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91 平常運転もそれはそれで

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‥‥‥夏季休暇もまだ2週間ほどは残る今日この頃。

 ディーは着実に休暇中の課題も消化していき、森林国の騒動で潰れた分を取り返してきたのだが…‥‥


「…‥‥どうしよう、これ」
「どうするのこれー」
「そう言われても、どうしようもないでござる」
「巻き添えになるのは避けたいのぅ」
「グゲェ」

 リリスの箱に入り込み、そっと外の様子を見ながら俺たちはそうつぶやき合う。

「配合型特殊エネルギー充填完了!!喰らいなサイ!!」
「そんなもの、こっちの新植物ではじき返しますわ!!」

 ドッゴォォン、ドッガァァンっと光線やら木の根やら色々と撃ちあいつつ、争うノインとカトレア。

 なんというか、この二人は普段からそれなりに合わないところもあり、喧嘩になりやすかったのだが、今日はまた一段と凄まじかった。

 刃物を振り合うのではないのでぶつかり合う金属音が連続して聞こえることはないが、それでも互に物理的・特殊的な攻撃を激しく繰り出し合う。


「リリス、耐えられるよね」
「グゲ」

 俺の問いかけに対して、胸を張って自信満々に彼女は答える。

 この大喧嘩に巻き込まれたら、それこそ塵一つ残らない可能性があり、頑丈で耐久性高いリリスの箱の中は、うってつけの避難場所。

 一応、この喧嘩現場も村からそれなりに離れつつ、念のためにゼネが魔法で細工して影響を与えないようにしているのだが、それでもこの凄まじい喧嘩の様子を見ると不安にはなる。

「兄ちゃん、ノインさんとカトレアさんって、普段あそこまでひどい喧嘩をするのー?」
「…‥‥まぁ、間違いなく」
「否定しないの!?」

 同じ場所にいて、一緒に避難したセラの問いかけに対して、俺はそう答える。

 学園でも喧嘩していたし、そこでもより激しく争っていたからなぁ‥‥‥きっかけは何であれ、この二人の仲の悪さは直しようがない。

 大人しい時は互いに協力し合い、それこそ結構心強いのだが‥‥‥まぁ、あれか、喧嘩をするほど仲が良いともいえるのか?

「火炎放射器、溶解液などを使っている時点で、殺意があるのでござるが」
「仲が良いともいえないのぅ。御前様に仕える手前、ある程度は自重しているようじゃが…‥‥それがないと、こうなるんじゃな」

 うん、全然仲が良いとも言えなかったな。殺意マシマシというか、こういう時は非常に怖い。

「そもそも喧嘩の原因って何だっけ‥‥?」

「昼時に、せっかくなので外でのお弁当の際にでござる。主殿の妹殿が横にいたので」
「残ったもう片方の横側に座ろうとして、互いにぶつかったことが原因じゃな」

‥‥‥そんな理由で、あの大喧嘩へ?

「‥‥‥兄ちゃんが原因とも言えるのー?」
「うっ」

 妹の言葉が、ざっくり心に刺さる。

 そんな理由で喧嘩してほしくないのだが‥‥‥何をきっかけにしてこうやらかしてしまうのは分からないものでもある。

 というか、その話しだとその場にいたセラも原因な気がするが、それはとやかく言うまい。

「‥‥‥責任あるような気がするけど、止めに向かえないなぁ。というか、混ざったら多分死ぬ」
「多分どころか、確実そうでござるよ」

 さっきからちらちらリリスの箱の隙間から覗いてみたが、力の暴風雨というべき状態。

 こんなところに、ただの召喚士の人間である俺が生身の体で出たらミンチになること間違いなしである。

 いや、この様子だと焼肉か、ひき肉か、乾燥肉か、ドロドロ肉か…‥‥見るに堪えない肉塊になりそうなのは間違いないだろう。

「とはいえ、喧嘩で大怪我してほしくないし、何処かで止めたいけど‥‥‥ルビー、ゼネ、リリス。あの喧嘩止められるか?」
「無理でござる」
「儂、この中でも非力な方じゃし」
「グー‥‥‥」
 
 全員首を横に振り、止めようがないという事を示す。

「だよなぁ‥‥‥いっその事、彼女達に麻痺とか睡眠とか、何か状態異常になってもらうのが良いけど‥‥‥」


‥‥‥残念ながら、あの二人の場合その手の耐性は高い。

 そもそもメイドゴーレムであるノインには効かなさそうだし、カトレアも薬草を栽培してすぐに対処するのが目に見えている。

 ならばこそ、押さえつけるとかそういう方法ぐらいしかないのだが‥‥‥どうしたものか。

「なんかすごい戦いなのー」
「あの二人、御前様の召喚獣の中でも戦闘方面は上じゃからなぁ。実力者同士ゆえに、その争いも激しくなりやすいようじゃ」

 箱の隙間から見ると激しい戦闘に、俺たちはどう止めるべきか頭を悩ませる。

 召喚士としてびしっと言って、止めることができれば一番楽なのだが…‥‥頭に血が上っているような状態の二人に声は届かなそうだ。そもそもメイドゴーレムと植物に血があるかどうかはツッコミどころがあるが‥‥‥

「あ、そうだ。これで体当たりもありか」

 ふと、そこで思いついたのが、先日開発した手でありつつ、まだまだ改良の余地が多いホバーブーツ。

 こいつを使って、できるだけ勢いよく体当たりを仕掛ければ、一旦注意がそれて、声を聴かせやすくなるだろう。

 そうするためには、この安全地帯であるリリスの箱から出て、戦闘地帯へ出向かねばならないが‥‥‥召喚獣たちの主である手前、放置するわけにもいかない。







 ブーツをしっかりと履き、動作を確認する。

 前の実験では失敗もしていたが、今のは改良が施されているし、まだまだ余地があるとは言え、止めるための体当たりを仕掛けるには十分であろう。

 ついでに威力を少しでも増すために、箱を開けて飛び出るタイミングで、ルビーに俺を全力投球してもらうようにしているので、射出速度も問題ないはず。

「それじゃ、合図をするのぅ」
「ああ、何時でも来い」
「グ!」
「わかったでござる!」

 ひとまず、タイミングをゼネに見計らってもらいつつ、ルビーに担がれ…‥‥次の瞬間、合図が下された。

「今なのじゃ!」
「どっせぇぇぇいでござるぅぅ!!」

 ばっとゼネが手を上げて合図をして、それと同時にゼネが俺を全力でぶん投げる。

 その勢いを殺さないようにすぐにリリスが蓋を上げ、俺の体は宙へ打ち上げられる。

「良し!!あとは最大出力噴射ぁぁぁあ!!」

 カチッと、手で押すタイプになったスイッチを押して、ブーツの下から物凄い勢いで空気が噴出され始め、飛ぶ角度を調整し、その先にいるノインたちを補足する。

 今まさに、互にカウンターをかけようとしているが…‥‥ここで止めなきゃだれがやる!!


「二人とも喧嘩をやめやがれぇぇぇぇぇ!!」
「ご主人様!?」
「マスター!?」

 俺の言葉が聞こえたのか、互いの拳が入る寸前に、俺の方へ二人は顔を向ける。

 一瞬体が硬直したようで、避けることができない!!


ドッガァァァァン!!
「「「ああああああああああ!!」」」

 分かっていたとはいえ、勢いよく彼女達へまとめて突撃し、俺たちはその勢いで地面を転がった。

 そして数回ほど回転し、ようやく止まったところで…‥‥問題が発生した。

「…‥‥うう、ま、まさかご主人様が体当たりを…‥‥ア?」
「ま、マスターの体当たりは流石に予想外でした‥‥‥わ?」


 二人とも起き上り、状況をすぐに読み込んだようだが、一瞬思考が止まった。

 無理もない。と言うか俺も、今、チョット思考が停止しかけているんだけど。



 体当たりをして突撃し、喧嘩を止めさせるという手段はまだよかったのかもしれない。

 だがしかし、体当たり後の状況‥‥‥地面を転がったせいで、密着したこの状況も、想定すべきだったのかもしれない。

 なんというか、俺は今、二人に上と下で挟まれている。

 そして悲しいかな、俺より彼女達のほうが身長は高く、ちょうど当たる部位がその間にあって…‥‥


「‥‥‥も、もが‥‥‥がふっ」
「「ひゃああああああああ!?」」




…‥‥偶然と言えば偶然なのだが、クロスカウンターを仕掛けていた二人の間に、俺が突撃した形。

 ゆえに、地面を転がる間に二人の間に挟まるのもちょっとは予想できていたが、その挟まり方に関しては予想外であった。

 まだ辛うじて理想であれば、互に顔が近い状態。

 でも今のおれは、その豊かな双丘の間に、頭を両方から潰された。

 呼吸困難、圧迫、重量…‥‥そのいずれも、俺の意識を奪うだけの凶器となったのだろう。

 意識が薄れゆく中、珍しい彼女達の恥ずかしがるような声を俺は聞いた。

 そしてもう一つ、今度からは頭も守れるようなものを装着して体当たりすべきだと、心に深く刻み、誓った。

 まぁ、今は無駄だろう。何やらあたりが暗くなり、川が見え、お花畑が遠くに見え、誰かが手で招いているのだから。

 ああ、今ちょっとそっちへ向かうのもありかもなぁ‥‥‥‥

「ご主人様ぁぁぁ!!首ちょっと逝ってますよこれ!?」
「ごめんなさいですわマスター!!だから蘇生して欲しいのですわぁぁぁぁ!!」
「ううむ、主殿…‥‥あ、これ逝ってるようでござる」
「元聖女とはいえ、生き返らせるのはちょっと無理があるのじゃが…‥‥取り返しがまだつくし、蘇生を試みるかのぅ」
「兄ちゃん目を覚ましてぇぇぇぇぇ!!」

‥‥‥ああ、なんか色々騒がしいし、普通に意識を戻すか。

 そしてノイン、カトレア。お前ら喧嘩した罰として、あとでお仕置き決定だからな‥‥‥‥




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