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234 覆水盆に返らず
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…‥‥ガランドゥ王国の国王の、人体改造の末路。
大きな巨体は既に地に伏せており、完全に全部の機能が停止し、あちこち大破状態である。
だがしかし、一応生身の体もきちんと使っている証拠なのか、少々グロイ光景が一部に点在している中で‥‥‥ディーたちはようやく地に降りて、今回の騒動の元凶の側に立った。
「‥‥‥仮面をつけているけど、あぶくを吹いて気絶していそうなのが分かるな」
「そりゃ、あの一撃が真横を通り過ぎればビビって気絶するのも無理はないじゃろう」
もげてはいるが、巨大な頭部。
転がってしまわないようにその辺の残骸から適当な支えを作って固定しつつ、額部分にある操縦席の場所へ俺たちは来た。
みれば、薄皮一枚というべきか、透明な壁でその部分が覆われており、内部に作られた操縦席には、ハドゥーラがひっくり返ったように気絶している。
そしてそのすぐ真横には、俺が創り出した大穴が開いており、少々破片が飛び散ったのか破片による傷が残っているようだが…‥‥そんなことは気にしない。
「生命反応を確認。生きているようデス」
「流石に命は奪わなかったが…‥‥早いとこ、引きずり出して拘束するぞ」
ガシャンっとレイアが槍でつついて壁を叩き割り、中のハドゥーラをカトレアの蔓で拘束しながら引きずり出す。
ついでに無駄な抵抗をされないように、手足にアナスタシアが氷で束縛し、芋虫状態と化す。さらに念のためにという事で、ゼネが魂を引っこ抜き…‥‥とりあえず、これで何もできなくなったも同然のはずだ。
魂を引っこ抜いたのならこれ以上やる意味ないのではないか?と思うかもしれないけど、念には念を入れてである。こんな人体改造もとい魔改造を施せるという事は、自身の体の方にも気絶時にも動ける仕掛けとかしていてもおかしくないからだ。
「ご主人様の装備のスーツも、気絶時には自動的に動けるようにしていますけれどネ」
「それはそれで怖いような…‥‥そういや、試作品だけはまだ見つかってないんだっけか?」
「エエ。行方不明ですが、何もしていないと思いたいデス」
蠢く衣服が行方不明なのはさておき、今はこちらの問題。
気絶どころか魂を引っこ抜いた相手の、素顔の確認である。
「さてと、まずはその仮面で隠している面を見ないとな…‥‥ノイン、何か変な仕掛けとかはあるか?」
「分析…‥‥どうやら耳のあたりに骨伝導を利用した装置がありますが、それ以外に妙な仕掛けはありまセン」
「骨伝導?」
「何かの音を集め、直接聞こえるように‥‥‥補聴器などに使える技術デス。とは言え、こちらの集音先は‥‥‥アレですネ」
そう言い、ノインが指さしたのは、操縦席の奥のようだ。
調べてみれば、今はもう沈黙した国王の頭部内から発せられていた声を直接聞いていたようで、あの咆哮を上げる前の時から作動していたらしい。人体改造中は、声を発せないのか、対応するために付けていたのだろうか?
それ以外に特に怪しい仕掛で、安全性をもう一度確認しつつ、笑みの仮面を剥がしてみれば‥‥‥‥
「‥‥‥思った以上に平凡な顔というか、狂気じみた行動をするように見えないな」
「その辺で、何人か同じ顔を見かけるような顔じゃな」
相当狂気じみていたハドゥーラだったが…‥‥その顔は狂気に呑まれていたような顔ではない。
むしろ、100人中99人ぐらいは一度は見たこがあると言いたくなるような、その辺にどこにでもいるような顔をしていたが‥‥‥その顔を見て、アリス王女が驚いた顔になって、駆けよって来た。
『これ…‥‥うそでしょ!?』
「誰か知っているのか?」
『ええ、この人…‥‥兄様。第2王子のドリス兄様なのよ!!』
「…‥‥はあああああああああああ!?」
「うそじゃろ!?こやつが第2王子とか言うやつか!?」
「顔が似ても似つかな過ぎるというか、そこの大きな国王の顔ともに付かないですわ!?」
「うわぉ、驚き、人間の不思議」
いまだに声が出ないが、それでも筆談でその事を伝えてきて、俺たちは驚く。
何と、このハドゥーラは…‥‥アリス王女の兄にして、この国の第2王子ドリスとかいうやつらしい。
『でもおかしいわ?この人がまだ大人しくしていた時には、別の場所に兄様がいたし、一緒に行動もしていたはずなのよ…‥‥それなのに、なぜドリス兄様とうり二つな顔をしているのよ?』
「他人の空似‥‥‥とかでもないか?」
「確率的には低いデス」
なぜ組織の者が、この国の第2王子と同じ顔なのか。
そもそも、件の王子は現在行方不明らしいので、これがその本人の可能性はあるようだが…‥‥それでもアリス王女曰く、ハドゥーラと第2王子は別々に見かけるので、別人の可能性もあるらしい。
どっちがどっちなのかという事も分からないので、さっさと答えを知るためにゼネに魂の記憶を探ってもらった結果…‥‥とんでもないことが判明した。
「…‥‥なるほどのぅ。そう言う事か」
「どういうことだ?」
「別々に存在していたのも、理由はきちんとあったようじゃ。…‥‥アリス王女、お主のみていた第2王子自体が、そもそも偽物じゃったようじゃな」
『…‥え?』
‥‥‥流石にまだ、真相を探るにはそこまで深く調べていないので、ざっと見ただけではどこで入れ替わっていたのかはわからない。
けれども、軽く探っただけでも分かったことは…‥‥今まで王城の方にいた第2王子自体が、偽物であったようなのだ。
「こやつは腕前の良い医者じゃった‥‥‥それこそ、ここまでばかげた人体改造が出来るほどにな。ゆえに、自身の顔とそっくりな偽物を作り上げたのじゃ」
「整形手術ということですか…‥‥腕前を考えるのであれば、確かに可能ですネ」
顔をそっくりに変えた偽物が、これまでアリス王女と過ごしていた第2王子であり、本来のドリスはこのハドゥーラになっていた。
とはいえ、時々情報を交換し、適度に入れ替わる程度であったようだが…‥‥それでも長い間、ずっと騙し続けてきたようだ。
『‥‥‥兄様だと思っていた人が兄様ではなく、兄様ではないような人が兄様であった‥‥‥ということでしょうか?』
「そう言うことになるのぅ。まぁ、入れ替わって長いこと企んでいたようじゃが‥‥‥ふむ、家族の情に少し絆されており、計画自体は当初はそこまで乗り気でもなかったようじゃな」
人体改造を施し、狂気に満ちていたハドゥーラもとい、第2王子ドリス。
組織に所属し、幹部になっていたようだが‥‥‥それでも、流石に家族への情が芽生えたのか、何があっても手を出すという気にまではなかったようだ。
出さなければ出さなかったで、別の被害者が出た可能性があるが‥‥‥‥それでも、まだ狂気の淵に留まっていたようである。
‥‥‥けれども、彼はその淵から堕ちてしまった。
いや、自らのというよりも‥‥‥あの時、謁見室で見せてきた道具を手にした時から、狂気を纏ったようだ。
「…‥‥なるほど、この道具は確かに人の知能を向上させるようですが…‥‥今、詳しく分析してみたところ、隠された呪いの反応を確認しまシタ。‥‥‥胸糞悪いというのもなんですが、その最後の倫理の壁を、自ら踏み抜くように精神誘導する類のようデス」
「このままあって、俺たちへの悪影響は?」
「現状ありまセン。この方専用にされており、それ故に私たちへの影響はほとんどないようですが‥‥‥相手を指定している分、指定された方が落ちてしまうようですネ」
ギリギリで踏みとどまっていたが、この道具を手にしたその瞬間から、彼は淵へ堕ちてしまった。
狂気の深淵へ、深く深く、どこまでも‥‥‥‥底が見えないほどの、狂ったその先へ。
そして、堕ちたがゆえに彼の家族への情愛も消え失せ…‥‥改造に使ったのだろう。
「‥‥‥幹部だったようじゃが、それでも日は浅い方じゃったようじゃな。仮面の組織とは言え一枚岩でもなさそうじゃし‥‥‥あるいは、何か考えがあったの事じゃったかもしれぬがそれは分からぬ。けれども、情愛もなくし、狂気に呑まれた後は、欲望を満たすために動いたようじゃな‥‥‥」
まずは己の父親である国王に対して、別人として接近し、徐々に関係を深めていった。
そして父親の持つわずかな欲望を刺激していき…‥‥組織の方から精神的に迫る道具を借り、狂わせていったのだろう。
あるいは、自分と同じように狂気への道連れにしたかったのかは本人の記憶だけではなく、その言葉でないと分からない部分もあるが…‥‥結果として、この騒動に至ったという訳か。
「まぁ、このハドゥーラも国王自身も、無罪放免とはいかぬのぅ。ある程度誘導された、操作を施されたという点に関しては情状酌量の余地はあるかもしれぬが…‥‥結局は、自ら選んだことじゃからな」
ゼネのその言葉に、場の空気が重くなる。
ある程度狂っていたとはいえ‥‥‥それでもまだ、何処かで戻ることはできたはずだ。
そもそも組織に所属しなければいい話しだったかもしれないし、国王の方も異常に気が付けば誰に相談したりして対策を取る手もあった。
その他にも様々なところで防げることもあっただろうが…‥‥それはもう変えようが無い。
『‥‥‥お父様、兄様の手によって狂っていたかもしれないけど、自分の手で選んだ道とも言えるのよね』
ぽつりと、そう書いてアリス王女が涙を流す。
まだ声は出ぬとはいえ、その文字にされた言葉は周囲へ伝わる。
『何故、お父様はそんな物に手を染めてしまったの?永遠の芸術を保たせたかったの?ううん、それはまず、芸術なの?』
…‥‥全てをオリハルコンへ変えるあの攻撃は、国王にとっては芸術を永遠のモノにするための手段だったのだろう。
けれども、「永遠のモノ」というものが芸術なのかどうかは分からない。
ガランドゥ王国の国王よ、俺は芸術は良く分からないが、それでも永遠にそこまで執着するものなのだろうか?
変わりゆくものだからこそ、季節の移り変わりや景色の変容、人間関係や心が面白いものなのに。
限られた時しかないからこそ、それをめいいっぱい感じ取り、最後のその時まで満足行くようにするというのに。
ガランドゥ王国の国王よ、あなたにとって芸術とは永遠のモノが全てだったのだろうか?
あなたにとってのすべてが芸術だったのだろうか?
見ろ!!あなたがいくら変わり果てようとも、その末路に対して涙を流すアリス王女の姿を。
聞け!!あなたのためを持って、声にならぬ泣き声を上げようとする彼女の声を。
そして思い出せ!!あなたが本当に愛したものは、その永遠の芸術だったのかを。
‥‥‥そう心で思わず叫びたくもなるが、その肝心の相手はいない。
人体改造の果てに、その心自体が当の前に実は消え失せており、既にその想いしか残っていなかった怪物の遺体しかないのだ。
『‥‥‥お父様、あなたは結局‥‥、
‥‥‥ほん、とうに、何が、したかったのよ‥‥‥‥!!」
最後の筆跡が途絶え、言葉を取り戻し、アリス王女はそう嘆き叫ぶ。
でも、その返答するべき相手は…‥‥もういないのだ。
倒れ伏した怪物から、どうにか国王を戻せないかとノインやゼネに目で問いかけるも、彼女達は首を横に振る。
例え、優れた技術や魔法を持っていたとしても…‥‥それでも、失われてしまったものは戻せないのだ。
「う、ううっ‥‥‥うわああああああああああああああああああん!!」
泣き叫び、涙を漏らすアリス王女。
年齢的には俺たちと同じぐらいらしいが、未だに不完全な状態ゆえに、まだ幼い容姿であり、その泣き声は辺りに響き渡る。
悲しむ心は全員に伝わり、やるせない気持ちになる。
それでも、嘆き悲しむ彼女を放っておくことは出来ず、できることはないかと考え‥‥‥全員に頼み、そっと彼女を皆で囲んで抱きしめた。
慰めるように、それでいて悲しみから彼女が早く立ち直るように願いながら。
温かい人のぬくもりで、彼女のことを想う人を思い出させるように。
‥‥‥そして気が付けば夜が明けており、朝日と共にオリハルコンが反射して輝き出す頃合いに、ようやく悲しみを終え、落ち着いたアリス王女と共に、俺たちはヴィステルダム王国へ帰還するために、最初に乗ってきた馬車に乗車して向かうのであった‥‥‥
「‥‥‥そう言えば、他の王族とかも保護済みだったか。後始末、本当にどうしよう‥‥‥」
「一旦、保護の名目で帰還した方が良いデス。先ほど、影響を与えていた魔道具も稼働停止を確認しましたし、国外へ出ても問題ないはずデス。…‥‥周辺の、廃人になられた方々の治療も、きちんと考えないといけないですけれどネ」
「それもあったのぅ…‥‥」
‥‥‥やることが多すぎるというか、何と言うか。流石にそこらへんは、国同士の話し合いとかにして欲しい。
今回は、悲しみを感じすぎたからな‥‥‥‥
大きな巨体は既に地に伏せており、完全に全部の機能が停止し、あちこち大破状態である。
だがしかし、一応生身の体もきちんと使っている証拠なのか、少々グロイ光景が一部に点在している中で‥‥‥ディーたちはようやく地に降りて、今回の騒動の元凶の側に立った。
「‥‥‥仮面をつけているけど、あぶくを吹いて気絶していそうなのが分かるな」
「そりゃ、あの一撃が真横を通り過ぎればビビって気絶するのも無理はないじゃろう」
もげてはいるが、巨大な頭部。
転がってしまわないようにその辺の残骸から適当な支えを作って固定しつつ、額部分にある操縦席の場所へ俺たちは来た。
みれば、薄皮一枚というべきか、透明な壁でその部分が覆われており、内部に作られた操縦席には、ハドゥーラがひっくり返ったように気絶している。
そしてそのすぐ真横には、俺が創り出した大穴が開いており、少々破片が飛び散ったのか破片による傷が残っているようだが…‥‥そんなことは気にしない。
「生命反応を確認。生きているようデス」
「流石に命は奪わなかったが…‥‥早いとこ、引きずり出して拘束するぞ」
ガシャンっとレイアが槍でつついて壁を叩き割り、中のハドゥーラをカトレアの蔓で拘束しながら引きずり出す。
ついでに無駄な抵抗をされないように、手足にアナスタシアが氷で束縛し、芋虫状態と化す。さらに念のためにという事で、ゼネが魂を引っこ抜き…‥‥とりあえず、これで何もできなくなったも同然のはずだ。
魂を引っこ抜いたのならこれ以上やる意味ないのではないか?と思うかもしれないけど、念には念を入れてである。こんな人体改造もとい魔改造を施せるという事は、自身の体の方にも気絶時にも動ける仕掛けとかしていてもおかしくないからだ。
「ご主人様の装備のスーツも、気絶時には自動的に動けるようにしていますけれどネ」
「それはそれで怖いような…‥‥そういや、試作品だけはまだ見つかってないんだっけか?」
「エエ。行方不明ですが、何もしていないと思いたいデス」
蠢く衣服が行方不明なのはさておき、今はこちらの問題。
気絶どころか魂を引っこ抜いた相手の、素顔の確認である。
「さてと、まずはその仮面で隠している面を見ないとな…‥‥ノイン、何か変な仕掛けとかはあるか?」
「分析…‥‥どうやら耳のあたりに骨伝導を利用した装置がありますが、それ以外に妙な仕掛けはありまセン」
「骨伝導?」
「何かの音を集め、直接聞こえるように‥‥‥補聴器などに使える技術デス。とは言え、こちらの集音先は‥‥‥アレですネ」
そう言い、ノインが指さしたのは、操縦席の奥のようだ。
調べてみれば、今はもう沈黙した国王の頭部内から発せられていた声を直接聞いていたようで、あの咆哮を上げる前の時から作動していたらしい。人体改造中は、声を発せないのか、対応するために付けていたのだろうか?
それ以外に特に怪しい仕掛で、安全性をもう一度確認しつつ、笑みの仮面を剥がしてみれば‥‥‥‥
「‥‥‥思った以上に平凡な顔というか、狂気じみた行動をするように見えないな」
「その辺で、何人か同じ顔を見かけるような顔じゃな」
相当狂気じみていたハドゥーラだったが…‥‥その顔は狂気に呑まれていたような顔ではない。
むしろ、100人中99人ぐらいは一度は見たこがあると言いたくなるような、その辺にどこにでもいるような顔をしていたが‥‥‥その顔を見て、アリス王女が驚いた顔になって、駆けよって来た。
『これ…‥‥うそでしょ!?』
「誰か知っているのか?」
『ええ、この人…‥‥兄様。第2王子のドリス兄様なのよ!!』
「…‥‥はあああああああああああ!?」
「うそじゃろ!?こやつが第2王子とか言うやつか!?」
「顔が似ても似つかな過ぎるというか、そこの大きな国王の顔ともに付かないですわ!?」
「うわぉ、驚き、人間の不思議」
いまだに声が出ないが、それでも筆談でその事を伝えてきて、俺たちは驚く。
何と、このハドゥーラは…‥‥アリス王女の兄にして、この国の第2王子ドリスとかいうやつらしい。
『でもおかしいわ?この人がまだ大人しくしていた時には、別の場所に兄様がいたし、一緒に行動もしていたはずなのよ…‥‥それなのに、なぜドリス兄様とうり二つな顔をしているのよ?』
「他人の空似‥‥‥とかでもないか?」
「確率的には低いデス」
なぜ組織の者が、この国の第2王子と同じ顔なのか。
そもそも、件の王子は現在行方不明らしいので、これがその本人の可能性はあるようだが…‥‥それでもアリス王女曰く、ハドゥーラと第2王子は別々に見かけるので、別人の可能性もあるらしい。
どっちがどっちなのかという事も分からないので、さっさと答えを知るためにゼネに魂の記憶を探ってもらった結果…‥‥とんでもないことが判明した。
「…‥‥なるほどのぅ。そう言う事か」
「どういうことだ?」
「別々に存在していたのも、理由はきちんとあったようじゃ。…‥‥アリス王女、お主のみていた第2王子自体が、そもそも偽物じゃったようじゃな」
『…‥え?』
‥‥‥流石にまだ、真相を探るにはそこまで深く調べていないので、ざっと見ただけではどこで入れ替わっていたのかはわからない。
けれども、軽く探っただけでも分かったことは…‥‥今まで王城の方にいた第2王子自体が、偽物であったようなのだ。
「こやつは腕前の良い医者じゃった‥‥‥それこそ、ここまでばかげた人体改造が出来るほどにな。ゆえに、自身の顔とそっくりな偽物を作り上げたのじゃ」
「整形手術ということですか…‥‥腕前を考えるのであれば、確かに可能ですネ」
顔をそっくりに変えた偽物が、これまでアリス王女と過ごしていた第2王子であり、本来のドリスはこのハドゥーラになっていた。
とはいえ、時々情報を交換し、適度に入れ替わる程度であったようだが…‥‥それでも長い間、ずっと騙し続けてきたようだ。
『‥‥‥兄様だと思っていた人が兄様ではなく、兄様ではないような人が兄様であった‥‥‥ということでしょうか?』
「そう言うことになるのぅ。まぁ、入れ替わって長いこと企んでいたようじゃが‥‥‥ふむ、家族の情に少し絆されており、計画自体は当初はそこまで乗り気でもなかったようじゃな」
人体改造を施し、狂気に満ちていたハドゥーラもとい、第2王子ドリス。
組織に所属し、幹部になっていたようだが‥‥‥それでも、流石に家族への情が芽生えたのか、何があっても手を出すという気にまではなかったようだ。
出さなければ出さなかったで、別の被害者が出た可能性があるが‥‥‥‥それでも、まだ狂気の淵に留まっていたようである。
‥‥‥けれども、彼はその淵から堕ちてしまった。
いや、自らのというよりも‥‥‥あの時、謁見室で見せてきた道具を手にした時から、狂気を纏ったようだ。
「…‥‥なるほど、この道具は確かに人の知能を向上させるようですが…‥‥今、詳しく分析してみたところ、隠された呪いの反応を確認しまシタ。‥‥‥胸糞悪いというのもなんですが、その最後の倫理の壁を、自ら踏み抜くように精神誘導する類のようデス」
「このままあって、俺たちへの悪影響は?」
「現状ありまセン。この方専用にされており、それ故に私たちへの影響はほとんどないようですが‥‥‥相手を指定している分、指定された方が落ちてしまうようですネ」
ギリギリで踏みとどまっていたが、この道具を手にしたその瞬間から、彼は淵へ堕ちてしまった。
狂気の深淵へ、深く深く、どこまでも‥‥‥‥底が見えないほどの、狂ったその先へ。
そして、堕ちたがゆえに彼の家族への情愛も消え失せ…‥‥改造に使ったのだろう。
「‥‥‥幹部だったようじゃが、それでも日は浅い方じゃったようじゃな。仮面の組織とは言え一枚岩でもなさそうじゃし‥‥‥あるいは、何か考えがあったの事じゃったかもしれぬがそれは分からぬ。けれども、情愛もなくし、狂気に呑まれた後は、欲望を満たすために動いたようじゃな‥‥‥」
まずは己の父親である国王に対して、別人として接近し、徐々に関係を深めていった。
そして父親の持つわずかな欲望を刺激していき…‥‥組織の方から精神的に迫る道具を借り、狂わせていったのだろう。
あるいは、自分と同じように狂気への道連れにしたかったのかは本人の記憶だけではなく、その言葉でないと分からない部分もあるが…‥‥結果として、この騒動に至ったという訳か。
「まぁ、このハドゥーラも国王自身も、無罪放免とはいかぬのぅ。ある程度誘導された、操作を施されたという点に関しては情状酌量の余地はあるかもしれぬが…‥‥結局は、自ら選んだことじゃからな」
ゼネのその言葉に、場の空気が重くなる。
ある程度狂っていたとはいえ‥‥‥それでもまだ、何処かで戻ることはできたはずだ。
そもそも組織に所属しなければいい話しだったかもしれないし、国王の方も異常に気が付けば誰に相談したりして対策を取る手もあった。
その他にも様々なところで防げることもあっただろうが…‥‥それはもう変えようが無い。
『‥‥‥お父様、兄様の手によって狂っていたかもしれないけど、自分の手で選んだ道とも言えるのよね』
ぽつりと、そう書いてアリス王女が涙を流す。
まだ声は出ぬとはいえ、その文字にされた言葉は周囲へ伝わる。
『何故、お父様はそんな物に手を染めてしまったの?永遠の芸術を保たせたかったの?ううん、それはまず、芸術なの?』
…‥‥全てをオリハルコンへ変えるあの攻撃は、国王にとっては芸術を永遠のモノにするための手段だったのだろう。
けれども、「永遠のモノ」というものが芸術なのかどうかは分からない。
ガランドゥ王国の国王よ、俺は芸術は良く分からないが、それでも永遠にそこまで執着するものなのだろうか?
変わりゆくものだからこそ、季節の移り変わりや景色の変容、人間関係や心が面白いものなのに。
限られた時しかないからこそ、それをめいいっぱい感じ取り、最後のその時まで満足行くようにするというのに。
ガランドゥ王国の国王よ、あなたにとって芸術とは永遠のモノが全てだったのだろうか?
あなたにとってのすべてが芸術だったのだろうか?
見ろ!!あなたがいくら変わり果てようとも、その末路に対して涙を流すアリス王女の姿を。
聞け!!あなたのためを持って、声にならぬ泣き声を上げようとする彼女の声を。
そして思い出せ!!あなたが本当に愛したものは、その永遠の芸術だったのかを。
‥‥‥そう心で思わず叫びたくもなるが、その肝心の相手はいない。
人体改造の果てに、その心自体が当の前に実は消え失せており、既にその想いしか残っていなかった怪物の遺体しかないのだ。
『‥‥‥お父様、あなたは結局‥‥、
‥‥‥ほん、とうに、何が、したかったのよ‥‥‥‥!!」
最後の筆跡が途絶え、言葉を取り戻し、アリス王女はそう嘆き叫ぶ。
でも、その返答するべき相手は…‥‥もういないのだ。
倒れ伏した怪物から、どうにか国王を戻せないかとノインやゼネに目で問いかけるも、彼女達は首を横に振る。
例え、優れた技術や魔法を持っていたとしても…‥‥それでも、失われてしまったものは戻せないのだ。
「う、ううっ‥‥‥うわああああああああああああああああああん!!」
泣き叫び、涙を漏らすアリス王女。
年齢的には俺たちと同じぐらいらしいが、未だに不完全な状態ゆえに、まだ幼い容姿であり、その泣き声は辺りに響き渡る。
悲しむ心は全員に伝わり、やるせない気持ちになる。
それでも、嘆き悲しむ彼女を放っておくことは出来ず、できることはないかと考え‥‥‥全員に頼み、そっと彼女を皆で囲んで抱きしめた。
慰めるように、それでいて悲しみから彼女が早く立ち直るように願いながら。
温かい人のぬくもりで、彼女のことを想う人を思い出させるように。
‥‥‥そして気が付けば夜が明けており、朝日と共にオリハルコンが反射して輝き出す頃合いに、ようやく悲しみを終え、落ち着いたアリス王女と共に、俺たちはヴィステルダム王国へ帰還するために、最初に乗ってきた馬車に乗車して向かうのであった‥‥‥
「‥‥‥そう言えば、他の王族とかも保護済みだったか。後始末、本当にどうしよう‥‥‥」
「一旦、保護の名目で帰還した方が良いデス。先ほど、影響を与えていた魔道具も稼働停止を確認しましたし、国外へ出ても問題ないはずデス。…‥‥周辺の、廃人になられた方々の治療も、きちんと考えないといけないですけれどネ」
「それもあったのぅ…‥‥」
‥‥‥やることが多すぎるというか、何と言うか。流石にそこらへんは、国同士の話し合いとかにして欲しい。
今回は、悲しみを感じすぎたからな‥‥‥‥
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そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
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