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280 ちゃっかりこれは残してまして

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…‥‥ゆらゆらと波によって揺れ動きつつ、静かにその船は進んでいく。

「‥‥‥残っていたのは良いけど、どう報告するべきかなぁ」
「色々あり過ぎますからネ…‥‥」

 月明かりが窓から照らしつつ、自動操縦で進む船内にて、ディーたちは悩んでいた。




 一応、俺は学生の身分であるのでこれ以上関わることもできないとして、海洋王国の方は第8王女に丸投げし、偶然残っていたこの区画再利用潜水艦を再改装して、帰路についているのだが…‥‥‥


「海洋王国モルゼの本国の喪失に、新しい島の生成。国の成り立ちに隠されていた秘密やそのほか知りたくなかったものなどが数多くありすぎるのじゃが…‥‥」
「そもそも、ノイン救出のためにマスターが動いただけですが、その結果が多すぎますわね」
「なんというか、どれから説明すべきなのか、量が多すぎるでござる」

 ルビーのその言葉に、俺たちは同意して頷き合う。

 ノイン救出のために動いていたはずが…‥‥いつの間にか一国の国土崩壊という事態まで引き起こしていたからなぁ‥‥‥改めて考えると内容が濃い。

「まぁ、クローンを冷凍保存したものも押し付けたから、その保存に関することは困らないのが幸いか」
「氷室作った、全体凍らせた。半年は、確実に、溶けることない」

‥‥‥アポトーシスが生成していたクローンの肉体に関しては、数が多くあったが海洋王国側で保存してもらうことにした。

 というのも、葬送するにも数が多すぎるし、今回の件で海洋王国の王族の眼の秘密も知ってしまったのだが‥‥‥その秘密を闇に葬ることにしたのである。

「得体のしれないゴーレムの動力源にできたり、はたまたはなにかと利用されるだろうからなぁ‥‥‥闇に葬ってしまうことができたから良いか」
「迂闊に利用されるわけにもいかないしな。まぁ、そのゴーレムも全部無に帰っているから、葬る意味があるのかは疑問だぜ」
「グゲェ、グゲグゲェ」
「やっておくべき/そうすれば/問題減らせる」

 何にしても、今は何とか騒動が解決したことに喜ぶべきか、それとも報告する内容に頭を抱えるべきか。

「そもそも、ノインの姉妹機の話も出さないといけないだろうし…‥‥ああ、今日はもう疲れて今一つ頭が働かん」
「寝たほうが良いかのぅ?」

 海洋王国近海にたどり着いたところで砲撃され、そこから動きまくりだったからなぁ。

 破壊した後は、作られた新しい島に囚われていた国民を輸送するなどして作業もしたし、もうへとへとではある。正直、全員空元気で動いていたりする。

「ノイン、自動操縦で大丈夫だっけか?」
「ハイ。海図などもインプット済みですし、明日の昼頃には臨海合宿場の浜辺に帰航するはずデス」

‥‥‥まぁ、船を得られたから良いとするか。とは言え、見た目が真四角なヘンテコな船なので後で外装をどうにかしたいが…‥‥それはそれでどうにかなるだろう。あと保管場所は、リリスの箱の中にしまえそうなので問題ないかな。

 とりあえず今は、眠気が襲ってきているので、全員寝たほうが良さそうである。

「あ、でも寝る場所あるか?」
「大丈夫デス。出航前に作っておきましたからネ」

 そう言いながらノインが指をさした先には、ドアが取り付けられていた。

 開けてみれば、それぞれの身体的特徴に合わせたベッドがそろえられている。

「あれ?でも前に作っていた集合寝室よりも、グレードアップしているような…‥?」
「ええ、姉さん母さんの手によって、私自身の性能が向上しましたからネ」

 既に退去し、この世界にいないワゼだが、彼女の手によってノインはパワーアップをしたらしい。

 基本的な性能自体が攫われる前よりも飛躍的に向上し、より質の良い空間を作ることなどが可能になったようだ。

「‥‥‥とは言え、本当は全員別室でしたかったんですけれどネ。生憎資材不足でシタ」
「それはそれで、仕方が無いか」

 ぐっすりと寝る場所が確保できたのであれば、それで良いだろう。

 今回の騒動のせいで全員疲れているし、体を休める場所が出来たのは良い事ではある…‥‥














「…‥‥とは言え、寝ていても目が覚める時はあるんだよな」

 ゆらりゆらりと並みの揺れを感じつつ、ふと俺は起きてしまった。

 見ればまだ真っ暗なようで、皆の寝息が聞こえてくる。

‥‥‥水槽ベッドで寝ているティアとか大丈夫なのかと思いつつも、ふと目覚めてしまったのであればしょうがない。

「ちょっと、夜風に当たるか…‥‥」

 熟睡している皆を起こさないように、そっと部屋から俺は出た。

 一応、真四角な箱のような船とは言え、甲板には手すりなどを設置済みなので、出ても特に問題はない。


 外に出て見れば、穏やかな夜風が吹き、月明かりが周囲を照らしていた。

「陸上だと、見れない風景だな」
「ええ、そうですネ」
「‥‥‥ノイン、いつの間に」

 ぽつりと感想を漏らしていると、いつの間にかノインが背後に立っていた。

 いや、もう慣れた物でもあるが、こうも気配を察知させずに現れるのはちょっと心臓に悪い。

「ご主人様が、まだ夜中なのに目覚めたのに気が付かれまして‥‥‥普段てこでも起きないような熟睡ぶりを見せるのに、起きたのかと思ってついて来たのデス」
「てこでもって‥‥‥間違ってもないけど」

 自分で言うのもなんだが、俺自身の眠りはかなり深いと言える。

 とはいえ、それでもなんとなくで目が覚めてしまう夜は有るのだ。


 まぁ、彼女が一緒に起きていても問題はないと思うし、何も言わないけどな。

「せっかくだ、喉が渇いたし、何か飲み物ないかな?」
「そう言うと思って、用意してきまシタ」

 そう言いながらノインが素早くテーブルとイスを用意し、グラスも出してその中に液体を注いでいく。

「特製果汁ぎっちりジュースデス。甘さは控えめ、さっぱりとした味わいかつ、眠りやすくなる成分を含んでいマス」
「どれどれ…‥‥お、確かにこれはいいかも」

 さっぱりとしているというか、あっさりとしている甘さ。

 ぎっちりという言葉が入っていたので、ちょっと濃い味かと思ったが…‥‥これでもそれなりに濃い方なのだとか。

「そもそも、元となった果実自体が水みたいな味ですからね‥‥‥‥濃縮することで、このような風味が産まれたのデス」
「なるほど‥‥‥」

 納得しつつ、のども潤い、良い味わいに満足する。

「リザさんが混ぜて、酒になったバージョンもありますが…‥‥ア」
「どうした、ノイン?」
「‥‥‥これ、その酒バージョンでシタ」
「‥‥‥‥おい、性能向上したんじゃなかったのか?」

…‥‥うっかりさもパワーアップさせてないか?と思ったが、飲んだので既に遅い。

 アルコールが回って来たというか、何となくふらふらしてきたというか…‥‥

「眠気とアルコールのダブルパンチが…‥‥やばい、まともに立てない…‥‥」
「す、すみませんご主人様。今、支えマス」

 ふらついてきた俺の体を、ノインが素早く抱きかかえた。

 なんというか、お姫様抱っこを俺がやられるというのは何か間違っているような‥‥‥いや、なんかもう、しこうがまとまらないような…‥

「ふぐぅ‥‥‥俺、こんなにアルコールに弱かったっぴぇぇ…‥」
「ご主人様、もしかして相当弱いのでしょうカ…‥」

 柔らかいような、暖かいような、彼女に抱かれつつベッドに運ばれていく。

 なんかもうふわふわしているというか、危ない薬が混ざっているような‥‥‥あれぇえ?こんなに弱かったけぇ‥‥‥






「‥‥‥いや本当に、何でここまで‥‥‥あ、これ度数が高いのですカ」

 ふらふらになり、完全に目を回しているかのような状態になったディーを抱えつつ、ノインは分析した。

 ここまで弱いのかと思ったが‥‥‥‥どうやら単純に、酒のアルコール度数が高かっただけのようだ。

「あとは、起きていてもまだ体が疲れていて、対応しきれなかったのもあるのでしょうが‥‥‥ひとまず運びますネ」

 よいしょっと抱え直しつつ、ディーを運んでいくノイン。

 扉とかに対しては両手がふさがっていても、素早く対応して開けれるので問題はない。

 そのまま寝室に入りつつ、全員を起こさないようにしつつ、ディー用のベッドにたどり着いた。

「あとはそっと降ろしまして…‥‥ご主人様、放してくだサイ」

‥‥‥っと、ここで一つ問題が起きた。

 酔ったディーがそのまま手を回して抱いてきてしまったようで、放せない。

 お姫様抱っこ状態だったはずだが、いつの間にか強く掴まれていたのだ。


 とはいえ、無理に引きはがせないので、どうしたものかと考えていると…‥‥


ぱっ
「あ、自然と離れてベッドに、」
ぐぃいっ!!
「ッテ!?」

 放れてベッドに転がってくれたと思っていたのもつかの間、次の瞬間にはぐいっと思いっきり引かれて、彼女もベッドに引きずり込まれる。

「ちょ、ご主人様!?酔ってらっしゃるのですカ!?」

 下手に騒いで起こさないように気を使いつつ、できる限りそう叫ぶがどうしようもなかった。

 片手で引っ張られ、横たわった状態で真正面からディーが抱き着いてくる。

「ひゃわわわわわあ!?」

 突然の出来事に、ぶしゅーーっと蒸気を出し、ノインは真っ赤になった。


‥‥‥とは言え、何かこう、襲うとかそういう行動ではないようだ、

 ふと彼女が気が付けば…‥‥先ほどまでの力づくとは違い、優しくそっと抱きしめられていた。

「ノイン…‥‥ノインがいるよ…‥‥良かったよ…‥‥」
「‥‥‥ご主人様?」

 見れば、そうつぶやきながらノインを確かめるようにぎゅっと抱きしめてくる。

「攫われて心配したけど‥‥‥こうやって無事なのは良かったよ‥‥‥」
「…‥‥あ、この酒の成分に自白剤に似たような物が…‥‥もしかして、ご主人様‥‥‥相当心配してくれたのでしょうカ?」
「うん」

 素直な返答に、ノインは驚きつつも、ディーが心配してくれたことに嬉しさを感じる。

 けれどもそれと同時に、それだけ心配させてしまったことに申し訳なさも感じてしまう。

「えっと、心配させてすみません、ご主人様。メイドたるもの、いついかなる時も行けるようにしているのですが…‥‥それが今回、果たせませんでシタ」
「いや、ノインのせいじゃないよぉ……ううっ」

 泣き上戸だっけと思いつつ、酒のせいで酔っているが故の不安感の増加なのかと分析し、彼女はしばし考え…‥‥そっと彼女の方からも抱き返した。

「それならそれでいいのデス。いえ、誰のせいとかという話になると、今回は完全にアポトーシスの仕業ですが‥‥‥何にしても、私はご主人様の側にいますので、安心してください」

 ぎゅうっと抱き返しつつ、ノインはそう優しく口にする。

 不安にさせてしまったっようだけれども、二度とそんな不安には襲わせたくはない。

 メイドたるもの‥‥‥召喚獣たるもの‥‥‥いや、その名目とは関係ない。


 彼女は純粋に、ディーを想ってそう口にする。

「なので、もうゆっくりとおやすみなさい、ご主人様…‥‥酔っている間の事をできれば覚えていたほうがそれはそれで良いような気もしますガ…‥‥」

 ぼそっと本音が漏れつつも大人しくなったディーに対して、伝わったのかなと彼女は思った。

 そして、ディーの方を見れば…‥‥動かなくなっていた。

「‥‥‥アレ?ご主人様…‥‥あれぇ?」

 マヌケな声が出てしまったが‥‥‥‥どうやら抱く位置がちょっと悪かったらしい。
 
 酔っていたディーの力は、強くもありつつ弱くもなっていたようで、押し返せなかったようだ。

「えっと、この場合どうしたら…‥‥というか、窒息死で逝かないでくだサイ」

 ワゼとは異なり過ぎる豊満な部分で、どうやら口や鼻をふさいでしまっていたのであった‥‥‥


「と、とりあえず人工呼吸デモ」
「「「「「…‥‥‥さて、これで何度目?」」」」」
「!?」

…‥‥そして彼女はすぐに悟った。

 あ、コレ自分終わった、と。
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