上 下
77 / 373

74 流されていくのは何故なのか

しおりを挟む
…‥‥海での臨海合宿も終わり、ディーたちは学園へ帰還した。

 道中、神聖国を通過する際にゼネがまたあの奇声を発する謎多き妹やらが待ち伏せていないかとびくびく震えていたが、結局遭遇することは無かった。

 未だに巻いた地点で迷っているのか、あるいは今は静観に徹しているのか‥‥‥その理由は分からない。


「まぁ、合宿も終わって、ようやく夏季休暇‥‥‥時間にして、約一か月半ほどの休暇を得たけど‥‥‥どうしたものか」
「ン?ご主人様、何か問題でもあるのでしょうカ?」
「問題と言えば、問題なんだよなぁ‥‥‥」

 休暇中は当然生徒たちは学園から出て帰郷し、俺も悪友のバルンと共に田舎の実家へ帰郷しようとしていたのだが…‥‥グラディに休暇明けぐらいに王城へ呼ばれる可能性を聞きつつ、その原因について考えたところで、俺はふと気が付いたのだ。

 ノインたちの説明、実家にしてなかった。すっかり忘れていた。

 学園で過ごす中で手紙を出すこともできたけど、ノインを初召喚した時の衝撃で忘れていて、今までずっと近況報告をサボっていたんだった。

「というわけで、この面子で帰郷して騒ぎにならないのか聞きたい」
「‥‥‥言われてみれば、そうだよな」

 夏季休暇前の退出用意をしている中で、バルンの部屋に俺は訪れそう問いかけた。

 
「小さい田舎の村だし、この美女共を連れて帰ったら、騒ぎにならないほうがおかしい」
「やっぱりか?」
「ああ、間違いない」

 問いかけに対してそう答えるバルン。ちょっと慣れのせいでツッコミ力が弱体化してしまった俺に比べて、その影響がない分的確な指摘を受けられる。

 第1王女ミウの方もかなり凄いツッコミ力があったが‥‥‥残念ながら、あちらは王族だし、グラディたちと共に王城の方へ一足先に帰って行ったのでツッコミ指摘をしてもらえなかった。


「とりあえず閉鎖的でもないし、他者に冷たくもない。温かい村ではあるが…‥‥」
「が?」
「‥‥村の男たちに殺される可能性だけは考えておいた方が良い」
「…‥‥」

‥‥‥例えばの話をするとしよう。

 村の何の変哲もない人たちが、ある日突然美女たちを連れて帰り、独占しているような状態を見せられたらどうなるのか?

 その答えは既に、学園での男子生徒たち(一部女子)の視線が物語っていた。

「大丈夫デス。ご主人様に害を及ぼすような輩を近づけさせまセン」
「何かあれば、埋めて差し上げますわ」
「大空へかっ飛ばすのも良いでござるな」
「丁寧に、悪夢で葬る事もできるのぅ」
「グゲゲ!」

「…‥‥少なくとも、返り討ちに会う可能性の方が大きくないか?」
「村の人口が減らされるのは、困るんだが」

 何にしても、今回の帰郷は問題が起きそうな気がしなくもないなぁ…‥‥できれば、村が焦土に変わらないことを祈ろうか。良い例がゲイザーだしな。







‥‥‥ディー自ら村の危機を招かないようにと心に決めている丁度その頃。



「‥‥‥お母さん、兄ちゃんからの連絡まだー?」
「まだのようね。あの子、色々抜けていることもあるし‥‥‥案外、手紙を出すのを忘れているんじゃないかしら?」
「そうなのー?」

 ディーの故郷にある一軒家‥‥‥彼の実家では、一組の親子の会話があった。


「召喚士になるって言っていたけど、適性検査で何が出たのかしらねぇ?」
「兄ちゃんなら、絶対にかっこいい奴を召喚しているはずだよね!」
「それは分からないわね」

 ぐつぐつと鍋を煮込みつつ、娘の期待する言葉に笑いながら母親はそう答える。

 適正学園で受ける検査で、どの様な職業が出るのかはその受けた時までわからない。

 大体は昔から夢見る職業になる事もありつつも、なれないこともあるので、彼女の息子がその夢見た職業になれたかどうかまでは分からないのだ。

 ただ、母親としては子供たちの夢がかなってほしいと願うばかりである。

「ああ、それに都市の方はここよりも人が多いし、案外彼女でも連れてくるんじゃないかしらね♪」
「‥‥‥それはダメ!!」

 っと、期待するように口にした途端、娘がそう強く声に出した。

「兄ちゃんは確かに優しいし、かっこいいけど、ダメなものはダメなのー!!兄ちゃんは私の兄ちゃんであるし、絶対に女にモテないバルンもいるからセットでモテずに済んでいるはずよー!!」
「あらあら、そうかしらね?」

…‥‥さらりと、息子の友人が軽く馬鹿にされているような気がしたが、事実なので何も言えないし、どうでもいいので別にいう事もない。

 ただ、妹にモテない断言されるような兄というのはどうなのだろうかと、子どものその言葉に苦笑いを浮かべる。

「兄ちゃんがもし、女を連れこんで来たら、その相手がどんな人なのか確かめるけど、絶対にないと想うのーーーー!!」

 ぐっとこぶしを握り締め、彼女は‥‥‥ディーの妹はそう叫ぶのであった。
しおりを挟む
感想 771

あなたにおすすめの小説

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

処理中です...