憧れの召喚士になれました!! ~でも、なんか違うような~

志位斗 茂家波

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170 動けることの大切さ

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「消える図書?」
「ああ、なんか最近噂になった怪事件だ」

 リハビリ中でありつつも、学園生活に何とか戻ってきている昼食の場。

 ノインに丁寧に椅子に座らされ、今日のメニューであるうどんをすする中で、友人のバルンがそう話を出してきた。

「この学園、結構変わった蔵書が多い図書室があるだろ?」
「ああ、よく利用しているから知っているよ」


 この適正学園の図書室には、何かと役立つ蔵書が多く収められた図書室が存在する。

 世界中の召喚士が召喚したことがある召喚獣の図鑑だったり、調理本、マナー本、護身術の本など、多種多様な本が多くあるのだ。

 俺たちも良く利用しているし、小説とかもあるので暇なときに借りて読んだりはしているのだが…‥‥どうも最近、その図書室でおかしな噂が流行っているらしい。

「何でもな、とある蔵書があるらしいのだが…‥その本を読むと、人が消えるそうだ」
「はぁ?そんなものがあったら、大問題じゃないか?」

 先日消えたというか、攫われた身でもあるが、流石に人一人が消えうせるような類があるのは非常に不味い事だとは理解している。

 それなのに、そんな本がどうも図書室にあるという噂が流れているそうなのである。

「まぁ、表向きは消える図書らしいがな…‥‥男子限定になると、ちょっと変わるぞ」
「というと?」
「‥‥‥あー、内容が内容だからな‥‥‥お前の召喚獣たちに聞こえない方が良いぞ」

‥‥‥何だろう。その一言だけで、どんな噂に切り替わるのか、悟った自分がいる。

 でも、一応俺も健全な男子だし、ちょっと聞いてみたいような‥‥‥内容を同じく悟ったのか、バルンに対してすっごい蔑みの目で見ている彼女達に耳をふさいでほしいとは言えないような。


 気になるような気がしつつも、流石にその大量のじとんっとした目を感じると聞くことができない。

 取りあえずはそこで一旦話を切りつつも、何となくどの様な物なのか、俺も気になるのであった…‥‥

「‥‥‥あとで、あの人のベッドの下を掃除してあげましょウ。ご主人様に妙な悪影響を与えてくれそうなお礼デス」
「それはやめておいた方が良いな」
 
 友人を切り捨てる気はない。それはそれで面白そうだと思ってしまったが、やらかすわけにはいかない。









 とにもかくにも、気にならないわけではない。

 消える噂の真偽はともかく、放置しておいてはいけない予感はするのだ。

 まだまだリハビリ中とはいえ、なんとか歩けるようになってきた俺は、放課後に杖を突きつつも図書室に訪れた。

 放課後ではあるが、勉学に役立つ教本や、面白い蔵書もある事から、図書室内にはそれなりに人はいるようだ。

 この様子を見る限り、人が消える本があるとも思えないのだが…‥‥

「で、ご主人様は何故ここに訪れようと思ったのでしょうカ?」
「噂話の本も気になるけど‥‥‥できればリハビリ向けの本が欲しいなと。ついでに心頭滅却できるような、小難しい本もな」

 バルンとの会話に合った噂話も気になるが、一応こっちの目的もある。

 ようやく動けるようになってきたのに、まだ風呂に彼女達と一緒に入ることになっており、精神が毎日ゴリゴリと削られるのである。

 なので、精神を守れるような蔵書が欲しいと思い、この図書室ならばあるかもしれないとちょっと期待を抱いて来たという理由もあるのだが‥‥‥‥

「‥‥‥あるんかい」
「『必見!!仙人の心にあなたも今日から!!』、『無とは何か、無我へ至る境地とは』‥‥‥これまた変わった本もあるのでござるか」
「『今日からあなたも名無し人間』、『ボッチ道ここに究めよう』‥‥‥変なものも多いでありんすな」

 …‥‥予想通りというべきか、意外性もなくきちんとそんな都合のいい本が存在していた。最初からこれを知っていれば、苦労しなかったかもなぁ‥‥‥なんか涙が出るぞ。

 内容を見れば、心頭滅却ができる方法だとか、何をやるべきかは体が勝手に動くようになって、本人の心は無になるとか…‥いや、これはアウトかな?

「なんというか、この図書室も色々と謎があるよな…‥‥噂も気になるけど、こっちの色々と変な本が多い理由気になるんだが」
「ああ、それでしたらこちらの『適正学園歴史書』に載っているようデス」
「そうなのか?」

 思いのほか、その回答があっさりと見つかったことに俺はあっけにとられた。

 内容を見ると、どうもこの適正学園の図書室は、もともとそう面白くないような蔵書しか存在しなかったらしい。

 だがしかし、ある時を境に急激に蔵書が増え、種類が物凄く多くなり、変わった蔵書ばかりになったそうである。

「原因は不明だが、その時を境に増えた、か…‥‥」

 増えた理由に関しては不明だが、何時の頃合いからか増えていたというのは記載されていた。

 時期的に見れば、どうも新入生が‥‥‥俺よりももっと昔、数十年ぐらい前の新入生が入ったあたりから変動したらしく、当時の新入生が何かをやらかして、今の図書室が出来上がったらしい。

「でもその詳細な記録はないのか」
「誰がやったのか、という明確な部分が不明なようですしネ」

 気になりはするけれども、分からなくていいか。

 何にしてもその何者かがやってくれたおかげで、色々と役立つ蔵書が存在するからな。

「まぁ、噂の本も見かけないし、一応これだけ借りて…‥‥」

 このまま噂の本も見つけずに、ためになる本を抱えて自室に戻ろうとしていた時であった。


「あれ?」
「どうかされましたかご主人様?」
「いや、なんかいつの間にか人が減っているような‥‥‥」

 本を探すのに少々時間がかかったとはいえ、気が付けば図書室内の人の数が減っていた。

 それも男子ばかりというか、女子の割合が多くなっているというか‥‥‥偶然か?

 いつもならば何気ない事で、本当に偶然だと思ってスルーするところだが、どうもちょっと勘が冴えたというべきか‥‥‥

「‥‥‥言われてみれば、確かに減ってますネ」
 
 ノインも気が付いたのか、頭のアホ毛をみょいんみょいんと回し、確認するように周囲を見渡す。

 カトレアたちもその事に気が付き、彼女達も軽く周囲を見渡している中‥‥‥ふと、リリスが声を上げた。

「グゲェ?」
「どうした、リリス?」

 リリスがひょこひょこっとジャンプして取ったのは、一冊の本。

 それは分厚い本ではあったが…‥‥見たことが無いような文字で描かれていた。


「…‥こんな蔵書、ココにあったか?」

 文字の色は金色で、表紙の方も金の刺繍で軽くあしらわれているというか‥‥‥妙な気配を感じる。

「ン?‥‥‥リリス、その本をその机の上においてくだサイ」
「グゲェ」

 ビシンッっとノインのアホ毛が逆立ち、彼女がそう告げるのでリリスはその本を近くの机の上に置く。



 ノインのこの頭の毛ってレーダーとかセンサーとか言うやつだったが…‥‥これが立っているということは‥‥‥

「ノイン、まさかとは思うけれども…‥‥」
「ご主人様、その予想は当たっているようデス。‥‥‥この本、ただの本ではありまセン。多くの生命反応を内部から確認しまシタ」
「ということは」
「恐らく、噂話になっていた消える図書に関するものかと推測できマス」



‥‥‥噂話も気になって、ここに訪れた。

 そしてその中で、まさかの関係ありそうな書物に、俺たちは遭遇したようであった…‥‥
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