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230 一応そこはわきまえているが
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‥‥‥少女を拾い、治療したところで間もなく夜となる。
とはいえ、廃人になっているような人たちだらけの地で眠るわけにもいかず、ひとまずは壁がある事を利用して、そのひとつ前の都市の方へ移動し、そちらの宿屋を借りたディーたち。
「一応、都市一つ分でも離れたら記憶の忘却とかを心配していたけど…‥‥」
「現状、この程度ならば問題無いようデス」
聴診器型簡易測定検査機とかいう道具で俺たちを診察しつつ、ノインがそう告げる。
国外へ出るとこの国の記憶が失われる話があったので、都市一つ分移動しただけでも消える部分があるかと思ったが、一応ノイン御手製の防護装置などのおかげで軽減されているようだ。
まぁ、流石に強力過ぎる道具ゆえに、国外まで向かえばどうなるのかは分からないが…‥‥とにもかくにも、このガランドゥ王国内で移動する程度ならば特に支障はないらしい。
「変装用の化粧なども落とせるのはスッキリするけどニャ…‥‥この子、まだ目を覚まさないのかニャ?」
「そのようでござるな。よほど精神的に疲れ果てているようでござるし‥‥‥」
「魂を入れ戻したとはいえ、何かと面倒そうな人為的な細工もあったようじゃしな。負担もそれなりにかかっていたのじゃろう」
宿屋のベッドで横に寝かせ、寝息を立てる少女。
見た目的にはまだ幼くも見えるが…‥‥ゼネの魂引っこ抜き記憶閲覧などによれば、ちょっと肉体の年齢が精神部分と無理やりずらされているらしい。
「何かと細工をされ、本来よりも戻された状態…‥‥そうじゃな、例えるのであれば前の第1王女様の時にあった幼女化に近いのぅ」
「あの時は薬を服用されていましたが、今回は異なり、無理やり肉体の改造を行わされた結果のようですが…‥‥そのついでに色々仕込まれていたようデス」
治療する中で判明した、彼女の体内にあった口にもしたくはないレベルの酷い細工。
それらは全て薬草で消したり、物理・魔法的に除去・浄化などを施したので、なんとか健康体に近い状態にはなった。
とはいえ、精神的な負担も非常に大きかっただろうし、未だに手の方は場所が悪いゆえに…‥‥
「生憎、木製の義手ですが…‥‥色々片付いたら、きちんとした再生医療を行いたいですネ」
「いや、木製って言う割には、本物そっくりすぎるような気がするんだが」
「節々の隙間などに目をつむれば、完成度が高過ぎるのだけどニャ」
なお、金属製の物とかも用意はしたが、肉体の負担などを考えると今は軽い方が良くて、木製にしたらしい。
中身は多くの細工が施されているらしいが…‥‥木目なども除けば、人の腕とそう大差はないだろう。
「耐久性などに問題があり、精々10馬力しか出せない腕ですが‥‥‥まぁ、これで十分でしょウ」
「常人の馬力って普通どのぐらいだっけ?」
…‥‥まぁ、聞いたところで意味をなさない気がするので、回答を聞かないでおこう。しかし木製の義手でその馬力ってことは、装備のガントレットなどで使用できる分だとどのぐらいなのか‥‥‥今度からもっとよく考えて使った方が良いのかもしれない。
気が付きたくはなかったが、いや、むしろ前々からやけに力が出るなぁと思っていた道具の取り扱いに関して頭を悩ませていると…‥‥ふと、少女が目を覚ました。
「ん‥‥‥あ、あ、‥‥?」
まだ頭が寝起きでボーっとしているのか、ゆっくりとした動きでベッドから体を起こしこちらを見る。
眠気があるのかまだ目も瞼が半分以上閉じつつ、隙間から全体を見渡し、少し固まった。
「…‥‥!?」
そしてようやく頭の中で、現在の状況がどの様な物なのか大体推測が付いたようで、驚愕の表情になる。
ついでに手も動かした際に、自身の手が義手に変わっていることに気が付いたのかそちらの方に目を動かし、更に驚愕した顔を越えた、限界突破した顔を見せ‥‥‥
「‥‥‥きゅぅぅ」
「あ、気絶した」
「情報量、多すぎたのかニャ‥‥?」
‥‥‥起きて早々、直ぐに彼女は気絶してしまうのであった。
まぁ、訳の分からない状況だったらそうなるのも無理はないかもしれない。
だってベッドの周囲、明かに人外だらけなうえに、自分の体で異常を把握していたなら変わっていた部分にも気が付くだろうし、色々と情報量が多くて処理ができなくなるだろう。
「考えたら、全員一旦リリスの中に入って、情報量を減らしておいたほうが良かったか‥‥?」
「それ、今さらすぎるような気がするのニャ」
何にしても、一旦彼女の目に入るであろう情報量を減らすために、ひとまずリリスの中に全員で入って、改めて何人かに分けて少しづつ出ながら、起床させるのであった…‥‥
「‥‥では、声が出ないのですネ?」
「‥‥」
改めて情報量を減らし、起床して落ち着いた彼女に対して俺たちは状況を説明した。
色々あってここへ入国し、その中で見つけて保護したことなどを伝えつつ、何も悪い事はしないとしっかりと約束しつつ、会話をしてもらおうと思ったが…‥‥どうやら今、この少女は声が出ないらしい。
「声帯部分にもあった細工は既に治療済みなのですが…‥‥歌わされていた影響なのか、発音を忘れたようデス」
「リハビリ以前に、まずは声出しの練習からしないと声が戻らないか…‥‥」
色々酷い状況にあったようだが、これでは会話がし辛い。
そこで、文字を書いてもらってそれで成り立たせることにした。
こちらは成功したようで、慣れない義手とはいえノイン御手製故か、やや字が震えたようになっても、きちんと内容が把握できる。
『---これで、ワタシの伝えたいこと読めるかな?』
「ああ、読めるよ。というか、義手なのに直ぐに書けるのはすごいような…‥‥」
『それはワタシが言いたい。自分の手じゃないのに、自分の手のように扱えるこれは何?』
…‥‥その質問はごもっともです。自分手が失われたことを自覚した後に、新しい手ができていたらそりゃ分からなくもなるもんな。
それでも何とか互いに話し合って見たところ、ようやく少女は自身の口ではなく文字で説明してくれた。
少女の名前はアリス。ガランドゥ王国の第1王女で、年齢は俺たちと同じぐらいの子らしい。
今でこそ幼い少女のような容姿になっているが…‥‥これは、色々施された結果らしい。
『ほんの数年前までは、ワタシも普通に過ごしていた。職業顕現も待っていて、できれば「歌姫」のような珍しい芸術的職業を得たかったのだけれども…‥‥』
「その時に、国王に接触する者が出たと?」
『うん。仮面をつけた、変な人で…‥‥』
ガランドゥ王国は芸術を重視する国であり、その芸術作品をわざわざ国王へ見せる人たちなどがおり、国王自身もそれらを楽しみにしていた。
そんな中である日、とある芸術作品を国王に見せたいという仮面の者が現れたそうなのだ。
『‥‥‥何と言うか、仮面全体が笑みを浮かべているような、そんなおかしな人。でも、そこまで怪しい雰囲気はその時は感じさせなかったの』
「仮面全体が笑み…?」
‥‥‥仮面の者と聞いて思い浮かぶのは組織フェイスマスクだが…‥‥あの組織の場合、確か感情が半分ずつのような仮面だったはず。
全部が一つの感情を表すような仮面をしていなかったような気がしつつも、話を続ける。
その仮面の者は、国王にとある芸術作品を見せたが‥‥‥彼女はその作品を目にすることはできなかった。
国王だけがその作品を見て、その後は普段取り満足したのか褒美を与えたりするぐらいだったらしい。
だが、それからしばらくして少しづつその仮面の者が登城してきては、国王に作品を見せる回数が増え、何時しか常駐していた。
いわく、常に最新の作品を国王に見せるという目的がありつつ、国王の方もその作品を非常にお楽しみにしており、まだかまだかと急かすようになったので、わざわざ王城に専用の部屋を作ってそこに泊まらせたそうだ。
その作品が何なのか、彼女はその時はまだ目にすることができなかった。
非常に気になって、こっそり入り込んでみたりしたけれど、何もないほどシンプルな部屋をしており、どこにその作品が保管されたのかもわからない。
‥‥‥それから月日が過ぎたある日、急に国王は変わった。
今までは、国民の生み出す作品を見るためにも結構な回数で城下街に出向いていたりしたのに、ぴたっと王城から出る事を辞め、籠るようになったのだ。
『急に出なくなったと思えば、仮面の者を呼んで毎晩話し合いをしているようだった。芸術についてなのか、それ以外なのか分からなかったけど‥‥‥あの時から父の目には、何か囚われたような感じがしていた』
何かを切望し、それを追い求めるかのような、そんな目。
けれども良いものという訳ではなく、執拗な…‥‥いや、何かの執念を抱いたかのような、怖い目。
そんな目をし始めた父に流石に家族の他の王族も心配したのか、色々な手を使って紛らわせようとしたり、あるいは素晴らしい芸術作品を作り上げて、そちらに目を向けさせようと一生懸命になっている中で‥‥‥それは、突然訪れた。
『…‥‥あの日、ワタシは父のために歌を披露して、その怖い目を治そうとしていた。そしたら急に、後ろからガツンっと痛みが走って…‥‥』
…‥‥国王の恐怖の目をなんとかするためにも、家族総出で様々な芸術を見せていた。
そんなときに、彼女が歌を歌っている中で急に襲われ、次に目にしたときには‥‥‥‥
『‥‥‥ワタシは、繋がれていた。そして、言葉も奪われてしまった』
起きた時にいたのは、彼女の自室。
けれども彼女自身の腕が拘束されて動きが制限されており、声を出そうも笛の音のような声しか出なかった。
そして気が付けば、室内には国王と仮面の者がいて…‥‥
『‥‥‥父は、変わっていた。あの執拗に何かを追い求めるような目から、ようやく見つけたかのような希望の光を出していた。けれども、それはもっと悪いもののようで不気味な笑みを浮かべていた…‥‥』
その日から、生活は一変した。
囚われの姫となった彼女には、何時も急激に無理やり意識を失わされては何かが埋め込まれており、体中が濁っていくような、気持ち悪い感覚があったらしい。
そして、他にいたはずの彼女の兄弟の王子たちなどとも連絡が取れなくなり、その代わりに王城のあちこちから悲鳴が上がっていたりした。
『ついでに、その時から急に頭が痛み始めた。繋がれていても、何とか窓までは届いたから見たんだけど‥‥‥』
王城のある場所は国の中心部であり、彼女の部屋からでもなんとか外を見れたらしい。
そして見たのは…‥‥あの、廃人ばかりのような光景。
『皆が、芸術を純粋に楽しみ合い、研鑽し合い、語り合っていた日々。それらが全て、壊された。父の声ももうしなくて、時折仮面の者がワタシの元に来ては、手術室とか言う場所へ強制的に運び入れて‥‥‥色々されていった』
何が施されたのか彼女自身にもよくわからないが、全部が何か悪いものだということぐらいは分かる。
そしてその手術室とやらの中で、偶然にもある日、彼女は国王である父の姿を見た。
けれど、それはもはや父の姿をしていなかった。
『‥‥‥変わり果てていても、あれは父だと分かる。けれども、もうあの優しかった父じゃなくて‥‥‥おぞましい、怪物へ変わり果てていた』
「具体的には?」
『…‥‥中身そのものだけ』
…‥‥人間としての肉体が無くなっており、その代わりになるような容器の中に存在していたらしい。
未知の液体に浸っており、こぽこぽと気泡が浮き立つだけだが、何故かそれで会話をしているつもりらしい。
『仮面の者、その父の動きだけで、何を言っているのかどうかが分かっていたようだった。しかも、無理やりされたとかではなく…‥‥本当に父は望んでそうなっていたかのようだった』
けれどもそれは、人としては許されざる行為をしているかのような光景であり、彼女は心の底から彼らの狂気を感じ取ったような気がした。
『ああ、中身だけと言ったけど、もうちょっと違うかも。何か、別の身体を作ってはそこに入れ込んでいた感じ‥‥‥だったかも』
彼女にとって、それは理解しがたい光景。
それでも、俺たちに伝わるように話してくれたが…‥‥想像したくはない光景だ。
「‥‥‥というか、別の身体?どんな感じのだ?」
『人間‥‥‥でもないかも。なんかこう、金属質というか、そんな感じのに入れていた』
「人体改造でもしているのでしょうカ?」
聞いた感じだとそう言う風に言えるだろうが、何となくその規模で収まらない気がしてきた。
『誰かに助けを願いたくても、囚われていては何もできない。変わり果てていく父を見ても、ワタシだけじゃどうにもできなくて…‥‥』
それでも、彼女は心まで屈することはなく、何かできないかと抵抗を始めた。
狂気に呑まれそうになったり、何時しか王城内に謎の魔道具が設置され、そこからの妙な影響を受けつつも、正気を保った。
そしてようやく、外に出れば何とかできるかもしれない希望を抱き…‥‥無理やり自分の腕を犠牲にして、出て来たようであった。
「その最中に、俺たちが偶然拾った訳か‥‥‥‥」
『正直、助かった。本当に、ありがとう』
そう書き終わり、ぺこりとお辞儀をする。
死にかけていたようだが、助かった事には本当に恩を抱いているらしい…‥‥‥まぁ、助かったところで、まだ解決する道が見えているわけでもないがな。
「どう考えても、その仮面のやつが怪しいというか、元凶だよな」
「そうとしか思えないじゃろ…‥‥しかしのぅ、何がしたいんじゃそ奴は?」
「国王の人体改造をして、何か利益でもあるのでしょうカ?」
考えられるとすれば、意のままに王族を操っての国家乗っ取りとかだろうが…‥‥この状況を見る限り、そんなことは目的としていないように思える。
というか、魔道具の影響で廃人ばかりになった国を、先ず誰が求めるのかという話にもなりそうだ。
「となると、やっぱり直接乗り込むしかないかなぁ…‥‥一応聞くけど、乗り込んで捕まるとかはないよな?」
『王城の警備、今は緩い』
…‥‥流石に王族の住まう場所ゆえに、普段はそれなりに警備がある。
けれども、その仮面の者に乗っ取られている影響なのか、衛兵などをほとんど見かけず、そのおかげで楽に脱出できたようでもある。
『‥‥‥でも、衛兵の姿が見えない以外にも、兄様や母たちの姿が見えないのが、気になる。どうなっているのか、分らない』
「そもそも、帝国の方でも王子の安否を気にしていたし…‥‥第1王女でさえもこの扱いだったという事は、他の王子たちも似たような感じかもしれんな」
このまま話し合っているだけでは、手遅れになる可能性の方が大きい。
何をもって人体改造などがあるのかはわからないが、今はもう、潜り込んでみないと分からない。
「ひとまず、直接乗り込むとして…‥‥この子の方にも追手が来そうだし、誰か残って守るか?」
全員で行くこともできるが、目の前の少女‥‥‥第1王女のアリスが逃げたことに、相手が気が付いていないわけがない。
追手が来る可能性もあるし、誰かに守ってもらう方が良いと思ったが…‥‥その言葉に、アリスは首を横に振った。
『いいえ、ワタシも行く。助かったとはいえ、それでもやっぱり兄様方が心配。王城内の案内などを受け持つから、どうか…‥‥』
「‥‥‥」
逃げ出してきたとはいえ、それでもここで残って報告は聞きたくないようだ。
助けを求めたとはいえ、その助けにそもそも彼女自身が加わらないとも言っていたが‥‥‥
「‥‥‥連れて行っても大丈夫とは思えないけど…‥‥リリスの中に入ってもらえばまだ安心か?」
「グゲェ!」
ばっちこいというように、蓋を開けて待機するリリス。
耐久性ならこの中でナンバーワンであり、動く要塞ともいえる彼女の中に入ってもらえれば、安全性は確保できるだろう。
あと、追手がこの宿とかに入ってこないとも限らないし‥‥‥記憶を失うリスクがある現状、国外へ運んでからというのもできない。
「なら、そうした方が良いか。ノイン、念のために彼女用の防護装置とかは作れるか?」
「予備ならありますからネ。それで記憶とかは守れるでしょウ。とは言え、強力な魔道具の影響は、その王城内ではより強く働くと思われますし‥‥‥少し、強化改良を全員分施してから向かった方が良いと思われマス」
今のままでもなんとか大丈夫だが、元凶の場所ではより効果が強くなっている可能性があり、色々と問題が生じる可能性がある。
ゆえに、ここまで得られたデータを元にして、強化改造を施すようだ。
「大体どのぐらいかかる?」
「1時間もあれば十分可能デス」
「なら、そのぐらいで出発しよう」
…‥‥狂気あふれる王城のようだが、それでも向かうしかないだろう。
そう思いつつ、出発まで全員念入りに準備をして置くのであった。
『‥‥‥ところで、一つ聞いて良いかな?そこの猫の人』
「何かニャ?」
『状況説明などで彼の事知ったけど、その彼の召喚獣たち‥‥‥本当に何者?この義手とか、魔道具とかを作る彼女もそうだけど、なんかとんでもない集団なの?』
「とんでもない集団と言われると、そうなるニャ。‥‥‥何であたしも、ここに混ぜられているのかということに疑問を抱かざるを得ないけどニャ…‥‥」
『‥‥‥ツッコミ疲れ?相当苦労しているのね』
‥‥‥なんか遠い目をしたルナティアに、アリスがすごい同情の目を向けているようだが…‥‥とんでも集団という部分は否定できない。うん、他人に言われると本当になんだろうこの集団と思ってしまう。
とはいえ、廃人になっているような人たちだらけの地で眠るわけにもいかず、ひとまずは壁がある事を利用して、そのひとつ前の都市の方へ移動し、そちらの宿屋を借りたディーたち。
「一応、都市一つ分でも離れたら記憶の忘却とかを心配していたけど…‥‥」
「現状、この程度ならば問題無いようデス」
聴診器型簡易測定検査機とかいう道具で俺たちを診察しつつ、ノインがそう告げる。
国外へ出るとこの国の記憶が失われる話があったので、都市一つ分移動しただけでも消える部分があるかと思ったが、一応ノイン御手製の防護装置などのおかげで軽減されているようだ。
まぁ、流石に強力過ぎる道具ゆえに、国外まで向かえばどうなるのかは分からないが…‥‥とにもかくにも、このガランドゥ王国内で移動する程度ならば特に支障はないらしい。
「変装用の化粧なども落とせるのはスッキリするけどニャ…‥‥この子、まだ目を覚まさないのかニャ?」
「そのようでござるな。よほど精神的に疲れ果てているようでござるし‥‥‥」
「魂を入れ戻したとはいえ、何かと面倒そうな人為的な細工もあったようじゃしな。負担もそれなりにかかっていたのじゃろう」
宿屋のベッドで横に寝かせ、寝息を立てる少女。
見た目的にはまだ幼くも見えるが…‥‥ゼネの魂引っこ抜き記憶閲覧などによれば、ちょっと肉体の年齢が精神部分と無理やりずらされているらしい。
「何かと細工をされ、本来よりも戻された状態…‥‥そうじゃな、例えるのであれば前の第1王女様の時にあった幼女化に近いのぅ」
「あの時は薬を服用されていましたが、今回は異なり、無理やり肉体の改造を行わされた結果のようですが…‥‥そのついでに色々仕込まれていたようデス」
治療する中で判明した、彼女の体内にあった口にもしたくはないレベルの酷い細工。
それらは全て薬草で消したり、物理・魔法的に除去・浄化などを施したので、なんとか健康体に近い状態にはなった。
とはいえ、精神的な負担も非常に大きかっただろうし、未だに手の方は場所が悪いゆえに…‥‥
「生憎、木製の義手ですが…‥‥色々片付いたら、きちんとした再生医療を行いたいですネ」
「いや、木製って言う割には、本物そっくりすぎるような気がするんだが」
「節々の隙間などに目をつむれば、完成度が高過ぎるのだけどニャ」
なお、金属製の物とかも用意はしたが、肉体の負担などを考えると今は軽い方が良くて、木製にしたらしい。
中身は多くの細工が施されているらしいが…‥‥木目なども除けば、人の腕とそう大差はないだろう。
「耐久性などに問題があり、精々10馬力しか出せない腕ですが‥‥‥まぁ、これで十分でしょウ」
「常人の馬力って普通どのぐらいだっけ?」
…‥‥まぁ、聞いたところで意味をなさない気がするので、回答を聞かないでおこう。しかし木製の義手でその馬力ってことは、装備のガントレットなどで使用できる分だとどのぐらいなのか‥‥‥今度からもっとよく考えて使った方が良いのかもしれない。
気が付きたくはなかったが、いや、むしろ前々からやけに力が出るなぁと思っていた道具の取り扱いに関して頭を悩ませていると…‥‥ふと、少女が目を覚ました。
「ん‥‥‥あ、あ、‥‥?」
まだ頭が寝起きでボーっとしているのか、ゆっくりとした動きでベッドから体を起こしこちらを見る。
眠気があるのかまだ目も瞼が半分以上閉じつつ、隙間から全体を見渡し、少し固まった。
「…‥‥!?」
そしてようやく頭の中で、現在の状況がどの様な物なのか大体推測が付いたようで、驚愕の表情になる。
ついでに手も動かした際に、自身の手が義手に変わっていることに気が付いたのかそちらの方に目を動かし、更に驚愕した顔を越えた、限界突破した顔を見せ‥‥‥
「‥‥‥きゅぅぅ」
「あ、気絶した」
「情報量、多すぎたのかニャ‥‥?」
‥‥‥起きて早々、直ぐに彼女は気絶してしまうのであった。
まぁ、訳の分からない状況だったらそうなるのも無理はないかもしれない。
だってベッドの周囲、明かに人外だらけなうえに、自分の体で異常を把握していたなら変わっていた部分にも気が付くだろうし、色々と情報量が多くて処理ができなくなるだろう。
「考えたら、全員一旦リリスの中に入って、情報量を減らしておいたほうが良かったか‥‥?」
「それ、今さらすぎるような気がするのニャ」
何にしても、一旦彼女の目に入るであろう情報量を減らすために、ひとまずリリスの中に全員で入って、改めて何人かに分けて少しづつ出ながら、起床させるのであった…‥‥
「‥‥では、声が出ないのですネ?」
「‥‥」
改めて情報量を減らし、起床して落ち着いた彼女に対して俺たちは状況を説明した。
色々あってここへ入国し、その中で見つけて保護したことなどを伝えつつ、何も悪い事はしないとしっかりと約束しつつ、会話をしてもらおうと思ったが…‥‥どうやら今、この少女は声が出ないらしい。
「声帯部分にもあった細工は既に治療済みなのですが…‥‥歌わされていた影響なのか、発音を忘れたようデス」
「リハビリ以前に、まずは声出しの練習からしないと声が戻らないか…‥‥」
色々酷い状況にあったようだが、これでは会話がし辛い。
そこで、文字を書いてもらってそれで成り立たせることにした。
こちらは成功したようで、慣れない義手とはいえノイン御手製故か、やや字が震えたようになっても、きちんと内容が把握できる。
『---これで、ワタシの伝えたいこと読めるかな?』
「ああ、読めるよ。というか、義手なのに直ぐに書けるのはすごいような…‥‥」
『それはワタシが言いたい。自分の手じゃないのに、自分の手のように扱えるこれは何?』
…‥‥その質問はごもっともです。自分手が失われたことを自覚した後に、新しい手ができていたらそりゃ分からなくもなるもんな。
それでも何とか互いに話し合って見たところ、ようやく少女は自身の口ではなく文字で説明してくれた。
少女の名前はアリス。ガランドゥ王国の第1王女で、年齢は俺たちと同じぐらいの子らしい。
今でこそ幼い少女のような容姿になっているが…‥‥これは、色々施された結果らしい。
『ほんの数年前までは、ワタシも普通に過ごしていた。職業顕現も待っていて、できれば「歌姫」のような珍しい芸術的職業を得たかったのだけれども…‥‥』
「その時に、国王に接触する者が出たと?」
『うん。仮面をつけた、変な人で…‥‥』
ガランドゥ王国は芸術を重視する国であり、その芸術作品をわざわざ国王へ見せる人たちなどがおり、国王自身もそれらを楽しみにしていた。
そんな中である日、とある芸術作品を国王に見せたいという仮面の者が現れたそうなのだ。
『‥‥‥何と言うか、仮面全体が笑みを浮かべているような、そんなおかしな人。でも、そこまで怪しい雰囲気はその時は感じさせなかったの』
「仮面全体が笑み…?」
‥‥‥仮面の者と聞いて思い浮かぶのは組織フェイスマスクだが…‥‥あの組織の場合、確か感情が半分ずつのような仮面だったはず。
全部が一つの感情を表すような仮面をしていなかったような気がしつつも、話を続ける。
その仮面の者は、国王にとある芸術作品を見せたが‥‥‥彼女はその作品を目にすることはできなかった。
国王だけがその作品を見て、その後は普段取り満足したのか褒美を与えたりするぐらいだったらしい。
だが、それからしばらくして少しづつその仮面の者が登城してきては、国王に作品を見せる回数が増え、何時しか常駐していた。
いわく、常に最新の作品を国王に見せるという目的がありつつ、国王の方もその作品を非常にお楽しみにしており、まだかまだかと急かすようになったので、わざわざ王城に専用の部屋を作ってそこに泊まらせたそうだ。
その作品が何なのか、彼女はその時はまだ目にすることができなかった。
非常に気になって、こっそり入り込んでみたりしたけれど、何もないほどシンプルな部屋をしており、どこにその作品が保管されたのかもわからない。
‥‥‥それから月日が過ぎたある日、急に国王は変わった。
今までは、国民の生み出す作品を見るためにも結構な回数で城下街に出向いていたりしたのに、ぴたっと王城から出る事を辞め、籠るようになったのだ。
『急に出なくなったと思えば、仮面の者を呼んで毎晩話し合いをしているようだった。芸術についてなのか、それ以外なのか分からなかったけど‥‥‥あの時から父の目には、何か囚われたような感じがしていた』
何かを切望し、それを追い求めるかのような、そんな目。
けれども良いものという訳ではなく、執拗な…‥‥いや、何かの執念を抱いたかのような、怖い目。
そんな目をし始めた父に流石に家族の他の王族も心配したのか、色々な手を使って紛らわせようとしたり、あるいは素晴らしい芸術作品を作り上げて、そちらに目を向けさせようと一生懸命になっている中で‥‥‥それは、突然訪れた。
『…‥‥あの日、ワタシは父のために歌を披露して、その怖い目を治そうとしていた。そしたら急に、後ろからガツンっと痛みが走って…‥‥』
…‥‥国王の恐怖の目をなんとかするためにも、家族総出で様々な芸術を見せていた。
そんなときに、彼女が歌を歌っている中で急に襲われ、次に目にしたときには‥‥‥‥
『‥‥‥ワタシは、繋がれていた。そして、言葉も奪われてしまった』
起きた時にいたのは、彼女の自室。
けれども彼女自身の腕が拘束されて動きが制限されており、声を出そうも笛の音のような声しか出なかった。
そして気が付けば、室内には国王と仮面の者がいて…‥‥
『‥‥‥父は、変わっていた。あの執拗に何かを追い求めるような目から、ようやく見つけたかのような希望の光を出していた。けれども、それはもっと悪いもののようで不気味な笑みを浮かべていた…‥‥』
その日から、生活は一変した。
囚われの姫となった彼女には、何時も急激に無理やり意識を失わされては何かが埋め込まれており、体中が濁っていくような、気持ち悪い感覚があったらしい。
そして、他にいたはずの彼女の兄弟の王子たちなどとも連絡が取れなくなり、その代わりに王城のあちこちから悲鳴が上がっていたりした。
『ついでに、その時から急に頭が痛み始めた。繋がれていても、何とか窓までは届いたから見たんだけど‥‥‥』
王城のある場所は国の中心部であり、彼女の部屋からでもなんとか外を見れたらしい。
そして見たのは…‥‥あの、廃人ばかりのような光景。
『皆が、芸術を純粋に楽しみ合い、研鑽し合い、語り合っていた日々。それらが全て、壊された。父の声ももうしなくて、時折仮面の者がワタシの元に来ては、手術室とか言う場所へ強制的に運び入れて‥‥‥色々されていった』
何が施されたのか彼女自身にもよくわからないが、全部が何か悪いものだということぐらいは分かる。
そしてその手術室とやらの中で、偶然にもある日、彼女は国王である父の姿を見た。
けれど、それはもはや父の姿をしていなかった。
『‥‥‥変わり果てていても、あれは父だと分かる。けれども、もうあの優しかった父じゃなくて‥‥‥おぞましい、怪物へ変わり果てていた』
「具体的には?」
『…‥‥中身そのものだけ』
…‥‥人間としての肉体が無くなっており、その代わりになるような容器の中に存在していたらしい。
未知の液体に浸っており、こぽこぽと気泡が浮き立つだけだが、何故かそれで会話をしているつもりらしい。
『仮面の者、その父の動きだけで、何を言っているのかどうかが分かっていたようだった。しかも、無理やりされたとかではなく…‥‥本当に父は望んでそうなっていたかのようだった』
けれどもそれは、人としては許されざる行為をしているかのような光景であり、彼女は心の底から彼らの狂気を感じ取ったような気がした。
『ああ、中身だけと言ったけど、もうちょっと違うかも。何か、別の身体を作ってはそこに入れ込んでいた感じ‥‥‥だったかも』
彼女にとって、それは理解しがたい光景。
それでも、俺たちに伝わるように話してくれたが…‥‥想像したくはない光景だ。
「‥‥‥というか、別の身体?どんな感じのだ?」
『人間‥‥‥でもないかも。なんかこう、金属質というか、そんな感じのに入れていた』
「人体改造でもしているのでしょうカ?」
聞いた感じだとそう言う風に言えるだろうが、何となくその規模で収まらない気がしてきた。
『誰かに助けを願いたくても、囚われていては何もできない。変わり果てていく父を見ても、ワタシだけじゃどうにもできなくて…‥‥』
それでも、彼女は心まで屈することはなく、何かできないかと抵抗を始めた。
狂気に呑まれそうになったり、何時しか王城内に謎の魔道具が設置され、そこからの妙な影響を受けつつも、正気を保った。
そしてようやく、外に出れば何とかできるかもしれない希望を抱き…‥‥無理やり自分の腕を犠牲にして、出て来たようであった。
「その最中に、俺たちが偶然拾った訳か‥‥‥‥」
『正直、助かった。本当に、ありがとう』
そう書き終わり、ぺこりとお辞儀をする。
死にかけていたようだが、助かった事には本当に恩を抱いているらしい…‥‥‥まぁ、助かったところで、まだ解決する道が見えているわけでもないがな。
「どう考えても、その仮面のやつが怪しいというか、元凶だよな」
「そうとしか思えないじゃろ…‥‥しかしのぅ、何がしたいんじゃそ奴は?」
「国王の人体改造をして、何か利益でもあるのでしょうカ?」
考えられるとすれば、意のままに王族を操っての国家乗っ取りとかだろうが…‥‥この状況を見る限り、そんなことは目的としていないように思える。
というか、魔道具の影響で廃人ばかりになった国を、先ず誰が求めるのかという話にもなりそうだ。
「となると、やっぱり直接乗り込むしかないかなぁ…‥‥一応聞くけど、乗り込んで捕まるとかはないよな?」
『王城の警備、今は緩い』
…‥‥流石に王族の住まう場所ゆえに、普段はそれなりに警備がある。
けれども、その仮面の者に乗っ取られている影響なのか、衛兵などをほとんど見かけず、そのおかげで楽に脱出できたようでもある。
『‥‥‥でも、衛兵の姿が見えない以外にも、兄様や母たちの姿が見えないのが、気になる。どうなっているのか、分らない』
「そもそも、帝国の方でも王子の安否を気にしていたし…‥‥第1王女でさえもこの扱いだったという事は、他の王子たちも似たような感じかもしれんな」
このまま話し合っているだけでは、手遅れになる可能性の方が大きい。
何をもって人体改造などがあるのかはわからないが、今はもう、潜り込んでみないと分からない。
「ひとまず、直接乗り込むとして…‥‥この子の方にも追手が来そうだし、誰か残って守るか?」
全員で行くこともできるが、目の前の少女‥‥‥第1王女のアリスが逃げたことに、相手が気が付いていないわけがない。
追手が来る可能性もあるし、誰かに守ってもらう方が良いと思ったが…‥‥その言葉に、アリスは首を横に振った。
『いいえ、ワタシも行く。助かったとはいえ、それでもやっぱり兄様方が心配。王城内の案内などを受け持つから、どうか…‥‥』
「‥‥‥」
逃げ出してきたとはいえ、それでもここで残って報告は聞きたくないようだ。
助けを求めたとはいえ、その助けにそもそも彼女自身が加わらないとも言っていたが‥‥‥
「‥‥‥連れて行っても大丈夫とは思えないけど…‥‥リリスの中に入ってもらえばまだ安心か?」
「グゲェ!」
ばっちこいというように、蓋を開けて待機するリリス。
耐久性ならこの中でナンバーワンであり、動く要塞ともいえる彼女の中に入ってもらえれば、安全性は確保できるだろう。
あと、追手がこの宿とかに入ってこないとも限らないし‥‥‥記憶を失うリスクがある現状、国外へ運んでからというのもできない。
「なら、そうした方が良いか。ノイン、念のために彼女用の防護装置とかは作れるか?」
「予備ならありますからネ。それで記憶とかは守れるでしょウ。とは言え、強力な魔道具の影響は、その王城内ではより強く働くと思われますし‥‥‥少し、強化改良を全員分施してから向かった方が良いと思われマス」
今のままでもなんとか大丈夫だが、元凶の場所ではより効果が強くなっている可能性があり、色々と問題が生じる可能性がある。
ゆえに、ここまで得られたデータを元にして、強化改造を施すようだ。
「大体どのぐらいかかる?」
「1時間もあれば十分可能デス」
「なら、そのぐらいで出発しよう」
…‥‥狂気あふれる王城のようだが、それでも向かうしかないだろう。
そう思いつつ、出発まで全員念入りに準備をして置くのであった。
『‥‥‥ところで、一つ聞いて良いかな?そこの猫の人』
「何かニャ?」
『状況説明などで彼の事知ったけど、その彼の召喚獣たち‥‥‥本当に何者?この義手とか、魔道具とかを作る彼女もそうだけど、なんかとんでもない集団なの?』
「とんでもない集団と言われると、そうなるニャ。‥‥‥何であたしも、ここに混ぜられているのかということに疑問を抱かざるを得ないけどニャ…‥‥」
『‥‥‥ツッコミ疲れ?相当苦労しているのね』
‥‥‥なんか遠い目をしたルナティアに、アリスがすごい同情の目を向けているようだが…‥‥とんでも集団という部分は否定できない。うん、他人に言われると本当になんだろうこの集団と思ってしまう。
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