憧れの召喚士になれました!! ~でも、なんか違うような~

志位斗 茂家波

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148 人生最大のピンチ(狂編)

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【Oooooooooooo!!】

 もはや人語で話すことすら辞めたのか、咆哮をあげながら狂愛の怪物は腕を振り下ろし、こちらを取り込もうとしてくる。

 狙いとしては、ゼネの召喚主である俺を取り込み、彼女を手に入れるための道具としようと考えているのだろうが、取り込まれる気はない。


「装備着用!!」

 腕時計のボタンを押し、ノインが創り出した俺用の装備を装着し、まずはホバーブーツを起動させて全力で跳ねまわって逃げる。

 故障はしていないようだが、いかんせん飛び続けても意味がないので、飛んでは降りて、素早く着地地点をズラし、確保されないように動き回るしかないだろう。

 出てきた装備はブーツにガントレット…‥‥そのほかの装備や前のヘルメットはまだ未完成な部分もあるせいか装着されてないが、回避に集中するには十分だ。

「まずは動きを止めるぞ!!カトレアは木の根や蔓で、アナスタシアは氷結させて動きを奪え!!」
「了解ですわ!!」
「了解!」

 こういう狂愛の狂人の怪物に、まともに攻撃が通じそうにないのは雰囲気的に分かるので、先にその動きを制限させてもらう。

 地面からカトレアが大量の蔓を生やして巻き付かせていき、その外からアナスタシアが凍らせていく。

 だが、単純にこれだけでは精することができないのか、蔓を引きちぎり、内側から氷を砕き、拘束から逃れようとしているので、ここにさらに‥‥‥

「ノイン、捕縛用粘着弾とかで強力なものを使え!」
「分かってマス!」

 ガシャコンっと彼女の腕が機関銃へと変形し、そこからドドッと粘着弾が発射される。

 いつぞやかのメタリックスライム捕縛用に使用したものよりも強力らしく、べちゃべちゃとくっついていき、的が大きい分より多くの数がへばりつく。

 そして地面に接すると、そこにへばりつき合い、動きを徐々に鈍らせていく。

【ooooOOOoooooOOOOOo!!】

 声にならない怪物の叫び声からして、動きの制限は相当頭に来ているようで、全力引きちぎってでも動こうとしているだろう。

「動きを鈍らせたところで、攻撃開始!!」

 その合図と共に、各自が動き始める。

 粘着弾から光弾へと切り替え、地面からの蔓がイバラに変わり、氷結が弾と変わって飛来し、ルビーによって空に運ばれたリリスが宝石を投擲し、ルビーが羽ばたきで風を起こして加速させ、一気に威力を増加させる。

「まぁ、わっちの遠距離攻撃手段は特にないのでありんすが…‥‥全員の疲れがないように、ツボ押しするでありんす」

 人間から変貌した怪物にツボが見当たらないのか、やりようがないリザはせめてもの行動として皆の疲れが出ないようにツボ押しで癒し、素早く動いて皆の攻撃を途切れさせないようにする。

「御前様、儂も攻撃に参加して大丈夫じゃろうか」
「ゼネの場合は、攻撃よりも幻術を頼む。そうだな…‥‥元々ゼネ狙いの妹たちの塊だし、都合良い幻覚でも見せれば良いかな」
「わかったのじゃ!」

 他の面子の攻撃の合間に、ゼネが幻術を発生させ、怪物の目の周囲に霧のような物が覆いかぶさった。

【OOOooooooo!!OOO!?】

 っと、幻術のゼネに反応したのか、怪物が咆哮をあげ、拘束から逃れようとした動きを止める。

 見事に惑わせることに成功したらしく、このままいけばどうにか鎮静化できる‥‥‥‥そう思っていた、その時であった。



ドゴォォゥ!!
「「「!?」」」

 段々と動きが鈍り、このままいけばどうにかなるかと思っていた矢先に、突然妙な音が聞こえた。

ボッゴォゥ!!ドッゴォゥ!!ブンゴォゥ!!
「な、何だ!?」

 段々と音が大きくなってきたかと思いきや、突然その巨体がビクンと震える。

【OOOOOOoooooooo!!OOoOOoooネ、お、お、いねえざまぁぁぁぁぁぁぁ!!】

 人の言語を取り戻してきたのか、声だけははっきりと聞こえ、全身を大きく震わせる。

 そのままボゴボゴと音が鳴り響くと、その体全体が内部から何かが飛び出すように蠢き、一瞬のうちに巨大な肉ダルマと化し‥‥‥

【フンワァァァアッァア!!】

 ばぁぁぁんっ!!っとはじけ飛ぶように、表面の巨体が周囲へ爆発し、吹き飛ぶ。

 爆風をこらえ、なんとかそれが収まった後に残された場所を見れば‥‥‥そこには、既に狂愛の怪物の第1段階というべき姿は消え失せていた。

 代わりにいるのは、ゼネの妹及びその取りまきたちの姿ではあるが‥‥‥人間ではない雰囲気を纏っている。

「‥‥‥分裂したとか、元に戻ったわけでもないな」

 警戒しつつ、距離を取り、様子を観察すると…‥‥ギラリと彼女達の目が光ったような気がした。

「「「「「お姉様への愛・ビィィィィム!!」」」」」

 そう叫ぶと彼女達の口が発光し、それぞれから光線が解き放たれる。

 普通は光線というと一直線の棒状のものなのだが、どうも違うようでピンク色のハート型。

 けれども非常に不味い予感がして、辛うじてかわすと地面に着弾し…‥‥

ドォォォォォォン!!
「「「「「ちっ!!」」」」」

「シャレにならない威力になっているんだけど!?」

 着弾地点が融解し、ガラス状になって固まっていた。

 もはや人間を辞めたとかそう言うレベルではなく、狂愛の怪物第2段階へ進化してしまったと言って良いだろう。

「不味いでござるな…‥‥熱線放射!!」

 上空でリリスを抱えて飛んでいたルビーが、集中させた熱戦を彼女達へ向けて放つ。

 アレはアレで同じような効果を持つのだが…‥‥

「ビィィィム!!」

 一人が放ち、それとぶつかり合い、相殺し合う。

「コレゾ愛の力…‥‥そう、お姉様へ捧げる熱き思いが今、攻撃へと転じさせることに成功したのですわぁぁぁ!!」
「色々とおかしいのじゃが!?」

 物理的というか、光線的というか…‥‥体の変貌のみならず、遂に攻撃手段へと昇華してしまったらしい。というか、それはもう愛ではないような気がする。愛って何だろうか。

「あああ、あああああ!!お姉様への燃えたぎる愛の想いが、私たちの中で集まり合い、ようやく制御できるようになってキマシタワー!!」

…‥‥どうやら口ぶりから察するに、先ほどの巨大な一つの狂愛の怪物状態は、彼女達の愛が暴走するがゆえにああなってしまっただけのようであり、今はその力を制御させたことによって再び個人に戻れたらしい。「人間」ではなく「個人」という部分で色々ツッコミどころもあるが、入れている場合ではないのだろう。

 自分でそう考えても意味が分からんが、愛の力というのは狂気に呑まれるとすさまじいという事だけは良く理解させられた。

「これでお姉様のその召喚士!!お前をどうにかして押さえますわぁぁあぁ!!」

 一体の狂愛の狂人の怪物よりも、4体の狂愛怪人になったほうが俺を捕らえることに関して都合が良いようだ。

 大きな巨体では確かに動きも阻害されやすいが、数が増え、サイズも小さくなったことで狙いも定まりにくくしたのだろう。

「捕らえられてたまるか!!」

 ドウッと音を立て、ブーツの出力を上げ、素早く距離を取る。

 その後方から一気に跳躍され、詰められかけたが…‥‥そうは問屋が卸さない。

「プラントシールド!」

 地面からカトレアが伸ばした木の根が一気にそびえたち、木の壁を作り上げ、そこに狂愛怪人たちがぶつかっていく。

 急ブレーキは駆けられず、即席とはいえかなり頑丈な木の壁に激突したのだから、無事では済まないはずで‥‥‥

バッギィィィ!!
「うそぉ!?」
「「「「こんなもの障害にならなイーーーーーー!!」」」」

 まさかの全員頭突きで、木っ端微塵に砕け散る。

 慌ててアナスタシアが地面を氷結させて滑らそうとしたり、リリスが宝石を投げまくって直撃させようとしたのだが、それらも地面を踏みくだき、宝石を真正面から拳で粉砕されていく。

「粘着弾幕!」
「火炎放射!」

 ノインがガトリングでべたべたな粘着弾を撃ちまくり、ルビーが広範囲に広げた火炎放射を繰り出すも、何のそのというように、引きちぎって火に包まれても気合いでふっ飛ばし、進撃してくる。

‥‥‥何だろうなぁ、アレ。もう人間やめて狂愛の怪人どころか何かしらの深淵の生物とかそう言う類になってないかなぁ。

「やめるのじゃよ妹たち!!これ以上は何もさせぬために、あとできるだけ使いたくなかったが仕方がなし!!『死の霧』!!」

 ばっとゼネが放ったのは、命を奪う死の魔法。

 流石に身内に使うのは躊躇していたらしいが、この恐ろしい怪物と化した者たちを見るのは耐えきれなかったようで、せめてもの慈悲として自分の魔法で介錯しようとしたのだろう。

 触れて、包まれるだけで命を奪う魔法が彼女達を包み込み、これで終わったかと思った。


…‥‥だがしかし、愛の力(?)なのか、それとも狂気ゆえか、終わることはなかった。

「「「「お姉様の魔法のきりぃぃぃぃ!!」」」」

 そう叫び声が聞こえたかと思うと、ずおおおおっと何か音がし始めた。

 何事かと思ってよく見れば、霧がどんどん小さくなっていき‥‥‥全部彼女達が吸引していた。

「はぁっ!?い、今の普通に致死量なんじゃが!?いや、致死量も関係なく問答無用の死の魔法なんじゃけど!?」
「「「「お姉様の生み出したものは、私たちにとっての生きるエネルギー!!死ではなく、より生命力が溢れる栄養と化すのですわぁぁぁぁぁあl!!」」」」

 死を凌駕するその姿に、俺たちは唖然とする。

 もう何なの、この人たち…‥‥ゼネがトラウマになるのも非常によく分かるレベルだよ!!

「「「「ふえっふえふえへうふふふふんすうはぁあ!!元気100倍お姉様パゥワァー満タンですわぁぁぁぁあ!!」」」」

「こ、これ本気でどうしろと⁉」

 死の魔法すらも聞かず、数多くの妨害すら聞かない狂愛の怪物。

 現在進行形で俺たち全員のトラウマになりつつあるが、このまま放置することもできないだろうし、だんだんその目が狂気に呑まれ過ぎてより多くの恐怖を与えてくる。

「ふむ‥‥‥人間の精神力って、とんでもないですネ。精神力だけで全てを凌駕できる生命体になっているようデス」
「見ればわかるよ!?」

 ノインのその分析に俺はツッコミを入れる。

 よく根性とか気合いとか言う話もあるけど、あれも多分それに近い類で愛を利用しているのだろうが、それだけでここまでの怪物に変貌できる狂愛にはおぞましさしか感じない。

「‥‥‥ん?精神力‥‥‥そうじゃ!」

 っと、その分析結果に対して、ゼネが何かを思いついたように手を打つ。

「のぅ、ノイン。あ奴らって儂への狂愛で成り立つ怪物と化していると言って良いんじゃよね?」
「そのはずですネ。死を凌駕したのも、その愛の精神で持ちこたえたのでしょウ」
「つまり、その精神を強く揺さぶれれば、勝機があるかもしれぬという事じゃよな?」
「理論上はそうなりマス」

 ゼネへの狂愛による精神力だけで生きているのであれば、その精神に対して強く揺さぶるような真似をすれば、何処かでほころびができる可能性もあるらしい。

 ただ、今の状態だと精神が強すぎて幻術なんかも効かないだろうし、そもそも何をして精神が揺さぶれるのかも分からないのだが…‥‥


「‥‥‥ちょっと御前様良いかのぅ?」
「なんだ?」

 ノインに確認を取り、その理論が活かせそうだという事で何かやる気なのか、彼女は俺の側に来た。

「妹たちよ!!そんなに儂が欲しいのかのぅ!!」
「「「「欲しいですわぁ!!」」」」
「儂がこの御前様の召喚獣でもあってもか!!」
「「「「その召喚主ごと取り込めば問題ないですわぁ!!」」」」

 叫び合い、そうやる取りし始めたが、何をやるんだと思っている中‥‥‥‥ゼネが動いた。

「取り込むのはお主たちにとって良い手段なのじゃろう。じゃけど、お主たちの考えではこれだけの美女だらけの召喚獣を従えつつ、まだ手を出していないように見えるからこそ、後でどうにでもできると考えている可能性がある。まぁ、用は何も害もない、手出し無しのヘタレじゃからこそ儂をまだモノにしていないと思っているのじゃろうが‥‥‥」
「おい、なんかさらっとヘタレとか混ざって」
「それなら儂が、先に動いても良いかのぅ?」
「いや、こっちの言葉をさえぎ、んむぐぅ!?」

「「「「へあっ!?」」」」
「「「「「「‥‥‥‥はい?」」」」」」


…‥‥ゼネがやらかしたその行動に、狂愛の怪物たちは驚愕の声を上げ、ノインたちはびしっと固まった。

 俺も何が起きたのか、一瞬分からなかったが…‥‥直ぐに理解させられた。


「‥‥‥ぷはぁ!!ど、どうじゃこの濃厚な関係を!!ファーストキスは既に御前様へ今ここに捧げ、お主たちには永遠に手に入らなくなったのじゃぁ!!」

 その言葉に、周囲は唖然としつつ、動けない。

 やられた俺も、動けない…‥‥いや本当に、ムードも何もなく、いきなりすぎるその行為に全員の思考が追い付かなかったのだが…‥‥これだけは言えるだろう。

 ゼネに対しての狂愛の怪物たちは、狂うほどの愛をゼネに注ごうとしている。

 生前の彼女の時から色々と襲いつつ、最後まで何とか守り抜いたとかそう言う話も聞いたが‥‥‥どうやら今のキスも、守っていたようなのだ。正直すでに無いかと思っていたが。


 そしてその行動は、狂愛の怪物たちの精神を思いっきり揺らがせるのに成功したようである。

 ぶっしゅわああああ!!っと何か黒いものが彼女達から噴き出し、人ならざる者であった気配が消えうせ、人である気配に戻る。

「お、お姉様の、初めてが…‥‥初めてのキスが‥‥‥奪われ‥‥‥」
「奪われてはおらぬぞ?儂が自ら捧げたのじゃよ」

 びしっと指をさし、堂々と宣言する彼女。

 だが、横顔を見れば滅茶苦茶赤くなっており、プルプルと震えているのが見て分かる。

「う‥‥‥そ、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」
「嘘ではない、真実じゃよ!!」
「「「「ああああああああああああああああああ!?」」」」


‥‥‥何と言うか、よっぽどの衝撃だったのか頭を抱え、彼女達は断末魔を上げる。

 そのまま数十秒ほど、耳に来るような断末魔を叫び続けた後、彼女達から力が抜け、その場に倒れた。

 生命確認すれば、生きているようで、人間にきちんと戻っているらしい。


「ふぅ‥‥‥どうやら、効果は抜群すぎたようじゃな。先にこれをやっておけばよかったかもしれぬ」
「いや、そうかもしれないけど‥‥‥いきなりすぎるんだが」
「すまんのぅ、御前様。まぁ、儂自身は特に悪くもないのじゃが…‥‥」

 いきなりの行為にこちらはまだ心の整理がつかず、ゼネの方も勢いでやったせいか羞恥心全開になったようで全身赤くなる。

「じゃ、じゃけどまぁこれで一件落着という事で‥‥‥」
ガシィ!!
「ん?なんじゃ、この手…‥‥あ」
「「「「「「‥‥‥‥」」」」」」

 肩をつかまれ、くるっと振り替えた彼女が見たのは、狂愛の怪物とはまた違うもの。

 全員無言でありつつ、軽く笑いつつ、目の奥が笑っていない。


…‥‥それからのことは、俺は覚えていない。

 気が付いたら寮の部屋で寝かされており、何事もなかったようにされていたぐらいか。

 そしてゼネがしばらく自室に閉じこもる選択をしていたぐらいであろうか…‥‥なんかこう、凄まじい惨劇とこちらにもとばっちりが来たような気がするのだが…‥‥記憶にないのだ。

 人間、記憶って簡単に失えたっけ‥‥‥?






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