキムキ気持ち悪すぎマジックアイテムには負けたくなかった。

 というか、あんなものに負けたら一生の恥のような気がした。


 ゆえに、長時間の開放ができないのであれば‥‥‥‥短期決戦で終わらせるだけだ。


 魔導書グリモワールを開き、この力に関してどのように使うのか、その内容がスラスラと頭の中に入ってくる。

 この力は、元は前世のルースを殺したものでもあるようだが、元をたどるともっと別の世界から飛んできた別の力。

 今は魔法で作られた鎧に纏って目に見える形で顕現しているが、使いようによっては目に見えない破壊と創造の力にもなるようだ。

 そして、その知識の内容の中から、彼はある方法を選んだ。


 ハンムラビ法典にある「目には目を、歯には歯を」という言葉のように、目の前に迫りくる拳であるのならば…‥‥拳を向ければ良い。

 

 鎧の輝きは増していき、地上に星が誕生したかのような眩しさを放つ。

「…‥‥複合魔法、いや、『固有』魔法発動」

 今まで使用してきた、各属性を組み合わせた魔法ではなく、黄金の魔導書グリモワールとこの力そのものがもつ魔法を、ルースは発動させた。



「『ゴールド・ロケットパンチ』!!」

 突き出した右腕から、黄金の拳のようなものが出来上がり、一気にしゃちほうこうへめがけて飛んでいく。

 それは魔法なのかというツッコミが入りそうなものだが、そのツッコミが入る前に、飛んでいく鎧はガントレットのような形状へ変化し、黄金の拳を叩き込んだ。


ドッズボォォォォォォォォォン!!
【じゃぢぼぉぉぉごぼぉぉぉぉぉぉぉぉ!?】

 その拳は、しゃちほうこうの体を殴り、貫通した。

 大きな穴が開き、そのまま飛んでいく拳はもう一体のしゃちほうこうにも直撃し、こちらも胴体を貫く。



 その貫通した痕は、ただ突き破ったというようなモノではなかった。

 外側から突き破ったのであれば、ある程度の皮膚……マジックアイテムだから正確には外装と言えば良いのかもしれないが、突き破られた部分にあった破片が散らばったり、傷口にそりが出来ていたりするはずだ。

 だが、その穴には…‥‥何もできていなかった。

 いや、もっと詳しく言うのであれば、突き破ったのではなく、『最初から何もなかった』かのような綺麗な大穴になっていたのだ。


【【じゃぢぼごぼぼぉぉぉぉぉゔ!?】】

 消え失せた部分に、しゃちほうこうたちは驚愕の声を上げる。


「う、うろたえるな!!まだやつは…‥‥」
【【じゃ、じゃ、しゃほぉぉぉぉぉうこう!!】】

 王子たちがしゃちほうこうに落ち着くように指示を出したのだが危機感を感じたしゃちほうこうたちは、命令も聞かずに勝手に動き出す。

 彼らには、自分たちが圧倒的強者に喰らわれ、そして消し飛ばされる未来しか見えなかったのだ。

 マジックアイテム「しゃちほうこう」…‥‥対象のデータを習得した後は、自ら考え、行動を起こせるアイテム。

 アイテムがゆえに、恐怖などのそう言った感情はなかったはずなのだが…‥‥‥今、彼らはその恐怖という感情を抱いたのだ。

【【しゃちほぉぉぉこここここぉぉぉぉぉぉ!!】】

 次の一撃が来る前に、彼らは多くの腕と足を動員し、ルースに限界まで速度を上げて接近し、ノックアウトさせようとする。

 負ける未来しか見えないが、それでも何とか自分たちが生き残るための悪あがきだったのだ。


……けれども、その恐怖を抱いた時点で、既に彼らは負けていたのかもしれない。

 



 ルースは半分精霊のような者だ。

 精霊と言うのは、繁栄をもたらすものでもあるのだが、その逆に滅亡をもたらすこともある。

 そして、しゃちほうこうたちは‥‥‥‥その滅亡をもたらされた。


「『------』」

 ルースの口から出たその言葉は、どこの言語かもわからない。

 ただ、この力の元になった世界の言葉であるかもしれないが、その言葉によって魔法が発動する。



ズバビシュッツ!!

 魔法の発動によって、何か空を斬る音が鳴り、しゃちほうこうたちは動きを止め…‥‥倒れ込む。


 そして、さらさらと砂金のように砕け、宙へ消えていった。


 まるで何もその場に無かったかのようにしゃちほうこうは消え失せ…‥‥完全に、無くなった。




 それと同時に、時間切れとなったのか、ルースが纏っていた黄金の鎧も消え失せ、いつもの彼の姿に戻る。


「‥‥‥っ」

 鎧が消えうせた途端、ルースは強い疲労感を感じた。

 気絶するとまではいなくとも、相当力を使ったのは間違いないだろう。


…‥‥だが、まだ決闘は終わっていない。


「「「‥‥‥‥」」」

 自分達の絶対的な勝利の切り札として疑わなかったしゃちほうこうたちの消滅に、王子たち3人が唖然としたマヌケな表情で固まっていた。

 そもそもの話、この決闘を引き起こしたのは、妹離れができないシスコンの王子たちが元凶であり…‥‥しゃちほうこうというめんどくさいマジックアイテムまで引っ張り出してきたことに、ルースは呆れと怒りの感情を抱く。


 なので‥‥‥‥元凶には少々痛い目に遭ってもらわないと気が済まなかった。

 あれでも一応、この国の王族。

 でも、決闘の場という事は当然公平にぶん殴れる。

 とはいえ、流石に疲労した状態で殴るといま一つなので‥‥‥‥



「とりあえず、ふっとべ」

「「「へ?」」」

 ルースの声に王子たちが振り向けば…‥‥目の前には、それぞれ綺麗な魔法の球が迫っていた。

 とりあえず、この場で一つ言えることとすれば、命を奪うのはアウトなので威力が抑えられた魔法を放っていたことぐらいであろうか。

 まぁ、威力を抑えたとはいえ、それなりに痛みで反省してもらわなければだめなので、そこそこやばいレベルのものであったが。


 電気を帯びた水の塊をぶつける『ボルウォータボール』。

 氷魔法によって即興で作られた雪玉の中に、土魔法でガッチガチに圧縮した岩を入れてぶつける『アイスロック』。

 直撃した瞬間に、内部に入れた風によって火を大きくして爆発力を高めた『ファインドボール』。


…‥‥直撃した瞬間、王子たちは悟った。

 ああ、これは逝くな…‥‥と。




 その日、決闘場で3つの爆発が起き、王子たちはそれぞれ華麗に宙を舞うのであった‥‥‥‥

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