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297 気づかぬのは本人ばかりで

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…‥‥ダンジョン消滅装置が作動し、その砲口から白い閃光が周囲に広がる。

 そして、その閃光が消えうせてから数秒後、ようやく目を開けられる状態になったところで確認することが出来た。

「思いのほか、音とかは静かだったというか、一瞬の出来事で済んだけど‥‥‥」
「無事に破壊完了デス。ダンジョンコア及びダンジョン、断末魔もあげさせずに消滅完了いたしまシタ」

 そこに広がる光景は、一つの大きな穴。

 ただし、あちこちが融解して固まったとかではなく、その部分だけが切り飛ばしてどこかに消え失せた蚊のような、そんな状態である。

「うわぁ‥‥‥範囲指定とかいうが、これまた綺麗に抉り取ったのぅ」
「大穴、空いた。何もかも、消えた」
「ついでに消滅装置も壊れたでござるな」

 ルビーのその言葉を聞いて、装置の方を見ると、そちらはそちらで粉々になって壊れていた。

「ふむ、やはり一回限りしか使えなかったようですが…まぁ、想定内デス」
「なんか手で触れるだけで、粉になって消えていくんだけど」

 凄まじい威力だったせいか、その反動で壊れていく装置。

 今回のためだけに作られたものとはいえ、この消えゆくさまはちょっと哀愁が漂う感じがしなくもない。

 とにもかくにも、夏季休暇中とはいえわざわざここまで戻って来るだけのことを成し遂げたのは良いだろう。

 後はもう、村にいつでも戻って休暇を楽しめるが…‥‥土産物探しとかで時間を使いたいし、今日は寮の方に泊まりたい気分ではある。

 実家で寝泊まりするのもいいけど、何かと寮は寮で居心地がいいからなぁ…‥‥今は生徒たちがほとんどいないのでむしろいつもよりも静かに過ごせそうではある。








「‥‥‥でも、そうか、生徒たちがいないという事は、食堂も開いてなかったな」
「ちょっと頭から抜けていたでござるな‥‥‥」

 寮に戻ってから、お腹が空いたので食堂に行こうとしたのだが…‥‥ついた先では、営業外の紙が貼られていた。

 基本的にこの時期は、生徒たちの大半が帰郷するので人が居らず、食堂は稼働していないらしい。

「あたしたちは外で食べる手を選んでいたニャ」
「そっちの方が手軽なのよね」
「とはいえ、今から向かうのもなぁ‥‥‥」

 ルナティアとアリスは今回帰郷せずにここで過ごしていたようだが、さっきダンジョン消滅という作業をしていたので、外には少し出たくない気分。

 とはいえ、喰わねば腹がすくのは目に見えて…‥‥

「‥‥‥まぁ、食堂の調理室は使えるんだっけか。きちんと綺麗に後片付けをしてという条件で開放はされているようだし‥‥‥ノイン、頼む」
「了解デス」

 こういう機会であれば、ノインの料理を食べたいところだ。

 彼女の場合、作る料理がなぜか全部キラキラとしたエフェクトが付くのだが、この場にはどうせ事情を知る者しかいないのだから特に問題はないだろう。

「知っていても、あのキラキラは慣れないニャ」
「美味しいのだけれども、何故ああも輝くのかが不思議なのよね」
「…‥‥そりゃそうか」

 ちょっとした指摘を喰らったが、美味しいのは全員理解しているので文句はない。

 しいて言うのであれば、全員の味の好みをいつの間にか熟知されており、同じような物を出されても味付けが違うんだよなぁ。

「本日の作業で色々お疲れですので、スタミナが付く料理にいたしまシタ」
「数分も経たないうちに作り上げる早業も、何時しか慣れたな…‥」

 なお、食材に関してはリリスの中に保管している物以外でも、彼女の方でどこかに色々と保存しているようで幅広く作るのには困らない。

 また、カトレアの植物育成などで野菜や果物も補充可能で、考えて見れば食材不足にはならない。そう考えると、結構バランスが良いというか、何というか…‥いや、美味しく食べられるのであれば良いか。

「ついでに酒でも造るでありんすかね?」
「いや、酒はいらないかな」

 さらっとリザがそうつぶやいたが、酒はいらないだろう。

 というか前に、ノインにジュースと間違えて酒を飲まされたことがあったような‥‥‥いや、あまり覚えてないや。

 そう思いつつも、今日の飲み物としてのジュースを飲めば、スタミナ料理に合う組み合わせで作ったのか、中々良い味わいをしていたのであった。

 後はもう、風呂に入って、自室でゆっくりして、眠るだけかな。

 明日の土産探し、何が良いかなぁ‥‥‥













…‥‥入浴時。

 ディーが男湯でのんびりと浸かっていたその頃、女湯の方ではひそひそと声を小さくしてディーには絶対に聞こえないよう注意しながら、ノインたちは話していた。

「‥‥‥そろそろそう覚悟を決める頃合いだと思い、わざとあの料理にしたのですが‥‥‥良かったようデス」
「あ、やっぱりそんな意図があったのかのぅ。御前様は気が付いていなかったようじゃが、どこまで想定していたんじゃろうか」
「いつの間に、考えを読まれていたというのが怖いけどニャ…‥‥まぁ、全員それでいいと思っているのかニャ?」
「「「「問題無し」」」」

 ルナティアの言葉に、全員うんうんと深く頷いて同意を示す。

 反対意見が出る可能性も多少はあったのだが‥‥‥どうやら全員、それで納得したようだ。

「そもそも、それでないと、手が出しづらい」
「突破口/ある方が楽」
「グゲェグゲェ」

 納得というか、当然というか、壁の破りにくさに対して攻めあぐねていたのもあるので、むしろこうやって堂々と決意してくれた方が彼女達にとっても利益があったのだ。

「とはいえ、時間の問題があるのでは?全員となると時間はかかるぞ」
「普通に昼間でもいいぜ?」
「いえ、そのあたりはきちんと解決策が無いのか、通信で相談済みデス」

 そう言いながら、ふろ場なのでメイド服を着ていないのだが、ノインがどこからともなくとある道具を取り出す。

「…‥‥私の姉さん母さんが送ってくれた特別な道具デス。これがあれば、一晩のうちに可能のようデス」
「効果は周囲との時間の流れが違う空間を作り出す‥‥‥じゃったか。ノイン、お主のその姉妹機ってさらに滅茶苦茶な奴じゃないかのぅ」
「否定しまセン」

 出来ればちょっと否定して欲しかったなぁと思う者もいたが、ノインと同じような姉妹機は別のところにいるそうなので、特に気にする必要もないらしい。

 なので、ありがたく使わせてもらえることに感謝の念を抱きつつ、彼女達はそれぞれ気合いを入れていく。

「決行は就寝時間。道具の連続作動時間は明日の日の出までですが…‥‥それでも十分デス」
「んー、主殿の気持ちもできれば考えておきたいでござるが‥‥‥大丈夫でござろうかな?」
「そのあたりは大丈夫そうじゃな。気が付かぬ無意識の想いもあるようじゃし、儂らはただそれを強く意識させることで想いを明確に顕現させ、後は御前様の意思次第じゃ」
「失敗すればあとで相当気まずくなりそうニャけど…‥‥今晩が一番いい機会なのニャ」
「ええ、逃したら休暇明けまで無いでしょうし…‥‥全員いるからこそ、やるしかないわね」

 ぐっと互いに顔を見て、その決意の状態を確認し合う。

「では、決行の時まで各自入念に準備し…‥‥そして、心を固めましょウ」
「「「「了解」」」」

 いつもならば、この返答はディーが指示を出した時に行うもの。

 けれども今は、全員の意思の団結を確認するために口にして、その固さをしっかりと感じ取り合う。

‥‥‥そして風呂場から上がって決行の時、彼女達の心は完全に一致し合っていたのであった。




「‥‥‥おおぅ!?風呂に入っているのになんか寒気が!?」

 知らぬはディーばかりであり、既に逃げ場は奪われている。

 そして、その事を悟ったところで‥‥‥‥
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