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142 「絶対安全」とか言う言葉は、絶対無いと思う

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 学園祭、各学科での店。

 召喚士学科では、召喚獣たちを魅せる店を行っており、それぞれの召喚獣たちが各々を様々な魅せ方を用いて客たちを魅せていた。

 ある召喚獣は見事なジャグリングを披露し、またある召喚獣はほのぼのした外見をフルに生かして癒しの光景を披露していく。

 そんな中で、ディーの召喚獣たちも同じく魅せることは決定していた。

 ただし、数が学科内に所属する召喚士の中でトップクラスに多いので、魅せる時間も決められており、なおかつ全員を一度に魅せるには足りないというのもあって…‥‥




「‥‥‥それでは、お集まりになった皆様、どうぞお楽しみいただけるように思いマス」

 いつものメイド服よりも、より高級感のあふれるメイド服を着こなし、ノインは集まっていた客たちへそう告げる。

 室内はリリスの箱の中に閉じこもっているゼネが魔法で薄暗くして、カトレアの植物光光線が攻撃力をほぼ無くし、スポットライトとして上から照らす。

 そして彼女がそこから消えると共に、さっと小さな舞台が組み立て上げられた。

「それではこれから始まりますのは、私達が協力して行う小さな人形劇。とある絵本を元にした、愛と勇気の人形活劇デス…‥‥」

 舞台の上に人形たちが並べられ、まるで生きているかのように動き出し、客たちは驚愕をし始めるのであった…‥‥





「…‥‥思いのほか、受けが良いな」
「元は絵本ですし、内容が分かりやすいのが良いのでしょウ」

 そっとその光景を見つつ、俺がつぶやいた言葉に対して、ノインが答える。

 全員それなりに着飾らせたのは良いのだが、いかんせん全員まともに魅せるのもどうなのかとふと思い、ゼネが魔法で人形を操れるっぽいことが判明したところから皆で案を練り上げ、人形活劇で魅せることが決定した。

 題材にした絵本は、小さな国でのとある騒動。

 ある国のお姫様が攫われ、それを勇者が救い出すというストーリーだ。

 単純明快でありながらも、所々コミカルな要素も取り入れつつ、舞台装置にも工夫を凝らす。

 火を吐く化け物が出るシーンでは、防火対策した人形たちを登場させ、化け物の火として特殊加工したストローを内部に仕込み、ルビーが息を吐いて本物のブレスを出す。

 氷で造形されるシーンでは、アナスタシアが細かい調整を行いながら氷結させ、即興で創り出していく。

 舞台自体もカトレアの植物で出来ており、場面によっては成長させて変型させたり、花を生やして花畑を表現するなど多種多様。

 ゼネも雰囲気づくりにリリスの箱内部から魔法で人形を動かしたり、特殊効果を付けたりと色々しつつ、リリスは宝石を生み出してはキラキラした特殊効果用に砕き、まき散らす。

 そしてステルス性を生かして、人形交換時にはリザが素早く動き、客が気が付く前に違う人形へ交換させ、瞬時に変わったかのように見える光景で驚かせていく。


‥‥‥何と言うか、全員の能力を活かして魅せる人形劇であったが、結構ぴったりのようである。

 うん、諜報として何処かへ潜り込む際には、こういう劇団と偽っては入るのもありと言えばありかもしれない。

「さてさて、もう間もなく辿り着くは、姫を攫った悪いモンスターの居城。ここまでの中で様々な苦難がありつつも、もう間もなく救いの時は来るのデス」

 そしてノインはナレーターとして台本を読みつつ、メイドとしての嗜みなのかバイオリンをどこからか取り出して演奏し、場面に合わせたBGMを流していく。

 全員が一丸となって人形劇をして、客たちはその内容に喜び、楽しみ、ハラハラしつつ、わぁっと沸きあがる。



 最後のシーンで、ようやく姫が救い出され、城に帰還して祝われたところで幕が降ろされ、室内に明かりが戻り、しばし客たちは放心していたが‥‥‥誰かが拍手を鳴らし始め、そこから並みのように拍手が鳴り響き、大成功となったのであった。

「いいぞー!!面白かったぁぁ!!」
「なんだこれなんだこれ!!どうやってこんな劇ができるの!?」
「別嬪さんたちがやっていたけれども、人形でも悪くないなぁ!!」
「アンコール!アンコール!!もっと楽しませてくれぇぇ!!」


「…‥‥反響、すごいな」
「予想以上に受けたようですが…‥‥ええ、悪くはありませんネ」

 とはいえ、残念ながら俺たちの魅せる出番はこれで終わりである。

 わざわざ時間ギリギリなのでこれ以上することもできないし‥‥‥迂闊にここで目立ちすぎるのも良くないだろう。

 見てくれたお礼を述べつつ、俺たちは後の同級生たちに任せ、そっとその場から退出するのであった…‥‥

ビィンッツ!!
「ア」
「どうした、ノイン?」
「センサーに感アリ。データ該当者、接近中のようデス」

…‥‥あれ、それって。

「ふぉぉおおおおおおおお!!途絶えていたはずが、姉様の匂いが復活しましたわぁこちらですわぁぁぁぁあ!!」

「‥‥‥ああ、うん。報告しなくてもなんか聞こえてきたからわかった」
「御前様!!急いで逃亡するのじゃぁぁぁぁ!!」

 なにやら遠くの方から聞こえてきた声。

 その声を耳にし、リリスの中から慌てたような声でそう叫ぶゼネ。

 人形劇でうまく出来た余韻を感じさせる間もなく嵐が来るのか‥‥‥巻き込まれるのはごめんだ。

「ノイン、念のために超強力な消臭剤を散布。あの声を聴く限り、相手は匂いを頼りに探している可能性がある」
「了解デス。‥‥‥しかし、人間の嗅覚は犬ほど鋭くはないはずですのに、なぜ分かるのでしょうカ?」
「疑問に思わなくとも、ヤヴァイ生物だと考えれば良いのじゃ!!」







「すんはぁすうんはぁ!!ああ、間違いないですわ!!つい先ほどまで、お姉様がここにいたはずですわ!!」
「間違いない!この香りは共用財産にも一致し、残されている分だけでも確実にいたはずですよ!」
「でも、なぜでしょうか、ここで途切れてますわね…‥‥」

 ディーたちがすたこらさっさと逃亡を開始し始めたところで入れ替わりに、その場所に彼女達は集結する。

 本当であれば、彼女達の崇拝するお姉様に害しようとする輩たちの居場所を突き止めたので、先にそちらを襲撃してゆっくりと楽しむはずが、どういう訳かその香りを嗅ぎつけ、理性が吹っ飛び、ここへ急行したのである。

「お姉様お姉様お姉様!!どこへ行かれましたのぉぉぉぉ!!」
「すんはぁすんはくんかっくんかぁ!!に、匂いが無いですわ!!」
「でしたらそっちの可能性が高いはずよ!!」
「ええ、匂いが消えているという事は、むしろその消えた先にいる可能性がありますわ!!急行してお姉様成分を大補充するのですわぁぁぁぁ!!」
「邪魔者!?面倒そうな輩たち!?そんなものは知った事ではないですわぁぁぁぁ!!」

…‥‥何故だろう。ここへ来るまでは、まだ理性を保ち、冷静に判断できていたはずの彼女達。

 だがしかし、どういう訳かひとたび嗅ぎつけたがゆえに、理性が旅に出てしまい暴走する欲望の獣へ、いやそれならまだマシだったかもしれないものへと変化してしまったのだ。

「匂いが消されているのであれば、その先にいるはず!!お姉様がいくら工作をしても、私たちには通用しませんわ!!」
「ああ、ああ、あああ!!非常に久しぶりの生のお姉様へつけるチャンス!!」
「逃すなこの機会、逃してはならないこの機会!!全速前進ですわぁぁぁああああああああああ!!」


 はた目から見れば、ただの騒がしい集団。だが、当事者たちからすれば恐怖の集団。

 理性が遥か宇宙の旅へ出かけているはずなのに、何故か冴えわたるその知恵を活かし、着実にお姉様もといゼネの元へ向かって走り出す。

 しかも、ここへ来るまでにちょっと布教したせいか、より一層集団の人数は増えており、ちょっとした恐怖の大集団へと化していたのであった‥‥‥‥

「お姉様ぁ、今行きますわぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!」



「おおぅふぅ!?やばいやばいのじゃ!!なんか人生、いやモンスター世で一番ヤバい者たちが来たのじゃぁぁぁぁ!!」
「ゼネ、落ち着け!!まだどうにか逃げる手立てはあるはずだ!!」
「分かっていても、体が恐怖をぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



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