憧れの召喚士になれました!! ~でも、なんか違うような~

志位斗 茂家波

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106 それは密かに積み重なって

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―――――ざぁぁぁぁぁぁ‥‥‥

「‥‥‥うわぁ、すっごい土砂降りだな」
「おかげで、外に出にくいデス」
「根腐れの原因にもなりますので、植物にとって水は命ですが素直に喜べまセン」

 夏季休暇も終わり、ある程度落ち着いてきた時期でありつつ、まだまだ残暑が残る今日この頃。

 現在、外は豪雨に見舞われており、課外授業などが中止される事態が相次いでいた。

「召喚獣学科の教室も、今日は全部の召喚獣がいる光景が見られるな…‥‥」

 召喚獣たちは基本的に、召喚士が座学の授業などの合間には、自分達で研鑽に励み、その中には校外へ出て鍛え上げ、模擬戦場などで他学科と交流したりする。

 だがしかし、この豪雨のせいで校外に出ることは叶わず、全員が召喚士の元に集まっているのだ。

「まぁ、濡れても大丈夫な召喚獣なら喜んで出るんだろうけれどな」
「流石にこの豪雨の中を嬉々として出る奴はいないようじゃな」

 豪雨ゆえに湿度も高く、どことなく空気がじっとりとしている。
 
 あちこちで尻尾や羽で空気を動かして湿度を下げつつ空気の入れ替えをして新鮮な状態にしようと試みる召喚獣たちもいるぐらいである。

「わっちとしては、高温湿潤は中々過ごしやすい方でありんすが、気を抜くと酒まみれになるのがやばいでありんすな」
「酒?でも水源は‥‥‥あ」
「湿気が酒になってしまうのでありんすよね」

‥‥‥リザの言葉に気が付いたが、今の湿度は非常に高く、少し動けばじっとりと肌に纏わりつき、たっぷり水分を含んだ衣服になるだろう。

 そのせいでどうも液体を酒等に変える力を持つ彼女にも影響が出てしまい、身に纏わりついた湿気によってできた水が、気を抜いたら酒となって蒸発してしまうようだ。

「ノイン、湿度を吸収する機能とかはないのか?」
「メイドの嗜みとして、乾燥機ぐらいならありますが‥‥‥あくまでも衣類など限定なので、難しいデス」
「わたくしの方も、根っこから試みましたが、ちょっと難しいですわねぇ」

 湿気も大概な困りものである。

「そもそも衣服がじっとりするのも大変なんデス」
「谷間とか、蒸れますからね」
「うう、さらしが蒸れるのも困るござる」
「元々死体じゃから、腐敗しないかちょっとヒヤッとすることもあるのぅ」
「グゲグゲェ」
「拭いてもまたじとっとくるでありんす」

‥‥‥あと、見た目的な意味でも。

 雨に濡れたわけではないのに、湿気が多すぎるがゆえに衣服がじめって肌に張り付くこの状況。

 ちょっと直視しにくいってのも、困りものである‥‥‥‥







…‥‥放課後、本日は生徒会としての集まりで、生徒会室に俺たちは集合していた。

「うう、昨年はこんなことが無かったからなぁ‥‥‥紙がふやけて最悪だよ」
「例年にはない豪雨だからな」

 生徒会長たち王子たちもこの湿気には辟易しているようで、困りものらしい。

 生徒会としての必要書類などが湿気でじとっと水を含んでしまい、ふやけていたり、インクがにじんでいたりと最悪である。

「ここまで学園の豪雨の被害があるのか…‥‥」
「そもそも、例年のこの時期はそんなに降ることはなかったよ」

 俺のつぶやきに対して、副生徒会長グラディはそう答えた。

 どうも今年の方が異常らしく、例年にはない異常気象のようだ。

「おかげで、各地の農作物の被害とかも考えると、結構国としても大変でね」
「下手すると、水害が発生するかもな」
「それはシャレにならないよな‥‥‥‥」

 この国、凶作とかはあったりするけど、災害はそこまで多いわけでもないらしい。

 なので、災害対策をしていたとしても、そこまで迅速に動けるかどうかが問題だったりするそうなのである。

「避難訓練とか、明日辺りに全校生徒でやった方が良いかもな」
「想定としては、水害の方が良いか…?」
「でも降っていたら、外に逃げにくいような」

 何にしても、この豪雨はそう長くなかったとしても、一応避難訓練をしておいた方が良いのかもしれないという結論になった。

 そのため、教師陣の方にも提案しつつ、避難訓練の計画を練ることになったのであった‥‥‥

「‥‥災害自体が無い方が良いんだけどな」
「いつ起こるのかは、予想付きにくいですが‥‥‥この豪雨ですと、可能性はありますネ」
「朝起きたら、水没していたりすることはないのでござろうか?」
「流石にそれは無いじゃろうな。地面が水を吸収するじゃろうし、何か施されでもせぬ限りそう簡単には起きぬじゃろう。まぁ、生前に油断してやらかされ、そのどさくさにまぎれて拭く名目で…‥‥ううっ」
「どんなトラウマだよそれ‥‥‥」








…‥‥ゼネがトラウマを思い出し、ディーが呆れてツッコミを入れていたその頃。

 実はゼネの言葉にあった、何か施されることはされていた。

「凄まじい豪雨だが、これだけでどうにかなるものなのか?」
「ええ、間違いないでしょう。後はこの仕掛けを動かし、こちらのものを扱えば確実と思われます」

 学園のある都市の周辺、とある貴族の別邸にて、その会話がなされている。

「まぁ、少々被害として覚悟して欲しいのは、この屋敷自体もダメになる可能性がありますが…‥」
「構わん。どうせ領民から搾り取れば済む話だし、将来的に失うかもしれぬ金を考えるならこの買い物と合わせても非常に安いはずだ」
「そういうもんでございましょうかねぇ?」

 その屋敷の主の言葉に、首をかしげる者。

 目立たないような衣服を身にまといつつ、半分怒りと笑いの仮面をつけた不気味な者はちょっと考えつつも、目の前の屋敷の主に対して興味もないので、気にしないことにした。

「ではでは、料金は受け取りましたが、一応注意事項を」
「というと?」
「こちらの作成ほやほや、試作品を兼ねて作られたものですが、水の中では確実に無敵を誇るでしょうが、そのせいで性格がより凶暴化し、制御を受け付けない可能性もあります。なので、万が一の時には離れた場所から、こちらのスイッチを押してください」

 そう言って取り出したのは、シンプルに髑髏マークの赤いボタンが付いたスイッチ付きの箱である。

「これは自爆装置ですので、押した途端に半径500m以内を蒸発させる爆発を起こしますので、その効果範囲外でどうぞ」
「ふむ‥‥‥まぁ、押すことはないとは思うが、受け取っておこう」
「ええ、どうぞ。あ、これは一応付属品ですので、料金を取りません」

 渡された箱を受け取りつつ、金を渡してその者を屋敷の主はさっさとその場から姿を消させる。

「なんというか、不気味なモノであったが…‥‥この豪雨と言い、それなりに信用はできそうだな」

 つぶやきながらも、購入したその瓶の中身を見て、未だに不信感は抜けきっていない矛盾もある。

「今のうちに出して、水の中を泳がせれば、明日には‥‥‥か」

 高い買い物ではあったが、邪魔者を排除できるのであれば問題あるまい。

 自分の地位を脅かす者がいることが一番の問題であり、それを解決できるのであれば相手が誰であれ、いただくのも悪くはないだろう。

「ついでに王族とかもプチッとやれば、そのどさくさに紛れて政権を握れるか?」

 悪だくみも考えつつ、今は余計な事よりも排除対象を排除するべきだと思い、動き出す。





‥‥‥そして数時間後、その選択が愚かな事であったことをその者は気が付いた。

 だが、その時にはすでに遅く、それを制御するためのスイッチは実は偽物であり、自爆させることもできなかった。

 断末魔を上げ、最後に見たのは、愚か者である自身の頭が離れた胴体ではあったが‥‥‥‥その厄災は、その場にとどまらないのであった‥‥‥‥
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