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114 探せば案外でるものなのであり

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…‥‥学園のある都市を襲った未曽有の水害と怪魚騒動から数日後。

 奇跡的にも水害の方は、犠牲者はほとんどいなかったようであり、悲しむべき命が流れなかったようである。

 だがしかし、問題は怪魚の腹の中‥‥‥いや、正確には砕け散った氷片から出てきた。

「‥‥‥間違いないですネ。これは人間の遺体デス」
「すでに消化されているが‥‥‥何処の誰かというのは、判明したか?」
「都市に住まう、貴族だったようだな。家屋の捜査に踏み切ったが、違法売買の証拠が多く見つかったが‥‥‥こんなものまで出てきたぞ」

 そう言って、生徒会長であるゼノバース第1王子が放り投げてきた報告書に目を通すと、そこにはある報告が書かれていた。

「あの怪魚、その貴族が購入したやつだったのか!?」
 驚くべきことに、購入記録を捜す中で、最新部分にとある生物の取引‥‥‥リストに書かれていた『CZ-03』というものに関しての特徴が、あの怪魚に合致していた。

 どうも生体兵器というような類の一種でありつつ、様々な生物を合成した末路でもあり、ムキムキボディなのは大量の筋肉要素を詰めた結果らしい。

 あの怪魚をどう扱おうとしていたのはともかくとして、そんなものを売りつけるところが問題である。

「それなのですがご主人様、おそらく怪魚の販売者は同じ組織デス」
「同じ組織‥‥‥まさか」
「ハイ。以前、森林国を襲った怪物たちと生体構造データが合致してマス。より完成品に近づけたというよりも、方向性を変えた失敗作と言えるレベルですが…‥‥」

 氷漬けにしたが、溶かしたらその肉体は砂のように崩れてあっという間に崩壊した。

 その特徴からも、以前の怪物たちと同じような部分があり、同じ組織による犯行だという可能性が浮上したのである。

「購入目的か‥‥‥大体予想付くね」
「なんだ?」
「この貴族さ、僕らが今度捜査の手を入れて色々と洗おうとしていた類‥‥‥まぁ、分かりやすくいえば私腹を肥やすだけ肥やしまくって何も貢献することなく貪り食うダメ貴族なんだよね」

 と言っても、それはあくまでも貴族の領主としての在り方の部分では非常に無能なだけであり、ずる賢さなどにおいてはそれなりに目を付けていた者らしい。

 的確に自分の障害になりそうな相手がいれば、将来への投資といわんばかりに金に糸目をつけることなく、他者の手で汚しまくるような者でもあったそうな。

「そう聞くと、なんか予想がついたな…‥‥」
「なんかどころかはっきりつくよね」

‥‥‥多分、俺たち狙いだったやつだこれ。

 あの怪魚であれば、確かに俺たちを倒せた可能性はあるのだが、その本人が遺体となって出てきたという事は、飼い犬に手を噛まれるがごとく、怪魚に体を食われたのであろう。

 自業自得とは、まさにこの事である。


「と言っても、これはあくまでも予想だからなぁ‥‥‥」
「あ、大丈夫じゃよ御前様」
「ん?」
「ちょうど魂も入っていたようで、死霊術でちょこっと弄って自白させるぐらいならできるようじゃ」

…‥‥ゼネのその言葉に、俺たちは思い出した。

 そう言えば、彼女ってナイトメア・ワイト‥‥‥もともと死者の類も操れるモンスターだった。

 死んだ相手の魂を操るぐらい、できてもおかしくなかったな。うん、すっかり忘れていたというか、死者となった愚者をこうやって自白させる芸当が出来たのか。



 そんなわけで、色々と情報を聞き出そうとしたところ、どうも質自体が非常に悪かったようであり、内容が途切れ途切れかつ聞こえにくい声であり、話し終えたらすぐに消滅してしまった。

「‥‥‥‥ふむ、いま一つ良くないのぅ。業を積み重ねていたが故の穢れなのか、怪物に溶かされたのか‥‥‥何にしても、あんまりいい情報は無かったのぅ」
「魂って溶けるものなのか?」
「他に潰せそうというか、やらかしそうな貴族の情報が入ったのは良かったけどね」

 ゼネの言葉に対して、話を聞いていたグラディがそう答える。

 王子と言う立場上、今回の水害を引き起こした元凶のような輩が出るのは望ましくないので、事前にどうにかできるかもしれない証拠が手にはいったのは良かったらしい。

 ついでに色々と出てきたその他のやばそうな取引をしていた貴族家の情報も入ったので、これを利用して潰したり蟄居させて改善させたり、色々と掃除する材料になるようだ。なお、水害の件での損害補償は今回の騒動を起こした者の全財産を差し押さえて何とか補填に回す予定である。


「何にしても、また何処かの組織からの購入品だとか…‥‥情報を聞くと、前に森林国を襲った怪物たちを作製したところに似ているなぁ」
「仮面をつけていたとかの部分か‥‥‥」

 またもやというか、以前にもあった謎の組織による怪物騒動。

 今回のあの怪魚もそこで作られたものらしいが、迷惑過ぎるにもほどがある。

「いい加減、組織そのものがはっきり判明させたいけどね‥‥‥甘いものに溺れる愚者はどうしても出るからなぁ」
「国の立場としても、頭が痛いことこの上ないな」

 王子たちもその情報にはぁっと深い溜息を吐く。

 この件、下手すると国全体が水没しかねなかったからな‥‥‥‥一応、ある程度の水はリリスの中に入れつつ排水して、残っていた酒の方はどうした者かと思っていたけれども、酒好きな人たちが飲み干していった…‥うわばみとかそう言う類何だろうけれども、良くぐびぐびと飲めるな‥‥‥

「何にしても、警戒するに越したことはないか」
「他の国々にもしっかりと連絡して、包囲網をどうにか形成しないとね」

 とにもかくにも、今回の騒動に関する後始末はこのぐらいで良いだろう。

 ここから先の判断はもう国へ丸投げして、俺たちは復興作業に移らないといけないからな。


「‥‥‥ところディー君、一つ良いかな?」
「ん?」
「新しく召喚したその召喚獣って、結局種族判明したのかな?」
「一応、水没を免れていた学園の図書室から図鑑を引っ張り出して、捜したところ該当する種族ならあったな」

‥‥‥幸いというべきか、何かと蔵書がそろっている適正学園の図書室は、水没を免れていた。

 多くの人に見てもらうためとして貴重な図書もあったせいか、防水対策などは用意周到にされていたのである。

 おかげで、水没を免れて無事だった図書の中から、『世界の珍・召喚限定モンスター大百科』というものを見つけ、あの怪魚の後始末のために召喚した召喚獣アナスタシアの種族が判明した。

「布団に籠っているから引き籠るタイプの召喚獣かと思っていたけど‥‥‥どうも事情があったようで、確認のために本人に聞いてみて、種族が分かった。『雪女』だそうだ」

―――――――――――――――――――
『雪女』
人型に近い、スノーレディ、雪の精霊とも言われるようなモンスター。元々いる世界では妖怪と呼ばれる類でもあるそうなのだが、モンスターの区分に一応所属する。氷の扱いに非常に長けた種族でもあるが、非常に性格は極端な部分も多いそうで、過去の召喚例では、冷徹・残虐な者が多かったらしく、召喚した瞬間に瞬時に凍死させられ、直ぐに消え失せてしまう者が多いのだが、極稀に非常に優しい個体などもあるので、なんとか記録が取れるケースもあった。ただし、その時は全員幼い少女の者だったので、詳しい話しを聞こうにも成り立たず、結果としてその召喚主たちは性癖がねじ曲がっていったらしい。
なお、そのねじ曲がった性癖のせいで逮捕者が続出した者も多く、召喚されれば犯罪者が増加する都市の指標にもなったことがある。
――――――――――――――――――

「…‥‥まぁ、今回はノインたちと同じぐらいであるからいいんだけど、もし幼い姿の方だったら、第3王子が黙っていなさそうな気がしたんだが」
「…‥‥うん、まぁ、それだったらあの弟の事だ。絶対にやらかすのが目に見えている」
「ディー君の召喚した雪女が成人女性に近くて良かったね‥‥‥あの弟なら、もし幼い姿の雪女であれば絶対に色々な手を尽くしまくるのが分かるからなぁ‥‥‥」

 俺の言葉に同意するかのように、王子たちは遠い目をしながらうなずく。

 その第3王子自体は、夏季休暇明け後は第1王女と共に留学先へ戻ったらしいが‥‥‥いたらいたらで、色々と言われそうだよなぁ。「幼女な雪女じゃないのかよ!!」とか絶対言いそうな気がする。あの王子なら言いかねないというか、いなくてよかったかもしれないというべきか‥‥‥変人って、どこにでもいるんだな。

「アナスタシアの場合は、結構成長している見た目だが‥‥‥布団に籠っているのは、単純に自分の力が大きすぎるから、という理由らしい」

 とりあえず第3王子エルディムロリペドカオスの事は置いておくとして、彼女から聞いた話の方を報告しておく。

 彼女は瞬時に怪魚を氷漬けにして下していたが、どうも雪女の中でも彼女は異常なほどまでに氷の力が強いそうな。

 もっと正確に言うのであれば、雪女にプラスして別の氷系統のモンスターが混ざり込み、より強力な氷結の力を手にしてしまったらしいが‥‥‥強すぎる力の代償なのか、自身の体も冷えまくってしまい、常に半冬眠状態に近いのだとか。

「雪女が自分の冷気で冷えてしまうってのもどうなんだろうかとは思うけど、そのせいで、あの布団が手放せないそうだ」
「なるほど‥‥‥だから眠そうにしていたのか」

 一応、体温が上昇するか、周囲の気温が下がる事で多少は緩和できるらしいが、それでも自身の力の制御は難しいようで、こもりがちになったらしい。



‥‥‥話を聞いたところ、召喚される前にいたところでは色々あったらしいからな。

 強すぎる力というのも考えものである良い例であるというか、良くない話でもあったというか‥‥‥


「‥‥‥召喚した以上、召喚士として彼女は俺の方でしっかりと皆と同じように扱うよ」

 既にノインが彼女用の部屋を建築済みであり、そこに嬉々として入居していた。

 室内はさらに特別性にされており、有事の際でも眠気をふっ飛ばして動けるように急速冷凍装置とやらを設置しているらしい。

 通常時は常温ではあるらしいけれども、内装は簡単にいうと引きこもりの楽園でもあるようだ。


「そうした方が良いだろうね」
「それはそうとグラディよ、父上がその件で説教する場が整ったそうだ」
「…‥‥」

 生徒会長ゼノバースの言葉に、ぴしっと固まる副生徒会長グラディ

 聞いた話によれば、前にリザを召喚獣にした件に関しても少々思うところがあったのか国王が王女を説教したことがあったらしく、今回は緊急の件でやむを得ないという事ではあったが、召喚を誘導したグラディの方にも説教が来るらしい。

 人が召喚獣を呼ぶのは勝手でもあるが、俺の場合だと結構とんでもないものを召喚する割合が高いから、できるだけ増やし過ぎないように誘導することもしているらしいが‥‥‥うん、まぁ、仕方が無い事である。

 物事を成す際には、何事も犠牲は存在し、今回の犠牲はグラディになっただけの話だ。

 俺の方には責任とかはあるわけでもないし、むしろ未曽有の災害で立ち回った学園の生徒たち全体へ褒賞の話などもあるらしいが‥‥‥国の面子的なモノとかが関わるんだろうなぁ。

 そう思いつつも、話はそこで一旦区切られ、その場は解散となるのであった‥‥‥‥


「‥‥‥弟がそう誘導したが‥‥‥できればこれ以上、厄介な召喚獣を増やしてほしくないのが国の本音だな」
「こっちとしても、特に意図はしていないんだけどな‥‥‥何故かこうなるのが多いんだよ」

 異界の召喚士という職業、本当に分からないことが多すぎる‥‥‥‥

「なんかもう、何が出てもおかしくないと思えるようにはなったけどね。今度は霧状とか生物外とか、そんな類が出てきても驚かない自信はあるよ」
「絶対にそう言う類は呼ばないとは思う…‥‥多分」
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