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195 許可はあるので問題なし

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‥‥‥月も出てきた夜中。

 ディーたちは王子たちから受けた任をこなすために、貴族街の一角にある『グレイドルストン大公爵家』の屋敷に侵入していた。

 とはいっても、一応この国の王族に所属する貴族家なだけに、警備はしっかりとされている。

 なので、普通の間者や諜報が侵入することは難しいのだが…‥‥


「‥‥‥侵入成功っと」
「空から入るとは、流石に想定していなかったようですネ」

 最近の仮面の組織の動向などもあり、地上や地下からの警戒をしていたようだが、空から屋根に降り立ったとことに気が付かれていないらしい。

 改良型ホバーブーツで静かに着陸しつつ、今回はノイン、ティア、ゼネと共に入り込む。

 他の面子は召喚に備えつつ、王女の警備をしてもらっており、あっち側の警備も万全なので心配も特にないだろう。



 ひとまず屋根をティアが音もなく素早く切り取り、そこから屋敷の中へ俺たちは入り込んだ。
 
 目立たないようにゼネの幻術を身にまといつつ、あらかじめもらっておいた屋敷の見取り図を確認して良き、迷わないように注意する。

「さすが大公爵家というか、中の方も警備の人はそれなりに常駐しているようだな」
「偉い人の家だけあって、実力もあるんだろうけれども…‥‥気が付いていない時点で意味もないような気がするぜ」
「儂の幻術は、そうそう破れるものでもないからのぅ‥‥‥ちょっと喋っても聞きつけることが無いのも、なんか面白く見えるのじゃ」

 こっそり物陰に隠れたり、天井に張り付いて進んだりと、幻術だよりではない動きを行うが、様子を見る限り全然バレていなさすぎる。しかしこの天井張り付ける丸っこい手袋とか、結構便利だな‥‥。

 念入りに準備をして侵入したとはいえ…‥‥こうもあっけないのは気が抜けそうで怖い。

「っと、こちらの部屋は現当主の方の執務室デス」

 明かりがついており、そっと天井裏伝いに侵入し、そっと室内を除けば‥‥‥そこには、国王そっくりというか、ちょっと若くしたような人がいた。

 情報だと、アレが国王の弟で現当主だが…‥‥向かい側の方を見て、俺たちは首をかしげる。

「‥‥‥なぁ、もう片方って情報だと、今回の事件の黒幕と推定される王子たちの従兄‥‥‥デッドリーだったか?その人物だと思いたいのだが‥‥‥」
「‥‥‥年齢は、王子たちよりも上ですが、それでも働くには十分な二十代後半だと聞いてマス」

‥‥‥間違っている可能性も考慮したが、この時間に当主と一緒に作業をしている人物は、間違いなくその王子たちの従兄であるデッドリーという人物らしい。

 想像していたのは、王子たちをちょっと老けさせ、大人にしたような姿ではあったが‥‥

「どう見ても、まだ働き盛りの容姿だが‥‥‥」
「手が、映像とは違うのぅ」

 あの映像に移っていた人物は、もしやデッドリーの手の者とかだったのだろうか?

 まぁ、それはそれでどこかで接触する機会があれば証拠となるかもしれないが‥‥‥何かこう、違和感がある気がする。

 手の部分は確かに違うのだが、声とかは同じだったような気もするし…‥‥あとで確認するべきか。

「ふぅ、これで今日の勉強は終わりだ」
「おお、やっとか親父殿」
「ああ、良いだろう。採点もすぐに済んだが、結構良い点数を取れるようになっているではないか」

 っと、どうやら今は勉強中だったようで、ようやく終わった勉強にデッドリーが安堵の息を吐いていうようだ。

「お前が性根を入れ替えて、一生懸命取り組んで、成果を見せてくれるとは…‥‥うう、親としては本当にうれしいぞ」
「いやいや親父殿が一生懸命付き添って、心を変えさせてくれたんだ。それに答えなければいけないとおもえたんだ!」

 デッドリーの言葉に、感涙極まったのか、涙をほろりとこぼす現当主。

 これだけを見れば、更生した息子が親に対して生まれ変わった自分を見せて、喜ばせているというなんとも心温まりそうな光景しか見えないのだが…‥‥

「‥‥‥ご主人様、今あの方が隠されたの、カンニング用紙ではないでしょうカ」
「‥‥‥なんか思いっきり、台無しになった感じがするなぁ」

 テストをして、その結果を見て喜んでいるようではあるのだが、タイミング的に俺たちは見てしまった。

 デッドリーがバレないように、ほんの一瞬のスキをついて何か懐に隠したところを。

 そしてノインが拡大して、俺たちに見せてくれたのは、色々と文字が羅列された用紙である処を。



 これだけでも怪しさは満載だが、まだ決定的なところがあるという訳でもない。

 いや、声もほぼあの映像と同じではあったが‥‥‥何かこう、隠している節が見えている。

「さてと、おお、もうこんな時間か。それでは、部屋に戻って寝よう。明日の朝まで、お休みだ息子よ」
「ええ、お休みな、親父殿」

 そう言い、両者ともに部屋を出て、それぞれの私室へ向かうようだ。

 当主の方が良いのだが、デッドリーの方には怪しさが満載だったので、バレないように追跡し、その私室へ侵入する。

 天井裏から見るのも限界があるので、幻術でごまかして室内で隠れていると…‥‥デッドリーが入って来た。

 だがその表情は、先ほどの親子水入らずの空間のときのものとは異なり…‥‥粘着質というか、悪質そうな顔に変貌していた。


「…‥‥くはぁぁ!!!息が詰まるかと思ったでふぅ!!」

 そう叫びつつ、彼はベッドのそばにあった椅子に腰を掛ける。

 口調も変わっているが‥‥‥なんか息苦しそうな喋り方をしていないか?見た目的にはそこまで太っているわけでもないようだが…?

「まぁ、この程度の演技で親父殿をごまかせるのはいいが‥‥‥頭を無駄に使うのは、非常に疲れるでふぅな」


「‥‥‥演技?」

 なんというか、さっきのカンニング紙の時点で怪しんでいたが、どうやらあれが表の顔。

 ごまかして、更生したと見せかけた偽りの姿であったのかと思いつつ、見ていた‥‥‥その次の瞬間であった。

「やれやれ、窮屈というべきかなんというか‥‥‥よっこいせっと」
ジー‥‥‥

((((‥‥‥ん?))))

 背中に手をかけたかと思えば、なにやら妙な音を立て、ずりずりと下ろしていく。

 そのまま降ろし終えた後、手を前の方に戻して数回ほどもぞもぞと動いたかと思えば‥‥‥‥

ずぼうっ!!
「ぶはぁっ!!やっぱり窮屈でふぅな、この皮袋は!!」
((((!?))))

 まさかの中身から、更に老けたようなおっさんが抜け出してきて、俺たちは思わず目を見開いた。
 
 手の形状も、声の質もあの映像に移っていたのと同じなのだが…‥‥何故、デッドリーの体から見知らぬおっさんが抜け出してきたのか。

「の、ノイン‥‥‥もしかして、あの皮って人工的に作られたものかな?」
「いえ、違うようデス。成分遠距離分析結果ですが…‥‥あれは本当に、人の皮デス」
「それってつまり…‥‥中身をくりぬいて作ったものなのかのぅ?」
「そうなりますネ」
「うげぇ、悪趣味すぎる真実を見たような気がするぜ…‥‥」

‥‥‥あのデッドリーの姿であった皮は、人為的に作られたものかと最初は思った。

 だがしかし、ノインのセンサーなどから導き出した結果によれば…‥‥その皮は本人から剥ぎ取ったといえるような類だったようだ。

 つまり、既にデッドリー本人は中身が捨てられたか、あるいはまだどこかに放置されて生きているとか死んでいる可能性はあったが…‥‥流石にこれは予想外である。

 なお、流石におっさんの体形が収まり切らないような気がするのだが、どうやら何かの技術を用いているのか、ぴったりフィットしていたようだ。


「つったく、汗で蒸れて臭い臭いでふぅ!!」

 そう言いながら、その謎のおっさんは見苦しい姿から適当な衣服を部屋にあったタンスから抜き取り、それに着替える。

 そして脱ぎ捨てられた皮のほうは広げられ、ベッドの下から箱を取り出し、その中身を詰めていく。

「さてと、とりあえず今日の報告に向かいますか‥‥‥あー、面倒でふぅねぇ」

 やれやれと疲れたように言うおっさんは、中身が詰まったデッドリーの皮をベッドに寝かせ、すぐ後にベッドの下へ潜り込み、ガサゴソと音がした後に、姿を消した。

 おそらくは、見回りとかがあった際に、本人が寝ているようにという細工なのだろうが‥‥‥まさかの事態に、俺たちは驚愕する。

「本人が、既に中身を何処かへ連れ去られ、怪しいおっさんが何食わぬ顔で接していたのか‥‥‥」
「そりゃ、中身が変わったようにも言われるぜ。中身が本当に違うもんな」
「うわっ、今改めて探って見たのじゃけど…‥‥この皮着るのも不味い類なんじゃけど。滅茶苦茶、剥ぎ取られた際の怨念が籠っているのじゃが…‥‥」
「ふむ、ベッドの下の方に、隠し通路があるようですネ。地下の方も警備されていると聞いてましたが‥‥‥警備の隙をぬって作られたのでしょうカ?息子として偽って過ごしていたのであれば、警備にある程度融通が利いてもおかしくありませんネ」

 いつから中身が変わっていたのかはともかく、この時点で相当驚愕する事実だろう。

 というか、一応ここ大公爵家であり、色々王子たちからの印象が悪いデッドリーだったとはいえ、その人物の生死が不明になっているのはどう考えてもかなり不味い事態になっている。

「…‥‥とりあえず、どうするべきか」

 このまま一旦報告に戻る手段も取れるが、様子を見る限り結構前からやっていたようで、その間に何か取り返しのつかないような作業をされている可能性もある。

 真実をすぐに報告し、王城の方から兵を出して強制捜査ということも考えたが‥‥‥証拠隠滅のための爆破などの可能性もあり、動くには時間が無さそうだ。

 であれば、ここは報告及び追跡をしたほうが早いだろうし…‥‥

「‥‥‥ティア、速攻で王城に戻って報告しに向かってくれ。俺たちはこのまま追跡する」
「了解だぜ!」
「とはいえ御前様、この状況じゃと戦力不足になりかねぬ」
「それもそうだから…‥‥カトレアとアナスタシアを召喚する」

 すぐさま召喚を行い、彼女達を王城から引き寄せ、入れ替わるように彼女を戻す。

 速攻で状況を話しつつ、俺たちはベッドの下の方へ潜り込む。

「お、あったあった。穴があった」
「ここから、出入りしているようデス。梯子を確認」


 丁度真下に掘られているようで、出入りすることを考えてなのか、はしごが設置されていた。

 それを伝って降りていくと、作られていたらしい地下室へ辿り着いたが…‥‥


「‥‥‥何もないのぅ」
「周辺、何もないですわ」

 ゼネが見渡し、呼びだしたカトレアが木の根で探り、周囲を確認するとどうやら今の出入り口以外、他にない地下室のようだ。

 ただ、おっさんの姿はないし…‥‥どうなっているのだろうか?

「あ、ご主人様、ここに何かありますヨ」

 そう言って、ノインが壁の一部にあった隠しボタンのようなものを探り当て、それを押せば…‥‥



ゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥

「‥‥‥何だ、コレ?」
「召喚用の魔法陣に似てますが、形式が違いますネ」

 床板がずれ、出てきたのは複雑怪奇な模様で描かれた、魔法陣のようなもの。

 何かの魔道具の一種の可能性もあるが…‥‥おそらく、あの謎のおっさんはこれを利用して何処かへ向かったのだろう。

「ノイン、使えるか?」
「少々お待ちヲ。解析いたしマス」

 そう言うと、ノインの目からぴかっと光が出て、全体を照らし…‥‥数秒ほどで、結果が出た。

「驚きですネ。これ、転送陣の一種のようデス」
「転送陣?」
「まぁ、早い話が私たち召喚獣を呼ぶ召喚のように、別の空間と別の空間を繋げる特殊なもので…‥‥ここにあるのは、まだまだ改良の余地がありそうなものですが、簡易的なものだと推測できマス」

―――――――――
『転送陣』
召喚士の使う召喚とも似ている、一方通行ではないモノの行き来が可能な特殊な陣。
正確に言えば魔法陣ではなくそれ全体そのものが一種の魔道具となっており、様々な稼働条件がそろい次第、対になる陣へ移動することができる優れものである。
ただし、現状人の手で作り出すことは出来ず、ダンジョンに仕掛けられているトラップを採掘するしかないのだが、何かと大掛かりな仕掛けなのに大人数を運べないなどの欠点が存在している。とは言え、モノの輸送に便利な事もあり、価値はそれなりに存在している。

―――――――――


 要は、召喚士を使わない召喚陣の一種であり、一方的ではなく交互に使って使用できる物で、これだけでも価値のあるお宝にもなり得るらしい。

「使い方は簡単のようデス。稼働のためのエネルギーは血液1ml程度を落とせば、対になる陣に移動する者のようですヨ」
「血液をエネルギーにしてか…‥‥」

 消費量も少ないし、何処かにすぐに移動するには便利だろう。

 とはいえ、これの移動先の正確な情報もないし、下手すれば変なところに出る可能性もあるが‥‥‥まぁ、その時はその時か。

「‥‥‥それじゃ、これで移動してみるか」

 あのおっさんの謎もあるし、そもそもなぜこのような事をしたのかも疑問だが…‥‥あの時見た映像にあったテや声が一致しており、間違いなく犯人の一人だということが分かる。

 野放しには出来なさそうだし、さっさと面倒事は潰すに限る。

 軽く針の先で指を突き、ちょっと血を出し…‥‥ちょっと吸血の特性もあるカトレアが一瞬もったいなさそうな表情を浮かべるも、その血は垂れ、陣へ落ちた。

 その瞬間、魔法陣が輝き、瞬時に景色が移り変わった。


「ここは?」
「空間移動を検知。‥‥‥どうやら、別の場所へ移動出来たようデス」

 どうやら対になっていた陣が設置された場所へ来たようだが、幸いにも誰かに鉢合わせはしなかったようだ。

 地下空間のようだが、どうやら出入り口があちこちに存在しており、ココが移動手段の一つにされているらしい。

「さてと、それじゃ潜入捜査を引き続き行うか」

 きゅっと気を引き締めつつ、ゼネの幻術も展開しながら、俺たちは陣から出て、謎の場所の探索を始める。

 いつでもリリスやルビーたちを召喚できるように身構え、装備もフルに出しつつ、注意深くまずは一歩を踏み出し始めるのであった‥‥‥‥


「‥‥‥というか、本当にどのあたりに出たかな?」
「詳しい事は出ないと分かりませんガ…‥‥最近あったアップデートで、空間把握機能が強化されましたので、あと数分ほどで現在地の正確な位置座標を割り出せマス」

‥‥‥本格的に探る前に、さらっと現在地を割り出せるのはすごいような。

 あのアップデートとやらで、どこまでパワーアップしたのだろうか、このメイド‥‥‥なんかこれはこれで、結構取り返しのつかないようなことをしているような気がするのだが、気のせいだろうか? 
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