憧れの召喚士になれました!! ~でも、なんか違うような~

志位斗 茂家波

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318 既にだいぶ麻痺しているようで

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‥‥‥調査も何もかも終わり、夏季休暇も終わる。

 全然休みじゃなかったような気がしなくもないが、それでも何とか無事に乗り切ったのは良いだろう。

 だがしかし、そうもいかないのが調査による褒賞の件であり‥‥‥

「…‥どうしてこうなるのかなぁ。と思っていたけど、最近は諦めていたりする」
「ご主人様、何か悟りつつ死んだ魚の目になってますガ、大丈夫でしょうカ?」
「大丈夫大丈夫。人間何事も、慣れればそれでいいんだよ」
「全然大丈夫そうには見えないのだが」

 召喚獣たちに慰められるが、無理もないだろう。

 できる限りこちらのこれまでの功績なども配慮して、色々とやるつもりであったらしいと、王子たちから話は聞いていた。

 うん、まだまともなもの‥‥稼ぐ手段はそれなりにあるけど、報奨金とか何かの品々であれば許容範囲。

 豪勢に使う事なんぞめったに無いが、何かと貯蓄するのも悪くはない。

 だがしかし、そうなるはずだった褒美を色々と曲解してきた国王には、どうツッコミを入れればいいのだろうか。


 城伯という地位だけど、領地もなく、そこまで困る事もない。

 前の褒美も邸だったし、こちらはこちらでノインが改造を施しており、使い物になるので良いのだ。

 でも、この褒美は…‥‥


「‥‥たまに思うんだけど、国王陛下って本当に職業『遊び人』なのか?コレ・・を持ってくる時点で、既に何かが間違っているような気がするのだが」
「そのはずなんだけどね。そもそも、そううまいこと事が進むわけもないはずなんだけど‥‥‥‥それをどうにかしてやってきてしまうのが、ぼくの父だからなぁ…‥‥」

 学園の食堂にて、目の先にあるものを見てつぶやけば、グラディが溜息を吐いてそう答えるのであった。





‥‥‥事の起こりは数日前、王城に呼ばれた時のことである。

 塔のダンジョン消滅などの情報を事前に報告はしたが、やった功績とやらかした内容が大きく、王族に呼び出されたのだ。

 一応、罰とかそう言うのはなく、やってくれたことへの褒賞という事で、今回の任務達成での報奨金などをある程度貰っていたのだが…‥‥そんな中で、国王がぽつりと口にした。

「仮面の組織フェイスマスクの幹部の討伐まで済ませたのは良いが…‥‥こちらの方でも、ある程度進展はあった」
「どのようなものでしょうか?」
「ああ、各国で組織に対しての調査を行い、本拠地を捜しながら潰しているのだが…‥‥つい最近、ようやくその元凶の居場所と考えられる候補地が搾り込めた。もうしばらく時間はかかるが、年が明ける前には壊滅作戦を仕掛けることにしたが…‥‥それに参加してくれないだろうか?」

 国王陛下の話によれば、これまで俺たちかが関わってきた国々以外からもその危険性が問題されており、いよいよフェイスマスクを完全に掃討するための作戦が各国との共同で練られているらしい。

 とはいえ、フェイスマスク側の戦力は未だに不明なところが多いとはいえ、大きなものとして考えらるのは怪物たちであり‥‥‥いざ討伐するとしても、力が及ばない可能性があるそうだ。

 なので、これまで何度も怪物たちを討伐してきた経験から、俺たちに作戦へ参加してもらい、確実にフェイスマスクを消し去ろうという事のようである。

「‥‥わかりました。いつになるのかは不明ですが、その作戦に参加いたします」

 元々フェイスマスクには、これまで多大なる迷惑をかけられてきている。

 目や髪の色もその中で変えられ、今となってはだいぶ慣れたとはいえ…‥‥それでも、受けた苦痛などは忘れることが出来ない。

 あと普通に、迷惑をかけまくる元凶は一気に処分しないと、僅かでも残せばまた成長して大きくなるのが目に見えているからな。徹底的にしないといけない。

 それに、これまでの怪物討伐からもフェイスマスク側に確実に目を付けられているだろうし、幹部たちと出会った時もこちらの情報が渡っていたようだし、放置することはできない。

 ゆえに、参加の意思を問われる必要はない。徹底的に潰すのであれば、確実に参加するからだ。

「うむ、わかった。それでは、その時が来るまで研鑽すると良いのだが…‥‥それでも、まだ不安はある」

 国王曰く、俺たちの参加でより勝率が高まるのは分かるらしいが…‥‥何事も完璧ではない。

 色々と不安要素も大きく、本当に根絶するのであればより圧倒的な力が必要であると口にする。

「その圧倒的な力に関しては、その召喚獣たちで十分すぎるほどだが…‥‥この際、徹底的にやってもらいたい」
「といいますと?」
「少し待て。今呼ぶぞ」

 そう言うと、国王陛下が指を鳴らし、臣下の者を呼んだ。

 そして何かを命じると、その者はすぐに何処かへ向かい、あっと言う間に戻って来たかと思えば…‥‥何か布がかけられた大きな籠を慎重に持ってきて、俺たちの前に置くと退室した。


「布を取って見るがいい。それを、与えよう」

 国王陛下にそう言われ、布を取って見れば…‥‥そこに鎮座していたものに、俺たちは驚いた。

「陛下、これは…‥‥」
「‥ああ、卵だ」

 籠が狭く見えるほどの、大きな卵がそこにあった。

 鳥の卵のような形をしつつ、真っ黒でありながら表面には脈動する血管のようなものが浮かび上がっており、どちらかと言えば先日のハザードの誕生した卵というか繭というか、そんなものに似た外見。

「それは先日、フェイスマスクに関する調査を自ら行い、踏み込んだ場所で押収したものだが…‥‥どうやら、フェイスマスクが実験台に使おうとしていたモンスターの卵のようだ。ああ、その状態だが実験台にされたとかではなく、これで素の状態のようだ」
「‥‥簡易スキャン完了しましたが…‥‥国王陛下、これはもしや、ドラゴンの卵でしょうカ?」
「そうだ」

 ノインが即座に分析して尋ねた言葉に、国王陛下が肯定し、俺たちは驚愕した。

 この間、魔改造されたドラゴンと戦ったばかりだというのに、まさかのドラゴンの卵である。

「ノイン、その簡易スキャンで分かった種族とかはあるのか?」
「‥データ不足ですが‥‥‥いえ、たった今、シスターズ経由で情報が埋められまシタ。分析したところ『ファフニール』と呼ばれる類のようですネ」

―――――――――――
『ファフニール』
全身真っ黒でありつつ、目の色が宝石のように輝くドラゴンの一種。
その体躯は全体的に痩せた印象を持たせるが、その分機動力や飛行速度も高く、特殊な効果を持ったブレスを吐いて攻撃する以外にも、闇魔法を用いて自衛するモンスターでもある。
また、宝をため込む性質があるのだが、こちらはヴイーヴルとほぼ同質であり、目当ての宝があった場合、奪い合いを起こす。
―――――――――――


「ファフニールでござるか‥‥‥‥」

 っと、説明を受けていると、ルビーが何やら複雑そうな顔になっていた。

「ん?どうかしたのか、ルビー?」
「ヴイーヴルとは争いやすく…‥本能的に、なーんか嫌なんでござるよね」

 どうやらルビーの種族であるヴイーヴルとは、その宝をため込む性質上争いになることが多いらしく、本能的に嫌な気分になるらしい。

 けれども、まだ生まれてもいない卵の時からだとその感情は今一つ沸き上がりにくく、何とも言えない気持ちになるのだとか。


「ふむ、話を戻すが…‥‥ディーよ、この卵に関してだが、今回の褒賞ついでに次回の殲滅作戦での褒賞の前払いという事で…‥‥この卵の親になってもらいたい」

 ルビーが複雑そうな表情を浮かべている中、国王はそう告げるのであった…‥‥







‥‥‥という訳で現在、国王の前払いの報酬という事で卵が渡されており、召喚獣たちで一緒になって温めている状態。

 ルビーは相変わらずその卵に対して複雑そうな顔をしていたが…‥‥前払いの報酬となるので、断りづらくもあるし、これはこれで正統派というか、まともなドラゴンが産まれる確率が非常に高いので、断りたくもなかった。

 彼女の複雑な思いに関しては、どうにかしたいところでもあるが…‥‥それでも一応、卵を引き取ることには納得してくれたからな。

「というか、そもそも放置したら死ぬ卵だったからな‥‥‥‥生まれもしない命を消したくは無かったな」
「とはいえ、父上がまさかドラゴンの卵を‥‥‥ファフニールだったか、その卵を持ってくるとは思いもしなかった」

 はぁっとグラディが溜息を吐くが、同意である。

 どこの世界に、一国の王が報酬の前払いという事で、ドラゴンの卵を授ける人がいるのだろうか?


姉さん母さんの話では、他の世界にはそれなりにいるようですけれどネ」
「それなりにいて欲しくないのだが」

 その話を聞くと、異世界が怖くなるのだが。え?ぽいぽい普通に与える国もあるってどういうことなの?


 そもそもドラゴンの卵というか、そう言う卵関係は親がしっかり守っているものであり、普通は簡単に手に入るものではない。

 だがしかし、今回はフェイスマスクがどこかのファフニールの巣を見つけ、そこにあった卵を研究所へ運んで来たらしく、実験台にされる寸前だったからこそ、こうやって渡されたのだ。

「というか、それなら親元の方へ返したほうが良いとは思うのだが…‥‥ノイン、その調査は?」
「シスターズがいますので、調べさせましたが…‥‥いないようですネ。卵だけおいて、何処かで命が尽きてしまったものと推測されマス」

 偶然と言うべきか、ファフニールの卵の親に関しては、既にいないらしい。

 だからこそ巣から持ち出せたのだろうが…‥‥それが巡り巡って、俺たちの元へ来るとは流石に思わなかった。

「何にしても、既に召喚獣も多いからなぁ…‥‥それでもまぁ、国王陛下から前払いの褒美としてもらったし、世話もしっかりしないとな」

 色々とツッコミどころが多いというか、ようやく手に入ったまともなドラゴンの希望の光と言うべき卵なのだが、正直内心ツッコミ疲れた。

 ファフニールは幼体であっても強さはあるらしく、だからこそ組織の殲滅までに孵化をさせて育てる事で、より戦力の増強を狙ったのだろうが…‥‥どうして俺たちのもとへと言いたい。

 まぁ、一応戦力的にはこちらがぶっ飛び過ぎているので、今さらドラゴンの仲間が加わったところでという話になり、問題はないらしい。

 そう言われると、今の面子でそこまでのものかと言いたいが…‥‥否定できないのが現実である。


 とにもかくにも、卵からファフニールが孵るのであれば、それはそれで見てみたいかもしれない。

 召喚獣に‥‥‥いや、幼すぎてすぐには出来ないだろうが、それでも将来的にまともなドラゴンが加入してくれるのであれば、一番最初のころに合った夢も叶うし、楽しみと言えばそうである。

「孵化まで、面倒事としては考えないようにしようか…‥‥」

 できればもっと早くに欲しかったような気がするが、それは流石にどうしようもない。

 まともそうなドラゴンが手に入るのであれば、こういう運命であったと納得できるのであった。


「ところでふと思ったんだが、卵っていつぐらいに孵るんだ?」
「分析したところ、1週間ほどデス。結構短いですが、その分体も小さく出てくるからのようデス」

‥‥‥幼体のファフニールかぁ。苦節数年というか、まともなドラゴンが‥‥‥いや、まだ油断できまい。先日スルーズが人になれるという裏切りがあったので、甘く見ていたら痛い目に遭うのは十分に理解している。

 だからこそ、本当にそうなのかこの目で見るまで、しっかりと警戒しなければな…‥‥
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