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72 一応それは忘れずに

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 翌日、すっかりゲイザーは解体され終わり、浜辺からその姿は消え失せていた。

 襲撃のせいで昨日の遊ぶ時間が潰れてしまったとはいえ、一応この臨海合宿は各学科で鍛える目的もある、れっきとした学園の授業の一環。

 最終日の遊ぶ時間を増加することを確定させつつ、各学科ごとにそれぞれ海で出来る、強化方法を行っていた。

 体力、瞬発力を鍛えるために砂浜を走り抜け、海を泳がせたり、夏の暑さに耐えうる忍耐力、新たなMの境地へ至るための修行など、それぞれによって傾向が異なる。

 

 そして召喚士学科の場合は、召喚獣たちと共に、普段そんなに訪れる機会がないであろう海辺で‥‥‥


ザバババババババババババ!!
「急げぇぇ!!全力で泳げぇ!!」
「早くしないと追いつかれるぞぉぉ!!」

…‥‥召喚士たちは、それぞれの召喚獣の背に乗り、海上を大急ぎで進んでいた。

 その背後から迫りくるのは、今回の臨海合宿のためだけに、外部からの特別講師として呼ばれた召喚士の召喚獣『ギザニアシャーク』のザルオム。

 見た目は巨大なサメでありつつ、全身がとげとげしいハリセンボンを混ぜられたような感じである。

 ついでにどこかでカニの要素でも持ってきたのか、カニのハサミを背中から生やしており、じゃきんじゃきんっとハサミを鳴らして迫りくる。

「何で、こういうやつを出しての海上での爆走逃走をしなきゃいけないんだよ!!」
「水中での動きなどを確認する訓練らしいデス」
「訓練になるかこんなもの!?」

 普段陸地で活動することが多く、こういう海上などを巡る機会は少ない。

 ゆえに、海でも臨機応変に対応できるようにということで、その対応力の訓練が課されたのである。


 そして俺の場合、他の召喚獣たちがいるので、彼女達も共に、交代でそれぞれでどのような逃げ方ができるのか、ということを確かめさせられていた。

「しかし、泳ぐのもちょっと大変ですネ。足裏を水中ジェットモードにしてますが、ご主人様への負担をかけない様な調整は大変デス」
「十分早いけどな!!」

 空を飛ぶ際に利用するジェット噴射を、水中用にしたものを彼女は使用しているようだ。

 抱きかかえられる形で進んでいるが‥‥‥水の抵抗を考えてか、背泳ぎで逝く彼女の上の方に乗せられているので、少々周囲からの目が痛い。


「次!もうそろそろ交代ですわよ!!」
「ええ、あと2周ほどですネ」
「その後に拙者でござるよ!!水中でも可能なように、尻尾大回転で結構速く泳げることが分かったので、試したいでござる!!」
「儂の場合じゃと、普通の泳ぎになってしまうがのぅ。こういう時に人外じみた部分がある奴らが羨ましいのじゃ」
「グゲェ?」
「…‥‥そもそもワイトの時点で、人外?…‥‥ふむ、そう言えばそうじゃよな」

 陸地の方では、カトレアたちが砂で何やら芸術作品を作りつつ、次の順番に備えて声を上げている。


…‥‥正直言って、彼女達でも色々あるんだよなぁ。

 カトレアの場合は海水との相性が悪いようだけど、海底の方にいったん沈んで海藻を利用してくるし、ルビーの場合は、さっき言ったやつを利用したり、自身の翼を水中でも羽ばたかせて進む。流石に水中火炎逆放射噴射だと、水蒸気爆発を起こしてやらかしたことからやめているが…‥‥アレは死ぬかと思った。

 ゼネだと肉体的に人間とほぼ同じなので、こちらは何か普通に水害救助されているような感じしかなかった。アンデッドだから水死体とかネタを言っていたけど、水死体がそんな身軽に動けるか?

 そして、昨日加わったばかりのリリスの場合‥‥‥



「グゲ~!」
「…‥‥何だろう、この移動方法」

 リリスが横で楽しむような声を上げつつ、俺は落ちないように・・・・・・・ふち部分に手をかけている。

 リリスの入っている箱の中に放り込まれ、その箱の中からどこから持ってきたのか帆船の帆のような物を張り、船のように進んでいるのである。

 というかこの箱どうなっているの?底に足が付かないんだけど。

「グゲグゲェ!」

 っと、俺の箱の中に落ちかけていることに気が付いたのか、リリスがすっと移動してきて俺の背後に立って抱え込んだ。

「…‥‥これなら落ちないけど…‥‥お前の箱の中、どうなっているんだよ?」
「グゲェ?」

 首を傾げるって…‥‥おまえ自身、この箱の事が分かってないのかよ。

 何にしても、召喚獣たちの背に乗ったりして臨機応変に海で行動する訓練は続くのであった‥‥‥

「まぁ、そもそも海の上を走ったほうが早いですけどネ」
「泳ぐよりも、陸地から蔓で撒きつけたほうが早いですわね」
「空を飛んだほうが早いでござるよ」
「幻術で追跡者を惑わせれば済む話じゃな」
「グゲェ!」

…‥‥身もふたもないなぁ、お前ら。わかっているけど、この場で口にしたら駄目なやつじゃないか、それ?








 ディーが召喚獣たちの言葉にツッコミをしている丁度その頃、デオドラント神聖国の方ではある事が起きていた。

 
「‥‥‥本当ですか!?私たちのお姉様が今、この世にいらっしゃるなんて!!」
「ええ、間違いないですわ!!この目ではっきりと見ましたもの!!」
「ずるいずるい!!先に目覚めて、私たちのお姉様と愛するラブ追いかけっこができていたなんて!!」

‥‥‥神聖国神殿、その地下。

 そこに眠っていた者たちが続々と目覚め始め、とある話を聞いていた。

「様子を見る限り、どういう訳か肉体がきちんとしたアンデッド化してましたが‥‥‥間違いなく、お姉様本人でした。惜しむらくは、私の職業は『神官』であり、お姉様を持てる召喚士ではない事でしょうか」
「ああ、それは残念な事ですね。そもそも、この場の全員、召喚士でもないけど‥‥‥むしろ、良かったかも知れませんよ?」
「そうそう、誰か一人と契約して、お姉様を完全独占とかされないですからね」
「それもそうよね!」

 彼女達は、かつてゼネが聖女として生きていたころにいた、ゼネを崇め称え、度を越えた愛を持って愛を向け、なんとか寵愛を得ようとしていた、ゼネに対する狂信者ともいえる者たち。

 ゼネの死後に、彼女の死後の復活‥‥‥アンデッド化して彷徨い、再びこの地に現れる可能性を求め、自ら眠りについた者たち。

 念のために神聖国内を正常にするように、徹底した大掃除を行った伝説のものたちとしての名も残っており、彼女達が眠っていた神殿にも、その功績をたたえる者たちが熱心に祈りを捧げていたりもした。

「でも‥‥‥お姉様、どうやら今、ある召喚士の下にいるようなのよ」
「「「「…‥‥ええええええええええええええええっ!?」」」」

 その言葉に、彼女達は驚愕の声を上げる。

 ゼネを愛する彼女達にとって、その崇拝対象が誰かの下に置かれているという事は、信じられないこと。

 いや、立派な事を口では言いつつも、その裏ではゼネに対して色々と色欲じみた欲望を持ちつつ、度を越えた愛を持つ彼女達にとっては、衝撃の事実であった。

 なお「ゼネ」という名はあくまでもディーが召喚時に名付けたものであり、生前の名前とは異なっている。
 ゆえに、彼女達は本当はゼネの生前の名前を知っているはずだが…‥‥お姉様と呼び続けたせいで、少々抜けていた。

「信じられませんわ!!お姉様が配下に置かれているなんて!!」
「いえ、確かにモンスターと化しているならば、ありえなくもない話しですけれども、それでもずるいですよ!!」
「お姉様は私達が独占したいのに、なぜ独り身でいなかったのぉぉぉぉぉぉ!!」

‥‥‥生前、聖女であるゼネが独身だった理由も、実は彼女達が深くかかわっていた。

 それは置いておく話として、今はその事実に対して彼女達は協議しあう。

「私たちこそが、お姉様を真に愛し、再び手に取るための存在!!」
「あの腐れ切った者共のせいで失われたお姉さまが復活している今、私達も名実ともに復活して、どうにかお姉様を手に入れなければいけませんわ!」
「召喚士の方が邪魔になりますが‥‥‥あ、でもそれはそれで利用できるかもしれません」
「どういうことですの?」

 ふと出たその言葉に、彼女達は問いかける。

 彼女達にとってのお姉様であるゼネが、一人の召喚士の下にいるというのは、どうしても許せない事ではあったが‥‥‥‥

「逆に言えば、お姉様はその方のみと契約して、他が手を出そうにもできない状態。であれば‥‥‥」
「そうか!!その召喚士を消すのも手でしたけれども、そうしたら他の召喚士が出てきて、お姉様を取る可能性もありますものね!!」
「そう!つまり、その召喚士さえまずはこちらの手中に収めてしまえば、自動的にお姉様を私たちの下へ向かわせて」
「あとはその召喚士に関わらせないようにしつつ、お姉様とこの時代でのとびっきり甘い、あの時は出来無かった蜜月を」
「「「「「過ごせる!!」」」」」

 即座に話の内容を理解し、その為の行動を起こそうとする狂信者たち。

 とはいえ、今すぐにすべてを手中に収める事もできないので、時間をかけてやっていくしかないだろう。

 だが、最終的には手に入れられる未来を見据え、彼女達はじわじわと神聖国を手に入れて、ゼネを手に入れるための策を練り始めるのであった…‥‥

「ついでにお姉様を狙うような輩も排除した方が良いわ!!」
「ええ、そうね!どうも今の時代に、再び腐敗時の栄光をとか、甘い汁とか、狙う方々もいるようなのよ!!」
「お姉様がそいつらに捕らえられ、辱められる光景も見たくないと言えば嘘でもないですが、元聖女という部分で、見つけられ、襲う豚共も絶対いますからね!!」
「「「「「なので、待っていてくださいお姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」








「‥‥おうっふ!?」
「ん?どうした、ゼネ?」

 訓練も終了し、ちょっと浜辺で一息ついていたところで、砂遊びをしていたノインたちの中でゼネが突然びくっと震えた。

「い、いやなんでもないのじゃ。なんか今、ぞくっと悪寒が走ったような気がしただけじゃよ」
「そうなのか?」
「そうなんじゃよなぁ…‥‥」

…‥‥そう言いつつ、内心何やら嫌な予感を感じ取るゼネ。

 昔にも同じような感覚を味わったような気がしつつも、気にしたらその先は地獄が待ち構えていると感じ、忘れておくことにしたのであった‥‥‥‥
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