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32 例の物は?

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…‥‥ゼオライト帝国のクーデターから宣戦布告。

 その話題が過ぎ去る前に、早くも戦争終結の話題が入るようになった。


「クーデターの首謀者たちが全員捕えられ、民衆からの人望を華麗に失墜…‥か」

 寮の掲示板に張られたお知らせを見て、俺はそうつぶやく。

 予想通りというべきか、首謀者たちは全員見事に何かしらのやらかしがあったようで、そのすべてが綺麗に公開されてしまい、あっという間にトップの座から引きずり降ろされたようである。

 しかも、このやらかしの前にひと悶着というか‥‥‥

「首謀者‥‥‥あの時にいたのはその一部だったようデス。でも、きちんと調べると‥‥‥」
「まさかの、第1皇子が元凶でもあったようですわね‥‥‥」

 そう、今回の帝国でのクーデターの件。

 綺麗に整理をして、洗い出してみると、何とその裏に帝国の第1皇子‥‥‥皇女のフローラ同様、行方不明でありつつ、過激派を抑えようとしていた皇子の名前が、その首謀者たちと繋がっていたのだ。

 どうやら詳しく調べてみると、そもそもこのクーデター自体、色々とおかしな点があった。

 いくらクーデターの首謀者たちが非常にやらかしつつ、他の貴族からの援助も受けつつ、甘い汁を享受するために動いていたとはいえ、帝国の王城の陥落が早すぎた。

 そもそもが帝国の重要な人物たちが集まる場所であり、その場所が速攻で落ちることなど、まずないはずなのだ。

 それなのに、あったという事は内部からの手引きがあっただろうし、皇帝の崩御にしても、どうもただの病気とかではなく‥‥‥他殺によるものだったらしい。

 内部から手引きができて、なおかつ他殺できるような人物。

 その条件を絞り込んでいった上に、今回の件で流出した証拠書類の情報を元に調べていくと‥‥‥その第1皇子の名が出てきちゃったのであった。


 どうも元々、皇位継承争いに関しては消極的なところがあったそうだが、それが表面の話。

 裏では互いに潰し合う所を高みの見物としつつ、全て共倒れにしようと画策していたようだ。

 だがしかし、物事はそう簡単に進むはずもなく、どうした者かと考える中、ある日皇帝が病気にかかったのを見て、ふと、思いついたそうである。

 まずは、帝国自体を潰してしまい、その後にゆっくりと立て直すために労力を尽くす姿を見せれば、自分が上に立てるのではないかと。


 要はマッチポンプ、八百長、やらせ、そう言った類の言葉が当てはまる。

 わざと、わざわざ皇帝たちを貶めるような噂話を民衆へ広め、実際に操作して不満を高めつつ、自分はその事に対して憤慨して、必死になって国のためになるふりを見せつける。

 そしてその後に、甘い汁目当ての者たちを呼び寄せ、自身の姿も身分も偽って協力者となり、皇帝を崩御させ、クーデターの首謀者たちを城内へ手引き。

 後は首謀者たちに入れ知恵をして、箔をつけるためにと言って王国を攻めさせ、自分はほとぼりが冷めるまで隠れるつもりだったらしい。

 どうせクーデターの関係者たちは烏合の衆であり、まともにやって犠牲は少々出るだろうけれども、帝国側の勝利はないと思っていたそうなのだ。

 その上で、王国に敗北後は姿を曝け出し、帝国でのそのごたごたに対しての謝罪会見を開くなどして心をつかみ、帝国をゆっくりと掌握する…‥‥そのような予定があったようなのだ。




 だがしかし、その思惑は無残にも砕け散った。

 誤算というべきか、証拠大量流出も確かにその破滅するきっかけになったのだが…‥‥

「やっぱりやらかしていたじゃん、ノイン、カトレア。お前たちが潰しちゃった相手に、入ったみたいだぞ」
「データもなく、誰が誰なのか不明でシタ」
「ついうっかり、魔が差したのですわ…‥‥」

‥‥‥何と言うか、ある程度予想できていたというべきか、それとも相手を憐れむべきなのか。

 あの日、探り当てた書類の山を増刷し、配布しようとしている中で、その内容を読んで彼女達は色々と嫌悪感を抱き、どうにかしようと考えていたらしい。

 で、都合がいいことに、その首謀者たちは全員眠っており、転がっていたので‥‥‥何が、とは言わないが、丁寧に気が付かれないように、一人一人ぶちゅっ、ざくっ、さくっ、ぶすっなどと、やってしまい、未来を閉ざしたそうなのだ。

 その中に、見事に変装して紛れていた皇子がいたようで…‥‥巻き添えになったというべきか、素直にどこかに身を潜めておくだけでよかったのに前線へ出て確認したかったのか…‥‥その真偽は定かではない。

 自らの企みで滅ぼし、その上で王になろうとしたが、肝心の子種を永遠に失ってしまった。

 ゆえに、もはや子も成せぬ体となってしまい、何の役にも立たない人に早変わりしてしまったようなのであった。




 正直、すごい同情したい。いや、各所に迷惑をかけた人物なのはわかるのだが‥‥‥誰が、そんなついでに未来の悪事の事前防止のための事で、ざっくりと何もできなくしてしまうと考えられるだろうか。

「良いか、ノイン、カトレア。できればそういうのは、本気でヤバイ相手とかにしてくれ。そうじゃないと、色々と痛いからな…‥‥」

‥‥‥まぁ、皇女が無事に帝国へ帰還し、復権したので良いとしよう。

 彼女は今後、新たに皇帝‥‥‥女帝?とでもいうべき役職に就くが、その後の血筋を残す手段に苦労するとは思うが、それはもう、俺たちの知った事ではない。

 今は取りあえず、人の未来の動向という話は置いておき…‥‥


「あとは、これを試せればいいからな」

 どこぞやの皇族の後続問題はどうでもいい。

 この、手に入れた今回の報酬…‥‥ゼオライト帝国の皇帝たちに代々受け継がれてきた貴重な資料の一つ。

 職業に関する書籍の中で、なおかつ召喚士にとっては非常に手に入れたいと思われる一品…‥‥「望み通りの召喚獣を召喚可能にする」という本を、俺は手に持って笑みを浮かべる。



 召喚士は、基本的に頭に浮かぶ詠唱を述べ、召喚獣を呼ぶが、その細かい指定まではできない。

 カトレアのように、ワイバーンの時の緊急時であろうとも、解決できる類が呼べたとしても、その種族までは指定できないのだ。


 だがしかし、この本に書かれているのはその内容を否定するようなモノ。

 何しろ、召喚士が召喚する召喚獣の種族などを細かく指定できるという、召喚士にとっては非常に喉から手が出るほど欲しいものなのだ!!」

「ノインやカトレアもいるけど‥‥‥やっぱり、初志貫徹というか、一番最初に望んだドラゴンの類を俺は呼びたいからね。『異界の召喚士』の職業が影響するかもしれないけど、それでも呼び出せそうな希望にはすがりたい」

 とはいえ、本来は1体使役の召喚士。俺は既に2体も使役しているが、3体目も呼べる保証までは無い。

 それでも、俺は幼いころに見た、大空をドラゴンに乗って駆け抜ける、召喚士に憧れを抱き、努力はしているのだ。

 そう、ノインがジェット噴射とやらで飛べても、カトレアの木の根で上空まで伸ばしてもらっても、それは違うモノ。

 やっぱり、召喚士というからには強くてカッコイイ、そういう類が欲しくなるものなのである。


「呼ぶタイミングはどうしようかな‥‥?密かに呼ぶにしても、後で色々と言われる可能性もあるし…‥」
「でしたら、学園長の方へ相談すべきではないでしょうカ?あの方が、個々の一番の権力者ですヨネ?」
「その方がいいかもしれませんわ。何事も、責任者にまずは話を通すべきだと思いますもの」
「それもそうか」

 3体目の召喚獣を呼ぶとしても、それがどの様なものになるのかは分からない。

 いや、この資料通りにやればある程度指定できるとは言え、俺の職業「異界の召喚士」は思いもがけないような物を呼び出しかねないし…‥‥その前に、きちんと対策を取れるような人を頼ったほうが良いだろう。

 個人的には、ツッコミ気質があるドラゴンが欲しいと密かに思いつつも、かっこいい系のものが呼べるように望みながら、まずは学園長の元へ向かって、きちんと話を通しに向かうのであった…‥‥
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