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228 深淵とかは覗きたくはないけれど

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‥‥‥ガランドゥ王国に入国したのは良いだろう。

 最初の国境の場所では、素晴らしい景色を見ることができたからだ。

 だがしかし、入国後に調査を行い始めたのだが‥‥‥‥


「最初の方はまだ活気があったが…‥‥」
「どう見ても、明かにヤヴァイ状態ニャよね…‥‥」

 ルナティアと共に、2日ほどかけて荷馬車を進めて国の中心部へ向かっているのだが、だんだん異常性が見え始めてきた。

 というのも、ただの商人のふりを装って、やってきたお客さんとかに軽く世間話のように話しかけ、情報を集めていたのだが、その内容がどんどんおかしくなっているのだ。

 最初は普通に国内の状態とかを聞くと、新しい芸術展が開かれるだろか、誰々が芸術の新境地に達した、達人になったなどの、芸術の国ならではの話題が多く出ていた。

 けれども、中心部へ向かっていくとその話題の目新しさなどが消えうせていき‥‥‥

「ええっと、ではお釣りを渡しますね」
「ゔぁ‥‥」
「包装いたしましょうか?」
「おぼぅぶあ」

‥‥‥ツッコミどころが多いというべきか、何か違う国に入り込んだ感じというべきか。

 人々の目がだんだん死んだ魚のように生気を失い、言葉もおぼつかなくなっている。

 芸術的な素晴らしい街並みであったはずが、中心部へ進むにつれて輝きが失われ、廃墟のように化していく。

「頭痛もしてきたな‥‥‥何かの道具の影響か?」
「その可能性も大きいですネ‥‥‥精神状態に関わるような魔道具が作用していると思われマス。幸いなことに、私たちは事前対策で用意してきた魔道具で抵抗できてますガ‥‥‥」
「ここの住人は無理だったようニャね‥‥‥」

 びたんびたんと壁に意味もなく体を叩きつける人や、まだ芸術家としての本能というべきものがあるのか、おぞましい像を作る人など、ちょっとした地獄絵図に近いものが広がっている。

 この様子だと普通は外で確認が取れそうだが…‥‥できていないのは、この国の構造の精だろう。

「内外へ流出・盗難を避けるための防壁が、皮肉なことにこの状況をここに隔離するだけの壁になっているのか‥‥‥」

 それでも外から見れば異常性が分かりそうなものだが、どうやら何かの精神操作が国全体にかかっているらしい。

 外に出れば記憶をなくすようにしていつつ、この中心部にはさらなる別の操作が入っているようだが…‥‥


「ぐぐっと…‥‥このツボで、だいぶ頭痛は改善されるでありんすが、思考しにくいでありんすな」
「精神操作系の魔法のような物じゃからなぁ‥‥‥こういうのは魔法か薬草で対抗策も取れるのじゃが、これはちょっときついのぅ」
「植物も育ちにくいですし‥‥‥ここの土地自体が異常になってますわね…‥‥」

 一旦馬車を止め、人目に付きにくい路地裏にて、各自の体調を整え直しつつ、現状の確認をしておく。

 ノインのセンサーでは、何か強力な魔道具が作用しているようだが、その副作用でこの周辺一帯がだんだんおかしくなってきていると推測できるらしい。

「これ、放置はできませんネ。土壌調査を行いましたが、侵食性の汚染が起きかけてマス」
「人の精神とかに作用するような道具だとしても、なんで土壌とかに副作用が起きるんだよ」
「ちょっと面倒な話しになりますので、簡易的に説明いたしますと、強力なこういう操作系は力そのものと言えるわけで、周辺もそれに作用されやすいのデス。分かりやすい例を言うのであれば、絵の具でしょうカ?」


‥‥‥例えば、真っ白な紙に色を塗るとしよう。

 何か物を書くのであれば様々な色を使う必要がある。

 その様々な色というのは、人であったり物であったり…‥‥組み合わせる事で、綺麗な絵が出来上がるはずだ。

 けれども、今回の精神に作用するような物の場合は、何もかも塗りつぶしてしまう…‥‥他の色が人や土壌、その他の生物などだとしても、それらを塗りつぶしてしまうほどのものゆえに‥‥‥いや、単純にそうなり切らず、混ざり合っておかしな色になっていくような状態になっているのだというのだ。

「例えが少し下手ですが、すいまセン。私自身の内部回路にも多少作用しているようでして、うまく思考が働きまセン」
「うわぁ‥‥‥ノインにも作用するのかよ…‥‥」

 このメイドゴーレムにまで少なからずとも影響を与えるとは、どれだけヤヴァイのがここにあるのかと言いたい。

 というか、俺たちがまだ無事なのも、彼女の作ったお手製防衛道具等があるおかげだからな…‥‥無かったらその辺の人のように、廃人になっている可能性があったな。

 とにもかくにも、長居は出来なさそうだ。

 かと言って、直ぐに報告のために国外へ出ようにも…‥‥残念ながら完全に影響を排除することは出来ず、伝えたい内容すらも忘れてしまうようである。

「こうなると、その大元の破壊をしたほうが良さそうですネ…‥‥これでは連絡しようにもできまセン」
「そう言えば、前に使っていたあの小型通信機だっけ?あれを遣えないのか?」

 国外へ出たら忘れてしまうのであれば、国内から連絡を取れそうなその道具が使えないのかと思いついたが‥‥‥

「‥‥‥影響が強すぎて、通信妨害されてマス」

 生憎魔道具の作用がデカすぎて、通信不可能らしい。

「手詰まりというべきか、何と言うか…‥‥こうなるとやっぱり、元凶のありそうな場所に潜り込むしかないのか?」
「そうなるのかもニャ」

 とはいえ、まだその大元に近づききってなくてもこの頭痛などがある。

 多少の抵抗ができても、かなりつらいし‥‥大体の位置を測定して、全員一斉遠距離攻撃でふっ飛ばそうにも、ここまで強力なのを守るために、何か自衛手段を施されている可能性もある。

 どうしたものかと悩んでいた…‥‥その時であった。

「‥‥む?」
「どうした、レイア」

 馬の被り物を外し、ぐぐーっと体を伸ばしていたレイアが、何かに気が付いたような声を出した。

「マイロード、何か焦げたかのような臭いがしてきたのだが」
「臭い?‥‥‥本当だ、なんか焼けた臭いがしているというか‥‥‥」
「なんじゃろう、こう、焼けちゃまずいものが焼けている気がするのじゃが…‥‥」

 くんくんと嗅いでみれば、風に乗って焼け焦げたかのような臭いが漂ってきた。

 どうやら風向きがちょっと変わっていたようで、先ほどまでは気が付かなかったが…‥‥なんだろうか?

 疑問に思い、何となくでその焦げた臭いの場所に、向かって見れば…‥‥


「っ!?」
「重傷どころか瀕死の子が倒れているのニャ!?」

 そこに倒れていたのは、まだ幼そうな少女。

 けれども、まったくの無傷ではなく…‥‥手の部分が手首からひじのあたりが真っ黒になっており、先が無い。

「焼き切って、ちぎって来たかのような感じですが…‥‥治療しましょウ」

 まだ息はあるようで、見つけてしまった者としては見捨てることはできない。

 幸いなことに面子的には医療関係に関しては大丈夫であり、見知らぬ少女とは言え直ぐに治療を開始する。

「失血が酷いですが、輸血用の人工血液は予備がありマス」
「ちょっと全身の気の流れというか、ツボがおかしいでありんすが…‥‥こことここを押して、どうにか命は繋げそうでありんす」
「薬草で焼けた皮膚も癒しつつ、再生も施させますわ。でも、流石にこの土地の状態で完全治療可能なものをは難しいですわね」
「一時的に義手で代用させましょウ。場所を移せれば、生やすことができるはずデス」

「‥‥‥流れるように治療できるな」
「なんか今、さらっととんでもない治療法も出たような気がしたのだけどニャ…?」

 とにもかくにも、てきぱきと皆慣れた手つきで治療を施していき、命は辛うじて繋ぎ止められたようだ。

 だが、虐待にも等しい状態にあったことに関してはどういうことなのだろうか分からない。

「ちょっと情報を見せてもらうかのぅ。ああ、肉体面での治療を任せつつ、魂が逝く前に確保するための作業じゃし‥‥‥」

 ぽっくりそのまま逝かれないためにも、すぽっとその少女から魂をゼネは引っこ抜いた。

「一応、ついでに何でこのような状態になったのか記憶を覗かせてもら‥‥んん?」
「どうした?」
「…‥‥御前様、この少女、ただ者ではないようじゃ」

 引っこ抜いた魂を色々触って弄っていたゼネが、表情を変えてそう告げる。

「ただ者じゃないってどういうことだ?」
「この者‥‥‥‥どうやら、この国の王族のようじゃな。しかも、この国の悲惨な状態に関するような情報を持っていたようじゃ」
「なんだと!?」

 まさかの助けた少女の魂から出てきた情報に、思わず俺たちは驚いてしまう。

 まぁ、勝手に情報を抜いた点はよく考えるとアウトに近いが…‥‥どうやらとんでもない子を助けてしまったらしい。

 何にしても、魂から情報もある程度探れるとはいえあくまでも客観的な物からであり、主観的な部分としては彼女本人の口からも聞く必要性が出て来たようであった…‥‥

「‥‥‥あ、これは酷いデス」
「今度はどうした?」
「のどの部分に、細工がされてマス。自然になったのではなく、人為的な…‥‥かなりの腕前の者による外科手術の痕跡が見られますネ。これでは、まともに言語を発音することは出来ず、笛の音のような声しか出せないと思われマス」
「‥‥‥ノイン、治すことは可能か?」
「この程度であれば、可能デス。しかし、この外科的痕跡‥‥‥‥神経のつなぎなども精密に行われているようですし、まともに活かせば雑に切った手足もまともにつなげるほどのものなのに、もったいない事をしているようデス」

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