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353 こき使うことはこき使い

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‥‥‥適度に蟲の排除を行いつつ、月日は流れて夏季休暇の時期へと移り変わろうとする。

 既にディーたちが治める予定の国に関しての情報収集は終えており、休暇の間にある程度見て回ってどのように扱っていくのかという予定も立てていた。

「とは言え、その前にちょっと面倒なというか、大きな式典があるな」
「ええ、国王の退任式がありますからネ」

 ヴィステルダム王国の国王の退任式が、休暇前に行われるという連絡が学園内に伝わっていた。

 季節的に休みの時期は多くの者たちが各自の故郷へ帰ろうとしているのだが、その前の大きなイベントとして行うらしく、それと同時に新国王の新任式も行われるらしい。

 次期王となるのはゼノバース第1王子グラディ第2王子なのか…‥‥そのあたりはまだ、分かってはいないけれどね。


「一応、お兄様方はお父様から課せられた課題もありましたけれども、それを同時にこなしてしまったのよ。そのため、どっちになるのかはわからないですわねぇ」

 ずずっとノインの出したお茶を飲みつつ、くつろぎながらミウ第1王女はそう口にするが、彼女はこの王位継承争いからは抜けていた。

 手続きは済ませ、何時でも王家から抜ける事が出来る状態でありつつも、王家内の情報をしっかりといいているようだ。

 なお、エルディム第3王子も本来であればその争いに入っていたはずだが…‥‥あれはあれでもう特区の前に抜けており、現在挙式を上げて各国を巡る新婚旅行中らしい。先日、海洋国の方によったという手紙もあったが、あの国は国で復興中らしく旅行後はちょっとそこに留まる予定もあるのだとか。

「新しい国王がどっちになるのかが分からない、か‥‥‥‥出来ればさっさと知りたいけど、そこはまだ国王の口から出てないのか?」
「ええ、そうね。ギリギリまで伝えずに、最後までとっておく気らしいのよねぇ‥‥‥」

 諸事情で毎日髪型が落ち武者とか中心何もないボンバーヘッドになっている国王が、どちらを選ぶのかはまだわからない。

 さっさと公表すればいいのに取っておくとは‥‥‥‥あの国王、最後の最後でまだやらかしそうな気がするなぁ。


「そもそも国を与えてきたり、既に改造して色々と片付けたけど隠し部屋が多すぎる邸を与えてきたり‥‥‥これまでの事を考えると、最後にさらに爆弾を落としかねないのが目に見えている」
「分かるのぅ。ああいう輩の考えることは不明じゃが、やらかされるのが目に見えるのじゃ」

 うんうんと全員が深く頷き、同意し合う。

 一応、国を与えられた件で大きな爆弾は投下し終えていると思いたいのだが…‥‥それでも油断できないのが、あの国王だからなぁ。

「そもそも『遊び人』の職業だからこそ、落ち着けないというのもあるかもしれないわね。わたくしも同じようなものなのだけれども、お父様の方はさらにたちが悪いのよ」
「結果としてはいい方向に転ぶけれども、周囲に迷惑がかかるからなぁ‥‥‥」

 何が出てきてもおかしくないというか、何と言うか。

 人の動きというのは予測しやすい事もあるのだが、あの国王に関しては確実に予想外の動きをしてくるのだ。

「何が飛び出してくるかは不明ですが、警戒しておくに越したことは無いでしょウ」
「そうでござるなぁ、何が出るのかはわからぬでござるが‥」
「対応可能状態/作っておくのが/楽かも」
「まったく何でここまで振り回してくるのかがわからないぜ」
「ピャーァァイ、あの人、わからないもんねー」

 うんうんと再び頷き合いつつ、最後まで油断しないように全員で警戒を強めておく。

 こちらに何かをしてくる気かもしれないが、そのネタは国の投下の時点で尽きていると思いたい。

 それでもなお、まだまだ油断できない状態に、俺たちは深いため息を吐くのであった‥‥‥‥


「…‥‥そう言えばふと気になったけど、王子たちへの課題って何だったんだ?」
「んー、それは実は、よくわかってないのよねぇ。でも、難しいというか、選ぶのが大変だったとか、滅茶苦茶波乱万丈だったとか…‥‥すごい疲れた顔をしていたのよねぇ」









‥‥‥ディーたちが国王のやらかしに警戒心を強めている丁度その頃。

 そのやらかしの犠牲者同盟ともいえる王子たちは今、精根尽き果てたように床に伏していた。


「…‥‥疲れたというか、何と言うか…‥‥就任した暁には、父上を殴りたい」
「やるのであれば、こっちが一番にやりたいのだが…‥‥うん、どっちでもいいか」

 こぶしを握り締め、国王への盛大な一撃を約束し合いつつも、王子たちは疲れて動けないままである。

 もしも暗殺者とかがいればこの場で楽に仕留める事が出来ただろうが、生憎ながらそう言う類は王城内へ入る前に排除されていた。

「それを言うならば、なぜ自分も巻き添えにされたのかがわからないんですが‥‥‥‥」
「「一応、ディーの関係者だから巻き添えにしてやっただけだ」」
「わけのわからない理不尽な回答!?」

 そしてついでのように、王子たちの側には、最近姿を見かけることが無かったディーの悪友でもあるバルンが倒れており、返ってきた回答にツッコミを入れていた。

「大体なんで、巻き添えにされるんだ!!奴の友人というだけで、火の中水の中森の中とかあちこち連れまわされたんだよ!!」
「冗談冗談、一応実力を見てだよ」
「彼の方に目が行くことが多いが、優秀な生徒は多いからな‥‥‥その中で、そろって護衛の一人として選んだという訳だ」
「二人同時に選ばれて、二重に負担がかかったんですがぁ!?」


…‥‥ディーの知らぬ間に、どうやらバルンは王子たちの護衛としてスカウトされ、課題の数々をこなす旅路の巻き添えにされていたらしい。

 そんな事は誰も知る由はないのだが、今はただ、そろって体を癒したいと思うのであった‥‥‥‥


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