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264 静かに見つつ

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‥‥‥‥浜辺に作られた、上から見れば砂浜だけど下から見れば透過して見える即席の地下室。

 ディーと召喚獣、及び見られたら不味いハルモニアと彼女を守る気満々の第3王子エルディムたちは、全員ここに入った。


「っと、降りてきたようだが…‥‥ノイン、あの女騎士が第8王女グレイとか言う人で間違いないな?」
「ハイ。しっかりと記録してますが間違いないでしょウ。そしてその他の護衛のような船員たちもいますが、その中心にいるあの男が、おそらく海洋王国モルゼの国王と思われマス」

 下から見上げる形で観察するとはいえ、それでもどのような人物なのかはわかる。

 第8王女の外見が赤と青のオッドアイをした凛々しい女騎士ではあるが‥‥‥国王の方は、また違う印象を抱かせる。

 国王の方は青と紫のオッドアイで、偏屈そうなというか、ひねくれていそうというか、色々悪い印象しかないというか‥‥‥だが、流石に王という座に付くだけのことがあってなのか、隙があるようにも見えない。

 単純な愚物っぽいけどそう言う風にも見えないという印象だが…‥‥違和感しかないのは何故だろうか。



 とにもかくにも、海洋王国の王家の者達が浜辺に現れたのはそれなりに一大事。

 まぁ、そのことを見越して既に何かトラブルに巻き込まれないように生徒たちは宿泊所の方へ誘導済みであり、残っているのは王子たちぐらいである。

…‥‥王家の者達をそのまま残していいのかという不安はあるが、万が一の時にはこちらから出るしかないだろう。

 でも、相手も海洋王国のものだし、そんなに馬鹿でもなければ盛大にトラブルを引き起こす真似なんて‥‥‥



「何か口論になってませんカ?」
「…‥‥もしかして、相手の国王って馬鹿なのか?」

 浜辺にやってきた海洋王国の者達に、自然に遭遇したかのように装う王子グラディたち。

 互いにそれぞれの国の王家の者であるという認識を持ちつつ、ここに来た目的などを問いかけていたようだが…‥‥何やら様子がおかしいようだ。

 なんというか、いきなり雰囲気最悪というか、一触即発に近い状態というか…‥‥第8王女やこちらの第1王女ミウなどができるだけ場の雰囲気を収めようと動き始めたようだが‥‥‥いかんせん、どちらも対応しきれてない模様。


 というか、愛絵の第8王女が収めようとしているのだが、その度に国王が「余計な口出しをするな!!」と叫びまくり、引っ込むが‥‥‥どうも逆らいにくい様子。

「というか、だんだん口喧嘩になってきているようだけど、第1王子ゼノバース第2王子グラディたちの方は顔色変えずに冷静に見極めながらやっているのに、相手の国王感情的だな」
「むぅ、王としての器で言うのであれば、こちらの王子たちの方がふさわしい感じじゃのぅ。年齢的には負けているとはいえ、経験が違うようじゃな」
「それもそうだろう。兄上たちは昔から本当に腹黒い貴族たちと渡り合っているし、なりたての王なんぞ怖くもなんともないと思うぞ」

 ゼネのつぶやきに続けて、第3王子エルディムがそう口にする。

 まぁ、こちらの国は国で、貴族間で色々と面倒な関係などもあるようだし、そこを世渡りしているのであればそれなりに経験が詰まれるのだろう。

 情報だとあちらの国王はそこまで経験が深そうでもないし、亀の甲より年の劫ってことわざがあったりするけど、その年を全然生かせていないというか、経験不足すぎる気がする。



 っと、そうこうしているうちにだんだんヒートアップしてきたようで、相手の王がふんがぁぁぁっと怒り心頭そうな顔になってくる。

 この時点で色々と国際問題になりかねない気がするのだが、会話内容的に相手の方が喧嘩を売っているからなぁ‥‥‥


「そろそろやめてください、父上!!ここで論争をしていても、ほとんど意、」
「うるさい!!口出しをするな馬鹿娘がぁ!!」

「あ」

 頭から蒸気が出るほど激高してきた国王に、見ていられなくなったのか第8王女が何とか止めようと動いたようだ。

 ぎっと睨みつけるかのように王女の方に振り向いたかと思うと‥‥‥こぶしを握って殴ろうとする。

 王子たちがその動作に気が付き、止めようとするもそう早くは動けず、そのまま殴られそうではあったが…‥‥うん、見ている側としては、本当は介入したくないけど流石に女性が殴られる様は見たくない。

「カトレア!」
「了解ですわ」

 名前を読んだだけで直ぐに理解したのか、彼女の木の根が地面に突き刺さる。

 そのままこちらから見れば透明な天井を伝って根っこが伸び、海洋王国の国王の足元まで素早く掘り進んだかと思えば‥‥

ぷすっ!!
「あっだあああああああああああああ!?」

 靴を貫通し、細い木の根が刺さり、海洋王国の国王は殴ろうとしていた体勢から瞬時に足を抑える。

 そしてこちらはやったことがバレないようにという事で、ルンが眼にもとまらぬ速さで動き、その辺から持ってきたウニを足元に配置して戻ってくる。


「ウニがぁぁぁ!!この足に刺しおったぁぁぁぁあl!!」
「ち、父上ぇ!?」

 びたんびたんと浜辺を転がりながら痛がる国王に、いきなり何が起きたのか直ぐに理解し切れずに驚愕の声を上げる第8王女。

 無様な様をさらしているというか、ここまで痛がるのもなんか不自然な気がするのだが‥‥‥

「カトレア、どのぐらい刺したの?」
「ちょっと痛みを感じるほどで、あそこまで大げさにすることはないはずの物ですわよ?」
「んー、痛みのツボに当たったわけでもなさそうでありんすが…‥‥もしや、打たれ弱いだけでありんすかね?」

 何にしても想像するよりも海洋王国の国王は痛みに対しての耐性はそこまでなかったらしい。

 ひぐわぁぁっとうめき声を上げつつ、よろよろと立ち上がり、痛みの原因と思われるように配置したウニをにらみつける。
 

 まぁ、そもそも足裏に刺したからウニを踏んづけたとかそう言う事じゃないと痛みの原因とは思わないのだろうけれども…‥‥立派に針がトゲトゲしているウニを見て、原因はそのウニに違いないと思っているようだ。

「ぐぐぐぅう…‥‥い、痛みが辛い…‥‥だが、この程度で倒れるかぁ!!」

 いや、あなたさっきまで無様に転がってましたよね、とその場にいる全員が心の中でそう思っていると、海洋王国の国王はすくっと立ち上がる。

「何にしてもだ、このような危険生物がいる浜辺がなぜある!!わが国ではウニなんぞ浜辺に転がる事ともないわ!!」
「そう言われても、自然の生物がどこにどういようがって部分は、どうしようもないよね?」
「今まで単純に、刺されるようなことはなかっただけなんじゃないか?」
「うるさい若造どもめが‥‥ぐぅうう、だが、ここで争っていたら足元がウニだらけになってしまうかもしれないか‥‥‥」


 刺された痛みのおかげで、ちょっとは冷静になったのか、それともとんちんかんという頭をしているのか、そんな発想をしたようでつぶやく海洋王国国王。

 まぁ、何かやらかそうとすればウニを配置できるが‥‥‥ハリセンボンにハリヒトデ、ハリザリガニ‥‥‥一部海のモンスターが混ざっているが、探し回ればウニ以外のトゲトゲを素早く用意できるので、その光景を想像するのはある意味間違ってはないだろう。

「何にしてもだ、そもそもこちらはこの海岸に合宿に来ているという名目があるからこそここに入るのだが‥‥‥海洋王国の国王陛下、あなたがここへ来る意味はあるのだろうか?」
「沖合の方で、難破したとか?そのために来たとかなら分かるけど‥‥‥」
「そんなわけあるか!!」
「なら、何故ここへ来たのだろうか?港町の方へ向かえばいいのに、ここへ来た目的を先ほどから問いかけているのに、何故喧嘩腰になる必要があるのかという部分も問いたいのだが‥‥‥」

 落ち着いてきた頃合いを見計らい、改めてそう問いかける王子たち。

 何故、海洋王国の王がここを訪れるのか、その意味を知りたいのだ。

「それは国家機密だ。王たるものが、そうやすやすと他国へ機密を漏らす者でもあるまい」

 秘密を全部国家機密と言ってごまかすガキのようなごまかし方にしか見えない。

 というか、さっきの浜辺ゴロゴロ大げさ痛がりのせいで、最初の嫌な印象の人物から、ただの体だけが大人になった情けないガキ大将のような印象になってきたような気がする。

「国家機密ねぇ‥‥‥なら、こちらとしても手を出さないでおこう。とは言え、ここは今、こちらの適正学園の臨海合宿の場所となっていてね、他国の船がいるとちょっと気が散るので‥‥‥できればもう少し、別の場所の方に移動できないか?」
「‥‥‥なら、上陸地点をもう少しずらそう。それで、これ以上の話し合いは無しにしろ」

 そう乱暴に答え、海洋王国の国王は乗って来た小船の方に歩みだす。

 どうやらここからズレた場所の方へ再上陸する用だが、目的が結局わからないまま。

 とにもかくにも、なんとか場は収まったようであった‥‥‥‥


ざくぅ!!
「ぎゃああああああああああああああああ!!」

「なんか今、船に座り込んだ瞬間に、宙に飛びあがったように見えたんだが」
「あ、どうやら座席部分にカニがいたようで、そのハサミに臀部を挟まれたようデス」
「流石に/あれ/用意してない」

…‥‥こちらが何かと用意する前に、自然の攻撃がやってきたようである。しかし、普通は座る前に気が付きそうなものなのだが‥‥‥あの王、注意散漫でもあるのだろうか?

「というか、やけに痛がり過ぎている様な気がするでござるな」
「大げさすぎるというか、情けないおっさんにしか見えないぜ」
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