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189 やましい気持ちはそんなにない

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‥‥‥ノインの修理(?)から、明日で3日目。

 彼女の体内から出た後、色々と妙な音が聞こえてきているが、内部でアップデートとやらが行われているのだとディーたちは思った。

 具体的にどのようなことになるのかは不明だが、内部で聞いた説明では外装は特に変わらないそうなので、そこまで心配することはない‥‥‥と思いたい。



「‥‥‥というか、本当によく寝ているよなぁ」

 ベッドの上で、今だに目をつむってぐっすりと眠っているノインを見て、俺はそうつぶやく。

 外の雪もまだまだ降っており、毎日雪かきをしつつ、ノインの中に侵入したスライムモドキな怪物がいないかどうかを確認しているが…‥‥今のところ発見していない。

 あれで最後だったのか、それともまだ残っているのかはわからないが、一応周辺を熱消毒したので、それ相応に効果があってほしい所である。
 
 あとは、彼女に早く起きてもらって、本当に大丈夫かどうかが気になるが…‥‥なんというか、普段眠るような姿を目にしない分、この寝ている姿はちょっと珍しいと思う。

 いつ起床して、何時就寝しているのかよく分からないことが多いからな…‥‥深い睡眠をするのはそうない機会だろう。

 なお、他の面子は既に自室の方に寝る準備をしているので、この部屋には俺とノインしかいない。

 本当はノインの部屋があるので、そちらの方で寝かせるべきなのだろうが‥‥‥なんとなく、動いているのを早く見たいというか、不安心というべきか‥‥‥俺のベッドの方で寝かせているのである。

 俺の寝床は簡易的なベッドを皆に作ってもらったし問題はない。

 カトレアの育てた木を伐採し、ティアがナイフと鎖鎌で器用に形を整えて、ある程度柔らかい素材を詰め込んだものだからな。

 というか、これはこれで案外寝やすいというか…‥‥野宿する機会があれば、これで寝ても支障はないな。




‥‥‥とは言え、こうも無防備な彼女の姿というのも珍しいものである。

 頭のアホ毛がいつもなら動いていたりするし、感情でちょっと反応していたりするし、何かあれば素早く移動していたりするし、いつの間にか後ろに立っていたり…‥‥奇行しかないような?

 うん、考えないようにしよう。メイドとして彼女が一生懸命働いていると思えばいいんだ。

 時々料理を作ったり、掃除をしていたり、皆の手入れを行ったり、装備品を作ったり、情報を集めていたりと多彩にやっていたからな。

 腕時計の装備品の製造とかも‥‥‥メイドの嗜みだと思いたい。というか、彼女のメイドの定義をはっきりさせたい。中のあのサブシステムの人に、聞けばよかったか?

「すぅ‥‥すぅ‥」
「ん?」

 っと、そろそろ明かりを消して寝ようと思っていたところで、ノインの体内の音が静まり始め、静かな寝息を立てはじめた。

 内部のアップデートとやらが終わったのか…‥‥いや、まだ中身だけで、色々な部分が終わっていないだけかもしれないし、明日までは分からないか。

 寝息を立てはじめた彼女を横目にしつつ、簡易ベッドに俺は体を横にする。

 首を横に向ければ、ベッドで寝ている彼女の顔が目に入る。

「‥‥‥早く目を覚まして、元気な姿を見せろよ、ノイン」

 大事な最初の召喚獣であり、もうそろそろ初めての召喚から一年が経過しようとしているからな。

 というか、一年経過する前に結構数が増えているが…‥‥それでも、一番最初に出会った召喚獣なのは変わらない。

 やっぱり、寝込むような姿とかじゃなくて、いつものように元気な姿を俺は見たいんだよなぁ‥‥‥物静かで落ち着いているようでありつつ、時たまカトレアと喧嘩しつつ、生き生きと動く彼女をな。

 そっと目を閉じ、そのまま俺は眠るのであった…‥‥‥









―――システム、再起動確認
―――メインメモリ及びバックアップシステム、異常無シ
―――――補助動力炉始動、及び動力炉再起動‥‥‥完了

「…‥‥ふわぁ」

 欠伸をしながらも、ノインは目を覚まし、ベッドから身を起こした。

 自身の体の様々なシステムをチェックが完了し、いくつかのバージョンアップを確認していく。

「まだ、暗いですカ」

 システムの更新が行われ、思った以上に大容量だったので時間がかかると予定していたが‥‥‥予定よりもスムーズに進行したようで、時刻としては明け方のようである。

 きょろきょろと見渡しつつ、ベッドから出て素早く自身の着ている衣服を、いつものメイド服へ‥‥‥いや、より改装され、内部システム同様に最新型となったメイド服を取り出し、それに着替えていく。

 ディーの持つ腕時計型装備と同じように、瞬時に着替える事も可能だが‥‥‥新しく作り直されたメイド服は、きちんと実感しながら着替えたいのだ。

 
 風呂場でシステムダウンしていた時から、着替えさせられていた衣服を脱ぎ棄て、一度全裸になる。

 鏡を取り出し、自身のボディのあちこちを確認し、外装そのものには大きな変化が無い事を確認しつつ、取り出した下着を着用していく。

 ゴーレムの類とは言え、メイドゴーレム。きちんと下着も着用していく。

 もちろん、バージョンアップに伴い機能も一新されているので、いつでも取り出せる暗器の類も確認し、一つ一つ身に着け終え、着心地を確認し、問題ないと判断する。

「良シ」

 あちこちに施された仕掛けや、新しいデータによる動きの変化に直ぐに慣れつつ、目が覚めてしまったので滞っていたであろうメイド業に取り掛かり始める。

 ずっと寝ていた分、体が固まっているかと思っていたところもあったが‥‥‥内部の大改装により、動きに支障はない。

 むしろ、より洗練し、効率良い動きが可能となったので、メイド業の幅が広がったと言えるだろう。


 寝ている他の面子を起こさないように、音もなく室外に出て、素早く行動を開始し始める。

 箒や掃除機を構えて、掃除に取り掛かりあちこちがキラキラと光るほどきれいに仕上げ、洗濯物は全て洗い終え、乾燥させていく。

 今日も積もったと思われる雪も、雪かき機械を使ってすぐに取り除きつつ、朝食用の材料となる獣を森で仕留め、きちんと処理して調理していく。

 そしてある程度下ごしらえも済んだところで‥‥‥


「あらら?起きたのね、ノインちゃん」
「あ、ご主人様のお母様」

 朝日が昇ろうとしていたところで、どうやら起きてきたディーの母親に遭遇し、無事にノインが起きたことに喜んでくれた。

「良かったわねぇ、無事に起きれて」
「ええ、ついでにあちこち更新し、今その具合を確かめるために動いたのデス」
「まぁ、そうなの。でも、病み上がりでしょう?まだそんなに動いちゃだめよ」
「私、メイドゴーレムですのでそこまで支障はないのですガ?」
「ダメよ。でも、ここまで動けているようだし‥‥‥今日の朝食はわたしがやるから、貴女は部屋に戻って寝てなさい。ああ、出来たら起こしに来てあげますからね」

‥‥‥本当は動けるが‥‥‥何故か、ディーの母の母親オーラというべきものにノインは押され、仕方がなく部屋に戻ることにした。

 材料はそろえているし、腕前も良いのは分かっているので文句もないが…‥‥


「…‥‥やることはないんですよネ」

 起こさないようにそっと部屋の中に入れば、ディーが寝ていた。

 ノインが寝ていたベッドの方ではなく、簡易的なベッドらしき方で寝ているようだが‥‥‥様子を見る限り、寝込んでいたノインに譲っていたのだろうか。

「…‥‥」

 ふと、その寝顔を見て、ノインはちょっとうずっと何かがうずいたような気がした。

 きょろきょろと周囲を見渡し、頭のアホ毛センサーを稼働させ、誰もまだ起床していないことを確認して、そっとディーの側に行く。

「よく寝てますね、ご主人様」

 ぐっすり眠るディーの顔を見ながら、ノインはそうつぶやく、

 簡易ベッドゆえに一人分のスペースしかなく、潜り込むなどは出来ないが‥‥‥その分、より近くへ寄ってその顔を見ることができる。

 というか、ここまで接近しているのによく熟睡しているなとノインは思ってしまう。



‥‥‥死にかけることがあったり、何かと罠にかかることがあったりと、考えて見ればそれなりに勘は鋭くなって良いはずなのだが‥‥‥寝ている時は、完全に無防備だと言えるだろう。

 ある程度、精神などは鍛えていても、寝ている時はやはり油断してしまうのか。

 いや、油断するなという方が無理なのかもしれないが‥‥‥こうも熟睡している様子を見ると、何かと心の底からむずっと来るものがある。

 アップデート前にもあったが、アップデート後だとさらにより感じる、何かしらの衝動。

 どのようなのものなのか、まだよくわからないことも多いが‥‥‥悪いものでもないだろう。

 そっと気が付かれないように気を遣いつつ、ディーの顔に近づく。

 こうして間近で観察すれば、髪の白さなども良く分かりつつ、中々健康的な肌の状態なのもよく分かる。

 全体的には整っている方だし、下の方を見て唇もあるし‥‥‥

「‥‥‥そういえば」

 そこでふと、ノインはある事を思い出した。

 それは、とある狂愛の怪物が暴れていた時の一件で、ゼネが抜け駆けして行った行為。

 あの時は、まだよくわからないものもあったが、内心的にはこう嫉妬したというべきか、何と言うか‥‥‥とりあえず、何とも言えないようなもどかしさがあったようにも思える。

 そして今は、確実に無防備なディーにそれができそうだと思いつきつつ‥‥‥そっと自分の顔を近づけるが、ちょっと勇気が出ない。

「そう考えると、あの時のゼネは結構思い切ってましたネ‥‥‥」

 うむむと思わずちょっと唸りつつ、当時のゼネの勢いに感心をしていた‥‥‥その時だった。


バァンッ!!
「おはようだぜー!!」
「!?」


 部屋の扉の方から、ティアが勢いよく扉を開け、そう告げてきたのに思わずノインは驚いてしまった。

 センサーは稼働していたはずだが、どうやら考え込んでいたせいで気づくのに遅れてしまったらしい。

 そして、その驚愕から抜けきる前に、今のこの状態は色々と不味いかもしれないと思い、慌てて離れようとしたところで‥‥‥

ぐきぃっ!!
「ッ!?」

 ティアが入って来る前に立ち上がろうとした瞬間、急ぎ過ぎたせいで足をひねり、そのまま倒れ込む。

 勢いもついて、一気に‥‥‥‥


「お?ノイン、起きたのか!!良かったの‥‥‥だ、ぜ?」

 ノインが起床していたことに気が付き、ティアが声を掛けようとしたところで、目の前の光景に思わず止まってしまった。

「なんか騒がしいですわね、何をしているのですの?」
「何か今、変な音がしたのでござるが?」
「んー?なんじゃ、何があったのじゃ?」
「どうしたのでありんすかね?」
「グゲェ?」
「雪でも、入って来た?」
「いや、流石にそれはないとは思うが、マイロードの部屋で何を‥‥‥?」

‥‥‥そして続々と運悪くというか、タイミングが悪いというか…‥‥他の面子が起床し、室内に入り、その光景を見てしまった。


「「「「「「「「‥‥‥」」」」」」」」
「‥‥‥えっと、事故デス」

 そっとその光景を引き起こした自身の唇を離し、何事もなかったかのようにノインは立ち上がり、そう告げる。

 ディーの方は、短い時間だったせいか少し空気を奪われた程度だったようで、未だに熟視中のようではあったが‥‥‥‥それでも、その光景を見てしまった事実は変えられない。

「ア、えっと、そうデス。もう間もなく朝食のはずですので、そのお手伝いに行きますネ」

 はははっと、普段の彼女なら見せないような作り笑いをしつつ、新しい機能なのか大量の冷や汗をかきながら、部屋から出ようとしたノインではあったが‥‥‥残念ながら、逃亡は叶わなかった。

 がしぃっと肩をつかまれ、思いっきり引きずり込まれる。

 ディーを起こさないように全員で気を遣いつつ、別室の方へ彼女は運ばれてしまい…‥‥






「ふわぁぁ‥‥目が覚めた…‥‥あれ?ノイン、目を覚ましたの‥‥‥か?」
「おはようございます‥‥‥ご主人様。ですが、もう少しだけ寝させてください…‥‥がくっ」

 ディーが目を覚ました時には、彼女はベッドで寝ようとしていた。

 真っ白になっていたというか、何かがあったようだが‥なんとなく、聞かない方が良いかと勘が訴えかけてくる。

 取りあえず、無事に起きてくれたようだが、アップデートとやらでまだ本調子でもないのかなと、首をかしげて疑問に思うのであった‥‥‥‥
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