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先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動
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「‥‥‥いかがなさいましょうか、ミアお嬢様」
執事がそう問いかける言葉に、わたくしはどうしたものかと考えこむ。
仕方が無い事だろう。なぜならば…‥‥
「婚約者の自覚もない、王太子様が華麗にどこかの誰かと踊ってらっしゃいますからね‥‥‥ここで出ようにも、出ることはできませんわね」
「この国の国王陛下も、思いっきり凄い険しい顔をされてますが‥‥‥事前に話したからこそ、もはや見捨てる算段を立てているようでございます」
「王妃様も、完全に冷たい目なのに、それすら気にせず堂々と立ち振る舞えるふてぶてしさに、むしろ感嘆いたしますわね」
‥‥‥ゼラチニー王国の舞踏会会場。
本日は他国も招いての、王太子様の誕生日会も兼ねており、盛大にかつ豪勢に、かなり装飾が凝らされつつ、色々と整えて準備もしたのだが‥‥‥いかんせん、誕生日を祝う会場からあの王太子が転がり落ちるための前夜祭のように思えてきてしまう。
祝いの場どころか、葬式のような雰囲気が出てきているのに、全く気が付いていないご様子。
いや、一応あれでもわたくしの婚約者でもありますが‥‥‥ええ、これはもう、完全に見捨てて良いですわね。
「調査からの予定時間はもうちょっとありますし‥‥‥ゼリアス、今のうちにちょっとあの王太子様にエスコートされてらっしゃる方の詳細を聞いておきたいですわ」
「既に調査済みでございます」
そう言い、この人外有能執事は小さくしつつ、物凄く見えやすく作成したらしい報告書を渡してくれた。
現在、あの王太子様が惹かれているのは、ドドスコイ男爵家のチルビナ令嬢のようですわね。なんでも数代前は国のために全力で働かれた功績で男爵家になって、年々落ちてきているそうですわ。
で、現在の当主がうっかり手を出した使用人との子で、追い出すことなくそのまま家に置かれ、学園に通われていたらしいですけれども‥‥‥将来の臣下となられる方々‥‥‥そのほかの取りまき方ともしっかり肉体関係を築き上げ、既に王太子様とも結ばれてらっしゃる時点で、色々と頭が駄目な方だと察しましたわ。
妾、側室ならともかく、王太子妃を所望してその他の方々とも関係を続けたいようですし、既に王太子様の方もしっかりと計画を練られているようですし、完全にアウトですわね。というか、そこまで練ることができたのであれば、この状況を察せるはずなのにできないのは何故でしょう?
「頭が完全に、花畑どころか肥溜めのようです」
「それですわね」
執事がボソッとそうつぶやきましたが、物凄く納得いたしました。
「今は認識阻害の腕輪を付けてますが、外してちょっと試したところ、あちらから接近して来ようとしていました。おそらくですが、見麗しいものであればだれであろうと関係ないようです」
「あら、大丈夫だったのかしら?」
「無意識ではなく意識しての魅了魔法も使われてましたが、残念過ぎるレベルでしたし効きませんでした。そもそも、お嬢様との契約がありますので、その間は支障が起きないように徹底した妨害を無効化する魔法を自身にかけていますからね。いえ、なくともあのおぞましいのはそもそも生理的に無理なのが一番の原因ですが…‥‥」
あらあら、あのチルビナ令嬢というお方、思いっきり犯罪行為を犯しましたわね。
魅了魔法というのは、確か禁術指定で極刑へ向かわれるはずですが、命が惜しくなかったのかしら。
というか、彼におぞましいと言わせる時点で、どういう方なのかよくわかった気がしますわ。
「そう考えると、王太子様方もそれに操られているだけとかは?」
「いえ、まったくなく、むしろ自ら率先してかかっているようなので有罪かと」
魅了魔法が解けても意味がないということね‥‥‥‥ああ、つくづく救いようがないですわねぇ。まだあっさりかけられているだけの情けなさであれば情状酌量の余地はありましたのに、自ら放棄してどっぷり浸かっていらっしゃるのであれば、もう容赦はできないのですわ。
‥‥‥元々、この会場に来たのは、わたくしが最後の判断を下すためのもの。
あの王太子が、どうもあの令嬢を妾でも側室でもなく、正妃として迎えるためにわたくしを陥れようとしているという情報を聞きましたからね。
大勢の者たちが集まる場で貶め、勢いで認められようとしているようですが…‥‥駄目ですわね。
報告書を見る限り、きちんと貶めるための偽の証拠を集めていらっしゃるようでしたが、全部あやふやなモノばかりなものの上に、浮気を堂々としていたという罪を告白してしまうようなものですもの。
ああ、でもしいて及第点を上げるのであれば、あの令嬢の言葉だけではなく、きちんと偽の証拠も積み重ね…‥‥
「‥‥‥言葉を信用せずにやっている時点で、それなりに考えているのかしら?」
「いえ、どうもあのチビルナ令嬢の入れ知恵のようです。言葉だけでは証拠になりえないので、きちんとした証拠を用意するべきだと言われたようです」
「それであのレベルなのかしら?」
入れ知恵もされての用意なのに。それでもお粗末な証拠ばかりなのはどうなのだろうかと言いたくもなる。
「まぁ、別に良いわね。っと、そう言えばそろそろかしら?」
ふと気が付けば、ちょうど予定時刻になりそうである。
一旦話を切り上げて、ゼリアスをそれとなく下げ、軽く王太子の目に触れるようにしておく。
ああ、他国のお客様方も、婚約話の事を知っていらっしゃるので、わたくしが一人で、そして王太子様が他の令嬢を引き連れている時点で、もう察しているわね。
ええ、もう取り返しのつかないところまできていらっしゃるのに、わたくしを見つけてにやりと笑みを浮かべる王太子様が、滑稽さを醸し出しているわね。いえ、この場合は道化の方が合っているかしら?
「見つけたぞ、ミア・フォン・アックス公爵令嬢!!話があるからここへ来い!!」
堂々と会場のど真ん中でそう言い放つ王太子様。
その瞬間に国王夫妻が完全に見捨てる気の目で見てますので、できればちょうどいいタイミングで入っていただきたいところですわね。
「この場で宣言する!!お前との婚約を破棄し、この私はチビルナとの婚約を結ぶ!!さらにこの犯罪者の令嬢に関しての罪状を今この場で読み上げよう!!」
周囲の方々の冷え切った目などにも気が付かず、チビルナ令嬢との甘い世界に入っていらっしゃるようですが‥‥‥まぁ、うん、完全に聞き流す方が得ですわね。
さてさて、貴方は今の立場を理解できるのかどうか‥‥‥は無理ですわね。それでは、大人しく聞き流しながらさっさと済ませてしまいましょう…‥‥
――――――――――――――――――
「この場で宣言する!!お前との婚約を破棄し、この私はチビルナとの婚約を結ぶ!!さらにこの犯罪者の令嬢に関しての罪状を今この場で読み上げよう!!」
‥‥‥盛大にそう宣言したのは、この国の噂に名高い馬鹿王太子。
いや、もう元が付くだけになるだろうけれども、あそこまで堂々としている様は使いようによってはいい方向へ逝かせたかもしれないが‥‥どうでもいいか。
そう思いながら、執事として仕えていた主であるミアお嬢様に対して、思いっきりいろいろな偽の証拠を突き出しまくり、言いたいことを言うだけの様はまさに道化のように思えた。
人外である身ではあるが、あの思考能力は人外すらも凌駕するような腐れ切った者であろう。
お嬢さまが自ら努力して手に入れていた知性をねたみ、上質な品行をやっかみ、自身にはない慈愛心をののしり、救いようのないさまをまざまざと会場中に見せていく。
というか凄いなアレ。調べた俺が言うのもなんだが、あの悪食とかが好んで食べるであろう、穢れまくった魂の塊としか言いようがない。
その横の、今回の元凶となった男爵令嬢の方も、王太子には涙ぐんで寄り添っているようだが、あちらはあちらでこれまた違った穢れ具合が凄まじすぎる。
…‥‥魅了魔法の代償か?いや、代償にしても汚れすぎているから、多分元からである。
会場内ではそう言う類も考えて、事前に防止の魔道具を付けている者たちもおり、あの男爵令嬢が魅了魔法で周囲の同情を誘おうとしているのを理解したようで、より冷めきった視線を向けているのだが…‥それがお嬢様の方に向いているとでも勘違いしたのか、ちょっと顔を隠してにやけた。あ、穢れ具合増した。
っと、考えている間にどうやらその偽証拠を全部出しきったようだ。
「以上の事から、ミア・フォン・アックス公爵令嬢は王太子にふさわしくないどころか、貴族とすらも言えないような浅ましさ、卑劣さ、汚さを兼ね備えている!!よってこれより婚約破棄を行い、チビルナ令嬢と私が婚約を結ぼう!!」
どやぁっと、華麗にグーパンチで殴りたくなるような誇った顔をした王太子。
その様子を見て、国王夫妻がようやく動こうとしたようだが…‥‥その前に、更に馬鹿な事を言い出し始めた。
「さらに次期王太子として宣言しよう!!よりこの国を富ませるために働くことを誓い、その手っ取り早い手段として戦争も視野に入れよう!!まずは、魔王がいるとされる国、ボラーン王国へ宣戦を布告する!!どうせいるいる詐欺の狂言であろうし、楽に攻められるであろう!!」
宣言に対して、周囲の者たちは冷めた視線から一転し、青ざめた表情を浮かべ始めた。
あの馬鹿王太子、都合のいい事ばかりしか目にしないのか、都合の悪い事を信じないたちなのか、どっちなのか分からないが、ものすっごいやらかしをしやがった。
ボラーン王国‥‥‥今は女王が収めている国ではあるが、その女王の王配が魔王と言われる存在。
人知を超えた力を持ちつつ、別に悪しき存在ではないのだが、その実力は桁外れであり、下手に挑めば一国が滅びるとされている。
いや、実際にそれだけの力を持っていることは知っているのだが、そんな相手がいる国への宣戦布告は、まさに王太子の頭のおかしさを表すようなものである。
相手国の情報を正確に受け取ろうともせずに、自分に都合よく曲げたからなのだろうか。
ああ、国王夫妻も非常に不味すぎると理解したようだが…‥‥うーん、責任がないわけじゃないからなぁ。
もうすでに切り捨てようと判断していても、そもそもあの王太子の教育に関わり切っていなかったのもあるだろうし、重要な事をしっかりと覚えさせなかった親の責任もある。
あわただしく動き、色々叫びながら王太子が状況を把握する前に強烈な一撃を叩き込んだが‥‥‥時すでに遅し。
会場に招待されていた招待客たちは素早く不味さを把握して蜘蛛の子を散らすように速攻で逃亡し、王太子や令嬢の取りまきたちはついでに親たちに取り押さえられて引きずられ、あっという間に会場から人がいなくなった。
「色々と偽物の証拠に関して言う前に、やらかしましたわね‥‥‥」
「あ、お嬢様もいつの間に」
「さっきですわ。とりあえず、雑談をする前にさっさと逃げましょう」
「そうしましょう」
あの王太子が何かと言おうと何とか立ち上がったが、その前にこちらはさっさと退散させていただいた。
国王夫妻も慌てて引き留めようとしていたが、用もないし、巻き添えを喰らいたくない身としては逃げるが勝ちである。
馬車にササっと乗車し、素早く進ませ始める。
「さてと、お嬢様。この国にいる猶予はそこまでないですが、どういたしましょうか?」
「そうね、今回の件はもう分かっていたことですし、直ぐにお父様方の方へ伝わって、国外逃亡を図ることになるでしょう」
何しろ、あの王太子が婚約破棄だけをするならいざ知らず、とんでもない所へ見事に宣戦布告したのだ。
王太子を即座に廃嫡するとかそういう措置を取っても、それをする前に防げなかったのか色々と問題もあるだろうし、国外へ逃亡する貴族は多く出るだろう。
「とはいえ、魔王に関しては良く知っていますからね。口利きをして、なんとか穏便に図ってもらうべきでしょうか?」
「あら、そう言えば前に知己だとか言ってましたわね」
「お嬢様に仕える前に少々ありましたからね」
…‥‥友人でもあるが、この国をただで済ませることは流石にできないだろうなぁ。国の面子とかもあるだろうし、宣戦布告の時点でアウトだろうし、何処かで妥協してもらうしかないだろう。
「とはいえ、そこまでこの国に思い入れもないですけれどね」
「まぁ、わたくしが召喚して過ごしているだけですものね」
そう、俺はそもそもお嬢様に仕える執事ではない。人間ではなく、悪魔の中の大悪魔、ゼリアス。
と言っても、悪魔らしい所業は好まず、森で普通に妹とのんびりとスローライフを送っていたが‥…このお嬢様がうっかりその手の才能を開花させてしまったのか、俺を召喚してしまったのである。
古今東西、こういう化け物じみた存在は願いを叶え、その代償を貰うのだが、俺もその例に漏れることはない。
召喚された以上、願いを言ってもらい、代償を貰うのだが…‥‥このお嬢様の場合は単純に、「専属執事になってほしい」というもの。
代償は死後に天へ還らず、こちらが引き取る程度ではある。
‥‥‥まぁ、別に地獄とかへ連れて行く気はないけどな。うん、長い悪魔生としては、執事になるのは実は3度目だったりするし、暇つぶしにはなるだろう。
召喚した意味はあったのかと言いたくなるけれども、一応きちんとした手続きを経て専用執事となって十年ほどだったが‥‥‥まさか、あの王太子がここまで馬鹿をやらかすとは思わなかった。
少なくとも、あの会話は魔王配下のメイドとかが聞いているだろうからなぁ‥‥‥判断する前に、処分されるのが目に見えている。
それもそれで別にどうでもいいか。俺にとって国はどうでもよく、今は契約として付き従っているお嬢様の執事としてあるだけだからな。
「とはいえ、婚約破棄で少々お嬢様の名に傷がつくと思われますので、この際穏便に図るついでにお嬢様の相手に関しての相談もして見ましょう。あの魔王の配下の方なら、その手の方に強い方もいますし、不安定なこの国にいるよりも非常にいいことになるでしょう」
「それもそうですわね。では、そのようにお願いいたしますわ」
「かしこまりました」
どうせこの国にとどまる意味もないし、執事としてはお嬢様のためになるように動けばいい。
何処ぞやのメイドの気持ちが分かるような気がしなくもないが、深みに嵌る気は無いなぁ…‥‥まぁ、面白いから別に良いけどな。
何にしても、このあと俺は、きちんと国外へお嬢様方を避難させ、この騒動によって引き起こされるであろう厄災が過ぎ去るのを待った。
まぁ、特にたいしたものは無く、あの王太子及びその令嬢、関係者などが悲惨な末路を辿った程度で済み、直ぐに国へ貴族たちが戻る中で、お嬢様が率先して貴族共を牽引した。
‥‥‥結果、国王夫妻は退任し、新しい王の座として、本来は王太子妃となって血縁自体は無いお嬢様が、新しい時代の王家として担ぎ上げられ、女王になってしまった。
そのせいで、女王の夫の座に就きたい者たちからの求婚が増え、お嬢様が物凄い婚期に悩まされたのは言うまでもない。
さらに言うのであれば、実はその召喚当時から肉食性があったのか、お嬢様に俺が狙われていたらしく‥‥‥‥
「容姿ばっちり、能力ばっちり、悪魔とはいえ悪の心も見ることないですし、婿に迎えても問題ないですわよね?」
「…‥‥別により良い人がいると思うのですが。そして何でしょうか、この鎖。全然外れないんですが」
がっちり鎖でぐるぐる巻きにされた上に、何故ベッドに転がされているのでしょうか。
「魔王配下のメイドさんと、この間知り合いになりましたの。仲良くなり、せっかくなのでちょっと特別製の捕獲罠を融通してもらったのですわ」
「…‥‥捕獲?あ、なんかすごい嫌な予感が‥‥‥」
「大丈夫よ、天井の染みを数えている間に終わりますわ!!」
「掃除しているからそもそも染みないし、このまま狙われて終わるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
…‥‥無事に守り抜けてたのかは、また別のお話。
少なくとも、今回は逃げ切れたのだが…‥‥いかんせん、執事として付いた契約のせいで離れ切る事もできず、この後もまだまだ襲撃があったが…それはまた、別のお話。
―――――完
「ちょっとだけ設定紹介」
『ミア・フォン・アックス公爵令嬢』
公爵家の令嬢にして、頭の切れる才女。王太子の婚約者ではあったが、婚約破棄に関しての情報を集め、やり返す予定はあったのだが、やらかされたせいで用意したそれが意味をなさなくなった。
残念に思いつつも、ちょっとワーカーホリックな気質が災いして、いつの間にか女王に祭り上げられてしまい、結果としてはより具体的に政治改革などを行えることができたので満足している。
残りとしては、幼い時にうっかりで召喚した悪魔ゼリアスを、その能力の高さなどが夫としての条件に合致しており、もともと好意を抱いてはいたので、婚約破棄ついでに婿にしようと画策中。悪魔以上に肉食系という、隠れた素性が明らかになった。
『執事・悪魔ゼリアス』
ミアの幼少期に召喚され、契約して専属執事となった悪魔。長い悪魔生としては暇つぶしに都合が良かったはずが、いつの間にか自身の貞操が狙われる羽目になった。どうしてこうなった。
有能な人外執事として信頼は高く、悪魔の中でも大悪魔と呼ばれる類なのだが、女王に狙われるその姿は国の名物となっていった。本当にどうしてこうなった。
なお、人間と番になること自体は嫌悪しているわけではない。ただ単純に、心の整理がつかないことと、肉食系の気配で思わず恐怖に震えてしまったからである。大悪魔が震えるほどの肉食性…‥‥国民にはバレなかったらしいが、それでも非常に大変な日々を送ったのはまた別のお話。
『王太子』
フルネームが一切出なかった、元婚約者。男爵令嬢の魅了にかかっているだけであればまだ情状酌量の余地はあったのだが、どっぷり浸かり、自らの意思で動いていたために無くなってしまった。
盛大に馬鹿をやらかしたが、一応偽の証拠を積み重ねて本物のふりをさせる程度に知能はあった模様。もっと別の方向に活かせば開花できたかもしれないが、残念ながら機会も与えられず、自身の放った言葉の責任を取らされて死亡した。
死後はしっかり悪魔ゼリアスがその魂を確保しており、穢れ過ぎていたので捕食できる専門家の元へ輸送した。
『チルビナ・フォン・ドドスコイ男爵令嬢』
今回の婚約破棄の元凶となった令嬢。頭の中お花畑。
別にどこかで乙女ゲームでも堪能していた転生者という訳ではなく、本当に頭が足りなかった。
なお、禁忌とされる魅了の魔法の常習者でもあり、死亡する前にそもそも捕らえて極刑予定だったので、どっちにしろ運命は変わらなかった模様。どこで知ったのかはともかく、救いようがないほど魂が穢れていたので、こちらもゼリアスが確保し、専門家の元へ輸送した。専門家の感想いわく、『稀に見る極上の下種具合』らしい。
『名前すら出されなかったそれぞれの取りまきたち』
テンプレにありそうな一団ではあるが、残念ながら詳細は省かれた。王太子のやらかした宣言後に慌てて賀来家の親が無理やり引きずって連れ帰ったが、結果として王太子と同じ末路を辿った。
『国王夫妻』
全然悪くない被害者…‥‥とは言えない、王太子の親。
民をそれなりに慈しむ、それなりに良い国王夫妻ではあったが、残念ながら子供の教育に甘くし過ぎたようで、見事に子育てを失敗した。
危く王太子のせいで国が亡びるかと思われたが、なんとかその命だけで助かったようであり、責任を取って王家という立場を折りて隠居した。
隠居後に再び子を授かったが、今度は真面目に夫妻が教育を施した結果、皮肉にも王太子とは真逆の良い子が育ってしまい、こっちがあの時王太子であればよかったのにと嘆くようになった。
『魔王』
この国とは違う、ボラーン王国と呼ばれる国の女王の王配とされる魔王。政治的な権力は持ち合わせていないようだが、それでも相当の力を持っていることは知られており、戦争を挑んだ国=滅亡するほどであった。
ゆえに、王太子の宣言を聞いて被害を受ける前に貴族たちは逃亡したが、当の魔王本人は特に気にしていなかったらしい。ただ、一応害する宣言を受けたので、軽く廃嫡してもらい、後は野となれ山となれ程度で済ませるはずであったのだが、何をどうしてか勝手に王太子たちが死亡したので、ちょっと驚愕中。
『どこぞやのメイド』
魔王の配下とされる、かなりの数がいるとされるメイド。確認できるだけで、この時点で1000人はいたらしい。
王太子一味の危険性を考慮しつつも、流石に命を奪う気は無かった。
彼らの命が奪われた真の理由は、ちょこっと細工を施して互いの心の言葉が聞こえる程度にした結果らしいが‥‥‥
執事がそう問いかける言葉に、わたくしはどうしたものかと考えこむ。
仕方が無い事だろう。なぜならば…‥‥
「婚約者の自覚もない、王太子様が華麗にどこかの誰かと踊ってらっしゃいますからね‥‥‥ここで出ようにも、出ることはできませんわね」
「この国の国王陛下も、思いっきり凄い険しい顔をされてますが‥‥‥事前に話したからこそ、もはや見捨てる算段を立てているようでございます」
「王妃様も、完全に冷たい目なのに、それすら気にせず堂々と立ち振る舞えるふてぶてしさに、むしろ感嘆いたしますわね」
‥‥‥ゼラチニー王国の舞踏会会場。
本日は他国も招いての、王太子様の誕生日会も兼ねており、盛大にかつ豪勢に、かなり装飾が凝らされつつ、色々と整えて準備もしたのだが‥‥‥いかんせん、誕生日を祝う会場からあの王太子が転がり落ちるための前夜祭のように思えてきてしまう。
祝いの場どころか、葬式のような雰囲気が出てきているのに、全く気が付いていないご様子。
いや、一応あれでもわたくしの婚約者でもありますが‥‥‥ええ、これはもう、完全に見捨てて良いですわね。
「調査からの予定時間はもうちょっとありますし‥‥‥ゼリアス、今のうちにちょっとあの王太子様にエスコートされてらっしゃる方の詳細を聞いておきたいですわ」
「既に調査済みでございます」
そう言い、この人外有能執事は小さくしつつ、物凄く見えやすく作成したらしい報告書を渡してくれた。
現在、あの王太子様が惹かれているのは、ドドスコイ男爵家のチルビナ令嬢のようですわね。なんでも数代前は国のために全力で働かれた功績で男爵家になって、年々落ちてきているそうですわ。
で、現在の当主がうっかり手を出した使用人との子で、追い出すことなくそのまま家に置かれ、学園に通われていたらしいですけれども‥‥‥将来の臣下となられる方々‥‥‥そのほかの取りまき方ともしっかり肉体関係を築き上げ、既に王太子様とも結ばれてらっしゃる時点で、色々と頭が駄目な方だと察しましたわ。
妾、側室ならともかく、王太子妃を所望してその他の方々とも関係を続けたいようですし、既に王太子様の方もしっかりと計画を練られているようですし、完全にアウトですわね。というか、そこまで練ることができたのであれば、この状況を察せるはずなのにできないのは何故でしょう?
「頭が完全に、花畑どころか肥溜めのようです」
「それですわね」
執事がボソッとそうつぶやきましたが、物凄く納得いたしました。
「今は認識阻害の腕輪を付けてますが、外してちょっと試したところ、あちらから接近して来ようとしていました。おそらくですが、見麗しいものであればだれであろうと関係ないようです」
「あら、大丈夫だったのかしら?」
「無意識ではなく意識しての魅了魔法も使われてましたが、残念過ぎるレベルでしたし効きませんでした。そもそも、お嬢様との契約がありますので、その間は支障が起きないように徹底した妨害を無効化する魔法を自身にかけていますからね。いえ、なくともあのおぞましいのはそもそも生理的に無理なのが一番の原因ですが…‥‥」
あらあら、あのチルビナ令嬢というお方、思いっきり犯罪行為を犯しましたわね。
魅了魔法というのは、確か禁術指定で極刑へ向かわれるはずですが、命が惜しくなかったのかしら。
というか、彼におぞましいと言わせる時点で、どういう方なのかよくわかった気がしますわ。
「そう考えると、王太子様方もそれに操られているだけとかは?」
「いえ、まったくなく、むしろ自ら率先してかかっているようなので有罪かと」
魅了魔法が解けても意味がないということね‥‥‥‥ああ、つくづく救いようがないですわねぇ。まだあっさりかけられているだけの情けなさであれば情状酌量の余地はありましたのに、自ら放棄してどっぷり浸かっていらっしゃるのであれば、もう容赦はできないのですわ。
‥‥‥元々、この会場に来たのは、わたくしが最後の判断を下すためのもの。
あの王太子が、どうもあの令嬢を妾でも側室でもなく、正妃として迎えるためにわたくしを陥れようとしているという情報を聞きましたからね。
大勢の者たちが集まる場で貶め、勢いで認められようとしているようですが…‥‥駄目ですわね。
報告書を見る限り、きちんと貶めるための偽の証拠を集めていらっしゃるようでしたが、全部あやふやなモノばかりなものの上に、浮気を堂々としていたという罪を告白してしまうようなものですもの。
ああ、でもしいて及第点を上げるのであれば、あの令嬢の言葉だけではなく、きちんと偽の証拠も積み重ね…‥‥
「‥‥‥言葉を信用せずにやっている時点で、それなりに考えているのかしら?」
「いえ、どうもあのチビルナ令嬢の入れ知恵のようです。言葉だけでは証拠になりえないので、きちんとした証拠を用意するべきだと言われたようです」
「それであのレベルなのかしら?」
入れ知恵もされての用意なのに。それでもお粗末な証拠ばかりなのはどうなのだろうかと言いたくもなる。
「まぁ、別に良いわね。っと、そう言えばそろそろかしら?」
ふと気が付けば、ちょうど予定時刻になりそうである。
一旦話を切り上げて、ゼリアスをそれとなく下げ、軽く王太子の目に触れるようにしておく。
ああ、他国のお客様方も、婚約話の事を知っていらっしゃるので、わたくしが一人で、そして王太子様が他の令嬢を引き連れている時点で、もう察しているわね。
ええ、もう取り返しのつかないところまできていらっしゃるのに、わたくしを見つけてにやりと笑みを浮かべる王太子様が、滑稽さを醸し出しているわね。いえ、この場合は道化の方が合っているかしら?
「見つけたぞ、ミア・フォン・アックス公爵令嬢!!話があるからここへ来い!!」
堂々と会場のど真ん中でそう言い放つ王太子様。
その瞬間に国王夫妻が完全に見捨てる気の目で見てますので、できればちょうどいいタイミングで入っていただきたいところですわね。
「この場で宣言する!!お前との婚約を破棄し、この私はチビルナとの婚約を結ぶ!!さらにこの犯罪者の令嬢に関しての罪状を今この場で読み上げよう!!」
周囲の方々の冷え切った目などにも気が付かず、チビルナ令嬢との甘い世界に入っていらっしゃるようですが‥‥‥まぁ、うん、完全に聞き流す方が得ですわね。
さてさて、貴方は今の立場を理解できるのかどうか‥‥‥は無理ですわね。それでは、大人しく聞き流しながらさっさと済ませてしまいましょう…‥‥
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「この場で宣言する!!お前との婚約を破棄し、この私はチビルナとの婚約を結ぶ!!さらにこの犯罪者の令嬢に関しての罪状を今この場で読み上げよう!!」
‥‥‥盛大にそう宣言したのは、この国の噂に名高い馬鹿王太子。
いや、もう元が付くだけになるだろうけれども、あそこまで堂々としている様は使いようによってはいい方向へ逝かせたかもしれないが‥‥どうでもいいか。
そう思いながら、執事として仕えていた主であるミアお嬢様に対して、思いっきりいろいろな偽の証拠を突き出しまくり、言いたいことを言うだけの様はまさに道化のように思えた。
人外である身ではあるが、あの思考能力は人外すらも凌駕するような腐れ切った者であろう。
お嬢さまが自ら努力して手に入れていた知性をねたみ、上質な品行をやっかみ、自身にはない慈愛心をののしり、救いようのないさまをまざまざと会場中に見せていく。
というか凄いなアレ。調べた俺が言うのもなんだが、あの悪食とかが好んで食べるであろう、穢れまくった魂の塊としか言いようがない。
その横の、今回の元凶となった男爵令嬢の方も、王太子には涙ぐんで寄り添っているようだが、あちらはあちらでこれまた違った穢れ具合が凄まじすぎる。
…‥‥魅了魔法の代償か?いや、代償にしても汚れすぎているから、多分元からである。
会場内ではそう言う類も考えて、事前に防止の魔道具を付けている者たちもおり、あの男爵令嬢が魅了魔法で周囲の同情を誘おうとしているのを理解したようで、より冷めきった視線を向けているのだが…‥それがお嬢様の方に向いているとでも勘違いしたのか、ちょっと顔を隠してにやけた。あ、穢れ具合増した。
っと、考えている間にどうやらその偽証拠を全部出しきったようだ。
「以上の事から、ミア・フォン・アックス公爵令嬢は王太子にふさわしくないどころか、貴族とすらも言えないような浅ましさ、卑劣さ、汚さを兼ね備えている!!よってこれより婚約破棄を行い、チビルナ令嬢と私が婚約を結ぼう!!」
どやぁっと、華麗にグーパンチで殴りたくなるような誇った顔をした王太子。
その様子を見て、国王夫妻がようやく動こうとしたようだが…‥‥その前に、更に馬鹿な事を言い出し始めた。
「さらに次期王太子として宣言しよう!!よりこの国を富ませるために働くことを誓い、その手っ取り早い手段として戦争も視野に入れよう!!まずは、魔王がいるとされる国、ボラーン王国へ宣戦を布告する!!どうせいるいる詐欺の狂言であろうし、楽に攻められるであろう!!」
宣言に対して、周囲の者たちは冷めた視線から一転し、青ざめた表情を浮かべ始めた。
あの馬鹿王太子、都合のいい事ばかりしか目にしないのか、都合の悪い事を信じないたちなのか、どっちなのか分からないが、ものすっごいやらかしをしやがった。
ボラーン王国‥‥‥今は女王が収めている国ではあるが、その女王の王配が魔王と言われる存在。
人知を超えた力を持ちつつ、別に悪しき存在ではないのだが、その実力は桁外れであり、下手に挑めば一国が滅びるとされている。
いや、実際にそれだけの力を持っていることは知っているのだが、そんな相手がいる国への宣戦布告は、まさに王太子の頭のおかしさを表すようなものである。
相手国の情報を正確に受け取ろうともせずに、自分に都合よく曲げたからなのだろうか。
ああ、国王夫妻も非常に不味すぎると理解したようだが…‥‥うーん、責任がないわけじゃないからなぁ。
もうすでに切り捨てようと判断していても、そもそもあの王太子の教育に関わり切っていなかったのもあるだろうし、重要な事をしっかりと覚えさせなかった親の責任もある。
あわただしく動き、色々叫びながら王太子が状況を把握する前に強烈な一撃を叩き込んだが‥‥‥時すでに遅し。
会場に招待されていた招待客たちは素早く不味さを把握して蜘蛛の子を散らすように速攻で逃亡し、王太子や令嬢の取りまきたちはついでに親たちに取り押さえられて引きずられ、あっという間に会場から人がいなくなった。
「色々と偽物の証拠に関して言う前に、やらかしましたわね‥‥‥」
「あ、お嬢様もいつの間に」
「さっきですわ。とりあえず、雑談をする前にさっさと逃げましょう」
「そうしましょう」
あの王太子が何かと言おうと何とか立ち上がったが、その前にこちらはさっさと退散させていただいた。
国王夫妻も慌てて引き留めようとしていたが、用もないし、巻き添えを喰らいたくない身としては逃げるが勝ちである。
馬車にササっと乗車し、素早く進ませ始める。
「さてと、お嬢様。この国にいる猶予はそこまでないですが、どういたしましょうか?」
「そうね、今回の件はもう分かっていたことですし、直ぐにお父様方の方へ伝わって、国外逃亡を図ることになるでしょう」
何しろ、あの王太子が婚約破棄だけをするならいざ知らず、とんでもない所へ見事に宣戦布告したのだ。
王太子を即座に廃嫡するとかそういう措置を取っても、それをする前に防げなかったのか色々と問題もあるだろうし、国外へ逃亡する貴族は多く出るだろう。
「とはいえ、魔王に関しては良く知っていますからね。口利きをして、なんとか穏便に図ってもらうべきでしょうか?」
「あら、そう言えば前に知己だとか言ってましたわね」
「お嬢様に仕える前に少々ありましたからね」
…‥‥友人でもあるが、この国をただで済ませることは流石にできないだろうなぁ。国の面子とかもあるだろうし、宣戦布告の時点でアウトだろうし、何処かで妥協してもらうしかないだろう。
「とはいえ、そこまでこの国に思い入れもないですけれどね」
「まぁ、わたくしが召喚して過ごしているだけですものね」
そう、俺はそもそもお嬢様に仕える執事ではない。人間ではなく、悪魔の中の大悪魔、ゼリアス。
と言っても、悪魔らしい所業は好まず、森で普通に妹とのんびりとスローライフを送っていたが‥…このお嬢様がうっかりその手の才能を開花させてしまったのか、俺を召喚してしまったのである。
古今東西、こういう化け物じみた存在は願いを叶え、その代償を貰うのだが、俺もその例に漏れることはない。
召喚された以上、願いを言ってもらい、代償を貰うのだが…‥‥このお嬢様の場合は単純に、「専属執事になってほしい」というもの。
代償は死後に天へ還らず、こちらが引き取る程度ではある。
‥‥‥まぁ、別に地獄とかへ連れて行く気はないけどな。うん、長い悪魔生としては、執事になるのは実は3度目だったりするし、暇つぶしにはなるだろう。
召喚した意味はあったのかと言いたくなるけれども、一応きちんとした手続きを経て専用執事となって十年ほどだったが‥‥‥まさか、あの王太子がここまで馬鹿をやらかすとは思わなかった。
少なくとも、あの会話は魔王配下のメイドとかが聞いているだろうからなぁ‥‥‥判断する前に、処分されるのが目に見えている。
それもそれで別にどうでもいいか。俺にとって国はどうでもよく、今は契約として付き従っているお嬢様の執事としてあるだけだからな。
「とはいえ、婚約破棄で少々お嬢様の名に傷がつくと思われますので、この際穏便に図るついでにお嬢様の相手に関しての相談もして見ましょう。あの魔王の配下の方なら、その手の方に強い方もいますし、不安定なこの国にいるよりも非常にいいことになるでしょう」
「それもそうですわね。では、そのようにお願いいたしますわ」
「かしこまりました」
どうせこの国にとどまる意味もないし、執事としてはお嬢様のためになるように動けばいい。
何処ぞやのメイドの気持ちが分かるような気がしなくもないが、深みに嵌る気は無いなぁ…‥‥まぁ、面白いから別に良いけどな。
何にしても、このあと俺は、きちんと国外へお嬢様方を避難させ、この騒動によって引き起こされるであろう厄災が過ぎ去るのを待った。
まぁ、特にたいしたものは無く、あの王太子及びその令嬢、関係者などが悲惨な末路を辿った程度で済み、直ぐに国へ貴族たちが戻る中で、お嬢様が率先して貴族共を牽引した。
‥‥‥結果、国王夫妻は退任し、新しい王の座として、本来は王太子妃となって血縁自体は無いお嬢様が、新しい時代の王家として担ぎ上げられ、女王になってしまった。
そのせいで、女王の夫の座に就きたい者たちからの求婚が増え、お嬢様が物凄い婚期に悩まされたのは言うまでもない。
さらに言うのであれば、実はその召喚当時から肉食性があったのか、お嬢様に俺が狙われていたらしく‥‥‥‥
「容姿ばっちり、能力ばっちり、悪魔とはいえ悪の心も見ることないですし、婿に迎えても問題ないですわよね?」
「…‥‥別により良い人がいると思うのですが。そして何でしょうか、この鎖。全然外れないんですが」
がっちり鎖でぐるぐる巻きにされた上に、何故ベッドに転がされているのでしょうか。
「魔王配下のメイドさんと、この間知り合いになりましたの。仲良くなり、せっかくなのでちょっと特別製の捕獲罠を融通してもらったのですわ」
「…‥‥捕獲?あ、なんかすごい嫌な予感が‥‥‥」
「大丈夫よ、天井の染みを数えている間に終わりますわ!!」
「掃除しているからそもそも染みないし、このまま狙われて終わるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
…‥‥無事に守り抜けてたのかは、また別のお話。
少なくとも、今回は逃げ切れたのだが…‥‥いかんせん、執事として付いた契約のせいで離れ切る事もできず、この後もまだまだ襲撃があったが…それはまた、別のお話。
―――――完
「ちょっとだけ設定紹介」
『ミア・フォン・アックス公爵令嬢』
公爵家の令嬢にして、頭の切れる才女。王太子の婚約者ではあったが、婚約破棄に関しての情報を集め、やり返す予定はあったのだが、やらかされたせいで用意したそれが意味をなさなくなった。
残念に思いつつも、ちょっとワーカーホリックな気質が災いして、いつの間にか女王に祭り上げられてしまい、結果としてはより具体的に政治改革などを行えることができたので満足している。
残りとしては、幼い時にうっかりで召喚した悪魔ゼリアスを、その能力の高さなどが夫としての条件に合致しており、もともと好意を抱いてはいたので、婚約破棄ついでに婿にしようと画策中。悪魔以上に肉食系という、隠れた素性が明らかになった。
『執事・悪魔ゼリアス』
ミアの幼少期に召喚され、契約して専属執事となった悪魔。長い悪魔生としては暇つぶしに都合が良かったはずが、いつの間にか自身の貞操が狙われる羽目になった。どうしてこうなった。
有能な人外執事として信頼は高く、悪魔の中でも大悪魔と呼ばれる類なのだが、女王に狙われるその姿は国の名物となっていった。本当にどうしてこうなった。
なお、人間と番になること自体は嫌悪しているわけではない。ただ単純に、心の整理がつかないことと、肉食系の気配で思わず恐怖に震えてしまったからである。大悪魔が震えるほどの肉食性…‥‥国民にはバレなかったらしいが、それでも非常に大変な日々を送ったのはまた別のお話。
『王太子』
フルネームが一切出なかった、元婚約者。男爵令嬢の魅了にかかっているだけであればまだ情状酌量の余地はあったのだが、どっぷり浸かり、自らの意思で動いていたために無くなってしまった。
盛大に馬鹿をやらかしたが、一応偽の証拠を積み重ねて本物のふりをさせる程度に知能はあった模様。もっと別の方向に活かせば開花できたかもしれないが、残念ながら機会も与えられず、自身の放った言葉の責任を取らされて死亡した。
死後はしっかり悪魔ゼリアスがその魂を確保しており、穢れ過ぎていたので捕食できる専門家の元へ輸送した。
『チルビナ・フォン・ドドスコイ男爵令嬢』
今回の婚約破棄の元凶となった令嬢。頭の中お花畑。
別にどこかで乙女ゲームでも堪能していた転生者という訳ではなく、本当に頭が足りなかった。
なお、禁忌とされる魅了の魔法の常習者でもあり、死亡する前にそもそも捕らえて極刑予定だったので、どっちにしろ運命は変わらなかった模様。どこで知ったのかはともかく、救いようがないほど魂が穢れていたので、こちらもゼリアスが確保し、専門家の元へ輸送した。専門家の感想いわく、『稀に見る極上の下種具合』らしい。
『名前すら出されなかったそれぞれの取りまきたち』
テンプレにありそうな一団ではあるが、残念ながら詳細は省かれた。王太子のやらかした宣言後に慌てて賀来家の親が無理やり引きずって連れ帰ったが、結果として王太子と同じ末路を辿った。
『国王夫妻』
全然悪くない被害者…‥‥とは言えない、王太子の親。
民をそれなりに慈しむ、それなりに良い国王夫妻ではあったが、残念ながら子供の教育に甘くし過ぎたようで、見事に子育てを失敗した。
危く王太子のせいで国が亡びるかと思われたが、なんとかその命だけで助かったようであり、責任を取って王家という立場を折りて隠居した。
隠居後に再び子を授かったが、今度は真面目に夫妻が教育を施した結果、皮肉にも王太子とは真逆の良い子が育ってしまい、こっちがあの時王太子であればよかったのにと嘆くようになった。
『魔王』
この国とは違う、ボラーン王国と呼ばれる国の女王の王配とされる魔王。政治的な権力は持ち合わせていないようだが、それでも相当の力を持っていることは知られており、戦争を挑んだ国=滅亡するほどであった。
ゆえに、王太子の宣言を聞いて被害を受ける前に貴族たちは逃亡したが、当の魔王本人は特に気にしていなかったらしい。ただ、一応害する宣言を受けたので、軽く廃嫡してもらい、後は野となれ山となれ程度で済ませるはずであったのだが、何をどうしてか勝手に王太子たちが死亡したので、ちょっと驚愕中。
『どこぞやのメイド』
魔王の配下とされる、かなりの数がいるとされるメイド。確認できるだけで、この時点で1000人はいたらしい。
王太子一味の危険性を考慮しつつも、流石に命を奪う気は無かった。
彼らの命が奪われた真の理由は、ちょこっと細工を施して互いの心の言葉が聞こえる程度にした結果らしいが‥‥‥
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