上 下
343 / 373

331 説明と言うのは、口頭でも難しいもの

しおりを挟む
‥‥‥ヴィステルダム王国の辺境地にある田舎のヌルングルス村。

 ディーの故郷でもあり、その実家内にて…‥‥彼の妹であるセラは、情報過多で倒れていた。

「‥‥‥に、兄ちゃん‥‥‥本当に何を、やらかしてー‥」
「あらあら、大変。ベッドでゆっくり寝て、頭の整理をしないといけないわ」

 きゅるるぅっと目を回し、倒れていたセラを抱え、母は彼女の部屋へ運び、ベッドに寝かせる。

 そしてある程度経ったところで、ようやくセラは気を取り直しつつ、横になりながらディーから届いた手紙を改めて読んだ。

 
 内容によれば、何やら怪しげな組織を潰し、国王から褒賞を貰ったという事。

 しかも、卒業後には以前からの夢でもあった諜報としての仕事が確定しているようで、しかも他国から頼られるようなものであるというのは、セラにとっても驚くべきことであり、兄の大きな出世と言えるので喜ばしいのである。

 だがしかし、その褒美のついでに出てきたような内容…‥‥国王の娘が嫁に出されてきたという点に驚愕させられる。

「‥‥‥そもそも兄ちゃん、既にノインさんに、カトレア、ルビー…‥‥いや、もっとたくさんいるのに‥‥‥なんでこんなに、嫁が増えるのー!!お兄ちゃん、何股もかけている最低男じゃないけど、それでも受け入れがたいの――――!!」

 自分の兄が、多くの嫁を持つことになったという事には、どうツッコめばいいのだろうか?

 色々と知っている女性の顔を思い浮かべては、それらがディーの元に集いっている光景を考え、妹と言う立場としては色々と複雑な気持ちを抱く。

 兄が立派になるのは良いのだが、義姉と言う方々が増えるのはいかがなものだろうか?

 召喚獣たちと言う立場もいるけれども、中には王女とか…‥‥‥どこまで手が伸びるのか、色々と言いたい。

「‥‥‥‥ううっ、これも兄ちゃんをしっかり見ていなかった、自分が悪いのー‥‥?」
「いえいえ、あなたは悪くないし、誰も悪くはないわよ?」
「お母さん‥‥‥」

 自分の責任かもしれないという自責の念を抱く中で、セラのところに母が戻って来た。

 その手には彼女の大好物の料理が用意されており、どうやら目覚める頃合いを見計らって作っていたらしい。

「そもそも、お父さんのとんでもなさを考えると、あの子がとんでもないことになるのは分かっていたのよねぇ‥‥‥大物になるというか、何と言うか…‥‥ふふふ、こうも盛大にやるのは予想以上だけれどもね」
「お父さんのとんでもなさ?」
「出会いからツッコミ満載なのは、お父さん譲りでしょ?」

…‥‥母のその言葉に、どうなのかと考え、不思議とセラは納得した。

 今でこそ、この村に根を下ろしてはいるのだが、かつて母と父は世界を旅していた。

 調理人としての腕も磨きつつ、世界各国を巡ってゆく度は波乱万丈であり、なにかと心休まるようなときは少なかったらしい。

 と言うのも、今は亡き父は何処かで何時無くなってもおかしくないような騒動ばかりに巻き込まれていたそうで、ある時は大鮫に喰われかけ、またある時は怪鳥に連れ去られ、はたまたあるときは生贄や依り代とかいうものにされかけるなど、何かとあったようなのだ。

 珍道中と言うべきか、ほぼ100%父のせいでの騒動だというべきものが多いらしいが‥‥‥だからこそ、そんなとんでもないことに巻き込まれまくった父の血を、ディーが引いていると言われると、納得できる。

「‥‥あの父にして、あの兄ちゃん‥‥‥‥うん、何だろう、物凄く分かるような気がする」
「ええ、そうねぇ。お父さんもかつてはモテモテだったし、ある意味血を引いているわね」

 とはいえ、母一人を選んだ父を考えると、ある意味兄よりも立派ではないだろうか?

 死因は少々アレだったとはいえ‥‥‥‥誠実と言えばそうなのかもしれない。


 でも、兄は兄でしっかりとしているし、不誠実と言う訳でもない。

 全員をまんべんなく愛すると言えば、そうするだろうと思えるのだ。

 そう考えると、数の多さにどうしたものかと悩んでいた頭も整理され、ようやく落ち着いて受け入れることができたのであった‥‥‥‥


「‥‥‥そもそもお父さん自体、何者だったのかと言うのが気になるのー」
「うーん…‥‥それが謎だったりするのよ。あの人、自分の出生自体はかたくなに明かさなかったし‥‥‥案外、どこかの国から逃げて来た王様だと言われても納得するわ」
「…‥‥それはないかも。そうだったら、私達今頃王女と、お母さんは王妃だもの」
「ふふふ、そうねぇ」

 にこやかに笑いあう母と娘。

 とは言え、ディーが色々やった現状を間近で見る日は近付いており、心構えをしておいた方がいいだろう。

「でも、それでもいいの。子供は元気なのが、一番なのだから…‥‥ああ、孫ができたら、それはそれで良いのにねぇ」
「それだと、叔母ちゃんになるの…‥‥兄ちゃん、節操はちゃんとしてほしい…‥‥」





「へっくしょい!!‥‥‥うう、なんかくしゃみが出たな」
「ご主人様は風邪ではないようですし、噂ではないでしょうか?」
しおりを挟む
感想 771

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...