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301 強化しておいて損はなく

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…‥‥夏季休暇ももうそろそろ終わりに近づきつつ、真夏日もだんだん去っていく今日この頃。

「最終日が見えてきたのに、何故俺たちはここのダンジョン前にいるのだろうか‥」
「王城からの調査命令でしたからネ。そろそろご主人様の望む諜報としての仕事訓練みたいなものを始めたのでしょウ」
「しかしのぅ、ダンジョンとはいえ今まで潜るタイプじゃったが…‥‥天までそびえたつ、上が全く見ぬ塔タイプのに挑むのは初めてじゃな」
「しかも、ズルは出来ぬのか強風が纏わりついているせいで飛んでいくことができぬでござるよ」

 ディーたちは今、とあるダンジョンの前にいるのであった。





‥‥‥きっかけとしては、人工湖の開発工事が終わって報告書を出してしばらくしてから、王城の方から王命が届いたことにある。

 なんでも、仮面の組織フェイスマスクについての調査を各国が行っている中で、奴らの拠点として扱われていると推測されるダンジョンが見つかったそうなのだ。

 ゆえに、そこには本来騎士たちを派遣したいところなのだが、それと同時に何やら他の研究施設なども続々と見つかり、人員が不足する状態。

 それに、そのダンジョンがある場所は、珍しくどこの国の領地でもないところのようで、国が勝手に動くことが出来ない。

 そこで、各国とどうしたものかと相談した結果…‥‥ディーたちがこれまでダンジョンを制覇していたり、組織との戦いの功績があることから、白羽の矢をぶん投げてきたのであった。

 もっと正確に言うのであれば、人工湖の開発工事で無茶苦茶な報告書を出したことによるちょっとした投げ返しなのだろうが…‥‥まぁ、そこまでとやかく言う事はあるまい。


「とはいえ、このダンジョンが乗っ取られているなら消滅装置を作ってやった方が早いような気がするけどな」
「それは無理ですネ。このダンジョン、どうやら外部からの攻撃を無効化出来ないようですが、変なエネルギーを纏って方向性を変えれるようデス。新型センサーでも確認できまシタ」

 ぐるんぐるんっと久々にそのアホ毛を回転させ、そう告げるノイン。

 開発ついでにやって来たワゼの手によってふたたび改良が施されたようで、新しい道具なども搭載したようだがそれでも物理的にこの塔のダンジョンを潰すことはできないそうだ。

「何にしても、上っていくしかないか‥‥‥全員、準備は良いな?」

 問いかけて見れば、召喚獣たちは全員頷く。

 なお、ルナティアとアリスの二人に関しては、こちらは寮の方で留守番してもらっている。

 ダンジョンにわざわざ連れてくるのも危ないし、召喚獣たちに関しては、こちらはこちらで強化装されて万全の状態にしているので問題ない。

「というか、強化装備というのじゃが、これ以前より格段にパワーアップしているのじゃが…‥‥儂の杖も改造を施せるとは、ワゼというメイドは本当に何者じゃと問いかけたいのぅ」
「精錬/打ち直し/再加工/強化/エンチャント/鍛冶師以上/恐るべき」
「んー、鎖鎌の鎖部分を変な金属に替えられたけど、これはこれで扱いやすいぜ」

「…‥‥ワゼって本当に何者なんだよ。ノインの姉妹機って言うけど、なんでメイドなのにここまでの技術を有するんだよ」
「不明デス。私でも詳細を知ることはできないのデス」

 まぁ、全員何かと強化してもらえたので、これまでよりもはるかに安全性が高まったと言っていいだろう。

 戦闘力も底上げされたような気がするが、ダンジョンを無事に攻略していくにはあっても困らないからね。

「まぁ、あのメイドとその主とやらは観光に出向いたようだが…‥‥マイロード、出来ればあの二人にも付いてきてもらった方が良かったのではないか?」
「そう思う気がするけど、客人のような人たちを連れてくるのも不味いからな」

 レイアがそう口にするが、一緒に来させるべきではないだろう。

 ワゼの主は主でただ者ではないだろうが、話によれば違う世界の人だし、この世界の事にそこまで関わらせてはいけないような気がする。

 なので今回は、俺たちだけで来たのだが…‥‥一応は、この強化された装備品などがある限り、そこまで苦労はしないような気がしてくるのであった。

「いざとなれば真下から上めがけて、新しく装備できた『次元破壊魔導砲』でも放てばいいかもデス」
「なんか物凄く物騒な破壊兵器を装備してないか、ソレ?」

 メイドがどんどんメイドからかけ離れた武器を装備してきているような気がするのだが、これ何処かで止めたいのに止められないな…‥‥どうしろと‥









‥‥‥ディーたちがダンジョンに入り始め、入り口から出てきたモンスターに、まずは全員の調子を確かめ始めた丁度その頃。

 その塔の頂上…‥‥設立された研究所の中では、その動きを見ている者がいた。

「おおぅ?どうやらようやくかかって来たらしいが‥‥‥なんか報告と変わったところが多いなぁ。まぁ、全部が細心のとは限らないし、変わっているならいるで、ここから観察したほうがいいだろう」

 笑っているような、それでいて怒っているような不気味な仮面を付けながら、そのものは一階から進み始めたディーたちの姿を見る。

「‥‥‥うん、装備品などがどう見ても新しくなっているようで、他の召喚獣たちにも付けているようだ。それでだいぶ強化されているようだが…‥‥それでも、中身までは変わることは無いか」

 あちこちを細かく観察しつつ、どの様な存在であるのかより詳しく分析していく。

「召喚獣の方は、知能が人間並みにはあるようだけど…‥‥場合によってはそれ以上の可能性もあるか。うんうん、やっぱりわざと誘い込めるように情報を流したおかげで、やってきてもらったからこそ見れたけど、これは非常に都合がいい!!」

 ぐっとこぶしを握り締め、仮面の奥でニヤリとそのものは笑みを浮かべる。

「まぁ、剣に箱、ゴーレムと言った生き物とは言い難い類もいるが…‥‥それでも、問題ないだろう」

 そう言いながら画面を切り替え、その研究所の奥の方で眠らされている存在に目を向け、うまい事喰らう事が出来ればどのようになるのかを計算していく。

「‥‥‥数体、いや、たった一体でも捕食できれば知能が飛躍的に上昇するのは間違いない。人間程度の頭脳ではだめでも、他の生物でこれほどまでのものを取り込めば、それこそ人知を超える可能性は大きい。だが…‥‥そのためにも、ここまで来てもらわないといけないのが、もどかしいなぁ」

 塔内にはその研究所からわざと放出した失敗作のモンスターたちもうろついており、それらを全部撃破して最上階まで来てくれるか、少し不安になる。

 けれども、今までの組織への損害の与え方や、実際に目にして分かる彼らの無茶苦茶ぶりを見ると、杞憂なような気もしてくる。

「そもそも、喰らわせることができるかどうかってことにもなるけど‥‥‥その時はその時だ。到着時間を予測しつつ、相対させる時間を想定して、解凍処理を行うとするか」

 再び画面を切り替え、研究所の奥で眠る怪物をそのものは起こし始めた。

 下手にやれば彼らが来る前に大暴れをはじめ、この研究所そのものが危ないかもしれない。

 止めようにも、既に職員は取り込ませており、止めに向かう者はいないだろう。

 だが、そうなる前に彼らが来るとその者は予測できており、少々大雑把だがそれでも動き始める。

「亡くなっても亡くならなくても、どう転んでも勝利と言えるだろう。試合に負けて勝負で勝つ、試合で勝って勝負でも勝つ‥‥‥出来れば後者が理想だが、目的を果たせるのであればそれで良い」

 にやにやと仮面をかぶりながらも笑みを浮かべつつ、その者は作業を進めていく。

 正直、目的さえ果たせればそれで良いと思いつつ、塔全体にその黒い欲望が渦巻き始めるのであった‥‥‥‥
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