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貴族問題で章

203話

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『とある決闘が、もう間もなく行われるらしい』

 そのような噂が都市メルドラン内を流れ始め、人々は動き出した。


 都市メルドランの郊外にある決闘場は、それなりに観客数を確保できるだけの容量がある。

 そしていつの世も、人と言うのは暇なのか、そう言った面白そうなことには出向いていくのが当然である。


 ゆえに、この決闘についての情報を集めつつ、商売のチャンスと見た商人たちも動き出し、金の流れができ始めるのである。




…‥‥そして、入ってきた情報によれば、とあるグリモワール学園の学生が大勢の貴族たちから仕掛けられた決闘という事が分かり、それなりに面白そうだとなってくるやいなや、集客人数を予想して商売場所の取り合いが始まるのだ。

「急げえぇぇぇ!!Aの3ブロックはもうすでに埋まってしまったはずだぁぁ!!」
「ほいやっと、ようやくCの1を確保できたよ」
「儲けられそうな時はとにかく動きまくれぇぇ!!」

 その結果、都市メルドラン郊外にある決闘場の周辺では、カオスな状態になっていた。

 この商売場所確保の争いを見越して、周辺の土地を一旦国が管理下に置き、ある程度の範囲を区分けし、抽選などによって配分する。

 そして、できるだけいい場所を確保するために動く者たちは、ある者は良い場所の確保に喜び、ある者は悪い場所でもがんばればいいと慰め合い、またある者は決闘場を利用せずにその場で殴り合って決めるなどと、その場は相当カオスなことになっていたのであった。




‥‥‥そしてまた、その決闘についての情報を得るための情報戦も繰り広げられており、当日に賭けをするための情報を集める者もいる中、学園のある一室にて集まった者たちはその情報を統計し、互いに情報交換をしていた。

「なるほどね…‥‥ルース君に挑むのは王子3人とその他の貴族たちだけど‥‥‥」
「代理人の方が多いな。直接出る人数が少ないようだし、ちょっと注意をした方が良いかもしれん」
――――ズルヲシヨウト企ムヤツイタヨー。
「あ。それはそっちにやって欲しいでアルな」
【…‥今回は出られぬゆえに、情報戦で役立とうと思ったのじゃが‥‥‥なんじゃこのすごさは】
【こウいう時は、モンスターよリも人間の方が怖ろシいかも】


 エルゼ、レリア、バト、ついでにミュルも一緒に情報を整理している中で、今回の決闘に召喚されないタキとヴィーラも情報収集のために来たのだが、彼女達の情報収集能力の高さに驚いていた。


 エルゼは公爵家の令嬢としての権力を、レリアは帝国の王女としての権力を、バトは妖精姫としてとりあえず近場にいた妖精たちに話すと協力を得て、ミュルは元フェイカー幹部だった経験を活かして裏につながる情報屋などを買収して、それぞれ情報を集めていたのである。

 ちなみに、タキとヴィーラは日常的にそれぞれ街で井戸端会議的なものからも集めているのだが‥‥‥流石に情報量に関しては皆より劣っているのが現状であった。

【というか、何故お主もいるのじゃ】
「‥‥‥まぁ、今は教師としてと言うのもアルけど…‥‥ここに集まっている時点で、皆同じ思いがあるアルよ」

 タキの問いかけに対してのミュルの返答に、皆はこくりと頷く。

 この場にいる全員、ルースの味方であり、恋愛感情を抱いている。

 ゆえに、そんな恋愛対象の相手が負けるようなことがないように陰から支えようと一時的に同盟を組み、こうやって情報交換を行っているのだが…‥‥一つだけ問題があった。



 それは、今回の決闘の原因となった王女たちである。


「国王陛下が嫁がせるとか言っているけれども‥‥‥」
「まぁ、あの目を見る限り彼に対して恋愛感情を持っているのはわかるけど…‥」
―――――タダデサエ、ライバルガ多イノニ。

((((((一緒になるのは文句はないけれども、正妻が誰だという争いがなー))))))


 皆、それぞれこの決闘を利用して、決闘後にルースに告白するつもりがあった。

 王女が嫁いできて、公爵の位をルースがもらえるのであれば、皆の身分を考えれば一緒になっても問題は特になさそうなのだ。

 妾に愛人などという方法もあるので、諦めはしない。

 ルースの気持ち次第なのであり、誰が告白してどのような結果になろうとも言書になれるのであればいい。

‥‥‥けれども、ここである問題があったのだ。


 それが「正妻」という座である。


 今回の決闘で王女が嫁いできたとしても、実は彼女達がルースの正妻の立場になるというわけでもない。

 王籍を抜き、一貴族として嫁いでくるわけであり、いかに王族の血があるとはいえすぐさま公爵夫人というわけでもないのだ。

 そこにエルゼ達が求婚し、嫁ぐことができた場合‥‥‥‥その正妻争いが起きてしまうのであった。


 最終的にできれば自身が正妻になりたいと強く想っているのは、エルゼ、レリア、バトであったが‥‥‥。


 ミュルは愛人でもいいという立場であったし、タキとヴィーラに関してはモンスターなので少々争いにくいので、こちらはそこまで強く争う気はない…‥‥が、それでもやっぱり「正妻」という座は特別な物。


 ゆえに、誰もがなりたい座でもあって、この情報収集のついでにいかにどれだけ自分が相手の上位に立てるのか、血を流さない静かなる戦争が既にこの場で始まっているのであった。


 そう、名付けるのであれば「正妻戦争」と言うのであろうか‥‥‥‥とにもかくにも、この場では争いは表面化させずに、各自で彼女たちは情報を整理し、話し合う。

 如何にしてルースのために役立て、そしてどれだけ彼の役に立てるのかを見せつけるために。

 そして、最終的にできるだけ自分が彼の正妻の立場になれるように‥‥‥‥


「あれ?この情報って誰が出したの?」
「ん?そういえばこれはまだ調べていないはずなんだが‥‥‥‥」







「…‥‥ふふふふ、こーういう時ぐらい、こーっそり参加しても良いわーね」

 エルゼ達が首を傾げている中、学園長室ではバルション学園長が笑みを少し浮かべていた。

 魔法によってあちこちの情報を確認し、こっそりエルゼ達の情報戦争の中に紛れ込ませる。

 表立って彼女は動かず、それでいて最善のサポートをできるように暗躍する。


「あら?そーう考えると‥‥‥私の方が良いかもね」

 ニヤリと笑みを浮かべつつ、バルション学園長は学園長の仕事をしながら、今回の決闘に関わった者たちに関しての情報を集めていくのであった…‥‥
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